キヨミズくんを酔わせたい

はちみつ電車

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ふたり

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「髪、こっちの方が似合ってるよ。かわいいじゃん。俺、好きだわー」

さすが、女の子たちを束ねる仕事をしてるだけあって褒め慣れてるわね。中條さんは話がうまくて、20分くらい歩いているけど気まずくならなくてありがたい。

「ここ、ここー」

体が大きくて派手な中條さんのイメージとは違って、本当に素朴で小さなお店だ。大きく「創作居酒屋ひろし」と書かれた木の看板が掲げられている。

「創作居酒屋……」

って何かしら。何を作っているのかしら。私達が何かを作るのかしら。

中條さんが引き戸を開けて中に入ると、

「いらっしゃいませー」

と威勢のいい声がする。

「どうぞ、シュウちゃん」

「あ、はい」

私も店に入ると、中條さんが引き戸を閉める。さすがのジェントルマンっぷりだわ。

店内も素朴で質素で狭い。お座敷に長いテーブルが3つとカウンター席しかない。

「俺ビール! シュウちゃんは?」

「えーと……カルピスチューハイ」

結構アルコールの種類も多いけど、カルーアミルクはないのね。あっても、飲む気持ちにはなれないけど。

「何か食べたい系統ある?」

「特に……おなかすいてるし、何でもいいです」

ジェントルマンがオススメ料理を注文する。よく来るみたいで、他のお客さんとも中條さんは楽しそうに話をしている。

「准くんは本当に2回と同じ女の子連れて来ないねえ」

カウンターから店主らしきメガネをかけた優しそうな笑顔の男性が声をかけてくる。

「いやーいつもは仕事関係ばっかりっすからー。今日はプライベートっすよ」

「え? 今日休みなの?」

「息抜きも必要でしょー」

「准くん、店行っても仕事してんの見たことねえよー。フロント立ってんのほとんど健ちゃんじゃねーか」

すぐ横のテーブルに座るおじさんが中條さんの背中を叩く。

「いつもごひいきにありがとうございますー、田島さん。俺がいる時だったらサービスするからさー」

「准くんじゃなくて女の子にサービスしてもらいてーわ」

あははは、と笑っている。あのお店はこういうおじさん達で成り立っているのね。料金が高いから、若いお客さんはあまり来ない。

「お待たせしましたー、サラダとお刺身盛り合わせでーす」

エプロンを付けたバイトさんっぽい男の子が元気良くお皿をテーブルに置く。どの辺が創作なのかしら? 見た目には普通のサラダとお刺身だわ。

食べてみると、これまでに経験のない味だわ。ドレッシングが創作されたものなのかしら。おいしい。これ何が入ってるのかしら。

お刺身は普通にお刺身だろうと思ったら、何かが違う。この違いは何だろう。お醤油も普通のお醤油とは違うような気がする。

「どう? シュウちゃん」

「すっごくおいしい! このお刺身すごく不思議」

「店長、ああ見えてすっげーこだわり強いの。見た目の割にオリジナリティに溢れてるでしょ」

「すごいわ、店長」

思わず店長を見ると、パクパクと口に運ぶ私を見て嬉しそうに微笑んだ。あんなに穏やかそうな人がこんな刺激的な味を創り出すだなんて、すごいわ。
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