私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

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「アミエル君、客人がいらしているようです。応接室に来ていただけますか?」
「何…こんな時間にですか?そのような無礼な者はつまみ出せばいいでしょう」
「そういう訳にいかないのです…必ず行ってくださいね」


 アミエル侯爵家長男、リスクは苛立っていた。
 つい最近、父親が事件を起こし…亡くなった。葬儀も終わったばかりで悲しみに暮れる暇もない。そして自分の侯爵を継ぐという未来も消え失せた。今は、卒業後どうするかも考えなくてはいけない。
 しかも…自分では気付いていなかったが、魅了なんていう魔法にかかっていたとは…。魅了が切れた今、彼は末妹のことをどう思っているのだろうか。

 そんな風に考えることは山程あるというのに…こんな夜、急に訪ねてくるような知り合いはいないはずだ。だが教師のあの態度を見ると、簡単に追い返せるような相手ではなさそうだ。

 仕方ないので適当に相手をして帰ってもらおうと思い応接室の扉を叩く。

「お呼びと聞き参りました、リスク・アミエルです」
「どうぞお入りください」

 聞き覚えのある声…どこだっただろうか。彼がドアを開けるとそこには…


「キリエ…それ、に、リリーナラリス。そして…アシュリィ…?」

 彼の弟妹、更に妹の執事がいたのだ。しかも2人は、見たこともないデザインのドレスを着ている。彼は何が起きているのか理解出来ていなかった。







 来たな、リスク様。キリエはリスク様の登場に目を輝かせている。
 話によると、彼は事件の詳細を知らない。知らない方がいいと判断されたんだろう。それでも、付けなきゃいけないけじめがある。
 私は立ち上がり、彼と対峙する。


「改めてご挨拶させていただきます。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。当代魔王の娘でございます。
 今回は私の友人であり貴方方の妹であるリリーナラリスの件で参りました。予定のない訪問、どうぞお許しくださいませ」
「──は…」
「兄上!こいつさっきからこんなこと言ってるんだ。ただの孤児のくせに!魔王の娘を名乗ってるんだ!!」

 はあ…キリエはアイニー寄りだな。長男はどうかな?


「…にわかには信じられないが、嘘ではなさそうだ。どうぞ、楽にしていただきたい。キリエ、お前は黙っていなさい」
「あ、兄上…?」

 へえ。少し見直した。私も席に座り直し、リスク様も腰を下ろす。

「して、話とは」
「先程も申し上げた通り、リリーについて。…彼女に、何か言うことは?」

 ちなみにだが。キリエの第一声は「何も無い、お前なんか妹じゃない!」だった。繋いでいたお嬢様の手が震えて…その口縫い付けてやろうかと思ったけど、その前にリスク様が来たのだ。
 さあ、彼はなんと言う?


「──申し訳、なかった。リリーナラリス。私はお前の兄だというのに…父上の魅了にかかり、お前を虐げた。
 言い訳はしない、許されるとも思っていない。それでも…私が言えた義理では無いが、お前には幸せになってもらいたい。
 聞いた話では、アルバート殿下はお前を愛してくださっているらしいではないか。そして、魔王陛下のご息女が友人であれば…きっと大丈夫だ。
 …アシュリィ様。どうか、妹をお願い致します…!」
「…!お兄様…」
「…はい。私はこれから先、いつ何があろうとも、リリーの味方であり友人であることを誓います」
「…感謝致します」

 
 なんと彼は、迷いなく頭を下げ謝罪した。侯爵家嫡男であった彼が…正直、ここまでは期待していなかった。形だけの謝罪をされてはいお終い。ぐらいかな、と。

「兄上!!なぜ謝罪など!魅了など関係無しに、リリーナラリスが母上の命を奪ったことに変わりはっ…!」
「黙れ!!!」

 バキイッ!!と…リスク様はキリエの頬を叩…いや、殴った。そして呆然とするキリエに畳み掛ける。


「お前はここまで愚かだったのか!!母上が亡くなったのは誰のせいでもない!!
 むしろお前は!!出産という大仕事を成した母上に、産後間も無い頃から負担をかけていただろう!!朝も昼も夜も夜中も母上の元の行き!くだらない我儘ばかり言っていたではないか!!それが原因かもしれないとは思わなかったのか!!?毎回お前を回収に行くメイドや私の苦労を知るまい!!」

