私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
24 / 164
幼少期

24 アシュレイ視点

しおりを挟む


 そしてやってきたベンガルド伯爵家。
 当主夫妻、執事長と侍女頭にも挨拶し、アシュリィと侍女頭のヴァニラさんは部屋から出て行った。
 アシュリィが出て行く瞬間、こっちを心配そうに見ていたが…ほんとどうしよう?ハロルドさんをちらりと見てみる。


「ふむ…先ほどアシュリィの答えは聞いた。君は?この屋敷で何を学び、何を目指す?」


 …アシュリィほど上手く答える自信はないが…真摯に語れば必ず伝わるって言ってたし…!


「オレ…いえ、ボクも執事を目指します!ただアシュリィよりも更に時間はかかるかもしれない、ですけど。ハロルドさんの知識を教えてください!
 ボク達は、2人でリリー…お嬢様を護ると誓いました。なので最初のうちは、役割分担をします」
「ふむ。どのように?」
「アシュリィはさっき…ほど言った通りです。
 そしてボクには、お嬢様を護る術とマナーを重点的に。次いでお嬢様のお世話をボクが出来る範囲で。他の必要な事は、アシュリィと一緒に勉強します…!
 とにかく今は、1日でも早くお嬢様の近くにいきたいんです。だから、」
「分かった」
「だから…へ?」

 いや、オレ最後まで言ってないけど…?


「他にも理由があるのだろう?執事を目指す理由。どうやらアシュリィにも伝えていないようだが」
「!!!!」

 なんで分かんの!?執事って、心を読めなきゃなれなかったりする!?オレ絶望的じゃん…!
 だがそんなオレの様子に、ハロルドさんは苦笑しながら答えてくれた。


「いや…君が分かりやすすぎるだけだ。執事たるもの、表情から心を読まれるような事はあってはいけない。
 先程の奥様の件も含め今日だけは大目に見るが、明日からは容赦しないからな」
「は、はい…!」
「それで、君が執事を目指す理由はなんだい?」



 …オレは観念して、全部話した。
 話している間、ハロルドさんの表情は変わらないから…考えが分からない。失望されてしまったかな…まだ始まってもいないのに…
 オレは自分が情けなくて、溢れる涙を止められなかった。オレってこんなに弱かったんだな…。いつもスラムでは兄ちゃん達が、教会に来てからはアシュリィに守られてきた。
 こんなオレが、執事なんて出来んの…?


「…だから、オレはスラムのみんなを探したいんです。
 だけどリリー様を護りたいのも本音で、でも、どっちかしか選べないって言われたら、答えられなくて、それでもオレは、執事を目指じだぐでぇ…!」

 ハロルドさんは、オレがどんなに情けない姿を見せても表情が変わらない。ああ、オレ本当にヘタレ大将だわ…多分言い出したのカルマだわ…。あいつ実は腹ん中真っ黒だから。


「だがらっオレなんかに執事を目指す資格ないんです~~!!!
 でもっアシュリィほっとけないしっ!リリー様の力になりたいしっ!スラムのみんなを助けたいんですよ~~!!」

 ついにオレはうわああああ!と泣いてしまった。
 

 ああ駄目だ。終わった。今すぐ帰れって言われちまう…でも止まんない。せめて泣き止むまで追い出すのは勘弁して貰えませんかね…?

 …と思っていたのだが。何やらあったかい。…ハロルドさんが床に膝をついて、オレを抱き締めてくれている…?

「はっハロルドさん!服がよごれます!」
「そういう時は、お召し物と言うんだ」
「あ、はい。お召し物が汚れてしまいます?」
「いい子だ」

 そう言ってオレの頭を撫でてくれた。さっき奥様に撫でられた時もそうだけど…あったかい…

 その後オレが泣き止むまで、ずっと頭を撫でてくれた。その優しさのせいで余計に涙が出てくるのだが…多分分かっててやってくれてるんだろうな…



「すいませんでした…」
「構わないよ。この応接室は旦那様に話を通して既に貸して頂いている。楽にしなさい」


 落ち着くと、猛烈な羞恥に襲われる。ほんと大丈夫なのオレ…?


「それに…だな。君の執事を目指す理由は悪い事じゃない。むしろ私は素晴らしい事だと思うよ」
「…っへ?」

 いやいや、そんな気を遣ってくれなくてもいいのに。でもハロルドさんは、そうじゃないと言った。


「そうだね。君にだけ…教えてあげようか。私がこのベンガルド家の執事になった理由。
 実は…このお屋敷のお嬢様に一目惚れしてしまったからなんだ」


 絶句。

 …マジ?
 だが顔を赤らめて照れ笑いしてるあたり…マジ?



