攫われた先は妖狐の世界、そして私は『姫』らしい。

蒼真 空澄(ソウマ アスミ)

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第三章:本当に願う事は一つだけを。

真実を、そして未来を。

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銀楊ぎんようも『手紙の内容』は、既に暗記していた。

外に出てから冷たい風を浴びる。

既にもう夜だった…
そして、やはり思わずには、いられないのだ。

光希みつき

最後まで…
私の方が、見抜かれていたか。

光希みつきには、やはり。
『敵わない』な…

『1人じゃない』か…

あぁ、でもなぁ…

例え、1人じゃなくても…
私は、光希みつき

光希みつきだけを愛してるんだ…

だから…

光希みつきの声を、聞きたいんだ。
光希みつきに、笑って欲しいんだ。

光希みつきが側に、居て欲しかったんだ…

ただ空を眺めながら、そう何度も思ってた。

でも…
あそこまで見抜かれてたのか…

今更、隠しても仕方がないよな?

なぁ…
光希みつき

銀楊ぎんようは目を閉じたままだった。

**************************

「父上。」

その声を聞いた。
空を見上げたままだった銀楊ぎんようだが思う。

青嵐せいらんから、来たか…

銀楊ぎんようは目を閉じたまま思考する。

そして少し、独り言のように呟く。

「あぁ。
本当に…
光希みつきには『敵わない』な。
まさか、あそこまで。
私が…
心配をさせてたのだな…」

思考が纏まる。

これが『光希みつきの望む』ものならば…

そこで目を開けた。
視線だけを向けて言う。

青嵐せいらん
頼みがある。」

青嵐せいらんは、その視線を受け返事をする。

既に『当主』など、もう関係もなかった。

今は父上を。

母上からの頼みもある。
それだけだった。

だからこその対応を。

「はい。」

そんな青嵐せいらんにも察する…
銀楊ぎんようは、まず先にする事を優先して言った。

「我が子を。
『全員』だ。
ここに、集めてくれ。
そして、もう…
隠さず『全て』を告げよう。
『全員に、真実』を、伝えよう。
少なくとも、光希みつきは…
『私と子供達』でと書いてある。
『皆』が、知るべきだろう…」

