攫われた先は妖狐の世界、そして私は『姫』らしい。

蒼真 空澄(ソウマ アスミ)

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第二章:姫として愛してる訳ではない。

初めての安らぎの場所。

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ふと、銀楊ぎんようが目を覚ます。

「おはよう、銀。」

そして聞こえた声に内心、驚愕した。

「あ、ぁ…
え…?」

うん?

「銀、どうしたの?
具合が悪いの?」

「あ、いや。
おはよう。
か。」

銀楊ぎんようは内心。
余りにも驚愕していた為。
すぐには、いつものようにはいかない。

まさか!?
私が、誰かの前で!?
『寝てしまう』なんて!!

うん?
どうしたんだろう?

銀の違和感に気付く。

銀楊ぎんようは、すぐに察する。
光希みつきからは、不思議に思われている。
少し、落ち着いて対応を…

「銀、疲れてるの?
まだ、寝てたら?」

銀楊ぎんようは1度、目を閉じた。
そして少し息を吐く。

「いや。
疲れては、いないが…
驚いた。
だけだな。」

銀が、やっぱり変だ。

「どうして、驚く事なの?」

銀楊ぎんようは…
『誰か居る時に、寝たりなどした事』がなかった。

『妖狐の長になって』からは特にだ。
いつ、何があるか。
判らないのが当たり前でもあり…
その為、普段も簡単な仮眠程度が常だった。

にも関わらず…

「そうだな。
光希みつきからしたら…
そうなる、な…」

「えっ?」

銀楊ぎんようは、どうにかすぐに身体を起こした。

「いや、光希みつき
すまない。
『身体は』問題ない。
正直に言う。
私は殆ど。
『寝てないのが当たり前』だったから。
それで驚いただけだ。」

銀楊ぎんようは、思考したが…
ここは正直に言う事を、判断した。

「えっ?
寝てないのが、当たり前?
でも…」

銀楊ぎんようは、内心、動揺を隠せない。

だが、正直に言うと判断もしていたが…
どうしても上手くはいかない。

「そもそも。
妖狐は人前では、寝たりはしないと言う事だ。
それが適切な答えに近いか。
警戒心の強い種族も、同じだろう。
野生に近いからな、本能の部分は。」

おかしい、違う。

「銀、そんな。
ちゃんと寝ないと…
ただでさえ、忙しいと思ってたのに…」

明らかに心配そうな顔をする光希みつきに。
こればかりは、隠せないか。

「あぁ、だからこそ、驚いた。
だが、全く寝ていない訳でもない。
人間とは身体が違うから。
光希みつきが心配する程の問題はない。」

……。

銀楊ぎんようはただ、焦りながらも言葉を探す。

「嘘は、ここでは、出来ないからな。
正直に言った。
光希みつきに心配を、かけるかもしれないから。
黙ってはいた。
まさか。
私が寝てるのには、流石に驚いたが。
今更だからな…」

少し銀楊ぎんようは目を閉じる。

やはり、心配をかけてしまったか。
私とした事が…

**************************

私はその『言葉』は受け取る。

だけど…
それは…

そうじゃない!

そんなのは…
そんな顔で…

駄目だっ!
違う!
銀が…
『銀自身が』気付いてない!!

私は両腕を広げて言う。

「銀!
こっちに来て!!」

銀楊ぎんようは動揺しながらも。
光希みつきの側に近付く。

「…?」

私は近付いてきた銀を、掴んで。
思いっきり、頑張って、横にする。

「え、み、光希みつき?」

私は銀の事を横にしてから、頭を抱え込むようにする。

「銀!
嘘は確かに付いてないけど、それは駄目っ!」

「…!?」

銀楊ぎんようはまた驚く。
光希みつきを見ると、泣きそうになっていた。

なぜ…?

「銀…
嘘は、付いてないよ。
それは…
判る、でもね。
『寝るのも安心できないまま』じゃ…
どんなに気付いてなくても、身体だけじゃないよ。
『全部』が、何にも良くないよ…」

こんなのは、良くない。
『銀自身が』気付いてない!!

身体に影響がなくても…
『銀の顔には痛み』がある!!

だから、そんなのは見逃せないっ!!

私はギュッと銀の身体を。
首に腕をまわし、離さないように続けた。

私は銀の頭を撫でながら、静かに言う。

「銀…
私には、妖狐は銀しか見ていないから。
判らないかもしれない。
身体は、大丈夫かもしれない。
でもね、これだけは判る。
銀…
どれだけ痛いのを隠しても、『顔が違う』よ。
嘘は付いてなくても、顔が違う。
焦って、困って…
それでも私を、心配させないように…
言ったかもしれない。
でも、違う。
『それは違う』よ。
銀だって、休んで良いの…
人前では、寝られないなら。
私が抱き締めてるから。
私が銀の代わりに見てるから。
少しでも、良いから…
そんな恐がって、寝れないのは…
良くない…
よ…」

私はそう、『銀の顔』で判った…

「…光希みつき?」

「気付けなくて、ごめんね…
今まで、ごめんね…
だから、今は良いから…
私を心配ばかり、しないで良いから…
そんな『痛い顔』を、してまで…」

私は言葉が続けられずに、涙が零れた。

「み、光希みつき?」

私は涙が勝手に零れる。

銀が『痛い』のは、嫌だ。
そんな『痛みすら、隠そう』としちゃ、駄目だ!