「彼女は君達の知るサラティナ様の妹君でね。私はしがない男爵家の次男なのだが、パーティーで知り合った令嬢、ティアナ様に目を奪われてしまって…はは」

 お、おお…続きは?

「それで彼女はまだ婚約者もいないと情報を得て、婚約を申し込みたかったのだが…この国では爵位の低い家から婚約の打診は出来ないんだ。
 どうしようかと頭を抱えたが、男女の規定は特にない。ならばティアナ様と恋仲になって申し込んでもらおう!と思ってね…私もまだ13だったから…若気の至りというやつさ…」

 おおおおお…!それで!?
 オレは、さっきまで自分がみっともなく泣き喚いていた事はもう忘れていた。


「それで、あの手この手でこの家に従者として雇って頂けたのだが…結果だけ言うと、振られた」
「………なんでえ!?ハロルドさん、こんなカッコいいのに!?」
「はは…ありがたい事を言ってくれる。
 実は最初から、彼女には好いている相手がいたらしい…。それが隣国の貴族で…彼女は隣国に嫁いで行ったよ…」


 ハロルドさんの目に何か光るものがあるのはきっと気のせいだろう。アシュリィも、こういう時は見て見ぬ振りをするべきだと言っていた…!
 オレは完全に自分の事は棚に上げていた。

 そしてハロルドさんはその後、一度始めた事を投げ出す訳にはいかない、と執事長まで登り詰めたらしい。
 そして40近くまで独身だったが、ようやく一緒になりたい女性に出会えて結婚したとか。娘さんが今成人間近で、いずれこの屋敷でメイドになる事が決まっている。





「とまあ、私がこんな理由で始めた訳だし…君の方がよっぽど立派だ。
 それに、君は選べないと言ったね?別に、選ぶ必要なんてないさ」
「え?いや、でも…」
「もしもお嬢様が大変な時に、仲間達の情報が入ったとする。そしたらまず考えなさい。
 お嬢様はアシュリィ1人に任せて大丈夫か、仲間の方は今すぐ自分が行く必要があるか。
 だからね、頼れる仲間を作りなさい。自分が大変な時に助けてもらって、相手が辛い時に手助け出来るような仲間達を。
 何も全て1人でこなす必要はない。最終的に、結果が伴ってれば過程や手段は重要ではない、と私は思うよ。もちろん、人道的に問題のある手段は良くないがね。
 皆で力を合わせて、お嬢様が頼りになる旦那様の元へ嫁ぐまでお護りして、スラムの仲間達も助け出す。そんな結果が出せれば全て良しだ。
 だから…少なくとも君の本音は、アシュリィとお嬢様、トロという少年には伝えなさい。現時点で既に、3人も頼りになる仲間がいるじゃあないか?」



『他の人は知りませんが、私にとって大事なのは過程と結果!キッカケや動機なんてどーでもいいんですよ。場合によっては過程も二の次三の次!
 それよりも大切なのは、リリー様が教会のみんなと仲良くなってくれた事。どんな理由であれ、リリー様が慈善活動に来なければ、私達と友達になってくれるっていう今は無かったんです!』


 アシュリィも似たような事言ってたな…そっか。オレ、欲張ってもいいんだ。
 なんだか少し…いや、物凄く心が軽くなった!こんなオレでも執事を目指していいんだ、そう思える。
 ごめん、お嬢様。オレ、ハロルドさんに沢山教わって帰るから!!そしたら絶対、絶対話すから!



「元気になったみたいだね。私も恥ずかしい過去を明かした甲斐があったというものだよ」
「はい!ありがとうございましたっ!!オレ、頑張りますのでビシバシお願いしますっ!」



 もうオレに迷いはない。オレは弱虫で泣き虫で…欲張りな男だ。だから。望む物を全て手に入れる!



「その勢いでアシュリィも手に入れるのかい?」
「ハロルドさんんんん!!!??」


 そそ、そんなんじゃねーですよーーー!!?


「(…さっき執事を目指す理由に真っ先にアシュリィを挙げてたのは…無意識だったのかな?若いな~)」










名前:アシュレイ
性別:男
職業:無し
Lv.2

HP   460/460
MP   15/15
ATK 190
DEF 215
INT  49
AGI  99
LUK 30


スキル:──
称号:──


しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...