「はい、父上。」

すぐ青嵐せいらんは返事をし、連絡を出した。

既に青嵐せいらんは情報網がある。

『新世代』を纏めている。

そんな青嵐せいらんからしたら…
皆へ連絡は簡単でもあった。

**************************

青嵐せいらんの連絡を受けた事でだった。
約1400人以上が一斉に動き出す。

多くもあるが…
『女児以外の全て』である。

急いで指定場所に向かった。

『皆が同じ』だった。
『母上の事』を思っていた。

女児は今度も踏まえて、既に厳重にしてあるゆえだった。

今は長命の妖狐では若過ぎるゆえの処置。
既に別の形の体制は作られていた。

その為、女児以外の『全員』が集まるのを。

銀楊ぎんようは何も言わず…
夜空を見上げながら待った。

**************************

青嵐せいらんの指示で指定場所に…
皆が集まって来る。

銀楊ぎんようも気付く。

皆が…
光希みつきの子供達、全員が集まる中。
その反応もだった。

急いで来た皆も母上の姿を見た。

また懐かしくもあるが…
何も変わらないのだ。

けれど固定術式の『意味』も判る。

だからこそ『最後の母上』だと…
本当に眠っているように穏やかな顔で美しく…

そして、その姿を見ると…
皆も同じだった。

勝手に涙が溢れてしまう。
どうしても泣く…

そこには母上からの最後に残した『手紙』もあった。
それにも皆が、それぞれ読んだ。

そう、母上の子供である自分達にとって…
『全員』がだった。

皆も『その文字』を読めるのは当然でもある。

人間社会の勉学で皆がまず先に覚えていたのは…
『母上の出身地』からだった。

その手紙の内容も、また…
あの母上らしいものでもあり…

けれど母上の死、母上の言葉を。

皆が受け止めるも泣く事は止められない。
意味も、内容を、理解はしていた。

そんな様子の我が子を見ながらも銀楊ぎんようは…
先に『青嵐せいらん』へ視線を送る。

数時間も経ってなかった。

視線のみで皆が集まった事も知ると…

銀楊ぎんようは、また『覚悟』をするように。
皆へ向かって言った。

「皆に、聞いて欲しい事が、あるんだ。
これは…
光希みつきの願い』でも、あるから。
聞いて、くれ…」

すぐ皆がだった。
明らかに、もう既に父上の声が違うのに気付いた。

またすぐ『母上の手紙の内容』が浮かぶ。

だが、先に話しを聞こうと。
皆が一斉に静まり、父上を向きながら動きを。
言葉を止めて待った。

銀楊ぎんようは、そんな我が子達を。
少し見るが…

やはり下を向いてから話し始めた。

初めて銀楊ぎんようは『全ての事』を話した。

光希みつきの…
『最後の言葉』もだった。

それだけではなく『全ての真実を皆』へと話す。

自分が500年前からの事も。
光希みつきを産まれた時からの事も。
命を産む『代償』の事も。

何もかも…
『全て』を話した。

**************************

皆が父上がしていた事を。

話を聞いて理解も早く…
その内容が判った。

だが、それは…
余りにも衝撃的な『真実』でもあった。

全ての謎すら含まれていた。

父上にある500年以上の『痛み』を。
最強である『強さの理由』を。
『母上だけ』を。

愛する理由も…
更に『母上の命』を削ってまで産まれた自分達を。

そして最後まで『2人が愛し合っていた真実』まで。
知っているからだった。

判ってしまうのだ。

それは…
どれだけだったのかと!?

皆が様々な思考をする。
話の内容は充分に理解していた。

けれど…
銀楊ぎんようは皆を察して先にと言った。

「私はな。
光希みつきが、居なくなったら…
実は、もう…
この場から、去ろうと、思っていた…
光希みつきの居ない…
そんな妖狐の世界になど、居たくなかった。
私が、耐えられなかった。
もう…
『限界』だった。」

皆も、あれだけ両親2人の思いを。
愛し合っている事を知っているからこそだ。

すぐ、その気持ちも判った。

更にでもある。
それは父上からすれば『500年以上』だ。

そんな中で、ずっと…
していた事も含めている。
『真実』であり、また『事実』でもある事だった。

だが、銀楊ぎんようの方が既にもう…
我が子を察する事も出来なくなってた。

それよりも、ただ『耐える事』に必死でもある。

そして言葉を、何とか、選んで言う。

「だが…
私は先に。
青嵐せいらんの言葉で、気付かされた。
『覚悟』をな…
そして、光希みつきの『手紙』だ。
何も、私も、言ってないのに…
あれだけ、見抜かれていた…
それにも、驚きは、あったが…
けれど…
手紙にも、あったな…」

銀楊ぎんようはそれでも痛かった。
苦しくもなる。

頭の中に浮かぶのは『光希みつきの事』ばかりだった。

認めたくない!!

そんな事は…

光希みつきがもう…
そんな事は、認めたくもない!!

どうしても『光希みつきの事』ばかりが浮かぶ。

それでも…
光希みつきが、居ない…

だが、光希みつきが…
それを、『願う』ならば…

皆が、既にもう気付いていた。

明らかに、父上の様子が違う!!

