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大天使カイル
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「ぼくはずっと日本に憧れていました。『赤いヤクザと白いツキ』という映画が大好きです。知ってる人はいますか?」
流暢な日本語で笑顔のカイルが手を上げ、みんなの反応を伺う。
実は、俺は知っている。
颯太が大好きな映画だ。任侠映画なら何でも見る颯太だが、特別に信仰しているのが赤白だ。
颯太の姿が見えない。
大方、キャラが被るカイルのそばにいるのは旨味ナシと判断して離れているのだろう。
「残念です……日本に来たらヤクツキを語り合える同士と出会えると思っていました……」
カイルの長い金色のまつ毛が涙ににじむ。
日本人ではまずない白い肌、初めて見る天然ものの金髪、アニメキャラみたいな青い瞳。嫌みのない高い鼻にいつまでも見ていられる艶やかな唇。
カイルの前では思考停止してしまう。
何という神々しい美しさ。
誰も口を開くこともできず、ただただカイルの美貌に見とれている。
ただひとり、ズイと前に出た無神経男を除いて。
「カイルくん、困ったことがあったら何でも言ってくれて構わない。僕はこの2年1組の学級委員長、柳龍二です」
「ありがとう、リュージ」
「本当に日本語が上手だね。独学と聞いたけど、イントネーションといい完璧だよ」
「嬉しいな。大好きな映画の世界観を知りたくて、日本については相当勉強したんだ。ネットで日本人を探して繋がれた人に教えてもらったりもしたから、日本語学校に通ってないってだけで独学とは言えないかもしれない」
そんな努力のきっかけが任侠映画だとは。
めちゃくちゃ颯太とカイル話合いそうじゃん。颯太どこ行ったんだろ。
「君、本当にかわいいね。気に入った」
「ありがとう。君はすごく美しい。日本人の黒髪は地球の宝だ」
「私も! 私も一度も染めたことないの! 見て見て、カイルくん!」
「俺も!」
一条をきっかけに、黒髪自慢たちがカイルに詰め寄る。
急にワッと距離を詰められて、カイルが一条の影に隠れるように後ずさった。
「こら、君たちやめろ! カイルが怖がってる!」
一条がギュッとカイルを抱きしめた。その時。
「もー、深月! 柳! 掃除当番!」
明翔の声に振り返ると、明翔と颯太が教室に入って来る。
お、やべえ。カイルやられる。
明翔は笑ってるけど、颯太は完全に一条の腕の中にいるカイルをロックオンしている。
「悪ぃ! 忘れてた! 行くぞ、柳!」
柳に声をかけ、颯太の腕を握って教室を出る。
たぶん、颯太まだカイルを見てるな、これ。
「いやあ、カイルくんは本当に美しいね。彫刻のよう。絵画から飛び出してきた大天使」
「口より手を動かせ! 柳!」
颯太が毛の逆立ったネコみたいになってんだよ! 引っかかれても知らねえかんな!
特別教室が並ぶ新館4階の廊下掃除である。
颯太はトイレにあるはずのデッキブラシで窓をこすっているくらいには心ここにあらず。
「俺もカイルくんとお話したかったなあー」
「もー、明翔まで……」
「美しいカイルくんを四六時中そばに置いてずっと眺めていたい」
「柳!」
美術室から黒岩くんが出てきた。たしか、黒岩くんは美術部だった気がしてくる。
「柳くん……やっぱり、柳くんにはカイルくんくらい美しい人がお似合いだよね。へへっ」
「誤解だ! 黒岩くん! 僕はマスコットとして見ていたいってだけで」
「柳! 掃除しねえか! 当番だろーが!」
颯太が小柄な体に似合わぬドスの利いた怒声を浴びせる。
タタッと駆けて行った黒岩くんを追おうとした柳が足を止めた。
「黒岩くん……」
「まあまあ、後から誤解だって説明すりゃいいじゃん」
「彼は呂久村くんのように単純で単細胞にできていないんだよ。繊細なんだ」
「慰めてやったのにその言い草何なん」
せっかく颯太の苛立ちを加速させないために言ってやったのに。
「彼は、見目麗しい僕との外見の違い、優秀な僕との能力の違い、利発な僕との性格の違いなどでひとりで勝手に落ち込んでしまうことが多々ある」
「お前、自分のこと大好きすぎねえ?」
「彼は背が低いのを気にしているけど、この長身の僕が取りたい物は何でも取ってあげるし、彼が非力でも僕が荷物を持ってあげるし、彼が無知でも僕が何でも教えてあげるのに」
「こんな上から目線の王子やだわ」
掃除に戻ろう。
柳もしょんぼりとほうきを動かす。
「僕は黒岩くんにもっとワガママ言ったり、罵声を浴びせて欲しいんだ」
「言葉責めってやつ?」
「そう、それ」
いやいや、明翔。お前はそんな単語が出てくるような子じゃないだろう。
「柳って人を見下してる感あるから責められるの嫌いかと思ってた」
「僕は人に責められるような人間ではない。責める側だ」
「矛盾してんじゃん」
「黒岩くんは特別なんだ。黒岩くんのように自分の殻に閉じこもって人に気を使ってばかりの小心者から僕だけを責めてほしい」
「柳という人間性が矛盾してんだね」
ついてけない。
