私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

50 アルバート視点

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「遅くなりました」


 ちょっと遅れてしまい、僕が最後だった。
 いつもの席、兄上の隣に座る。いつ父上にお話を聞こうかな。食事中はやめておこう…かな?


 父上は僕の憧れだ。普段は国王としてみんなの上に立ち、引っ張り、まとめ上げている。顔が恐いせいで厳格で近寄り難い印象だと噂されているが、母上曰く「何も考えていないだけ」だそうだ。確かにたまに、返答まで時間がかかる事もある。
 嬉しい時には態度に出てるし、怒っている時は超恐いらしい。賢王ではないが愚王でもない、臣下が優秀なのだとのこと。それでも、僕からすれば立派な王様だと思うが。

 まあ憧れと言っても僕は国王とかなりたくないけど。兄上がやる気なので是非頑張ってもらおう。
 万が一にも僕に王太子の役目が回ってきたら…ジェイドに押しつ…託そう。



「父上、夕食後にお時間いただけますか?」
「…ん。10分なら」


 頑張って父上に話しかけてみたけど…それはつまり…僕に宛てる時間は10分で充分ってことかな…?



『自己完結しちゃ駄目ですよ。あの…多分ですけどね?陛下は大事な部分をお話していないと思うんですよ。

 例えばここに綺麗な花が咲いてますよね。これに猛毒があったとして、触れただけで即死します。アシュレイが知らずに摘もうとします。
 毒を知っている私は全力でその手を叩き、この馬鹿野郎!!とでも言いましょうか。私がそこで会話を切ってしまえば、アシュレイは何故自分は怒られたのか理解出来ませんよね。『それよりオレの腕もげてそう』やかましい。
 だから私は、この花は毒があって触ると死ぬ。あんたを傷付けたかった訳ではなく、守りたかっただけと説明しなきゃいけません。
 多分陛下は、その説明をしないお方なのでしょうね…。もしくは…その花に毒があるのは、全国民が知る程常識だと思っているとか?説明するまでもないだろう、って。まあ知ってたら触るわっきゃねーのですが!

 だから殿下がその立場にあったら、何故怒ったのですか?と聞くといいでしょう』






 …よし!


「父上…それは僕との会話に割く時間は10分で良いという事でしょうか…?」


 父上がギョッとした。そして大量の汗をかき始めたぞ。
 母上と兄上は父上を睨んでいる。ジェイドはオロオロしている。そして僕はというと。



『うーん…殿下の場合、ちょっとオーバーに表現してもいいんじゃないでしょうか?怒ってる時、楽しい時、悲しい時。ああ、相手は選んでくださいね。オレ…じゃなくてボクは…え?あ、はい。
 えーと、オレはあまり人の考えを読むのは得意じゃありません。大体、読めないのが普通ですけどね!上手い人ってのは、人間の微妙な表情の変化や仕草、呼吸や言葉から読み取ります。
 だから…誰がどっからどう見ても落ち込んでる!とか楽しんでる!って分かるようにするといいですよ。オレだって目の前で殿下が泣きそうな顔で佇んでたら…えーと、オロオロします!』
『それ、なんの解決にもなってないじゃないの…。とにかくですね、王侯貴族はあまり感情を表に出すのは褒められたものじゃありません。常に微笑みの仮面を張り付け、優雅な仕草が求められます。
 ですが…ご家族とかヒュー様…その、私達などには感情を露わにしてくださってもよろしいのですよ?』
『お嬢様、もっと私に甘えて♡と言っちゃいましょう!』
『言わないわよ!?…いえ、甘えて欲しくない訳ではなく!!』
『でも殿下、その手はあまり多用出来ませんよ。あまりやりすぎると、相手にされなくなりますので。ここぞという時に使いましょう!』
『アシュレイたまに核心突くね!』
『お前が以前言ってたんだろうが…』





 ということで全力で落ち込んでますアピールしてみる。ただし昼間の会話を思い出してしまい、笑いそうになるのを堪える。
 周りにはバレていないようだ。セーフ。…いや、ヒューにはバレている気がする。心なしか呆れ顔だ。
 だが今はそれよりも…




