私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

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「あら、なんで手を繋いでるの?」

 戻った私達を見てお嬢様がそう言った。まだ繋いだままだったな、もう離してもいいんだが…?だがそれに対して返答したのはなぜか第3王子だった。

「あ、あの。先程アシュリィさんが倒れそうになってしまったんだ。彼はそれを支えていただけだよ。もう離れてもいいのでは?」
「彼女は以前にも急に倒れたことがございます。まだ油断は出来ませんので」
「へえ…」


 …なんかこの2人相性悪いの?なぜ険悪になりかけている?まあそんな事は置いといて、大丈夫ですからお嬢様。そんなに心配しなくていいですって!そろそろ撤収しないと。長ったらしいカーテンコールは必要ない、速やかに退場じゃーい!
 

「それでは皆様、本日は楽しいお茶会の場を壊してしまい申し訳ございませんでした。トゥリン様も…どちら?」

「「こちらです!」」


 息を切らした兄妹が姿を現した。頭に葉っぱついてますよ、いいんか?お嬢様は兄妹にも謝罪し、先に帰る事を告げる。ただ侯爵家に帰るのは危険かなあ…

 お嬢様は家を見限ったと宣言したが、これはそんな簡単な話ではない。現代日本でもそうでしょう。よほど命に関わる虐待でもなければ親は注意されるだけで、結局子供は親元に返される。その後本当に反省して、改善する家庭はどのくらいの割合なんだろうね。
 貴族ともなれば尚更だ、子供は親の所有物と考えている人も少なくない。あの侯爵だって、そう簡単にお嬢様を手放すとは思えん。王子の婚約者であれば余計にね。
 平民になれれば私としては楽である。ぶっちゃけお嬢様のステータスなら王宮魔法師だって目指せるし、教師なんかもいいかもしれない。当面の生活は私の魔法でどうとでもなるし、最悪教会で一緒に暮らそう!彼女が望むなら3人で旅に出たり…「僕は?」…はい、4人ですね。

 だが、今日はひとまず屋敷には帰る。…侯爵とも直接会話する必要があるし。最終手段は屋敷をぶっ壊して侯爵半殺しにして…魔国にでも行こうかな?

 …それいいかも!

 そんな風に私は輝かしい未来絵図を描いていたというのに…



「はっ!今日のことは全部お父様に報告するわよ!あんた達だってタダじゃ済まされないんだから!
 リリーナラリスはどっかの変態貴族に嫁がされて、あんた達は縛り首にしてやるわ!!教会の連中にだって罰を与えてやるんだから!!!」



 うるっせえな…



 近くにあったテーブルに手をつき、力を込める。私が何をしようとしているのか察したお嬢様とアシュレイが、テーブルの上のグラスやお菓子を移動させてる。アルバート殿下もなぜか手伝ってるが。
 うん、もったいない事はしたくないもんね。


 全身ずぶ濡れでなっさけない格好のくせに、この場にいる全員に幻滅されてるくせに。
 最初はここまでする気は無かった。ただ…こいつはもう救いようがねえなあ。口ではぶっ殺リストとか半殺しとか言っていても、お嬢様に対する行為、態度を反省して謝罪してくれたなら。数年修道院にぶち込むくらいで許したのに。もう無理。


 堪忍袋の緒が切れました。




『黙って聞いてりゃあペラペラと…いい加減その不快な口を縫いつけてやろうか』
「は…?な、なんて言ったのよ」

 自然と手に力が入る。そのうち、耐えきれなくなったテーブルがヒビ割れ、音を立てて真っ二つになってしまった。請求はアミエル侯爵家にお願いします。
 その2つになったテーブルのうち、脚が付いている方を持ち上げアイニーに近づく。
 何よ、それで何するつもりよ!なんて言ってるけど、足ガクガクだぞ?

『そんな無様な姿を晒すようなお前が、本気で私をどうこう出来ると思っているのか?』

 
 そしてそのまま振りかぶり…アイニーの目の前に叩きつけた。


「きゃああああっ!!
 …あ、あんた、私にこんな…っ!?」
「何様ですかあなたは」

 おうおう、さっきまで日本語で話していたから、急に言葉が通じて私が何言ってんのか理解してないな。ぽかんと間抜け面してらあ。
 でも、こいつにゃ容赦しないと決めたので。これ以上その不快な声を聞きたくないから、殺気をぶつけて戦意を喪失させる。仕上げに…さっきの殿下達をちょっと真似しましょうか。


「私の魔族としての血に誓い、あなたを絶対許しません。長年お嬢様を虐げたアミエル家は只今を以て完全に私の敵となりました。
 お嬢様及び教会のみんなに手を出すようでしたら、私の全力で叩き潰します。一切の容赦は致しません。その覚悟がおありでしたらどうぞご自由に。

 …さあ、お嬢様。行きましょう」


 お嬢様もぽかんとしてらあ。なんて可愛い間抜け面かしら。まるで舌をしまい忘れた猫みたいな愛らしさ!お嬢様はもう何しても可愛いって犯罪レベルじゃない?
 という馬鹿なこと言ってないで、とっとと帰りますか。ギャラリーも先程までの興奮は何処へやら、静まりかえっていますわ。「魔族…?」とかいう声が聞こえるけど、なんか文句でも?
 リュウオウを呼び、アシュレイとお嬢様を乗せる。殿下は後で合流だが…連絡手段残しとくか。クックルも呼び出し、分身・デルタを生み出してもらう。簡単な説明だけして殿下に託した。



「お集まりの皆々様へ騒動の謝罪申し上げます。私共は退場させていただきますが、まだ時間は残っております故、どうぞ楽しい一時をお過ごしください」

 礼をとってそう言い残し、大空に飛び去る。この後どうしようかなあ…シャリオン家に依頼した件もそろそろ結果が来るはずだし。
 一気に忙しくなったな…でももう後には引けない。最初から引く気は無いが。





 ただ…私は、私達は知らなかった。魔族とは思ってた以上に人間に尊ばれ、恐れられていることを。騎士を多く輩出しているような武に特化した家なんかは、魔族を王族同様に敬っていることを。


 この日、アミエル侯爵家が魔族の怒りを買ったという噂が瞬く間に広がった。

 いや別に私個人の問題でして、魔国の皆さんは関係ありませんけど!?それにお嬢様に敵対する家全部に喧嘩売る気ないからね!!?




 だがこの日の夜。全ては急展開を迎えるのであった。








 おまけ。お茶会後、シャリオン伯爵家にて


「…という事があったのよお父様!アシュリィさん、いえアシュリィ様すっごく格好良かったわ!」
「(隣国に逃げる準備をしておこう…)」
「容赦しないって宣言した時、思わず見惚れてしまったわ!!」
「(逃さんってことか!?)」



 だから大丈夫だってば!!!


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