何なんだ、この二人の会話は。
ふと見ると、さっきまでかわいいフリを忘れていた颯太がかわいくしゃがみ込んで床を見つめている。
流暢な日本語で笑顔のカイルが手を上げ、みんなの反応を伺う。
実は、俺は知っている。
颯太が大好きな映画だ。任侠映画なら何でも見る颯太だが、特別に信仰しているのが赤白だ。
颯太の姿が見えない。
大方、キャラが被るカイルのそばにいるのは旨味ナシと判断して離れているのだろう。
「残念です……日本に来たらヤクツキを語り合える同士と出会えると思っていました……」
カイルの長い金色のまつ毛が涙ににじむ。
日本人ではまずない白い肌、初めて見る天然ものの金髪、アニメキャラみたいな青い瞳。嫌みのない高い鼻にいつまでも見ていられる艶やかな唇。
カイルの前では思考停止してしまう。
何という神々しい美しさ。
誰も口を開くこともできず、ただただカイルの美貌に見とれている。
ただひとり、ズイと前に出た無神経男を除いて。
「カイルくん、困ったことがあったら何でも言ってくれて構わない。僕はこの2年1組の学級委員長、柳龍二です」
「ありがとう、リュージ」
「本当に日本語が上手だね。独学と聞いたけど、イントネーションといい完璧だよ」
「嬉しいな。大好きな映画の世界観を知りたくて、日本については相当勉強したんだ。ネットで日本人を探して繋がれた人に教えてもらったりもしたから、日本語学校に通ってないってだけで独学とは言えないかもしれない」
そんな努力のきっかけが任侠映画だとは。
めちゃくちゃ颯太とカイル話合いそうじゃん。颯太どこ行ったんだろ。
「君、本当にかわいいね。気に入った」
「ありがとう。君はすごく美しい。日本人の黒髪は地球の宝だ」
「私も! 私も一度も染めたことないの! 見て見て、カイルくん!」
「俺も!」
一条をきっかけに、黒髪自慢たちがカイルに詰め寄る。
急にワッと距離を詰められて、カイルが一条の影に隠れるように後ずさった。
「こら、君たちやめろ! カイルが怖がってる!」
一条がギュッとカイルを抱きしめた。その時。
「もー、深月! 柳! 掃除当番!」
明翔の声に振り返ると、明翔と颯太が教室に入って来る。
お、やべえ。カイルやられる。
明翔は笑ってるけど、颯太は完全に一条の腕の中にいるカイルをロックオンしている。
「悪ぃ! 忘れてた! 行くぞ、柳!」
柳に声をかけ、颯太の腕を握って教室を出る。
たぶん、颯太まだカイルを見てるな、これ。
「いやあ、カイルくんは本当に美しいね。彫刻のよう。絵画から飛び出してきた大天使」
「口より手を動かせ! 柳!」
颯太が毛の逆立ったネコみたいになってんだよ! 引っかかれても知らねえかんな!
特別教室が並ぶ新館4階の廊下掃除である。
颯太はトイレにあるはずのデッキブラシで窓をこすっているくらいには心ここにあらず。
「俺もカイルくんとお話したかったなあー」
「もー、明翔まで……」
「美しいカイルくんを四六時中そばに置いてずっと眺めていたい」
「柳!」
美術室から黒岩くんが出てきた。たしか、黒岩くんは美術部だった気がしてくる。
「柳くん……やっぱり、柳くんにはカイルくんくらい美しい人がお似合いだよね。へへっ」
「誤解だ! 黒岩くん! 僕はマスコットとして見ていたいってだけで」
「柳! 掃除しねえか! 当番だろーが!」
颯太が小柄な体に似合わぬドスの利いた怒声を浴びせる。
タタッと駆けて行った黒岩くんを追おうとした柳が足を止めた。
「黒岩くん……」
「まあまあ、後から誤解だって説明すりゃいいじゃん」
「彼は呂久村くんのように単純で単細胞にできていないんだよ。繊細なんだ」
「慰めてやったのにその言い草何なん」
せっかく颯太の苛立ちを加速させないために言ってやったのに。
「彼は、見目麗しい僕との外見の違い、優秀な僕との能力の違い、利発な僕との性格の違いなどでひとりで勝手に落ち込んでしまうことが多々ある」
「お前、自分のこと大好きすぎねえ?」
「彼は背が低いのを気にしているけど、この長身の僕が取りたい物は何でも取ってあげるし、彼が非力でも僕が荷物を持ってあげるし、彼が無知でも僕が何でも教えてあげるのに」
「こんな上から目線の王子やだわ」
掃除に戻ろう。
柳もしょんぼりとほうきを動かす。
「僕は黒岩くんにもっとワガママ言ったり、罵声を浴びせて欲しいんだ」
「言葉責めってやつ?」
「そう、それ」
いやいや、明翔。お前はそんな単語が出てくるような子じゃないだろう。
「柳って人を見下してる感あるから責められるの嫌いかと思ってた」
「僕は人に責められるような人間ではない。責める側だ」
「矛盾してんじゃん」
「黒岩くんは特別なんだ。黒岩くんのように自分の殻に閉じこもって人に気を使ってばかりの小心者から僕だけを責めてほしい」
「柳という人間性が矛盾してんだね」
ついてけない。
何なんだ、この二人の会話は。
ふと見ると、さっきまでかわいいフリを忘れていた颯太がかわいくしゃがみ込んで床を見つめている。
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