攫われた先は妖狐の世界、そして私は『姫』らしい。

蒼真 空澄(ソウマ アスミ)

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第二章:姫として愛してる訳ではない。

守る為にも追罰は惨刑。

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この家に来てから、まだ少ししか経っては居ないけれど。
私は『初めて』、起きた時に1人だった。

あっ、銀が居ない。

それに気付き、少し不安にもなった時。
無意識にも『銀の御守り』のネックレスに触れた。

その御守りを握って…
そして目を閉じて、『銀を』思い出す。

あの、銀が、『断言』してた。
そして、『御守りを持つ事』も、言っていた。

それらの全ての行動を思い出すようにしてから、私は目を開ける。

銀が居ない…
お仕事かな?
でも…
私が出来る事はないし、忙しいかもしれない。

銀のくれた御守り、ネックレスの『銀色の不思議な水晶』を見る。
それを眺めてから、私は思う。

うん。
私は銀に、『大丈夫』って言ったもん。
銀の事は『信じてる』し、それにあの銀が、『断言した』んだもん。
『絶対に大丈夫だ』と、あの銀が言った。
なら、信じるのが、今の私に『出来る事』だもん。

そう自分自身に、思い出しながら、言い聞かす。

そして私は簡単な部屋着に着替えた。

でも、どうしようかな…
好きに散策をしても良いと言ってたけれど…

でも、今は『不安』よりも、少し『寂しい』気分にもなる。

屋上に、行こう。

私が最初の1人の時に選んだのは…
散策ではなく、『屋上』だった。

**************************

若干、時は遡り。
一方、銀楊ぎんよう

銀楊ぎんようの周りも含め、側近は当たり前だが。
他の様々な運営関係者も多い中で、ただ時間を待ってた。

そこは妖狐最大の街。
銀楊ぎんようの家からは、離れた場所に居た。

だが、銀楊ぎんようにとって。
その程度の距離などは、さほど気にしていなかった。
それに気持ちも今も顔には出さないが。
『整理している』ぐらいでもある。

銀楊ぎんようは思考する。

光希みつきを既に『あの家へと移動』も済ませている。
この距離でも、『異変』には気付ける。
また、そんな兆候もない。

銀楊ぎんようは、既に側近に『指令済み』でもあった。
『予定計画5』と伝達を。

けれど、これからしようとする事に関して。
極一部の側近しか、具体的な事は知らせてはいない。

ゆえに判ってもいない場である。

先に指令にていた通り。
銀楊ぎんようも、この場所に来ていた事でもある。

『予定計画5』の内容は下記になる。

【予定計画・5】
1.捕縛した者を、この街の中にある最大の広場にて、生きたまま拘束し続ける事。
2.指定日時に関係各部署の議員関係者、全員の召集。
3.他の民衆の方へ、指定日時までに、この街に約1日以内で到着可能な者を全て召集。

それらが側近により実行されており、関係各部署全て。
そして更に、また凄い数の民衆も集まっていた。

側近達は迅速に『それを行動していた』が…
他の関係部署の者も、民衆も。
単純に、当主からの『珍しい伝令』なだけで集まっただけだった。
ただ、当主の指示通りにと、それでも来ただけ。

そこには凄い民衆も集まり、数えられない。

何万単位がおり、議員関係者も含めて集まっていたが。
これから『何がある』のか判らなかった。

それでも皆が思うのもある。
『あの現当主が今まで無意味な事』は、した事がない。

また、こんな『指令の伝達は』された事もなかった。
不思議に感じながら、どうしても騒めきにはなる。

現当主の指示ならば、動かねばならないからこそ。
来ただけでもあるが…
その『内容を聞かされていない』のだ。
だからこそ、指示通りには来ているが…
皆には、『疑問だけ』で、判らないのもある。

