44 / 164
幼少期
44
しおりを挟む周囲に人気が無いのを確認し…魔力を手に集める。狙うは…
「そこっ!!!」
「!!?ぐっ!!」
よし命中!!木の上から落ちてきたのは…子供?私よりちょっと上くらいかな、顔を隠しているから性別はわからん。
落ちたっつっても華麗に着地を決め、すぐに私から距離を取る。うーん、殺気を感じる。
「手荒な真似して申し訳ない。ちょっと気になったものでね。敵意は感じられなかったけど、リリーお嬢様の護衛として見過ごせない」
「…いつから気付いていた?」
「ミーナ・シャリオン様がお嬢様に話しかけた時から。あの時からずっと、お嬢様を観察していたでしょう。
主が不躾な視線に晒されているのはあまりいい気がしないのでね」
「…ふん」
どうやら殺気は抑えてくれたようだ。だが警戒は解いていない。
状況から察するに、シャリオン様の護衛だろう。影ってやつ?でもまだまだ未熟だな、私に感づかれるくらいなんだから。
「…その通りだ。自分はまだ半人前、将来的にはミーナ様専属になる予定だが…今日の茶会は練習としてお護りしている」
「…シャリオン様は影が付いている事も知らなそうだったね。…もしかしてシャリオン伯爵家って、そういう裏社会とかに強い?」
「ああ。旦那様はミーナ様を溺愛しておられる。万一の事を考え、外出時は必ず影が付き添っている。当然裏社会にも詳しいさ」
「……やっぱあなた半人前だな…。他人にそんな事情ペラペラ話しちゃ駄目でしょうよ…」
「…ああっ!?」
「嘘、自分の口軽すぎ…?」なんてアテレコつきそうなポーズしとるわ。まあ私は情報貰えてラッキーです、どうもありがとうございます。
「ち、違うぞ!いつもはこんなに軽くない、断じて!!
ただ貴様…いや…貴方は敵に回したくない雰囲気というか…そんなアレなんだよ!」
なんじゃそら?慌てて言い訳のような事を始めたぞ。でもまあ、確かにこんな口軽かったら練習でも大事なお嬢様の護衛なんかにゃしないだろうね。
…これ、チャンスじゃない?
私は彼?彼女?に近づく。一歩一歩近づく度に青ざめて後退りされるの、結構傷つくな…くすん。だが逃さん!影の腕を掴み、にっこり笑って語りかける。
「ねえ…私の依頼、聞いてくれる?」
「い、依頼…?それは侯爵家から伯爵家に?それとも貴方個人?」
「個人だよ。そもそも私の雇い主は侯爵じゃあない。どう?」
影は少し考えた後口を開く。
お願いや脅迫ではなく依頼であれば、聞いてくださるかもしれないとの事。うん、それでいいよ。
OKが出たら、侯爵家ではなくベンガルド伯爵家に手紙を送るよう伝えてもらう。侯爵家の人間は信用出来ん、大事な手紙なんて渡してたまるかってんだ。
これで一歩前進出来るかもしれない!そう思うと自然と拳に力が入る。
「あのー…離していただけません?」
お、ごめんごめん。ついね。
今まで裏社会に深く通じていそうな貴族とか関わりなかったからな、テンション上がっちゃったよ。こりゃもう公爵家や王家に力添えいただくしかないのか!?と思ってたもんよ。
さて、そろそろ戻るか。影もそうしたいだろう。つかもういないし!流石に早いな。
戻る前に、旦那様に通信しておこう。シャリオン伯爵家から私宛に手紙が届くかもしれませんって。
「クックル、オン。アルファと通信」
〈…ん?どうした、まだ何か?〉
「へ?旦那様、私です。…アシュリィですが」
〈おや、アシュリィか。どうしたんだ?〉
「その前に…今まで通信していました?」
〈ああ、アシュレイとね。まあ相手は私ではなかったが〉
アシュレイが…?ハロルドさんあたりに相談でもしてたのかな。気になるけど…今は時間が無い。用件だけ伝えてオフにし、お嬢様のもとへ急ぐ。
その後も平和なお茶会が続き、帰宅する時間になった。
そして帰り際、影がいそうな方向に向かってウインクする。言葉添え、よろしく!ってね。
なんとなく、影が頷いている気がした。
「お嬢様ー、シャリオン伯爵令嬢はいかがでしたか?お友達になれそうですか?」
「そうね…楽しかったけれど、あなたと話したそうにしてたわよ?今度お相手して差し上げたら?」
「え?うーん…まあ、そういう事なら…?」
帰り道、御者台からお嬢様に聞いてみた。結構話弾んでたみたいだし、そこそこ礼儀も弁えている。にしても、私とねえ?まあそれは置いといて、そろそろ本気でアシュレイをどうにかしないといけない。
シャリオン家に依頼したい事は当然、ザイン子爵の犯罪の証拠集めとガイラードの調査。出来れば侯爵家についても調査してもらいたいが…伯爵がどんな人物かも分からんし、保留で。
だがこの交渉は、私だけでなくアシュレイも行くべきだ。いつまでも気まずいなんて言ってらんねえ!!
たとえアシュレイとの関係が悪化しようとも…いや悲しいけど。私多分泣くけど、彼の家族の命にゃ代えられない!
私はアシュレイと向き合う覚悟を決め、前を向く。会話の途中で私の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、お嬢様が小さく笑った気がした。
というかアシュレイ今日は、警備隊と一緒に鍛錬の予定だったか。多分夕方までだよな。あーあ、寄っていけば良かった。通り過ぎちゃったよ、もう。
だがお嬢様の部屋に戻ってみれば、いたわ。お嬢様もびっくり。
「おかえりなさい、お嬢様。それにアシュリィ。
…悪かった!」
「…へ?」
え、え?どしたん??私の決意どうしてくれんの?
「なんだよ、その間抜け面?…だから、今回の件。オレがガキだったんだよ。お前の言う事は正しい。家族のみんなを助け出す為だったら、オレの我儘を通す訳にはいかねえ。
それとな…オレ、お前に劣等感抱いていた所もあったんだ。お前がハイスペック過ぎて、オレ要らなくね?お嬢様、お前1人で護れんじゃねえ?って…
何より、オレにそんだけの力がありゃ、家族を目の前で失うような羽目にはならなかったのに!って…」
…なんとなく、そんな気はしていた。たまにすごく落ち込んでたり、本を真剣に読んでたり、がむしゃらに剣を振るってたりしてたから。
焦ってんな、追い詰められてんなー…とは思っていたけど、私が声をかけるのは逆効果だろうから見て見ぬ振りをしていた。
もちろん相談されたら、応じるつもりだったけどね。
「…あんたにどんな心境の変化があったかは聞かないけど、よく言った!
必ず、家族を助け出す!」
「おう!!」
私達は堅く握手を交わし、笑い合った。お嬢様も手を乗っけてきた。もちろん、お嬢様も仲間だ!!
よかった。アシュレイは自力で乗り越えてくれたんだな。いや、ハロルドさんが何か言ってくれたのだろう、感謝しないといけないな!
6
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる