親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

はちみつ電車

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佐藤颯太VSカイル

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佐藤颯太がかわいらしくしゃがみこみ、床に指を這わせている。
よく見ると、カイルカイルカイルと書き続けとる。怖いわ、お前。

へこんでる?
キレまくってる?
どっち?

「……そ……颯太?」

放置して余計にキレられても手に負えない。恐る恐る颯太の肩にポンと触れると、バッと涙目の顔を上げた。

「一条、俺よりカイルがかわいいのかなあ」
「颯太……」

え、マジ?
嘘だろ、颯太が泣きそう……。

颯太は誰よりも強くて、前向きで、どんなピンチだって機転を利かせて乗り越えてきた。今かわいいに全振りしてるのだって、颯太の知恵だ。

「んなことない! 今日来たばっかりの外人なんかに負けるな、颯太! お前が負ける姿なんか見たくねえんだよ!」
「勝てる気がしねえ……大天使だぞ。ああ、それだ! と思っちゃったんだよ、俺も」
「そうだけど、カイルは間違いなく天使超えてかわいいけど、でも、それでも俺はお前に勝ってほしい。いや、勝ってくれ!」
「深月ぃ……」

颯太の震える肩から伸びる手を握る。
颯太、お前ならやれる。負けるな、颯太!

「……行ってくる……カイル、殺ってやる」
「俺はお前を信じて待ってるぞ、颯太」
「ああ。俺に任せて深月はここで待ってろ」

ゆったりと颯太が廊下を曲がって行った。
やべ、俺も泣きそう。お前なら勝って帰ってくるよな、颯太……。

「呂久村くん、殺るってどういう意味だい? まるでケンカでも始めそうな雰囲気だったけど」
「なんで颯太がカイルとケンカすんの?」
「へ?」

あ。
あれ? いつの間にかカイル殺るって話になっちゃったけど、元は全然違う話じゃん。

一条はカイルがかわいいか颯太がかわいいか。

あ……あれ? やばくね?
このままだと颯太、留学生を初日にボコっちゃったヤバいヤツにならない?

「まずい! 颯太を止めないと!」

俺は慌てて廊下を走りだした。

教室には誰もいない。
まずい。もうカイル下校しちゃった?
焦って校門を駆け抜ける。

「どうしよう! 留学生ボコんのって停学で済む? 国際問題に発展する?!」
「とりあえず、今後交換留学制度はなくなるだろうね。向こう方からしたら理不尽極まりない」
「だよな!」

ヤバすぎる~。
この聖天坂しょうてんざか高校は公立校ながら留学制度があるってのが学校説明会でも延々映像流されたくらい目玉企画。
それを個人的な逆恨みで破談にしたんじゃ、賠償責任とか言われるかもしれない!

「裁判回避!」
「深月! こっちから颯太の匂いがする!」

警察犬か!
ネコっぽい気まぐれさんな明翔の野生の勘を信じて角を曲がる。

大きめな公園があり、突っ切って行くとまさかの颯太とカイルが今まさに対峙していた。

うわ!
始まってる!

まるで、黒髪の侍と金髪の侍だ。
己の命を懸けた、魂の交換。

二人とも小柄なのに、背後に虎と龍がにらみ合っているのが見える。

「すごい迫力……」
「これは……」

何だよ。
学級委員長サマすら言葉を失う緊迫した空気に包まれている。

「カイル……よくもうちのシマを荒らしてくれたな。どう落とし前つける気だあ」
「ソータ……ひとりでカチコミたあ、イモ引いてんじゃねえのか」
「いつひとりだって言った! 皆の衆、であえであえー!」
「カタにはめやがったか! このスミ目に焼き付けやがれえ!」
「そのスミ……おっ……お前は……」
「ふっ……覚えてたのか」
「まさか……お前が……」
「ああ……俺が、ソータの……」
「兄貴ぃ――!!」
「ソータ――!!」

「ええ?!」

明翔と柳が驚愕しているが、んなわけねーだろ。
俺は最初の颯太のセリフで、あ、これセリフだ、と気付いた。

颯太が小学生の頃、よく赤白ごっこさせられてたなあ、と懐かしく見ていたのである。

「すごい! セリフの間まで完璧じゃねえか、カイル!」
「ソータこそ、立ち回りの動きが完全再現だ! ヤクツキの中に入ったみたいだ!」
「ヤクツキだあ? 赤いヤクザと白いツキは赤白って略すんだよ」
「あんだと、こら? ヤクツキの方が分かりやすいだろーが」

額をくっつけ、にらみ合う両者。
うん、とりあえず任侠の世界から現実に帰ってこようか。

「颯太、颯太。明翔と柳がいる。ここ公園。学校の近所の公園」

ガンを飛ばしていた颯太がハッと明翔たちを見る。
一瞬でかわいく笑うと、てへっと頭をコツンとした。

「カイルが大好きな映画だって言うから、名場面を再現していたんだよっ。今見たことは誰にも言わないでねっ?」
「かわいい……」

カイルも空気を読んだのか、颯太と並んでコツンを披露している。
何この二人、バカかわいい。

颯太のぶりっ子は見慣れている俺だが、ダブルぶりっ子には敵わず、絶対にこのことは口外しない、と固く胸に誓った。
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