私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

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「あ。リュウオウ帰ってきた」

 私は今、お嬢様と刺繍をしている。時間は午後、もう部屋の掃除もお昼ご飯も終わってる。
 アシュレイは不在。警備地の詰所で剣の特訓をさせてもらっているのだ。
 逆にアシュレイにお嬢様を任せて、私は魔法の練習をする事もあると思う。他にも本を読んだり、勉強する事はいくらでもある。

 そんでまあ、今は淑女の嗜み、刺繍の真っ最中。窓の外を見るとリュウオウがいた。


「あら、あなたの精霊ね。お使いでも行ってたの?」
「ええ、ちょっと。えーと…よしよし、お疲れ様。ゆっくり休んできて。
 …いやちょっと待って?なんか荷物多くない?」
─渡されたのでな。ふむ、やはり大空を飛ぶのはいいものである。主人殿、また呼ばれよ─



 そう、リュウオウにはちょっとベンガルド邸までお使いを頼んだのだ!






~数時間前~



「…旦那様。何かが猛スピードでこちらに向かっております」
「どうしたハロルド、何かとは」
「恐らく…精霊かと」
「んん?…確かにこちらに来ているな」


 リチャードは窓を開け、様子を見ていたが…リュウオウは執務室の前まで真っ直ぐ飛んできて止まった。風圧で書類が吹っ飛び、「せっかく終わった分がー!!!」とリチャードは叫んだ。


「クルルルルル…(も、申し訳ない。タイミングを誤ったようだ。それより、貴殿がリチャード殿だろうか?)」
「な、何か言ってるな…」

 ふらふらしながらも立ち上がるリチャード。密かに噴き出すのを堪えていたハロルド。


「何か持っていますね。これは手紙でしょうか。
 私はハロルドだ。そちらの手紙を見せてくれないか?」
「キューウ、グオンッ(そちらがハロルド殿か。では、受け取られよ)」

 
 リュウオウの短い腕から手紙を受け取ったハロルドは、そのままリチャードに渡す。


「しわくちゃだな…アシュリィからか。という事は、この精霊はアシュリィの…」
「勢いがいい所はソックリですね」

 確かに、と笑うリチャード。その内容を確認して、またニコニコと笑う。


「何が書いてあるので?」
「ふ、これか?
『拝啓旦那様、簡潔にお聞きします。
 私達を雇用していただき感謝致します。目的はなんですか?私達の最優先はお嬢様です。お嬢様をお護りできるのなら使える物はなんでも使わせていただきます。
 ですが、理由をお聞かせ願います。
 返事のお手紙をこの精霊、リュウオウに渡してください。リュウオウは手紙を受け取るまで帰りませんので。よろしくお願いします!
 アシュリィ』
 …だそうだ。そうか、お前はリュウオウと言うのだな」
「ああ…あの件ですか。なんと返事するおつもりで?」
「そのままさ。私は今後とも彼女達とはいい関係を築いて行きたいんだ。
 ここで嘘や誤魔化しをして信用を失うのは困る。それに…」
「それに?」
「もしあの子達に嫌われたら…屋敷の使用人の半分以上が辞めそうな気がする…」


 確かに、とハロルドは苦笑する。そして、次はいつ遊びに来るだろうかと考えるのだった。

 そして庭を見下ろすと、リュウオウがお腹を出してひっくり返っている。どうやら用事が済むまで、のんびりモードに突入したようだ。
 使用人達は何事かと遠目で見てるし、アシュリィの精霊だと分かると近寄ってるし。
 これ持ってけ、あれ持ってって、リンゴ食うか?と親戚のおばちゃんに構われる子供のようになっているリュウオウだった。











「荷物が多くて手紙がどこにあるのか分からない…こりゃ時間かかるぞ…
 おっ、お嬢様、見てください、綺麗なリボン!お嬢様に似合うと思いますよ!」
「まあ、確かに素敵な色ね。でもこれはあなたへの贈り物なのでは?」
「いいんですよ、向こうのみんなもお嬢様の事は知ってるんですから。それより!このリボンをアレンジしてお茶会用の髪飾り作ろっと」