 マジか…初耳や…。私もリリーも目を見開いています。

「そ、んな昔のこと、覚えてな…」
「そんな訳がなかろう!!お前は当時5歳だ、覚えていないと言うのなら、母上のことだって覚えていまい!!」


 …ここにきて新事実を知ってしまった…だが、兄弟喧嘩は後にして欲しい。

「もうキリエ様のお話は結構です。リスク様、最後に…もしも魅力が無かったら、貴方はリリーにどのように接してくださいましたか?」

 ここで真実の魔法を使う。リスク様が嘘をついたら…テーブルにめり込むようにしておこう。
 この魔法、かけられたら本人にも気付かれてしまうんだが…称号のお陰で精度が上がっている私は、こっそり使ってもバレないのだ!


「…私は…。信じて貰えないだろうけど、リリーナラリスと…リリーと普通の兄妹のようになりたかった…
 一緒にお茶を飲んで、絵本を読み聞かせたりしたかった…キリエもアイニーも、本なぞ読みはしなかったからな…。一緒に外出したり、乗馬をしたり…リリーに来る縁談を全て父上と吟味したり、したかった…。今はもう、叶わぬことだが…」

 そう語る彼の目には、涙が浮かんでいる…めり込まないということは、嘘はついていない。むしろシスコンだわ、この人。
 だから私はリリーの方を向き、笑顔で頷いた。


「リスク…様…!ありがとう、ございます…。私はまだ気持ちの整理がつきませんが…いつかまた、お兄様と呼んでもいいでしょうか…?」
「……!許して、くれるのか…?」
「…すぐには、無理です…。操られていたとはいえ、貴方にされたことは忘れられません。ですが…いつか。その日が来ると思っています」

 ちなみにキリエ様はもう他人です、貴方を許すことも家族と思う日も永遠にやってきません。とリリーは断言した。
 だよね!むしろそれだけで済ませるリリーやっさしい!だけど…リスク様だけでもリリーの味方がいてくれてよかった…。使用人達の謝罪は、上辺だけのものだったらしいから。

 そして私達は席を立つ。この後、王宮に戻ってアイニーとも話さないといけないからね。この学校は王都内にあるから、王宮は近いんだけどね。
 だがリスク様に呼び止められ、足を止める。


「アシュリィ様、最後に!なぜ父上が魅了を使ったのかご存知ですか…?
 私は、父上が母上を蘇らせる為に禁術を使い、使用人達を生贄にしたと聞いています。それだけならば、魅了は必要無かったのでは!?」
「…リリー、少しごめん。あなたに聞かせたく無い…」
「アシュリィ…分かったわ」

 リリーから離れ、私とリスク様の周囲に遮音をかける。今から話すことは、以前のアシュリィが調べて判明したこと。今回の侯爵も同じだろう。


 蘇生(復活)の魔法に必要な生贄だが…これは生贄本人が望む必要がある。つまり、「どうぞ私の命を使って、レイチェル様を蘇らせてください!」ってね。その為の魅了だった。
 だが…それだけだったら、リリーを虐げていた理由にはならない。ならばその答えは?