「銀…
そんなに『痛いのすら』…
『気付けない』ぐらいに…
ずっと、ずっと、居たの?
私は、銀に、出来る事が全然ない。
だけど、お願いだから…
少しでも良いから…
休んでよ…」

銀楊ぎんようは、その言葉で、気付く。

あぁ、そうか。
確かに『嘘は付かなかった』が…
光希みつきは『感』が良いから…
私の事で、泣いているのか。

私が痛そうだから…?

「そうだな。
すまなかった。
私が悪かった。
だから…
光希みつきも、泣かないでくれないか?
私も…
光希みつきの側なら…
『安心できる気がする』んだ。」

「本当に?
少しでも良いの…
すぐに寝れないなら、ずっと、抱いてるから…
そんな『無理』して、『痛い顔はしない』で…」

私は銀の頭を撫でながら…
ただ、抱きながら、頭を撫でるしか出来なかった。

**************************

その時の銀楊ぎんようは…
光希みつきの行動が、言葉が…
余りにも衝撃的だった。

私が、痛い…?

光希みつきから見て…
私が痛そうな顔を、したのか…?

言葉では、確かに嘘は付かなかったが…
光希みつきが涙を流す程に…
私を、心配したのか…

銀楊ぎんようは少しまた思考する。

そうだな…
こんな感覚は…
今まで、感じた事はないな…

「すまなかった…
だから、光希みつきも泣かないでくれ。
私も…
私が寝る時は…
少しで良い。
光希みつきの側なら、少し…
寝ても良い気がするのは、本当だ…
だから、泣かないでくれないか?
私はこうしているだけで…
本当に、休まるんだ…」

銀楊ぎんようは、光希みつきの方に。
少し蹲るように、目を閉じた。

「うん…
泣かないから…
私が側に居るから…
少しでも良いから…
休んでね?」

銀楊ぎんようは思う。

あぁ、光希みつきには、敵わないなぁ…
だが、確かに仮眠するなら…
この腕の中が1番、落ち着ける気がするか…

そうして、再び、目を閉じた。

**************************

銀楊ぎんようが、少しの仮眠を終えた時も。
光希みつきの腕の中にいた。

光希みつき…」

「銀?
もう起きたの?」

そう言って、光希みつきは頭を撫でてくる。

銀楊ぎんようは、本当に少し寝てしまった事には内心。
複雑にもなるが…

だが、何だろうか?
この感覚は…

いつもより、軽い…?

「あぁ、もう大丈夫だ。」

私はそう言ってから、光希みつきの腕を優しく触れる。
光希みつきの顔を見る。

そんなに時間は、経ってはいないだろうが。
光希みつきの顔を見て、スッと軽くキスをした。

「すまなかった…
約束しよう。
私が寝る少しで良い。
その間、光希みつき
その間だけ、側にいてくれ…」

「うん、良いよ。
少しだけ、顔が良くなってるね。
約束だよ?」

私はもう…
光希みつきには敵わないと。
何度思っただろうかと、笑ってしまう。

そうしてると、光希みつきも笑った。

「すまなかった…
でも、ありがとう。
これぐらいしか、寝てなくても。
随分と違うのは判ったから、約束する。」

私は光希みつきを抱き締めた。

あぁ、もう…
私にとって、光希みつきにはどれだけ。
癒されるのだろうな。
これでは余計に、光希みつきを離せなくなる。

「銀?」

「いや、大丈夫だ。
光希みつき
私は、ようやく、光希みつきのおかげで。
休めた。
本当だ。
でも…」

「わっ!?」

そのまま光希みつきを抱き上げながら、一気に起きた。

「流石の私も、この体勢は恥ずかしくもなる。
次に寝る時は、せめて普通に側に居るぐらいにしてくれ。」

私は笑うしか出来なかったが、それを見て光希みつきが笑った。

「あははは!
銀、可愛いなぁ!」

今は何を言われても仕方がないと。
銀楊ぎんよう自身も痛感する。

「あまり、言うな。
さて、食事にしよう?」

光希みつきは笑いながら、やはり言う。

「銀が、笑えるなら!
その顔なら、私は良いよ!
あんな顔はもう、だめだからね!」

「あぁ、判った。」

そうして、抱き上げた光希みつきを下ろしてから。
一緒に食事をするのだった。

**************************

一方、その頃。
様々な派閥が気付き始める。

「また、新たな子が!?」

「あぁ、『特殊能力』らしい。」

「どういう事だ!!
今回の『姫』が特別なのか?」

「このままでは、あちらに『姫』が居ては。
我々ではもう、何も出来なくなるぞ!?」

「だが、現当主には歯向かえない。
死に急ぐだけだぞ。」

「どうにかしなければ…」

「せめて、『最高議会』で何とかするしかないのではないか?」

「それすら、我々でも難しいぞ?
現当主は絶対に『姫』に関しては独占状態だ。」

「下手な事を出したら…」

「いや、確か最初の時に言っていた。
『重要議会以外』ではと。」

「そこで、どうにかしないといけないと言う事だろう。」

「少なくとも、当主も全議員の意見は無視は出来ない。
策案でどうにかするしかない。」

「確かに…
このままでは、我々すらも手が出せなくなる。」

「何度か議員を集めよう。
せめて今後を明確にさせれば変わるかもしれん。」

「そうだが、簡単には現当主には手が出せない。
『姫』だけを、どうにかしなければ。」

様々な派閥が騒めいていた。

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