 
 その後大分時間をかけて、手紙を見つけ出したのでした。

 そして返信がこちら。



『前略 アシュリィ、アシュレイ

 早速だが本題に入るよ。
 君達を雇用した理由は。色々あるが第1に、ベンガルド家は君達と敵対したくない。いや敵対、というのは大袈裟だが。有事の際に私の味方になって欲しい、という所か。もしくは、仕事を頼む事もあると思っていてくれ。

 それと他の理由だが。この屋敷の皆が君達のファンになってしまってね。今の所は理由と言えばこのくらいかな。まあ、君達の将来性を見込んだ投資とも言える。
 というか、侯爵邸を追い出されたらうちに来るといいよ。歓迎するとも。

 そうそう、今度養子をとることになってね。ランスという男の子なのだが。リリーナラリス嬢がお嫁に来てくれても構わないよ?もちろん、アシュリィがお嫁に来てくれてもいいが…無理か。うん、無理だ。

 まあ近いうちにまた連絡するから。君達の健闘を祈る。

 リチャード・ベンガルド』


 …ツッコミたいことは色々ある。敵対とかする気ないし、やっぱ投資かい、とか。お嬢様の旦那は私がきっちり見極める!…てかなんで私は嫁入り無理なのか!?そのランス様とやらの趣味か!?

 …ランス。ランス・ベンガルド?







 ………!!!!??男主人公じゃねーか!!!全然気付かなかった!!
 そうか、ベンガルド…!名前ばっか気にしてたわ!ベンガルドとリンベルドって似てる~なんて考えてた!!
 ぶっちゃけお嬢様とランスって接点ほぼ無いから忘れてた。それこそトゥルーエンドでしか…じゃなくて!ここは現実、現実…!



 そうしてなんとか心を鎮めた私は、気を紛らわす為にもお茶会の準備に取り掛かる。

 私達はあの燕尾服を着て、髪型をちょちょいと整えればオッケー。問題はお嬢様。…そうだ!


「お嬢様ー。前回お茶会で着た黒いドレスってどこにありますか?」
「クローゼットの奥にあると思うわ。どうするの?」
「ちょーっと、参考にしようかと」

 あまり大きくないクローゼットだからすぐ見つかった。…うん、色以外は上等だ!こいつをリサイクルする。
 ただデザインがちょっと大人っぽすぎるかな?リボンやレースがフリフリのゴテゴテなドレスも嫌だが…もうちょっと可愛くしてみよう。


 うーん、大人だったら肩出しも良いけど…またの機会にしよう。
 胸元に控えめだけど存在を主張するコサージュ、腰の部分にリボンをちょこんと。装飾はこんなモンでいいか。あとはレースをあしらってプリンセスラインのドレスにしよう。元がそんな形だからやりやすい。
 この国主流はプリンセスラインみたいだな。お嬢様がもっと大人になったらマーメイド造ってみよう。絶対似合う!!
 そうだ、ミモレ丈にしようかな?綺麗な靴を用意して…靴ってあまり種類ないんだよなあ。大体ドレスで隠れてるせいかな。お洒落は足下からだぞ。

 そして色だが…考えた結果、グラデーションに挑戦するぞ!!水色のグラデだ。下の方を濃い蒼にしてっと。ふ、カタログでもグラデは見た事ないからね、お嬢様をいっとう目立たせてみせる!!






「ただいま戻りました。…お嬢様、アシュリィは何をしてるんですか?」
「お茶会の準備らしいけど…すっごい集中してるわね…」
「はあ…お嬢様、お茶にしますか?街で美味しいお菓子買ってきたんですよ」
「あら、いいわね!じゃあ一緒に召し上がりましょうか」
「では、ご相伴に与りましょうかね。アシュリィの分は…一応とっとくか。全部食べると後が怖いし…」
「ふふ、以前何かあったの?」
「聞いてくださいますか?じゃあ、お茶にしながら」


 アシュレイ達のそんな会話も一切聞こえず、私はドレス造りに精を出しているのでした。次は髪飾りだ!!
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