そして、予定時刻になった。

銀楊ぎんようは、それを確認し、動き出す。
側近に軽く合図をする。

銀楊ぎんようは思う。

さて、時間だ。
これで更に手も出せなくなるだろう。

だが、それよりも…

銀楊ぎんようは『感情を抑えながらも』立った。
そのまま高い舞台のようになっている場所へ向かう。

それと『同時に』側近達も動く。

拘束されたままになっている2人を。
銀楊ぎんようの前にと連れて行き…
そして、素速く離れた。

そう、それは…
あの部屋の『結界破壊』をした者達だった。

両手両足に拘束された2人。

銀楊ぎんようは抑えながら、ただ見るだけでもある。

わざわざ2人で分担作業までして、あの程度の小細工をか。
つくづく思うだけだな、こんな『愚か者達』が…

そんな異質の場に居合わせている皆が。
何事だと思い、騒めきも大きくなっていた。

そして銀楊ぎんようは、妖気を溢れ出した。
その『妖気』は、どんどん強くなっていく。

誰もが判らない中で、それでも声は届いた。
それは当主の凄まじい妖気の為に、騒めきが止まり。
鎮まった中だからこそだった。

「貴様らのした事に、『自覚はある』だろう。」

「…」

答えないのか、答えられないのか、判らないが…

まぁ、良いだろう。
『する事』は、変わらない。

そんな2人に淡々と言う。

一気に『怒りの妖気』を更にと溢れ出した。
その『妖気の強さ』で、周囲は騒げるだけでなく、動けなくもなる。

そして皆にも聞こえた。
さっきのよりも、声が大きかったのもあるだろうが、ハッキリと。

「私は言った筈だ。
『姫』に手を出すなと!!」

その声が大きく響くと同時。
更に『妖気が大きく』溢れ出した。

周囲の皆も、当主の…
今までとは明らかに違う『怒りの妖気』に気付く。

そう、当主は確かに怒るよりもだ。
どちらかと言えば、端的に、言葉も少ないが。
『行動で示す傾向』がある。

例え、今までも厳しい部分があってもだ。
失敗した者を単純に『処分する』だけ。

にも関わらず、その当主が明らかに…

普段よりも『完全に怒り』を示していた。

そして、その怒りの含まれる妖気に、誰もが声も出ず。
更に『直接』向けられた。
拘束された2人は、既に『威圧まで』受けてた。
息すら出来なくなっている状況だ。

それでも、淡々とした言葉でだった。
皆には『全て』聞こえている状態になってしまう。

銀楊ぎんようは、周りなど見ていない。
ただ『2人を』見て、言う。

「貴様らは『私の忠告を』破り。
更には私の結界を、『僅かに壊した』だけ。
そして、更に『逃げた』な?」

向けられている2人は、息は出来ず。
既に苦しく、俯く程度しか出来ない状態でしかない。

そんな中でも更に妖気を出して銀楊ぎんようは続けた。

「私が出した『警告を破り』ながらもだ。
『姫』に対して、手を出そうとした。
結局それすらも、私の『結界の僅か』にしかだが…
その僅かにしか破壊出来ぬ程度の、『小賢しい手を使って』までだ。
そこまでして、更に『姫』を誘導し、『狙った』な?」

拘束されていた2人が、そのまま『窒息死』するかと思う瞬間。
銀楊ぎんようは、『意図』して、妖気を下げた。

その為、既に2人は呼吸が荒く、まだ『生きている状態』だった。

周囲も、それは気付いた。
当主の怒りが、拘束された2人に向けられている『理由は完全に』判った。

でも、なぜ、妖気を下げたのには判らない。
既に見てる以外、動ける者も、その場に居なかった。

「貴様らは今、私がしている『意味』が判らないだろうな。
私は貴様らを『許す気はない』からだ。
だから敢えて、『生かした』のもある。
この後、どうなるか、貴様らには想像出来るか?」

2人は荒く呼吸をしながらも、声も出せず、『恐怖に顔を』歪めた。

銀楊ぎんようは口元だけが笑う。

心の中で、『あの時の光希みつき』を思い出す。

力もなく、ただ無垢な程に綺麗な心へ、『一方的に』傷を付けた。

その結果、常に来るかもしれない『恐怖を』知り。
対処するすべすら知らず、更に光希みつきは恐れた。
その『恐怖に耐え』ながら、『息も出せなくなる』程に…
あんなにも震え、気を失った『光希みつきの姿』を。

全て、一方的に『貴様らが勝手にした』だけの事。

光希みつきは『何もしていない』、そしてするつもりさえない。
光希みつきは『何も悪くもない』にも関わらず、あれだけ苦しめた。

それなのに『一方的に恐怖を与えて』おきながら…
どうなったかも知らずに、そんな中で『更に逃げた』だと!?