「あなた…いえ、陛下。私、以前にも申し上げましたよね…?
 言葉を途中で切るなと、単語で話すなと。陛下のお言葉で傷付く者がいないとお思いで…?」



 母上が恐い。背後に悪魔のような何かが見える気がする。しかも手に持っていたカトラリーをへし折ってしまった。

 先程までの和やかな雰囲気は爆散し、今この部屋を支配しているのは母上のブリザードだ。
 父上は冷や汗を大量に流し、僕と兄上は抱き合って震えている。母上の隣に座っているジェイドが失神寸前だったので、手招きして呼び寄せる。一目散に避難してきて、僕と兄上の間に収まった。

 控えていた使用人達はいつの間にかドアの近くに避難し、いつでも逃げられる構えだ。父上…意外と人望無い?
『いいえ、きっと彼らは魔王が攻めてきたら命を賭して陛下をお護りするでしょう。夫婦喧嘩は犬も食わないってやつですよ!』
 アシュリィの声が聞こえた気がした。今のは幻聴…?


 というより…この空気は僕のせいですね?どこで間違っちゃったかな??





 当の父上はというと、しどろもどろと説明し始めた。

「いや、ちが、その。仕事が沢山残ってて、時間が取れないだけで。執務の片手間に会話するのは嫌で、息子とはちゃんと向き合って話したくて。それで、えーと。
 今日は無理だけど、来週あたりには半日くらいは時間取れるから、どうせならそこで家族の交流を」
「だったら最初からそう仰いなさいませ!!!
 そこのアナタ!!今すぐ来週の予定を調節なさい!半日と言わず終日時間を作るのよ!!」
「はっはいい!!!」


 指名された侍従が部屋を飛び出した。恐らく宰相の所だろうか…頑張れ。
 母上は震える息子×3のもとにやってきて、優しく声をかけてくれた。

「怖かったわね、もう大丈夫よ」

 と。いえ、今僕達は父上でなく母上に怯えているのですが。
 僕がそう言おうとしたのを察したのか、兄上とジェイドに口を塞がれた。何はともあれ、来週は父上と過ごせる…?


 あ。




「父上。来週にはリリーナラリスと一緒にトゥリン侯爵家のお茶会に参加する約束をしてしまったのです。水曜日以外にしていただけませんか?」
「そうか。伝えよ」
「はいっ!」


 また1人逃げた。しかしなんとか空気は暖まってきたようだ。ふう。
 全員席に着き直り、食事を再開する。すると、兄上が話しかけてきた。



「アルは侯爵令嬢と上手くいっているようだな」
「はい。彼女もアシュレイもアシュリィも、僕の事を受け入れてくれました。
 今度王宮に遊びに来ると約束したので、兄上とジェイドもどうですか?」


 兄上は今寄宿学校に通っている。今日もだが毎週末は帰って来て父上の仕事を手伝っているから忙しい。
 少しだけなら、と言った。約束は兄上がいる日にしてもらおう。ジェイドは興味津々のようだ。僕もご一緒していいですか?と言う。


「いいよ。ジェイドはアシュリィに会いたいんでしょ?」
「「え」」

 今揃ったのは父上とジェイドだ。父上はキョトンとし、ジェイドは顔を真っ赤にする。母上と兄上は頭を抱えて…あら?

「兄上。今僕は余計な事を言いましたか?」
「それを自覚出来るようになったのならば、成長したと喜ぶべきだろうか」


 やっぱりか。何がいけなかった?



「だってジェイド、この前のお茶会でアシュリィに見惚れていたじゃないか。髪の毛の短い女の子がいいってのも、ちらちら彼女を見ながら言ってただろう?」
「わああーーー!!」


 こら。食事中に大声を出すのはマナー悪いぞ。なぜ父上も母上も注意しないのか。逆に僕が怒られてしまったぞ?


