私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 この先唐突に残酷描写や胸糞表現あり

 ******



 ああ…なんという事だ。

「陛下!もうベイラーでは噂が収束不可能な程広まっているようです!」
「朝から謁見の申請が止まりません!」
「どうなさるおつもりですか!?」


 明日は…我が息子の生誕の日。そこでついに、皇太子として皆にお披露目するはずだったのに。
 これまで第一皇子の座に居座っていたは追い出し…皇族として、家族として在るべき姿に戻るはずであったというのに。

 明け方から皇宮中が騒がしく、皆慌ただしく走り回っている。どうにかせねば…頭をフル回転しても答えは出ず、焦りばかりが募る。


 玉座に座り思考する。私は一体…どこで間違えてしまったのだろう。
 夫は隣で不安げに眉を下げ、私の肩を抱く。……駄目だ、私は皇帝として…誰にも弱った姿を見せる訳にはいかん!!

 あの子供め…!静かに去ればよいものを、最後の最後まで私を不快にしてくれる。だが、魔族の姫君があちらに付いている以上、こちらが不利だ。
 まずは近隣諸国に言い訳を…あちらが動く前に、先手を打たねば。そして切っ掛けを作ったというタンブル家の息子…そいつの処分も後々考えなくては。

「誰か!!外務大臣と国防大臣をここに…」
「へ、陛下っ!!!申し訳ございません、取り急ぎお伝えせねばならない事が!!」

 何事だ?玉座の間に飛び込んで来て、私の言葉を遮った男は跪き震えている。本来ならば厳罰ものだが、由々しき事態のようだ…続きを申せ。


「そ…それが。現在正門に…魔王陛下と御息女、及びデメトリアス殿下と御友人方がお見えになっておりますっ!!!」
「………………はっ…?」









「やあ、ごめんねアポ無しで。デメトリアスくんのご家族に挨拶に来ただけなんだ」
「は…はい…ただ今陛下にお繋ぎします、少々お時間を…」
「あ、いいよいいよ。こっちから出向くのが礼儀だよね、お仕事ご苦労様~」
「へ…まっ、魔王陛下!?」

 うーわ、有無を言わせない。お父様は障害にも成り得ない静止を余裕で躱し、皇宮内をずんずん歩く。まあ今回はこのまま突っ走ってもらおう。

 それで…道行く人からの情報によると、陛下は現在玉座の間にいるとか。…なんで?


「デム…貴方達はどこかで待ってる?」

 以前ステファニー殿下に聞いた。2人は玉座の間を恐れていると…さっき倒れて回復したばかりだ、無理をさせたくない。
 だというのにデムは、青い顔を力無く横に振る。

「……俺達も行く。ここで…終わらせる為にも。ただ…その」

 ?彼は気まずそうに私をチラチラ見る。

「………手を、握っていてくれないか」
「…!任されよ!」

 私の存在が彼の支えになるのなら、いくらでも繋ごうじゃないか。右手はデムと、左手はティモと繋ぐ。子供っぽくて気恥ずかしさはあるけども、知ったこっちゃねえ!!
 件の部屋がある階までやってきた。さあ…行こうか。



「どうかお止まりください」

 おっと。玉座の間の前で、流石に騎士に止められた。けど知らん。

「卿等は自分がお仕えする皇子の顔も忘れちゃった?デメトリアス皇子が入りたいって言ってんの、邪魔する気?」
「………陛下より…皆様をお通ししてはならない、と命を受けております。どうかご容赦を…」

 あらら、2人の騎士はその場に膝を突いて頭を垂れた。じゃあ仕方ない、帰ろう……なんて言うかバーーーカ!!!

「「そいっ!!」」バギャッ!
「「あーーーーーっ!!?」」

 親子の協力プレイで扉を破壊!!(ただ殴っただけ)カチコミに来た瞬間から、穏便に済ます気は更々ねえ!!
 慌てた騎士がこっちに腕を伸ばす、が。

 お父様のひと睨みで…泡吹いて気絶した。ただの威圧で屈強な騎士を…パパ格好いーっ!屍を乗り越えていざ室内へ。



 お父様が先頭を歩き…後ろに私達3人。次に残りのみんなが続き、悠々と玉座の間を歩き進む。もう誰も、私達を止めようとしない。誰もが青い顔で壁際に寄る。


 …皇帝陛下を除いて。



「…なんの騒ぎでしょうか?偉大なる魔法陛下、及び御息女がこのような所まで」


 玉座に座り、こちらを見据える女帝…キャンシー陛下。側には皇婿殿下が立っている。思えば彼女との縁も長い気がする。

 あの日…リリーナラリスお嬢様と、アルバート殿下が初めて会ったお茶会の席で。
 お嬢様は短い髪を貶されたが…キャンシー陛下リスペクト、という作り話で乗り切った。でもね。