銀楊ぎんようは思い出す事と同時に完全に怒りが湧く。
それは妖気を抑えていてもだった。

「そんな事を許せるものかっ!!」

誰もが聞いた事がない。
当主の『完全な怒り』と、その怒鳴るような大きな声に…
周囲まで巻き込んだ。

凄まじい『怒りの妖気』が、抑えていても溢れ出ていた。

既に2人は、恐怖を通り超えて、失心しそうである。
銀楊ぎんようは、『それに』、すぐ気付いた。

『気絶』など、させるものか。

銀楊ぎんようは術式で空気を圧縮し。
2人の男を下から攻撃して、一気に上空へと飛ばした。

その『攻撃』によって、身体を強烈な打撃を受ける。
2人は軽々と、上に飛ばされただけだった。

その『痛み』と、そのまま『落下した衝撃の痛み』を受ける。

意識だけある為に、2人はその痛みだけでも呻いた。
そんな2人を、冷たい目で見下しながらも…
銀楊ぎんようは、ただ言うだけでもあった。

「あぁ、私は『貴様ら』を許せない。
私の中に『3度目』など、存在しない。
だが、貴様らは『初めて』だな?
私の3度目は…
『だからこそ、生かして』捕らえた。
私から逃げられるとでも、思ったか?」

銀楊ぎんようは風の術式を使い、2人の『両腕』を簡単に切り落とした。
一気に血が吹き出す。

悲鳴よりも暴れるが…
どんなに悶えるも、既に足は拘束されてあるまま。
逃げられる訳でもない。

そんな2人は、暴れながらも血だけが吹き出し、周り一帯が血で染まる。

けれど銀楊ぎんようはまた淡々と言った。

「邪魔な血だな?
消してやろう。」

水の術式を応用し、『血の部分だけ』を一瞬で消滅させた。

既に見ている者は震え出していた。

これは『拷問』と同じで…
もう恐怖だけである。

だが、誰も『動く事も』出来ない…
銀楊ぎんようの妖気の強さ』で、完全に動けないのだ。

「貴様らの前に、『2度目の愚か者』ならば…
瞬時に『痛みもなく』だ、塵になったな。
だが、貴様らは『3度目』だ。
塵になった方が、楽だったかもしれないぞ?
『ここまで』しなければ、『私が自らする』つもりもなかった…
黙っていれば、それで良いだけだ。
そんな事も判らない『愚か者』は塵になったが。
貴様らは、どうだ?」

銀楊ぎんようは、言い終わると同時にだった。

火炎の術式応用で、『2人の足だけ』を燃やす。
2人がどんなに暴れても、足だけが燃え続ける。

「暴れる姿は、余計に苛立つな。
止まれ。」

水の術式応用をまた使い、上から水をぶつけた。
既に瀕死だが、まだ2人は生きていた。

「あぁ、『今ので死ねていれば』良かったな?
だが、貴様らはまだ、生きている。
何か話せるなら『最後の言葉』として、聞いてやろうか?」

1人だけが呻きながら、言う。

「ど、ぁ、ゆる…」

銀楊ぎんようはすぐに察して怒りがまた湧く。
その瞬間にすぐに風の応用術式を使った。

言ってきた『1人』の空気をまた圧縮した。
息も出来なくした。

「おい、貴様。
私は言った筈だ。
貴様らは『許せない』と。
また…
『2度目』だな?
次の言葉など、貴様にはない。」

そのまま死ぬギリギリ、その前にと。
更に一気に空気を圧縮し、頭だけを潰した。

そして身体に関しては一瞬で火炎術式を使って灰にする。
風に乗って、消えた…

また銀楊ぎんようは冷たい目で見る。

後、1人。
何も言わないな。
だが、まだ『生きて』はいる…

「最後にもう1度、言うぞ?
私に『3度目』はない。
貴様らのした事は、そういう事だ。
下らない事を『3度』もだ。
愚かよりも、もう哀れだな?
そこまで弱く、頭も悪い。
そんな『妖狐は恥』にしかならん。」

残りの1人を、また空気を圧縮しながら…
それから『下から強烈な攻撃』を出し、一気に高く空へと飛ばした。

「そんな恥になるならば、私はそれを『消すだけ』だ。
『最後』はそのまま、散れ!!」

複数の高位術式応用を『同時』に使って、一気に『電撃』を生み出す。

残りの1人はそれを浴び、また灰になった。
そして同じ、風に乗って、2人目も消えた…

そこまでの間、『全てを見ていた者』は…
完全に恐怖で、声も出せずに震え、動けなかった。

ただ、その『圧倒的なまでの力』を、見せられただけだった。
あんなにも『高位術すら簡単に多様する事』の出来る者など、居ない。
その上でも、当主は『本気』でもないのだ。

