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幼少期
49 アルバート視点
しおりを挟む「「お帰りなさいませ、殿下!」」
「うん、ただいま」
門番に挨拶を返し、いつも通りただ過ぎようとした。
………じー…
「で、殿下?」
「いつも、ご苦労様」
「「!!?」」
今のはアシュレイに教わった。
『たまには労いの言葉を贈るのもいいと思いますよ。殿下のような方からのお言葉は嬉しいもんです』
僕は、思った事を全て口に出してしまう。いや、全てってのは違うか。感想とか、自分の意見かな?
自分で納得できたら口に出さないし、気になったら声にしてしまう。
いつも門番は門を守るのが仕事なんだから、労いは給料という形で貰っているじゃないかと考えていた。
だから、「ご苦労様」の言葉も思いつかなかった。アシュレイが言うには、たまに言うからいいんだってさ。
「ありがたきお言葉です」
「我々の誇りある業務ですから、殿下からその様なお言葉を頂けるとは感無量ですね」
喜んでもらえたらしい。…僕も、ちょっとだけ嬉しい。
「うん」
嬉しくて、ついつい笑顔になる。そうしたら、門番が固まった。そういえばアシュリィが
『もっと笑顔を見せて行きましょう!ただ、誰にでもではいけません。ご自分が仲良くしたいなと思ったお相手だけにするんですよ。ご家族とか、使用人とか!
失礼ながら殿下は不器用な性格をしていらっしゃいますから、苦手な相手には無愛想でもいいですよ。でも愛想笑いを入学までには覚えましょうか』
と言っていた。うん、まあ門番はいいだろう。
「ねえヒュー。僕、みんなと仲良くなれるかな?」
「もちろんですよ」
部屋に向かう途中の廊下、ヒューと話す。とはいえ僕は、友達が沢山欲しい訳じゃない。
今はリリーナラリス、アシュレイ、アシュリィ、そして今日ランスとも知り合った。これ以上友達は要らない。
でも、使用人との仲も少しは改善したい。今日行ったベンガルド家の使用人達は、みんなにこやかだった。羨ましい。
あとは…家族ともっと仲良くしたい。父上はお忙しい方だからまあいいや。母上と兄上、ジェイドともっと距離を縮めたい。
今も決して悪くはないが…なんだか壁を感じるの。リリーナラリスは、家族と仲が良くなさそう。本人に聞いた訳じゃないけど、なんとなく分かる。
そういえば兄2人は寄宿学校に通ってるんだったか。ベルディ兄上も今年から通っているが…相手は侯爵家だし、会話くらいしてるのかな?
姉は強烈なセンスをしていたな。アシュリィは『ああいう時は「個性的だね」と言うといいですよ!相手が勝手にいい風に解釈しますから』って教えてくれた。今度からそうしよう。
今日はリリーナラリスに会いに行ったのだが、彼女だけでなくアシュシュ(アリーナに教わった、2人纏めた呼び方!)とも沢山話せた。
3人の街案内もとても楽しかった。だから…自分もその中に入りたいなって思ってしまったんだ。
誰も僕と親しくしようとしてくれなかった。一緒にお茶を飲んでくれなかった。話をしてくれなかった。だから、気配を消すのが癖になった。その方がラクだから。
あの3人は、僕が驚かしても怒らない。乳母にやった時は「心臓止める気ですか!!!」と怒られた。
ズバッと本音を言ってしまっても怒らない。むしろ大笑いしていた。特にリリーナラリスが。だから僕は、もっと彼女らと仲良くなりたい。でも不安なんだ。
だから今日、聞いてみた。僕と一緒にいるのは辛くないかと。怖かったけど、知っておきたかった。
そうしたら、むしろ楽しいと言ってくれた。その言葉に嘘はなく、凄く…嬉しかった。
しかもその後、未来の話を沢山してくれた。みんなであそこに行こう、何をしよう。膨らむ未来の中に、僕も入れてくれた。それだけで嬉しくて、泣いてしまいそうだった…。だから僕は、短くお礼を言うだけで精一杯だったんだ。
そして、人間関係に悩む僕に沢山アドバイスしてくれた。早速行動に移す僕。
あ。廊下の向こうから歩いてきたのは…誰だっけ?うーんと、ジェイドの取り巻き…じゃなくてお友達だ。
向こうも僕に気付き、声をかけてきた。
「ご機嫌よう、第2王子殿下」
「うん」
これ誰だっけ?確か僕の学友候補として初めて顔を合わせた時…僕の事鼻で笑ってなかった?どうでもいいからほっといたけど。今も嘲笑うような顔してる。
『殿下は民達の上に立つお方です。不遜な者には厳しく対応なさいませ。まあ…何も知らない子供や庶民が親しげに話しかけてくださった場合は、殿下の思うままに対応すると良いでしょう』
とリリーナラリスは言っていた。
うん。民達が話しかけてくれたら嬉しい。アシュシュも僕に対してもっと気安くしてくれればいいのに。
「このようなお時間まで外出ですか?あまり陛下に心労を与えぬようなさらないと」
でも、目の前の彼は嫌。
「君はどこの家の者だったか」
「初対面時にご挨拶申し上げた筈ですが…まあ良いでしょう。私はパックス侯爵が次男、ファインでございます」
「パックス家では礼儀を教わっていないのか?」
「…と、申しますと?」
「王族に対し、自分から話しかけてよいと教わったのかと訊いている。僕は君と親しくしているつもりも無いが?