 侯爵は、裏ルートで入手した薬を使ってレイチェル様の死体を維持していた。生き返らせた時、身体が腐っていたらアンデッドっぽいよね。それでも万が一、上手くいかずに肉体が朽ちてしまったら…
 だから…リリーをスペアとして育てることにした。1歳になるかならないかくらいの時すでに…リリーはレイチェル様にそっくりだ、なんて言われていたらしい。まあ、そんだけ美しくて将来有望だったってことだ。
 だからこそ、リリーを誰からも愛されないようにした。いつかレイチェル様が駄目だった時、リリーの身体にレイチェル様の魂を降そうとしたのだ。その時…もしも生贄予定の者達が「流石にお嬢様を犠牲には出来ない…!」なんて言ったら、アウトだから。特にこのリスク様はきっと、何がなんでもリリーの味方でいてくれたと思う。
 あの侯爵は本当に…レイチェル様以外はどうでも良かったんだなあ…



 私がそう説明すると、リスク様は絶句していた。そこまで父親が狂っているとは思わなかったのだろう。

 そして今度こそ私達は学校を後にする。最後に、釘を刺すのも忘れない。


「リスク様…もしもまたリリーを裏切るようなことがあれば…私は、容赦しませんからね…?」

 彼は、コクコクと首を高速で振った。




「リリー…よかったね…」
「うん…」

 王宮へ向かいながら、その一言だけ言葉を交わした。さて、次の相手は骨が折れるぞう…





 着いた場所は、罪を犯した貴族が入れられる牢。言われなければ牢だと気付かないかもしれない豪華な部屋だ。罪がそれほど重くないのと、まだ少女であるからここにいるんだろうね。ちなみにオークションで摘発された奴らはいないよ、人数多すぎるから普通の地下牢にいるらしい。
 そこの1室に…奴はいる。リリーは震えているが、私はもっと震えているぞ!会いたくない、会いたくなーい!でもリリーの為だ…!!


「…あら?アシュリィ、アシュリィじゃないの!やっぱり私を助けに来てくれたのね、私も愛しているわ!!さあ行きましょう、逃避行へ!!」

 お菓子を食べていたアイニーは、私の姿を確認すると満面の笑みで駆け寄ってきた。相変わらず言葉が通じないなあ。そして私とリリーが手を繋いでいるのを見て…ガラリと表情を変えた。

「ちょっと!!なんであんたがアシュリィの横にいるのよ!!そこは私の場所よ、今すぐ代わりなさい!!なんで私がこんなところにいなきゃいけないのよ、あんたが入るべきでしょう!?」


 さて、どう対応すべきか。

①「お前頭沸いてんのか?気安くアシュリィなんて呼ぶな、許可した覚えは無い。私の横はリリーの特等席だ。お前なんぞいくら金を積まれようと隣に置くものか」

 却下。根性で修道院を抜け出して、逆恨みでリリーに危害を加える恐れあり。

②「私も…心が痛いですう…!でも、いつか必ずお迎えに行きます!(500年後くらいに)それまで、待っていてください!」

 却下。これまた痺れを切らして脱走、海を泳いででも魔国まで来そう…


 じゃあ…ここは③ですな。冷静に、淡々と事実だけ述べるべし。

「私は貴女の王子様ではありません。親しくなった覚えもありません。もう2度と会うこともないでしょうから、最後に確認に来たのですが…来るまでもありませんでしたね」
「え、何?何を言っているの?ほら、忘れちゃったのかしら?
 あの日私達は…アミエル領の一番星が美しく見える高台で…夜中に屋敷を抜け出して2人きりで星を見に行ったじゃない?美しい満天の星空の下、愛を捧げてくれたじゃないの…
「今は一緒になれません。私は、リリーナラリスに従うしかないのです…。ですが、いつか必ず…!貴女と共に…!」
 って言ってくれたじゃない…きゃあ♡それだけじゃないわ、2人でこっそり遠乗りに出掛けたり、街に抜け出してお洒落なカフェでケーキを食べたり。どれもこれも私の思い出、宝物よ。貴女も同じでしょう?」



 …どうやらあの屋敷には、もう1人アシュリィがいたようだ。アシュリーかもしれんが。リリー、知ってた?あ、知りませんか。
 もう会話したくないので、とっとと用件を済ませよう。

「どこのアシュリーさんとの思い出かは存じませんが…1つだけ、答えてください。
 貴女は…リリーのことをどう思っていましたか?姉妹として、仲良くは出来なかったのですか?」

