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第23話 光る夜、暗い夜
しおりを挟む「お帰りなさい。……あらあら可哀想に、疲れた顔をして」
エーゲルさんのお母さんが苦笑しながら抱かれる。
「もふ。少し、疲れました」
「そうね、お城なんて好き好んで行くものでは無いわね」
私の頭を撫でてから髪を解いてくれる。
「さ、お風呂を準備しておいたから入っていらっしゃい。着替えも用意しておいたから」
「ありがとうございます……すみません、お気遣い頂いて」
再び頭を撫でられる。
「……ゆっくり温まっていらっしゃい」
お風呂のあるようなお屋敷はそうそう無く、入浴は貴族間の歓待でも利用される程に貴重だ。
平民の娘が受けて良い待遇では無いのだけど……エーゲルさんのお母さんはわざわざ私の為に用意してくれた。
感謝の気持ち一杯で入浴させて頂いた。
「やっぱり夕方とか夜に入るお風呂って良いなぁ」
貴族的に過ごさなくてはいけなかった前世では朝に入浴するのが普通だった。
常に人目に晒されるので朝の身支度の一環だったのだ。
生まれ変わってからは夜に入浴する生活をしている。
農作業で汗をかいたまま寝床に入りたく無いのが理由だ。
家のお風呂は簡単なもので、小屋にある木桶に大鍋で沸かしたお湯をドバーっと流し込む形だ。
「今頃は皆ご飯を食べてる頃かな……」
「吾輩もお腹が減ったのである……何か食べるものは無いか聞いてくるのである……」
脱衣室からハクの気配が消えた。
(……遠慮無しに何でも言わないと良いんだけど)
お風呂も堪能したし、ハクが心配だったので私もお風呂を出る事にする。
用意されていた良い香りの布で水気を取り、服を……
「全く、急に降らなくても良いのに……」
ガチャ
「……エーゲルさん」
「…………あれ?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
エーゲルさんは床に座らされていた。
「あの、本当に気にして無いですから。不幸な事故ですし……」
「すみません……いやほんと……すみません」
「全く、あなたという子は……お客様がいらしているのだから少しくらいは考えなさいと……」
「まあまあ母君。アイリスの貧相な身体など見ても大した問題など無いのである」
「あなたもそちらにお座りなさい」
「ニャ……」
エーゲルさんの横にハクが並ぶ。
「良いですか、女性の裸というものは母性と神秘を併せ持った……」
それからお説教はエーゲルさんとハクが半泣きになるまで続いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
燭台の灯りだけで照らされたテーブルに、血のような色をしたワインを注がれたグラスがある。
「それで、フリューゲル男爵のお声がけで如何程の貴族様がお集まりに?」
「ふふん、聞いたら驚くぞ……既に20以上の貴族が賛同しておる。……大物もな」
ほっそりとした指で優雅にグラスを摘み上げると、マリアンヌは中身を口に含む。
酒を美味しいと思った事など無い。
彼女にとってはあくまで社交の道具であり、相手の格式を測るためのものだ。
それでも、今夜の酒は美味しく感じる。
「ふふ……それでは近々……」
「ああ、我らが主権を握る日も遠く無いだろう。ハハハハハ!」
無能で品が無く、見るべきところも無い男だけど……良い駒として動いてくれた。
「ああ、待ち遠しいですわ……私が聖女として国を導く日が」
光を浴びる日を夢見て、今は暗い闇の中で笑う。
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