何処の無能の教師だ?それともパックス候か?そのような者が弟の友人とはな」
「なにを…っ!?」
以前読んだ魔導書に記されていた、威圧の魔法。今まで使用した事はないが『ガンガン使いましょう!』『いえ、相手を選びましょう』『気に食わない相手に、軽くかける程度でよいのでは?』と、僕の為に3人が考えてくれた。嬉しい。
それを目の前の彼に浴びせる。『やんのかコラぁ?という感情を乗せましょう!』
やんのか?こら。
僕に勝てないと思ったのか、ヒューを睨みつける。でもヒューも負けないよ。僕の後ろに控えていたけど、ずいっと前に出る。うーん、前が見えない。
「その態度はなんだ?私がアレンシア公爵家に名を連ねる者と知っての行いか?」
そう。ヒューはアレンシア公爵家の三男だ。それだけの地位があるのに僕なんかに仕えたいって言ってくれる、変わり者。
普段家の名前を使うのは嫌がるけど、こういう時は使ってくれる。優しい。
青い顔で何も言えなくなったファ…ファ…ファー?なんだっけ。
とにかく彼に、次は無いと告げ横を通り過ぎる。アシュレイも『舐めた態度をとる奴に容赦してはいけませんよ!でも1回はチャンスやるといいんじゃないですかね』って言ってたし。
もう会うつもりは無いけども。
やっと自分の部屋に戻ってきた。一息吐いてヒュー以外は出て行ってもらう。
「ねえヒュー、僕ちゃんと出来てた?」
「ええ。私は常々殿下に対する不敬な者達をどうにかしたいと思っていましたが…貴方が何も仰らないので私も控えておりました。
ですが貴方は王族なのです。親しくしたい相手だからといって、遜ってはいけません。
まあ貴方の場合は、ただ無関心なだけだったのでしょうね」
その通りだね。他人に興味が無いから、不遜な態度をとられてもどうでもよかった。でもそれじゃいけないんだな。
「あの3人に感謝しないとね。僕に色々教えてくれた。家族と仲良くなる方法、使用人と打ち解ける方法を知りたかったのだけど。他にも一緒に考えてくれた」
「ええ、本当に…殿下に素晴らしいご友人が出来、私も嬉しいです」
「…うん!」
ヒューも友達だって認めてくれた。嬉しい。
暫くしたら、夕食の時間だ。父上はお忙しいけれど、夕飯は必ず家族全員で食べてくれる。僕は大体黙ってるけど。余計な事を口走りそうだから、食べる事に集中するの。
部屋を出る際、ドア付近にいたメイドの手が目に入る。
「その包帯、どうしたの?」
「あ…!申し訳ございません、本日、食器を割ってしまいまして…」
『人間ってのは失敗する生き物ですからね。本当に反省してそうだったら、許してあげてくださいね。反省し・て・れ・ば!
そして何度も同じミスをするようでしたら、なぜミスをしてしまうのか、一度よ~く考えるように言ってあげましょう』
「回復」
「えっ!?」
このメイドは反省してそうだし、多分もう怒られた後だろう。僕が叱る必要は無い。ただ怪我は痛そうなので、治療する。
「食器はいくらでも替えが利くけど、君は1人しかいない。ミスは仕方ないけど、怪我には気を付けてね」
「は…はいっ!」
暫く呆然としていたけど、すぐに直った。余計な事をしたかと心配になったが、大丈夫そうだ。
ヒューはいつにも増して、ニコニコしていた。
その日の夜。使用人の休憩室にて。
「ねえちょっと、手え見せて!」
「綺麗に治ってるじゃなーい、殿下ってすごい魔法師だったのね…!」
「今日の第2王子殿下、様子違くないか?」
「親しみやすいっていうか…でも不遜な令息にびしっと言ってやったらしいわよ!?」
「ああ、パックス侯爵家の息子でしょ!あの方、いつも私達使用人を見下すのよねー」
「門番も、労いのお言葉を頂いたってはしゃいでたぞ」
「殿下ってこう、ぴしゃ!って言葉で一刀両断されちゃうから、あまり近付きたくなかったのよね」
「そうそう、目を背けていた現実を突きつけられている感じがして…!」
「でも、滅多に見せない笑顔が可愛らしいのよね…」
「「「わかる!!」」」
「また話しかけてくださるかしら?」
「どうでしょうね、でもお世話係を買って出るメイドは増えますよ…!」
「…殿下の事を知るのに、今からでも遅くはないかしら?」
「そうですね…今更かもしれません」
「一度は、拒絶したようなモンだしな…」
「表面しか見ないで、相手を全部理解したつもりでいたんですね、俺達…」
もう一度、チャンスがあるならば。今度こそ…誠心誠意お仕えしよう。そう考える使用人が増えてきたらしい。
そうして今までの態度を反省し、きちんと謝罪した使用人達をアルバートは受け入れた。
中には下心を持って近づいて来た者もいたが…アシュリィ流見分け方でガンガン捌いていった。ただその方法は感覚による所も大きいので、本能で生きている2人にしか使えないが。
そしてアルバートと近くなった使用人は、時折見せる彼の笑顔に次々ノックアウトされる。
着実に自分のファンを増やすアルバートなのであった。
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