 あの家族でリリーの味方になれるとしたら、レイチェル様のことを覚えていなかった為魅了にかからなかったアイニーしかいない。もしも彼女が優しいお姉さんだったら。リリーは…



「何言ってるの、そいつなんて家族じゃ無いわ!だからお父様にもお兄様にも使用人にも虐められるのよ、いいざまだわ!もしもあんたがもっともっと醜くて頭が悪ければ、少しくらい優しくしてあげたわよ!!」
「…そうですか、アイニー様。さようなら。修道院は厳しい所らしいから頑張ってくださいね。言うことを聞かないと食事抜きも当たり前らしいですよ。精々餓死しないように気を付けることですね」

 リリーはそれだけ告げて、牢を後にする。私もさようならとだけ言い、アイニーに背中を向けた。後ろから何か耳に障る奇声が聞こえてくるが…私達が振り向くことはない。




 最後に私達は、王宮の中庭に来ていた。

「ねえ、お兄様はともかく…アイニーに挨拶する必要は無かったんじゃない?」
「ん?駄目。リリーは優しいから…ふとした時に囚われてしまうかもしれない。「もしも最後に会話をしておけば…分かり合える可能性があったんじゃ…」とか。
 でもこれで、完全に断ち切れたでしょう?アイニーとは何がなんでも天地がひっくり返っても分かり合える日は未来永劫ありえないって。
 …これで、貴女は自由です。お嬢様。最後に…私とお別れです」


 そう言うと…散々泣いたのに私達の目にはまた涙が浮かぶ。


「また、必ず会いに来ます。それまで少しの間…さようなら。大丈夫、貴女の側にはアルバート殿下も、アシュレイもいます。ベンガルド伯爵様もきっと力になってくれます。
 残念ながら魔国とベイラー王国は遠すぎて、精霊を残して行くことは出来ません。魔力のパスが切れてしまうんです。だから…ラッシュ、リュウオウ、クックルの分身達ともお別れです」

 リュウオウ、ラッシュが姿を現す。彼らも先の戦いでボロボロだったが…もう復活した。そうしてラッシュは優しくお嬢様を抱き締め、リュウオウは巻き付いた。更にクックルと分身達がやって来て、お嬢様の周りをパタパタ飛んでいる。更に更に…


「ふうむ…それが其方と懇意にしている娘か。まあ、悪くは無い。其方、名は?」
「リ、リリーナラリス・アミエルと申します!」
「うむ。妾はグレフィール。リリーナラリス・アミエルに、我が名を呼ぶ権利を与えようぞ」
「恐れ入ります、グレフィール様」

 呼んでないのに勝手に出て来た!!お嬢様は彼女がただの精霊で無いと見抜いたのだろう、十分に敬意を払っている。良かった…
 そんじゃあ全員一旦帰ってね。デカいやつが3体もいるもんだから、中庭ぎゅうぎゅうなんだよ!警備の人だってすんごい困惑してんだから!!グレフィールなんかは渋っていたが、魔国で自由に飛んでいいから!



 私とお嬢様…リリーは手を繋ぎ歩き出す。お父様が待つ場所へ。私の、旅立ちの時だ。







 私達が魔法陣のある場所へ行くと、すでに全員揃っていた。


「おかえり、アシュリィ。もう用事は済んだ?」
「うん、ありがとうお父様」


 さて…と。

「アル。これから先、リリーをお願い。側にいて、守ってあげて」
「任せて。アシュリィも…頑張って。また会う日まで、さようなら」

 アルとハグをして別れを惜しむ。もっと彼と語りたかったが…それは、再会した時にとっておこう。ヒュー様にも、アシュレイをお願いしますと言っておいた。兄弟になったんだもんねえ。


「アシュレイ…私がいなくても、大丈夫だよね」
「…お前、こそ。もう怖いもの見たって、オレの布団に入って来れなくなるぞ、平気か?」

 平気だわ!!全く、失礼しちゃうわ!
 …泣き虫のアシュレイは、なんだか必死に涙を堪えている。そんな彼にそっとハグをする。


「泣いても、いいんだよ?私もさっき散々泣いたし」
「いや…オレは、次に泣く時は決めてある。それまでは、絶対に泣かない」

 涙ってそういうもんだっけ?まあいいか。ぎゅっと抱き合い、離れる。…また、会いにくるよ。

「お前が来ないとしても…オレが会いに行く。絶対に!」

 そ、そう?じゃあ、その時は魔国を案内しよう。約束ね?



