私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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「イヴリン?それが…俺の名前…?」
「そう、だよ。きみの…げほっ。父さんも母さんも、毎日その名前を呼んでいた、よ」

 ティモは若干かすれた声を、一生懸命絞り出す。よかった…声が戻ったんだね…


「イヴリン…」

 デム…いいや。イヴリンはティモから離れて、すうぅ…と息を吸って…


「……女性の名前じゃないかーーーっ!!!」


 と、絶叫した。
 その声に張り詰めた空気は切り裂かれ、いつものふざけ合いが始まる。私とリリーは、イヴリンの腕を両側から取った。
 アシュレイ、アル、ディードは順番に、ティモとイヴリンの肩を軽く叩く。

「あははっ!いい名前じゃんイヴリン、一応男性名としても使われてるよ?」
「ええ、素敵なお名前ですわ」

 フォローしたつもりなのに、イヴリンは涙でぐっちゃぐちゃになった顔で、私をキッと睨んだ。お?やるかこんにゃろ!

「やかましい!もっとこう…男らしい名前がよかった!例えばアルバートみたいな!!」
「ええっ?照れるじゃん~。でもほら、トレイシー卿だって中性的な名前だよ?でも本人はすっごく男らしくて格好いいでしょ」

 アルの言葉に、イヴリンはぐぬぬと唸って口を窄めた。でも本当…綺麗な響きの名前だと思うよ。…イヴリンはトレイシーより、更に女性寄りだけど。それは言わんとこう。


「(俺が「産まれるのは妹だ!」って宣言してたせいで、母さんもその気になっちゃったらしいんだよね~。それでイヴリン…ごめんね~)」

 ティモは袖で涙を拭いて、ハンカチを取り出しイヴリンの顔も拭った。
 というか…イヴリンって、呼んでいいよね?念の為確認すると、彼はティモにされるがまま状態で肯定してくれた。

「………いいよ。デメトリアスは借り物の名前だ。もう俺は、皇子でもなんでもない」
「そっか!じゃあ…イヴリンの愛称は…エヴィか。これからエヴィって呼ばせてもらうね!」
「…(ますます女っぽくなったような…でも)」


 ん?エヴィは、自分の胸の辺りを握り締めた。


「(イヴリン…か。ありがとう、父さん、母さん。大事にする…だから。
 さようなら…)」


 そして晴れやかな表情になり…にこっと笑う。ちょっと…その顔は…ドキッとしたわ…!悟られないよう、パッと顔を逸らす。


 そんな時、私の頭に温かくて大きな手が乗せられた?

「さて、これで解決かな?」
「お父様!」

 解決…と言えるか分からないけど。もうこの兄弟は、過去と訣別した。

「……その女を許した訳ではありません。顔を見ていたら、また剣を持ってしまいそうだ」

 …ティモは復讐心よりも、エヴィとの未来を選んだ。それは身を裂かれるような、誰にも想像もつかないような苦痛の果てだろう。私は彼を、心から尊敬する。
 ティモはエヴィの腕を引いて、玉座の間を出ようとする。もう私達にできる事は何も無い。後はグラウムで片付けてくれ。グラウムの重鎮達に視線を送ると、全員恭しく頭を下げた。


 最後に。私はキャンシーの前に立ち、声に殺気を乗せて言う。

「貴女はティモの慈悲によって、いるんだ。それを忘れないように」
「……………」

 もう答える気力も無い…か。



「じゃ、帰ろうか。僕達の国…ベイラーに。
 ねえエヴィ」
「…なんだ?アルバート」

 アルが扉のハンドルに手を掛けて、くるっと後ろを振り向いた?

「僕達って従兄弟じゃないけどさ。友達だよね?」
「……!」

 うん…そうだよね。立場は違えど…共に過ごした時間、紡いだ絆、相手を想う心は何も変わらないよね。
 エヴィは止まっていた涙を再び流し…アルに向かって微笑んだ。


「ああ…俺の、大切な友達だ。ベルディ兄さんも、ジェイドも…アル、も」
「うん!」

 アルは満面の笑みを披露した。あぁ~…子供の頃から…この笑顔にゃ勝てねえ…。アシュレイもリリーも、つられて笑顔になっている。



「(……アルバート…アル。お前は昔から、なんにも変わらないな…)」

 …ん?みんなで廊下を歩いていたら、エヴィがアルの背中を見つめている。どしたん?

「ん…いや。
 ……あの事件の後。落ち着いてから…初めてベイラーのみんなと顔を合わせた時。陛下や王妃殿下、ベルディ兄さんは…俺に憐れみの視線を向けた。ジェイドはまだ幼くて、よく分かっていなさそうだったが」

 ああ…キャンシーはベイラー王室にも、エヴィの偽りの情報を流したんだもんね。それで?

「それで…アルは違った。あいつは…」

 エヴィは私にだけ聞こえるように、語ってくれた。




 いずれ『デメトリアス皇子』は皇室から除籍するけれど。それまで表面上は皇子で、従兄弟として振る舞って欲しい…とキャンシーが王室一家に告げると。

『え、なんで?デメトリアスはデメトリアスでしょ?なにもかわってないじゃん』

 と、アルはクッキーをつまみながら首を傾げた。キャンシーが、この子はデメトリアスの身代わりだ、と説明したが。

『え…デメトリアスって、ほかにしゅるいがあるの…!?ニュータイプってやつ?』



「マジで言ってたの、それ?」
「あの顔はマジだったな」

 エヴィは当時を思い出してか、ははっと笑った。でも…アルなら言いそう、という謎の信頼がある。続きは?


『……ふーん?といっても…ぼくのしってるデメトリアスは、このこだけだよ』
『え…?』
『いまさらイトコじゃないっていわれてもなー。これからもふつうにあそびたいよ。ってコトで、ボードゲームしようか』ぐいぐい
『ボクもやるー!デメトリアスくん、しょーぶだ!』ぐいぐい
『…よかったら、私も入れてくれるかな?』
『あにうえはつよすぎるからヤダ。つまんない!』
『お前はそういうやつだよ…』
『え…え?』ずりずり…



「アルがそんなだから…ジェイドもベルディ兄さんも、何も変わらず接してくれた。国王夫妻も…俺を受け入れてくれた。グラウムと違ってな。年に1度くらいしか会えなかったのが、寂しかったけど」
「そっかぁ…」

 きっとアル達と過ごす時間は…エヴィにとってかけがえのないものだったんだ。
 本当にアルって…いい意味で昔から変わらないね!そんな彼と友達になれた事、私はとても誇らしく思う。



 国に帰った私達を、四天王Jr.やパメラ達が迎えてくれた。陛下や公爵達への報告…リアちゃん達の仮の家…やる事がいっぱいだ。
 それでも、晴れやかな顔のエヴィを見ると。彼らが自由になれてよかった…そう思わずにはいられないのだ。

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