そしてもう…
母上の残した『手紙』にもある。
だから、『頼んだ』のかとも思う。

だが、今は…
『言葉』ではないのだ…

銀楊ぎんようは、ただ、下を向いて…
耐えながらも、言葉を探すしか出来なかった。

これは、『光希みつきの望む』事だ。
これは、『光希みつきの為に』しなければいけない。

**************************

銀楊ぎんようは目を閉じたまま…
下を向きながらも、何とか言葉を続けた。

苦しくもなる。
『痛み』が更に広がるような感覚だった。

けれど、それでもと…
どうにか『言葉』を出す。

「だが…
私は、残ろう。
光希みつき』が、最後に…
『託した』ものを、未来を。
…書いて、あったな?
『皆』でと、あの『手紙』に、あった。
だからこそ、全て、話した。
これから先、この『真実』を知り。
更に、纏めていくのは…
青嵐せいらんを、筆頭にしながら。
お前達の、『新しい世代』だ。
私が、出来る事は…
もう、『力』を貸すぐらいしか。
出来ん。
それでも…」

1度、止めた。
『痛み』に耐える。
息を、どうにか吐いた。

銀楊ぎんようはもう。
光希みつきの事』ばかり…

それでも、どうにか言わないと…
それだけを考えながら、耐える。

「…『光希みつきの願い』、だ。
これが、叶うなら、私も、手を貸そう。
手紙にも、書かれて、あった。
『皆で支え合って』と。
我が子、全員に対して…
だから、これから先を、知る事が、先だった。
そして、皆が、これからを、先の未来を、一族を。
光希みつき』が…
願っているのなら、私からも、頼みたい。
これからの、『未来の為』に。
皆が支え合い、変えて、いってくれ。
その時に、『力』が必要ならば…
私も、手を貸す。
その為に、私はまだ、ここに、残ろう。」

皆がもう見てられなかった。

それが余りにも…
声だけでもないのだ!!

徐々にもっと、痛々しくなっていく父上の姿を。

それに…
母上の『手紙の内容』に書いてある!!

どれだけ!!

もう、これ以上…
『痛み』を隠すのか!!

皆は一斉に父上の側に近付いた。

そして言うのだ。
誓うようにと。

「「「父上!必ず!!」」」

そして、近付いたからこそだった。
また気付いてしまった。

あの父上が…
もう既に、苦しそうに…

『泣いている』事に。

声だけ、必死に出さず…
それでも下を向きながら、ただ…
もう涙を流している姿に。

皆がまた必死に思考をする。
母上から頼まれているのだ!!

だが、どうやれば…
『父上の痛み』を、苦しみを、どうすれば…

母上が居なければ…

それなのに、自分達がどれだけ…

皆も必死に思考はする。
どうすれば、母上の残した『願い』を。

父上に、どう…

そんな中で、耐えながらも…
何とか青嵐せいらんが涙を堪えて言った。

「父上…
皆が、悲しいのです…
だから、『隠す必要はない』でしょう?
それに、これは、母上からの言葉。
『ずっとは泣かないで』と。」

青嵐せいらんも必死に耐えていた。

涙も堪える。
更に思考もする。

あの母上から…
『お願い』もされているのだ!!

だからこそ、必死に思考する。

どうすれば…

銀楊ぎんようは、もう、涙が止められなかった。

それでも、どうにか必死に声だけを殺しながら…
既に思考すらも上手くいかない。

だからもう…
青嵐せいらんの言葉にと。
そのまま思う事を言った。

「あぁ、判っては、いる…
だが、どうすれば、良いか。
『知らない』のだ…
私は、『光希みつき以外』に。
ずっと…
誰にも、どこでも、自分すらも。
気付けずに…
ずっと、生きて、きた。
だから、ただ。
知らない、だけだ…」