ただ苦痛を与え、殺しただけの事だったからだ。

銀楊ぎんようは、まだ怒りも残るが…
出している妖気を抑えていく。

そして、ただ見ているしか出来ない者達が。
皆が『動けないだけ』で、何も言わない。
その為に、騒めきもない。

銀楊ぎんようは、それも判っていた。
それを見ていた『全ての民衆』にも淡々と言った。

「今後、『妖狐の恥になる者』は、出てくるな。
私が『面倒になるだけ』だ。
この場でした『意味すら』理解出来ずに…
また『姫』に近付けば、『3度目』だぞ?
私は今よりも、加減が難しくもなるだろう。
もし、この場に居ない者と会うならば。
今から言う『私の言葉を』伝えろ。
『私に3度目はさせるな』と。
愚かな者は、一族の恥でしかない。」

そこで一旦止めてから、動けない者達の方へ向けて…
銀楊ぎんようは、付け足した。

「私が『消す』のは今後、ないように願いたい。」

言い終えた銀楊ぎんようは、そのまま、側近に合図した。
側近達と一緒に転移装置に入り、屋敷にと戻る。

残された者達は、そこでようやく動けるようになるのだが。
あまりの事に、まだ皆が何も言えず。
だが思わずにいられないのだった。

現当主の強さ…
これが『歴代でも最強の妖狐』と言われる所以。
そして、あれは『完全な怒り』に等しく…
『姫』に手を出せば、あれと同じか。
それ以上だと…

銀楊ぎんようが屋敷の中に入ると、また側近が近付き言う。

「何事もなく。」

その短い言葉で『理解』する。

「判った。
後始末だけ、『確認』しておけ。」

一緒に転移し、戻った側近へと言った。
他の屋敷で待機していた側近には『違う指示』を。

「後は連絡しろ。
こちらは戻る。
しばらく、『待機』だ。」

銀楊ぎんようの言う『待機』だが。
これは継続の『交代制』になっており、『休めを意味』していた。

「後、これが。」

銀楊ぎんようは、側近から差し出された紙を受け取り、簡単に覚える。

「派閥の上にも、今日の件は『伝達だけ』で良い。」

すぐに了解したように皆が迅速に動く。

銀楊ぎんようの側近を含め、様々に構成された『専属の組織』がある。

それはどんな血筋かも全く関係ない。
銀楊ぎんようが認める『条件を合格した有能である者』だけ。
更に『銀楊ぎんようへの忠誠が必須』である。
それらの組織は『特務』とも呼ばれていた。
完全に銀楊ぎんようから『統制』がされた組織だった。

これは銀楊ぎんようが自ら選び、許可する過程でもある。

選ばれなかった者は組織内では通常と変わらないが。
この『特務組織内の仕事』は、どこの派閥よりも『統率も』されている。

誰もが恐れる現当主。
けれど銀楊ぎんようは、優秀な者、有能な働きをした際には必ず。
それに『相応しい対価』も出す。

組織の中において、確かに銀楊ぎんようは当主であるのは当たり前だが。
その『特務に選ばれる』のは、一族でも限られる為、『栄誉』でもあるのだ。

その組織体制は、銀楊ぎんようが自ら作ったものだった。

確実に動ける手足として…
『長く座に居る事が出来る妖狐』でなければ不可能な事。

側近達も含め、誰も居なくなると、銀楊ぎんようは少し息を吐いた。

これで、しばらくは『光希みつきには』誰も近付かないだろう。
怒りもあったが…
あれは『意外と手加減の方』が、難しいものだな。
だが、充分に味わって死んだだろうから、まだ良いが…
つくづく、本当に『今の妖狐は恥』かもしれないと。
思わずにはいられなかった。

もう、光希みつきは起きている可能性が高い。
大丈夫だとは思うが…

銀楊ぎんようはそのまま。
光希みつきの家』にと、向かうのであった。

**************************

一方、その頃。
光希みつきの方は何も知らず…
初めて来た時のように、屋上へ向かっていた。

確か、道順はあってる筈だけど…
銀のくれた『御守り』を。
首にある『ネックレスの水晶』を握って、ゆっくり移動していた。

誰も、本当に居ないし、広いなぁ。

あ、ここだったよね。
ドアに触れようとして、少し不安は湧く。

ギュッと、ネックレスの水晶を握りしめる。

大丈夫だもん。
銀が言ったんだから。
何も、心配ない。

そう思い、ドアへ手を出し、開けた。

太陽の光が目に入った。

あぁ、今は夕方かな。
この太陽の光は…

屋上まで、きた!!
やったぁ!!