 だがまあ、今日の夕飯は楽しかった…かな?食事なんて栄養を摂るためのただの作業だと思ってたけど…うん、悪くない。








 夕食後、みんなで談話室に移動した。父上は予定通り10分しか居られないと言うので、気になっていたあの言葉の真意を聞いてみた。

「父上。以前仰った「お前はもういい、そのままでいればいい」って、どういう意味ですか?僕は父上に見捨てられてしまいましたか…?」

 と僕が言い切った直後。




「あ な た…?」


 母上の周りに、またもブリザード発生。さっきより凄い。これが俗に言う絶対零度?
 今度は使用人達は、迷わず部屋の外に逃げた。もちろんヒューも。なんなら率先して逃げてたぞ。




「あなたあああーーー!!!!」
「ひいいいいい…!!」




 大人は大変だなあ。

 それにしても母上は雷も落とせるのか。強い。



 その後父上が言うには。僕は自分の性格を直す努力はしつつも、それを手伝ってくれるような、受け入れてくれる人を探せばいい。と言いたかったらしい。
 でも…伝わっていなくとも自分でそんな相手を見つけられたのだな、と微笑んでくれた。


 


 はい。その通りです。
 僕は、大切な人達に出会えたんです。

 でも父上。さっぱり伝わりませんよ。


 やっぱりアドバイス通りにしてよかった。危うく、家族を信じられなくなるところだったもの。
 
 将来兄上が即位したら。僕とジェイドで支えてあげられるようになりたいな。その為にも…もっと勉強頑張ろうっと!











 その日の夜。


「ああ、酷い目に遭った…」
「自業自得ですわ。あなたは国王である以前に、1人の父親である事を自覚なさいませ」

 国王と王妃はその日の出来事を振り返っていた。いつもと違う息子の様子に、驚きつつも歓喜する。

 第2王子は人格に問題があるのではないかと、口さがない者は噂していた。
 だがそんな事はない。問題があるのは人格ではなく性格だ!と声を大にして言いたかった。
 とはいえ国王として、例え息子であろうとも特別扱いはあまり出来ない。したところで、父親だから庇っているだけだと思われるだけだろう。
 実際あまりフォローになってないけど。



「ところでジェイドにも気になる娘がいたのか。アシュリィと言ったか」
「ええ、そうですわ。とっても凛々しい子ですのよ。でも平民ですので…ジェイドのお相手は難しいかしら…?」
「もしも2人が本気で愛し合っていれば…善処はしよう」
「ふふ、ありがとうございます。多分そこまではいかないと思いますけれど。でも、あの子が娘になってくれたら嬉しいですわねえ。
 度胸があるし、魔法の腕も素晴らしいですし」

 
 その言葉を聞いた国王は、以前王妃が「王宮魔法師にスカウトしたい」と言っていた娘かと思い出す。
 まだ幼いながらに上級の魔法を扱い、位の高い精霊を2体も使役する。確かに、国としては欲しい人材だなと思っていた。
 王妃の次の言葉を聞くまでは。


「そういえば彼女、珍しい真っ赤な瞳をしていましたわ。どこの国の特徴でしょう」
「……なに?」
「あら、あなたはご存知ですの?」



 心当たりはある。だがもしそうだとしたら…彼女の不興を買うのは不味い。



「赤い目は…一部の魔族のみ持つ特徴だ。
 特別な血統にしか生まれず、更に王になる絶対条件の1つと聞く。魔王は世襲制では無く、条件を満たす者の中から選ばれる。
 なぜそのような娘が、この遠い異国の地で平民として暮らしている…?」
「え…。そうなの、ですか…?」


 国王は厳かに頷いた。
 
 魔族は数が少ない。広大な国土を持つにもかかわらず、人口は1千万に満たない。
 その代わりに人間よりも遙かに長い寿命、強大な力を持つ訳だが…王への忠誠心も強い。もしもアシュリィの身に何かあれば…この国など滅ぼされてもおかしくはない。
 いや、最近即位した魔王は穏やかな性格だと聞くし…だがそういう者に限って、怒らせると大変な事になるのだが。


「…とにかく、アルバートにさり気なく注意を促しておこう」
「はい…!」



 うーん、アシュリィったら。国王夫妻に要注意人物扱いされている事など、知る由も無いのであった。













 名前:アルバート・ベイラー
 性別:男
 職業:ベイラー王国第2王子
 Lv.2

 HP   320
 MP  490
 ATK 51
 DEF 60
 INT  295
 AGI  20
 LUK 81


 スキル:──
 称号:──

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