魔法の華~転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ?~

マカロン

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四章 天女を我が物に 『嫉妬』

七輪の蓮

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「っ!!」

ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。しかしそれはすぐに波を引く。

「……どうかしたか、魔女殿?」
「い、いえ……気のせいだったみたいです。」
「なぁ、師匠!こっちにもいねぇ……って、ヴィンスとなに話してンだ?」

イスハークくんが駆け寄り捜査状況を知らせてくれる。いつからか、ダニエルさん、そしてジェイさんの姿が見えなくなっていたのだ。夜の闇も深くなってきた頃。これは可笑しいと皆が思い始め、捜索をしていたのだけれど……。

「女神さま、こちらにもいませんでした。」
「どこいったんだよあいつら!?しかもいつの間にか、ファルーク兄上もいねぇし!!?またどっかで操られてたりしねぇよな!?」
「……まさか。他国でも同じようなことがあったら困るぞ、イスハーク。」

探すどころか、行方不明者が一人増えてしまった。イスハークくんはこれまでの経験から滅多なことを言い、シアンさんに咎められている。私も、まさか他国でも操られる事案が起きているなんて信じたくないわ。それならもう陰謀渦巻いてるでしょ、世界規模で。

「うーん……大の大人、しかも男どもに対して心配しすぎやと思うけどなぁ。屋台の飯が美味すぎて、色々行って迷ってまっただけやろ。どうせ明日にゃ宿に戻ってくるで。一旦、俺らも宿へ戻らへん?」

ファントムさんのその言葉に、渋々私たちは頷き戻ることにする。そのとき、ふと疑問が浮かんだ。

「ファントムさん、私たちの宿と同じところに泊まるんですか?あれ、そもそもどこの宿か話してましたっけ?」
「……シアンから聞いたんよ。
当然俺は、別のとこやで。いい宿もう予約しとるからな、さっきのは言葉の綾ってやつや。」
「なるほど!すみません、つい不思議に思ってしまって。」
「いやいや~?俺も誤解させるような言い方したからなぁ~お互い様っちゅうやつや。」

そう言うファントムさんに、シアンさんはなぜか肘でこづく。

「……貸しひとつですよ。」
「わかっとるよ。」

なにやら小声で話をしているらしい。ファントムさんがシアンさんになにか失礼なことでもしたのかしら。

「そんじゃ、俺こっちやから~またなぁ……。」

ファントムさんが、背を向け歩いていく。姿が見えなくなったあと、ぽつりぽつり、と水滴が落ちてきた。上を見上げれば雲は怪しく、雨が降りそうな天気だ。
私たちは、本降りになる前に宿へと駆け込んでいった。


ザーッ、ザーッ、ザーッ

幸運と言うべきか不幸と言うべきか、私たちが宿に入ったとたん、激しい雨が地面を打ち付け濡らした。

「これでは、もう今日はファルーク殿たちを探しに行くのは難しいな。」
「そうか?」

不思議そうに首をかしげるシアンさんに、ヴィンスさんはそういえば精霊だったな、とため息をついた。

「……シアン殿、水を操れる精霊と人間を一緒にしないで頂きたい。俺はそんなにやわな体をしているわけではないが、魔女殿やイスハークは簡単に風邪を引いてしまう。」
「はぁっ!?おいなんでいま僕をカウントしたんだよ!?狩りとか経験あるし、体も丈夫だぞ!?」
「えっ、でもなんか、イスハークってすぐ風邪引きそう。小さい頃よく寝込んでたんでしょ?それで一時期『はっ、こんなのに僕さまが負けるかよ……、この最高で強い僕さまを倒そうなんて頭が高い!!』って壁に向かって叫んだあと、よく倒れてたんだっけ?」
「!?なっ、それは兄上しか知らないはず……っ!!なんで知って……っ!!まさかあいつ……!」
「うん、ファルークとチェスやったときに、掛け金として、恥ずかしい話提供しあってたんだ。ああ、もちろん問題にならない程度でさ。」
「あいつ僕売ったのか!?」
「なんか、ファルークが、自分にはそういった話が特にないって困ってたから、家族とか知り合いでもいいよーってなったんだよ。」
(なんて恐ろしいことを掛け金に……)