心の中で喜ぶ。

空がまた初めて来た時と違う。
色の付いた硝子がまた変わっている。
やっぱり、綺麗だなぁと眺める。

小さな池まである。

パチャパチャと池の水に触れる。

ん?
あ、また光る石を見つけた。

それを持って、白い椅子やテーブルのところまで。
移動すると、キラキラした石を見る。

なんだろう。
1人だけど、1人じゃないような気がする。

御守りのおかげかなぁ。
また水晶を、みる。

やっぱり、何となく『銀に似てる』んだよね。
不思議だけど。

そして天井の色が変わっていくのを眺めてた。

風はないけど、不思議だなぁ。
気温も丁度良いし、何だかホッとする。

さっき見つけた光る石を眺めて、光に翳す。
また角度を変えて光った。

さっきの池かぁ。
流石に金魚なんているんだろうか?
それぐらいなら入りそう。

少し考える。
池をまた見に行き、調べる。
小池サイズだけど、深さは浅い。
うん、駄目かな。

だって…
可哀想だもん。
こんなとこに閉じ込めたら、『可哀想』だ。

やっぱり、普通にいる子達は…
そこが『好きだから居る』のだろうし…
好きなところに居られるなら。
きっと皆、幸せだよね。

そう思いながら、池をずっと眺めてた。
そんな事に考えていた時だった。

「池をずっと眺めて、どうしたんだ?」

声が聞こえて、振り向いた。
銀は帰ってきたみたいだった。

「あ、おかえりなさい。銀!!」

笑いながら、普通に言った。

そして自然な足取りで、私は銀の側へと普通に向かった。

**************************

若干、遡る。

家の中に転移術で戻った銀楊ぎんよう
メインの部屋に、光希みつきが居ないのを簡単に確認する。

やはり、起きている。
そして光希みつき自身で動いたか。
前とは『明らかに』違うな。

さて、光希みつきがもし。
『初めて1人』なら、どこに行くか。

だが、これは思考したり、水晶を使う必要もないか。
すぐに『屋上』だと判断し、側へと転移した。

案の定だった。
銀楊ぎんようは姿を『確認』した。

光希みつきは、今度は自分からだ。
『問題なく動けたな』と。

しばらく壁に凭れるようにして、声はかけなかった。

御守りを眺めて、笑う。
空を眺めて、笑う。
どこかから持ってきた石を翳して、笑う。

無事にあの時の『効果』はあったな。

銀楊ぎんようはそんな事を考えるも、ただ眺めてた。
光希みつきが自然に笑えている事に安堵する。
見ているだけで、気分が良いものだ。

そして池を気にして、探ってるが、思案中か…
魚でも飼う気かと思い、そこでようやく声をかけた。

「池をずっと眺めて、どうしたんだ?」

そこで特に怯える仕草もなく、振り向き。
自然に笑って、光希みつきが言った。

「あ、おかえりなさい。銀!!」

そして『何の不安もなく笑顔』で、近付いてくる。

銀楊ぎんようは、少し『不思議な感覚』を湧くが…
不快感でもない。
どちらかと言うと『疑問』に近い。

おかえりなさい?

何の違和感もなく、光希みつきは自然に言うが…
それは自分の家族などの身内に対してか、親しい仲での言葉だが…
つまり、ここを『自分の居場所』として?
そして、私を『身内』のように『認識した』と事か?

「銀?」

光希みつき
なぜ、『おかえり』と言うんだ?」

光希みつきの方も不思議な顔をする。

「うん?
だって、お仕事で出かけてたんでしょう?
それから帰ってきたのでしょう?」

「まぁ、そうだが。」

この顔は…
全て『無自覚』か?

確かに私が『ここを造った』が…
本来の光希みつきの家は、違うだろう?

