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聖オフェリア国

第36話 女性が、強いです

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「お話は解りました、私は現在ここを預かっているギンと申します。女王陛下には大変お世話になっております。エリス様にお会いするのは初めてですね」

「……そうだな」

「女王陛下よりのご用命であればお応えすることも吝やぶさかではないのですが、つい昨日お会いした際もそのようなお話はございませんでした。それなのに何の通知も無くこのような事をされると。聖オフェリア国の信用に関わる行動ですね」

「たかが元貴族の旅人だろう! 大人しく渡せ。それでラミレアに恩を売れるなら安いものでは無いか!」

 国に対して多少なりとも恩を売れるというのなら、確かに僕の身は安いものなのかも知れない。
 しかし、それを認めるのは流石の僕でも愚かな事だと思う。

「僕がロイです。申し訳ありませんが、道具として扱われるのはお断りします。僕は僕自身のためにも心配してくれる友人の為にも、取り引きの道具なんかにされるわけにはいきません」

「うんうん、そうだね」

 ギンさんが頷いている。

「たかが元貴族の旅人を交渉の材料にしなければ保てない諸々こそ安っぽいじゃないですか」

「ぶっ……ロイ君……たまにキツい事言うね……」
「……貴様、言わせておけば」

 名乗った通りならお姫様であるエリスさんは顔を真っ赤にして武器に手をかける。
 僕だって理不尽な事を言われれば腹も立つし最低限の意地はある。婚約破棄された復讐に城を壊せるくらいには怒る事だってあるのだ。
 でも、冷静な部分の自分は考えている。
 ここでこれ以上の意地を張れば鍛冶の国と草原の国を巻き込んでしまう。謝罪して投降する方が良いのでは無いかと。

 いよいよ高まる緊張に、僕は溜息を吐きたくなる。
 あの祖国は……どうしてこんなに……
 ギンさんが僕の肩に手を置き、耳元に顔を寄せて来る。

「心配無いよ。このお姫様は親ラミレア派の人だけど、ちゃんと反ラミレア派の人も居るんだから」
「……?」

 僕がギンさんの言葉に首を傾げるのと、屋敷のドアが勢いよく開くのは同時だった。

 屋敷から銀の鎧に身を包んだ女性騎士と、やたらフワフワしたドレスを着た少女が出てくる。
 女性騎士の迫力は凄く、仮に10回打ち込んだら500回は打ち返されそうな雰囲気を出している。

「全く、見ていて情けなくなる光景ですね……はぁ」

 僕達の横まで歩いた少女は笑顔のまま溜息をつく。なんとなく解る。この少女は怒っている。怒っていても悲しくても笑顔のままでいられる人だ。

「確かに、それがこの国のやり方なら彼の言う通り安いやり方です。たかだかイチ国民の私でも失笑と侮蔑を禁じ得ません」

 屋敷前に集まっていた兵達がザワザワし始め、馬上の少女は更に顔を赤くしている。

「ね?」

 ギンさんが言って笑顔で片目を閉じるが、状況が解らないのでなんとも答えにくい。

 女性騎士が一歩踏み出し、兵達を睨む。

「軽々な行動をした愚か者共め。敷地に踏み込んでいれば、お前達は死んでいたぞ」

 騎士の指差す方向を見ると……館の皆が屋根の上や窓から見た事のない弓を構えている。

「悪いことにもし館を制圧でも出来た場合は……国そのものに被害が出ていた。彼等は信じられないほどの技術力を持っている。それは誇張無しにこの国を焼けるほどの物だ」

 兵達が顔を見合わせて狼狽る。

「国を滅ぼすのは貴様や姉上だろう! ……今日は引いてやるが覚えておけ。私は私のやり方で国を守る。邪魔になる物は全て斬り捨ててやる」

 エリス姫が手を挙げると、兵達は慌てて引き上げて行く。
 彼女も去ろうとするが、一度振り返り僕を睨む。

「安っぽい誇りと言われようが構わない。お前と違い、私は逃げるわけにいかないからな」

 彼女がどこまで意図して言ったのかは解らないが、その言葉は僕に対して刃物のように刺さった。去っていく少女の姿が見えなくなるまで僕は視線を外すことが出来なかった。

「ふぅ。皆さん、ご迷惑をおかけしました! ごめんなさい」

 少女が館へ手を振ると、皆もそれに応えた後館へ戻っていった。

「さて、ロイ様。私の妹がご迷惑をおかけし申し訳ございません。ギンさんもごめんなさいね」
「いえいえ。お姫さんが屋敷に控えてくれていたから安心していられましたよ」
「お姫さん……お姫様? しかもエリス姫を妹と呼んだという事は、王女様の長女で」
「はい、次期女王継承権1位。長女のシャルロットです」

 なんと、お姫様の中でもお姫様な人だった。
 気安く口をきいてはいけない相手なのでは無いだろうか。

 そんなお姫様にみつめられ、僕は視線を外す。

「えーと、助かりました。ありがとうございます。……すみません、僕の顔に何かついてますか?」

「やはり覚えていらっしゃらないのね。ふぅ」

 可愛らしい仕草……いや、芝居がかった仕草で悲しそうにする。でも、目元が正直だ。
 ……でも、この楽しそうな目……見覚えが

 パチパチパチ

 突然シャルロット姫が拍手をする。

「あっ!」

「ようやく思い出して下さったのですね?」

 悪戯がうまく行った子供のような顔で言う彼女は、僕が祖国を捨てた日にただ1人拍手をしていた……あの変な子だった。
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