皆の方が普段を…
父上を見て、知ってるからこそでもある。

今の姿が…
父上の余りにも…
それでも『痛み』に耐えようとする。

そんな痛々しい姿を見ていられなかった。

これがきっと母上が、心配した『理由』だと。
『理解』出来てしまう。

500年以上も、ずっとだ。

誰にも気付かせずにいた父上…

余りにも痛々しく、泣いている。

だが、父上が、母上だけを…
どれだけ愛していたかだけ、皆も充分に知ってる。

だからこそ、必死に思考をする。

どうすれば…

青嵐せいらんが、どうにか『言葉』を探す。
そしてまた、浮かぶ言葉をそのまま言った。

「母上が、悲しむのを…
父上なら、しない…」

『その言葉』で、銀楊ぎんようは思う。

今、もし、光希みつきが…
側に居たらと考える。

もし、光希みつきに、こんな姿を見せたら…
また、『光希みつきが泣いて』しまう。

もし、今、この場に光希みつきが居たら…

息を大きく吐い出した。
そして銀楊ぎんようは何とか、言った。

「あぁ…
そうだな…
光希みつき』が、見たら…
『泣く』だろう。」

そしてどうにか、感情を落ち着かせる。
再び、大きく呼吸をし、思考する。

そして誰でもなかった。
目を閉じたまま、言うのだ。

「ならば、私は…
光希みつきの事だけ』を、考えて、動こう。
側に、居なくても良い。
だが、それでも…
『私は光希みつきの為』に。
これから、動こう。」

言いながら、自分に言い聞かすように。
頭の中で、『光希みつきだけ』を浮かべる。

そう、もう光希みつきが側に居なくても。
『私が忘れる事』もなく、目を閉じれば…
光希みつきの姿』が浮かぶ。

その光希みつきが望んでいる事を。

そして、銀楊ぎんようはまた、目を開けて皆を見た。
既にもう、心配そうに…
必死に思考していたであろう我が子達を。

もう隠す必要はないのも事実だろう。
だから、素直に皆の方へと言った。

「すまなかった。
そうだな。
今更、隠す気はない…
私は…
光希みつきが見てる』と思えば…
それで、良い。」

銀楊ぎんようは少し、目を閉じ思考する。

光希みつきの願い』を叶える為に。
何をするかだった。

そして目を開けてから、『皆に』向かって言い切った。

「私にあるのは、『力』だけだ。
ならば、『私も皆を』支えよう。」

そして『青嵐せいらん』を見る。

青嵐せいらん。」

「はい。」

「今は、お前が『長』だが、これからの道を作るのも。
青嵐せいらんが『長』の名を使うだけで良い。」

そして、他の我が子、『皆に向けて』言った。

光希みつきの願いを、叶える為にも『皆』でだ。
『皆が同じ』意識、『青嵐せいらんと同じ』だ。
自分に『長』の名がなくても。
全員で同じ。
『長』だと思い、『長』と同じであると行動を、思考を。
そうすれば、いずれ流れも、絶対に変わる筈だ!!」

目を閉じて、続けた。

「私はもう、『光希みつきだけ』が、居れば…
だから、『皆』の邪魔をする者。
『力』が足りないのであれば、必ずだ。
私が『皆』を助けよう。
支えよう。
そしてこれからを。
妖狐族を変える為にも、『皆』も力を貸してくれ。」

全員が一斉に片膝を地面につけてから言った。

「「「はい、必ず!!」」」

その声で、銀楊ぎんようは、その我が子達を見た。
けれど再び、目を閉じる。

銀楊ぎんようは思う。

そう、これで、良い。
私はもう、『光希みつきの為だけ』に動こう。

私が『皆』を支える事。
それが、光希みつきの望む。
答えにも繋がる筈だと…

**************************

その後、『全てが団結』した。
そして変わっていく。

時には銀楊ぎんようも指摘を、指導もする。

更に『力』が不足ならば…
銀楊ぎんよう自ら、鎮圧も厭わなかった。

誰でもない、『光希みつきの為』にと。

そして女児も含め、教育も進めた。

事例としても、既に光希みつきが居ないのなら…

『後世』へと…
それも残せば良いのだと、『全てを記録』する。

そしてそれを、『全て』残しながらも先へと進める。

全て、これからの未来へと。

それぞれが『団結』しながら、進めていった。
そして、常にそれを広げながらも巻き込む。

皆の誰もが『意思』を変えない。

子供達の意思。
それは以前と同じにもなっていた事もある。

「父上のしてきた行動に『敬意』を。
母上から産まれた『誇り』を。」

それぞれが『団結』しながらだった。
これから先も含めて、一切、変わらなかった。

そのまま長い時が、流れていった…
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