元の世界の家があるし、身内はその筈だが…

「銀?
どうしたの?
何か変なことだったの?」

銀楊ぎんようは少し、迷いながら。
言葉を探し、選びながら言う。

「いや、間違いではないが…
光希みつきから、『おかえり』と言われたのが。
『初めて』だと、思っただけだが…」

「そうだったっけ?
でも、大抵、いつも起きた時に居たし。」

「…光希みつきにとって。
私は『家族』なのか?」

そこで光希みつきは考え出すが、上手くいかない様子に見える。

「うーん。
家族とは違う気もするけど…
でも、私が今、ここに居るのは、『銀のおかげ』でしょう?
私は家に銀が居る時は嬉しいし。
居ない時は『銀の帰りを待ってるだけ』だし?
だから、普通に『帰ってきてくれるのは嬉しい』よ?
お仕事なんだろうなって思うし。
銀に『心配はかけたくない』から。
私はただ、銀が帰ってきてくれるのは『嬉しく思う』よ?
だから、おかえりって言っただけだよ!」

そう言って、光希みつきは普通に笑いながら。
私の腕の中に飛び込んでくる。

銀楊ぎんようの方が言葉が浮かばない。

「お仕事とか、判らないから、何も手伝えないけど…
私はここに居れて、銀が居なくても心配ないように。
ただ、銀を待ってるだけだよ!」

「そうか…
私が帰ってくると…
光希みつきには、『嬉しい存在』には、なれたんだな?」

光希みつきは少し驚くような顔をして、すぐに言った。

「何度も言ったよ!?
『銀が好き』だって!
『銀だけが良い』って!
『銀以外は嫌だ』って、言ったよ?
好きな人が側にいるのは、普通に嬉しいでしょう?」

銀楊ぎんようは思わず破顔した。

「そうか。
なるほど。
はは、光希みつきは本当に。
凄いなぁ。」

それは銀楊ぎんようには『ないものだから』こそ。
正直に出た言葉でもあった。

銀楊ぎんようは、また思うのだ。

『無自覚』にも程がある。
『純粋過ぎて』…
本当に私は、光希みつきの凄さを感じてしまうな。

私が裏で何をしてるかも、『全く疑わない』。
私が何をしてきたのかも、『全く疑わない』。

私が仕事の事すら、詳しく言わずにいるのに…

それでも『全部』だ。
私の言葉を信じ、そして『好意のみ』を与えてくる。

そんな風に、誰かを『好きだ』と。
誰もが普通ならば、言わないだろう?

**************************

私は驚いた。

銀が…
いつもとは違う、本当に笑ってる。
寧ろ笑うしかないぐらいに?
私、何かしたのかな?

銀楊ぎんようは、光希みつきを見れば…
すぐに『何を考えてるか』も判る。

私が笑っているのに驚き、普通に疑問はあれど…
私への『疑う事』の一切ない目。

「いや、凄いんだよ。
光希みつき
本当に、私は光希みつきが可愛くてならない。」

こんな『危ない場所に連れてきた』のは、私なのに。
そこから確かに『守って』はいたが…
この『妖狐の世界にいきなり連れてきた』のは、私なのに。

それすらも『全部を許してしまう』のか?

初めて本当の恐怖を知り、怯え恐かった事も。
『全部が自分の為』だったのだと。
私を信じ、それでも『私だけが好き』だと。

そこには『悪意』もなければ、『裏を読む必要すら』なく…
ただ『私だけが良い』と、そのままの『好意だけ』を。
素直に『断言する』かのように言い切るのか?

そんな『好意だけ』しかない気持ちを受けたのは…
今まで何百年も生きてきたが、私は『光希みつき以外』に知らない。

銀楊ぎんよう光希みつきを抱き上げる。

「うわっ。
どうしたの?」

「いや、光希みつきは、それで良い。
私も『光希みつきを愛している』よ。
『誰よりも』な。」

あぁ、だからこそ、眩しいんだろう。

けれど、透明な水のように綺麗で…
そこから受ける『愛情』は…

そんなにも純粋すぎる程の『好意を』向けられた事がだ。
私は本当に『初めて』だ。

「さて、光希みつき?」

「うん?」

「今日はたっぷりと、愛してあげようか?」

そのまま軽くキスをする。

「えっ?
えっ?」

光希みつき
私を愛してくれるなら、その可愛い『身体も』頂こうか。
今夜は少し。
激しくなるかもしれないな。」

光希みつきは、顔が赤くなる。

「好きだからこそ、愛したくなるんだ。
知ってるだろう?」

「う、うん。
でも、あの。」

「どうした、光希みつき?」

真っ赤になり光希みつきが言う。

「その、えっと。
お手柔らかに…」

銀楊ぎんようは、また笑いを抑える。

「それは…
無理かもな。
でも、光希みつきのせいだろう。」

「えっ?」

こんなに『心から笑った』のが、もう思い出せないな。

嬉しくて、そして本当に…
私は光希みつきを愛してる。

既に、もう溺れてしまったのだと。
実感する銀楊ぎんようだった。
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