キヨミズくんを酔わせたい

はちみつ電車

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ミズキさんに覚えてほしい

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今日も高橋さんと電車に乗り営業先から会社に戻る。あー、ここんとこ毎日外で初対面の人と立て続けに会ってる。疲れた……。

……あ! 水城ミズキさんだ! 停車した駅から水城さんが乗ってきた。俺達は車両の端っこの優先座席の前に立っている。水城さんは先に乗車してた遠足帰りらしい小学生達に囲まれ、ドア付近で微笑ましそうに見ている。

「あ、水城だ。銀行回りかなー。総務ってもさ、小さい会社だから総務も経理もやってんだよ、うちの会社。あいつにちゃんと振込とかできてんのかねー。あいつ色々抜けてっからなあ」

と、高橋さんも気付いたみたいだ。寄って行こうとしたみたいに見えるけど、小学生達に阻まれて身動きが取れない。

「水城は俺の同期なんだけどさー、俺は同期だから分かるんだけどさー、あいつひとり暮らしできてんのは俺が色々教えてやってるからだよ。1人じゃ何もできねーような奴でさー」

俺の父親みたいなこと言うな。通りで好きになれないはずだ。

……高橋さんって、完全に水城さんのこと好きだよなあ……。小学生が好きな女子に意地悪するレベルの意地悪をいつもしている。水城さん以外にはヘコヘコペコペコしてるくせに。

こんなダセェ奴に狙われてるなんて……ムカつく。あ、ダメだ。俺今多分社会人としてあるまじき顔してたわ。高橋さんが水城さんのこと見てて良かった。

水城さん、ひとり暮らしなんだ。大丈夫なのかな。家賃払うの忘れてたり、滞納してても気付きもしなさそうだ。

会社の最寄り駅のひとつ前の駅に差し掛かる頃、水城さんを見ていた高橋さんのスマホに電話が掛かってきたみたいで、車両の端にいたけど更に端に寄って小声で対応しだした。

高橋さんの代わりにじゃないけど、何となく水城さんに目をやると、停車してドアが開いた途端に小学生達のリュックに押されて水城さんまで流されて電車からホームに出て行ってしまった所だった。

……え?!

すっかり空いたドア付近に駆け寄って、ドアが閉められないように半身をホームに出した。手を伸ばして

「水城さん!」

と呼んだら、水城さんは気付いて俺の手を取ってくれた。

握られた水城さんの手を引っ張って車内に戻す。直後、ピーッと鳴りながらドアが閉まった。……すごくドキドキした。なんだかすごくドラマティックに感じた。ただ、小学生に流された会社の先輩を電車内に戻しただけなんだけど。

はー、と息をついた水城さんが

「ありがとうございます、シミズくん」

と言った。

……読み方は間違ってるけど、俺の顔が清水って漢字の名前なことは覚えてくれてたんだ……入社した日以来、廊下で顔を合わせたらお疲れ様ですって言うだけだったのに。名前なんてアピールする機会もなかったのに……。

それだけでも、すごく嬉しかった。

俺の名前がシミズでなく、キヨミズだって直接伝えられたのは入社して3年以上も経ってからだった。もうシミズでもいいやって思ってたから。俺の名前がキヨミズだろうがシミズだろうが清水だってことは覚えてくれていたから。それがすごく嬉しかったから。
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