 別れを済ませ、魔法陣に近付く。お父様、四天王、従者候補の2人はすでに待機している。あと、1人。まだトレイシーにくっ付いているパリスだ。

『パリス…もしも望むのなら、このままトレイシーと一緒にいる?あなたは自由なの、好きに決めていいんだよ?』
『……ううん、アシュリィと、いく。トレイシーはいいけど、ほかの人はこわい。まぞくは、ぼくにひどいことしないんでしょう?』
『誓うよ。じゃあ、トレイシーにお別れを言いな。言葉は…』

 パリスに一言だけ共用語を教える。これから、一緒に沢山勉強しようね。トレイシーの方を向き、たどたどしく言葉を紡ぐ。


「トレイシー、あり、がとう。また、会おうね。」
「…おう。元気でな、お嬢も。次会う時には、いい女になっておけよ?」
「ふ、私は今もいい女じゃない?」

 トレイシーは私達の頭を優しく撫でた。…うーん、お父様に撫でられるのと違って、照れる…。トレイシーの笑顔を見ると、心臓が早鐘を打つ…。これ以上は危険なので、とっとと魔法陣に足を踏み入れる。
 




 私達が立った瞬間、陣が輝きを増した。とうとうお別れの時だ。

 見送りに、沢山の人が来てくれている。国王夫妻に殿下方。宰相やら大臣やら大将軍やら勢揃いだ。彼らにお世話になりました!と言い、リリー達にもお礼を言う。最後は笑顔でお別れしたい。笑顔で…大きく手を振った。


「ばいばーい!!アル、浮気すんなよ!リリー、お兄様と仲良くね!アシュレイ、強くなれ!!」
「大丈夫、リリスしか見えないから」
「頑張るわ!貴女もおじさまと仲良くね!」
「今度手合わせする時は、負けないから!絶対お前より強くなって、守ってやるんだからな!!」




 そして、視界は白に包まれる。
 これが、私達の冒険の物語。出会って困難を乗り越えてお別れして…また再会の約束をした。

 これから先も私の、彼らの人生は続いて行く。それぞれの道がまたいつか交わる時…その時は、また一緒に遊ぼうね──…






















 数年後の、春。この日アシュレイは、寄宿学校の4年生へと進級する。


 予定通り12歳で入学し、もう15歳になった。卒業したら魔国に行こうと思っており、多数ある縁談も全て断り続けている。
 今頃彼女はどうしているだろうか…。空を見上げながら、想いを馳せる。もしかしたら、ドラゴンと喧嘩でもしているのかもしれない。想像すると、なんだか笑ってしまう。


「何笑ってるの、レイ。もう始業式始まるよ」
「アル。そっちこそ、こんな所で油売っていていいのか?生徒代表の挨拶があるだろ」
「全部記憶してるし、僕は君と違って舞台上でアガることないから心配いらないよ」
「そうかい…」


 彼らは歩き出す。





「えー、急ではありますが、今年他国より留学生が来ることになりました」

 始業式も終盤に差し掛かる頃、理事長が告げる。生徒達はどこの国から来るのかな、と騒ついている。


「まず、隣国のグラウム帝国より、第1皇子殿下であるデメトリアス・グラウム殿。そして…魔国ディスジェイスより──…」


 その言葉を聞いた瞬間。アシュレイは走り出していた。彼だけではない、リリーナラリスもアルバートも。

 理事長の言葉を受け舞台上に姿を現したのは…靡くグレーの髪に、真っ赤な瞳。誰もが目を奪われるほどに美しく成長した──…




「「「おかえり!!」」」






 彼らの道が交わる時。また物語は動き出す。

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