私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
92 / 164
学園

06

しおりを挟む

 さって、次の授業は剣術か。参加者は大体男子生徒。女子は応援か、刺繍なんかも選択出来る。
 まあ、私と三人衆は参加だがな!!

「え、ララとか大丈夫なの!?」
「リリー様、心配ご無用でございます!どうぞご覧になってくださいな。」


 ふふふ…魔国で育った彼らが、軟弱だと思う?彼らは私の世話係兼護衛。まあ見てなさいって。
 というか剣術の先生が…


「トレイシー!?なんで!?」
「よう、お嬢。中々いい女になったんじゃねえか?」
「でしょー?…じゃなくて!なんで先生やってんの?」

 なんとまあ、見知った顔が先生でした。話によると、スカウトされたからアシュレイの在学中のみ教師をしているらしい。
 …教師枠、ゲットだぜ!!なんつって。


 私は再会したトレイシーを屈ませて、髪を引っ張る。…うん、生えたな!!やっぱハゲより今の方が格好いいぞ。
 今彼は30過ぎのはずだけど…前より若返って見えるんじゃない?表情も晴れやかだし。


「まあなー。んじゃ、早速授業始めんぞ」
「おーう!ねえ、後でパリスにも会ってよ。ほら、あそこ」

 トレイシーにずっと会いたがっていたパリスは、目を輝かせて尻尾をぶんぶん振っている。それを見たトレイシーは、おうよと答えるのであった。



 私達編入組は、今日は見学するよう言われた。残念だが仕方ない、生徒の実力を見せてもらいましょうか。


 ……うーん、レベル低。なんというか…差が激しいな。本気でやってる生徒とそうでないのが。特に…


「どうだ?大将、やるだろ」
「うん…」

 アシュレイの成長が凄まじかった。足捌き、体重移動、呼吸…全部洗練されてる…。打ち合いも乱取りも他の生徒より頭1つ分どころか20個分くらい飛び出ている。
 

「あいつな、もうアレンシア家じゃ大将軍と俺に次ぐ実力の持ち主だぜ。その俺も…そろそろ抜かされそうだがな」
「嘘!?じゃあヒュー様よりも上!?」
「ああ。この国の中でも上に位置するだろうな。しかも称号の効果もあるから…強力な魔物退治なんかにゃ3年前から駆り出されてる」


 トレイシーの発言に、改めてアシュレイに目を向ける。
 彼は基礎が1番重要だと分かっているようで、他の生徒が手抜きをしている素振りも念入りにやっている。
 久しぶりに会っても…抱きつけば顔を真っ赤にして慌てふためいたり、昔の恥ずかしい話をされると怒ったり…まだまだお子様だと思ってたよ。

 背え伸びたなー、身体鍛えてんなーとは思っていたが…ここまでとは。


「絶対に勝ちたい相手がいるんだと」
「え、誰?私?トレイシー?」
「いや、違う」

 誰だよ…
 …応援してるぞ、アシュレイ。


 その時…一緒に見学していたデメトリアスが一歩前に出た。その顔は、いつものドヤ顔じゃなくて真剣そのものだ。


「アレンシア。手合わせを願う」
「……か、じゃなくて先生。よろしいですか?」

 デメトリアスが、アシュレイと?
 先生と呼ばれたトレイシーは少し悩み…私の方をちらっと見た。そんで「怪我人が出たら治療頼む」と言った。


「いいだろう。危ないと判断したら俺が止めるからな」

 その言葉を受けた2人は対峙する。何考えてんだ…?デメトリアスは剣に自信があるようだけど、アシュレイに勝てるとは思わんが。
 

「アレンシア、本気で掛かってこい」
「……分かりました」

 互いに剣を構える。トレイシーの合図と共に…デメトリアスが先制する。意外と速い!でも…
 アシュレイは難なく受け止め押し返し、すかさず反撃に出る。アシュレイが上部から斬りかかるが…防御が間に合っていない。
 躱すことも出来ず、アシュレイが寸止めして終了。デメトリアスが「……俺の負けだ」と認めた。

 一瞬で勝負がついてしまった…アシュレイすげえ…。意外だったのが、デメトリアスがあっさり負けを認めたことだ。
 周囲も彼らの勝負に魅入っていて、勝敗がついた途端歓声が上がった。



「……お前は、なんの為に自分を鍛えている?騎士になるためか?」
「いえ、騎士になるつもりはありません」
「はあ!?じゃあ何故!?」
「…勝ちたい相手がいるからです」
「誰だ?」

 試合が終わり、アシュレイが手を出しデメトリアスを立ち上がらせる。
 そんでなんか会話してるが…アシュレイがこっちをちらっと見た。何さ?彼らは私達に聞こえないよう、小声で会話する。

「……です」
「…いや、無理だろう!?」
「無理ではありません!幼い頃に誓ったんですから!!」
「…!!誰に」
「自分にです」
「……そうか。俺もまだまだ修行が足りんってことか…
 行くぞ、ティモ。」

 もう授業終了の鐘が鳴り、デメトリアスはティモを連れ出て行った。
 アシュレイになんの会話をしていたか聞いても「いや、大したことじゃ無い」と教えてくれない。残念。

 結局私達は見学で終わってしもた。つまらん。


「トレイシー、久しぶり!」
「おう、でっかくなったな」
「うん!!」

 パリスがトレイシーに抱きついた。授業中は我慢してたもんな。沢山話をさせてあげたいが…残念ながら次の授業がある。
 名残惜しそうにするパリスをアイルとララが引き摺り、「またねー!!」と言いながら別れた。



「強くなったね、アシュレイ」
「…まだまだだ。オレはもっと強くなる」

 そっか。きっと出来るよ。







 その頃、学園の遥か上空で。


「うーん、やるねアシュレイ」
「陛下…何をなさっているのですか…」

 肉眼では見えない位置にいるリャクルとルーデン。帰ってこない魔王をルーデンが迎えに来たのだ。
 その手に握られているのは遠見の魔導具、ぶっちゃけ双眼鏡(デザイン案、アシュリィ)。それで授業を勝手に見学していた。


「いやー、昔アシュレイに宣戦布告されてね。どれだけ育ったか見てみたくって」
「はあ…宣戦布告?」

 リャクルは数年前の出来事を思い出していた。



 あれはアシュリィがこの国を発つ直前、リリーナラリスと出ていた間のこと。
 今より更に幼いアシュレイは、精一杯胸を張って宣言した。

『陛下!いつか…必ずあなたより強くなって、アシュリィを…む、むか、迎えに、行きます!』


 幼い子供の言うことなので話半分に聞いていたが…どうやら本気のようだった。


「こうなったらディスター城を改装しないと」
「いやなんでですか」
「勇者が魔王と雌雄を決するのは、魔王城と相場は決まっているらしいよ!決戦に相応しい内装にしなきゃ。あと廊下のあちこちに宝箱も置いておかないとね」

 以前アシュリィから聞いた話である。いつアシュレイは勇者になったのだろうか。


「仲間を引き連れお姫様を奪いに来る…ふっ、楽しみにしてるよ!」


 魔王陛下は心底楽しそうな表情をしながら、今度こそ国に帰って行くのであった。




「それにしても、アシュレイの相手をしていた少年惜しいなあ。体幹の強さと咄嗟の判断力、反射神経ならアシュレイより上だ。良い師に巡り合えれば、もっと強くなれるのに」

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...