 私は本当に、彼女を尊敬していた。
 まだまだ男性社会で、女性の地位が低いこの世界で。割りと先進的なグラウムでも、女性当主はごく僅かで。
 過去に女帝が君臨しても…ほぼ摂政や臣下が政治を仕切っていた中で。己の力を信じ…国を導き治め、改革を行ってきた女傑。

 そんなの、同じ女性として憧れるじゃん?だからデメトリアス皇子と初めて会った日、「これがあの女帝の息子かぁ…」と内心落胆したのを覚えている。
 それが今…私の中で、彼らの人物像は真逆だ。だからここで、全てを詳らかにしよう。
 お父様には横に逸れてもらい、私達は陛下の前に立った。

 さり気なく部屋を見渡すが…そこそこ人がいる。騎士だったり、いい服を着たおじさんだったり、若い文官だったり。

「…この国の重鎮は概ね揃っているな」

 デムがぽつりと、私にだけ聞こえる声量で言った。オッケー、昨日の夜会と似た状況を作れた訳ね。…こほん。


「陛下。互いに挨拶は省略し、お話がございます。そこに立つ父は無視してくださって結構。
 こちらにいる、デメトリアスの出生について。及び…ティモとデメトリアスの関係について、ご存じですよね?」
「……………」

 陛下は顔色こそ変わらないが。ギリ… と肘掛けを強く握った。

「……姫君はすでにご存知なのだろう?その子は…私のデメトリアスではない、と」

 デムの手が、ピクリと動いた。
 …ああ、そうかい。血の繋がりも無けりゃ、親子の情も無いと言うか!!
 陛下の発言に、帝国側の数人が動揺した。若い人ばかりだけど…ふうん、全員が知ってる訳じゃないんだ。

「ええ。なので…私の疑問はそこではありません。何故貴女の御子息と、ここにいる私のゆうじ…親友の入れ替わりが発覚した時点で、それを公表しなかったのか。私の親友を、互いに望まぬ皇子という地位に縛り付けたのか。それを知りたいのですよ」
「………シュリ…」
「……………」

 両側の2人が震えている。大丈夫、大丈夫だよ。私が側にいる!!


「……姫君はそれを知ってどうする?」
「さあ?今はなんとも」
「ただの好奇心で、我が国を引っ掻き回すつもりか?その2人を魔国に連れて行きたければ、好きにすればよい」
「ええ、私の行動が余計なお世話なのは自覚しております。で、それが何か?」
「「…………」」

 私達は睨み合い…沈黙が落ちる。誰かのごくりと喉を鳴らす音が、やけに大きく響いた。
 陛下は今必死に、言い訳を考えているのかもしれない。今のうちに…真実の魔法を準備しようとしたら。



「……11年前」
「え?」

 沈黙を破ったのは、デム。震える声で何を…?

「…俺の、5歳の誕生日の、3日後。ここ…玉座の、間で…」
「!黙れっ!!!」

 !?陛下が焦りを露にしながら腰を上げた。
 その日ここで何かが…よし…!


「アル、リリー!デムとティモを連れて部屋の外に出て。ディードは彼らを守って!」
「ああ」
「「わかった!」」

 彼らは速やかに動いてくれた。ディードが扉を直し、バタン!と閉まった。これでよし…っと。


「な…何をする気だ…!?お前達!!姫君を止めなさい!!」

 おっと、陛下の動揺が強まった。よほど知られたくない何かがあるか。
 が。騎士達はこちらには向かわず、キャンシー陛下と皇婿殿下を囲んだ。

「っ!?何をするっ!!」
「申し訳ございません、陛下!!我々では魔王陛下には太刀打ちできません、どうか避難を!!」

 あぁ、正しい判断だ。お父様に剣を向けるより、自分が盾になってでも主君を逃す…いい臣下をお持ちだね。


 その間に私は…魔力を練って準備する。これはかつて、時間遡行魔法を編み出した時。副産物として生まれた…巻き戻しの魔法。
 大丈夫、実際に過去に飛ぶ訳ではないから…私はまだ、ヒトでいられる。はず。


「違う、姫君を止めろと言っている!!このままでは…!」

 そうそう、貴女が逃げても意味は無いよね。私が何をするのか察したのだろうか。抵抗する陛下と、青い顔で膝を突く皇婿殿下。
 ご覧あれ。私が500年近く掛けて編み出した、魔法の片鱗を。



「『記憶の風景ホログラフィー・プレーバック』」



 私の詠唱と共に魔力が部屋を包み、景色が歪む。この魔法は言うなれば。
 この部屋の記憶を読む…過去に起きた出来事を、映像として再現するのだ。もちろん干渉はできない、あくまで『再生』するだけ。


「さて、皆様。これよりご覧いただきますは………えっ?」


 今私達の目の前に広がるのは、過去の風景…の、はず、なんだが。


「アシュリィ、なんだこの状況…!?」
「わ…わかんない…」

 アシュレイが、私の肩を抱きながら問い掛ける。他のギャラリーも困惑しているのか、ざわざわと聞こえる。陛下夫妻は、今にも倒れそうな程顔面蒼白だけど…



 これは一体…何が起きてるの…?



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