驚きながら彼らの話を聞いていれば、ヴィンスさんが青い顔をしているのに気がついた。

「……ま、まさかそのルールは、アーサー……お前にも、適用されるのか……!?」

カタカタ、とてを震わせながらアーサーさんに指を指すヴィンスさん。この様子では、堅物と噂されてるであろう彼にも、後ろぐらい黒歴史があるようだ。

「え?そりゃもちろん。まぁ、俺は好き好んで自分の黒歴史話すほど変態じゃないからな。いやぁ、幼なじみや兄弟って、ほんと大切だな!」
「俺はこの時をもってお前とは縁を切る!!百歩譲ってダニエルの黒歴史はいい、俺を巻き込むな!」
「すげぇ正々堂々した裏切りだな……。てめぇこそ幼なじみをなんだと思ってンだよ。」
「イスハーク、これは男の沽券に関わるんだ。お前が口を挟むことではない。それに、ダニエルの黒歴史は、爆破させただとか、毒キノコを食べて一日中笑っていただとか、まだ可愛い方だからな、特に問題ない。」
「いや俺も被害者だから。挟む権利あんだろ。」

それよりも私は、一周回ってヴィンスさんの黒歴史がとても気になる。爆破や毒キノコより上の黒歴史ってなに……??


夜。枕投げをしていたとき、全員が気づいた。布団は、きれいに並べられている。店員さんが気を利かせてくれたのか、ひとつだけ離れてはいるけれど。

「……なぁ、女性をこんな男所帯のなか寝かせんの、ダメじゃねぇ?」
「……そうだな。騎士精神に乗っとり、絶対に手を出さないと誓おう。」
「ちがう、僕が言ってるのはそうじゃない……この状況がまずいっていってんだよ!」

たしかに、前の世界で男性たちと雑魚寝など考えられなかった。でも危機感を感じることはなかった。イケメンな彼らが、女に飢えて私を襲うことはないわ、と確信していたのもある。しかし安心感を絶対的にしたのは、私が普段自分に守護魔法をかけているからだ。危害を加えられそうになったとたん、相手に電撃が走る。髪質によってはアフロになってプスプスという音がなる。これは、虎さんに捕まった際、みんなに大いに迷惑をかけてしまったからだ。次からは絶対浚われない。その一心で、強力な守護魔法を自身にかけるようになった。町でふちらな輩に出会った際大いに役立った。私が『はい』など……同意しなければ、強制的に連れていくなど不可能よ。
なので、一応その事を伝えておく。

「イスハークくん、大丈夫よ。危害を加えられそうになったら、アフロになるから。」
「えっ……そりゃそうだよね、君ほどの美女がなにも対策してないわけ……ないよね。」

予想外に返答したのはアーサーさんだった。
どうにもその表情が残念がってるように見える。








そして、その守護魔法に迷惑することになる者がもう二人。
深夜、枕投げも終わり、皆が寝入った頃。窓から女性を浚おうとする覆面の人物がいた。幸運にも、彼女は窓際で寝ていた。
そして、白くまろやかな肌に触れ、軽そうな体を持ち上げようとしたとたん。

「っっ!!?」
「えっ……大丈夫ですか、佩芳?」

すぐさま男は手を離し、彼女の体が布団へ落ちる。佩芳は男の意地なのか、激痛でも声を耐えた。様子が変だと思った華嵐は声をかけるが、それすら聞こえてないようだった。

「……っ、なんですか、これ……まじないでもかかってます……っ?」
「えっ、ほんとにどうしたんです佩芳、いつもみたいに取り繕えてませんけど……?」

なにがあったのか、と華嵐も女性に触れる。

「ちょ、やめた方が……っ!」
「え?あばばばば!!?」

予想以上の電撃による刺激に、体が震えた。その悲鳴ともとれる声は、睡眠の妨げとなり、皆が目を覚ました。

「ちょ、この……っおバカっ!!」
「何者だ……!!この、アフロたちは……まさか魔女さんに危害を加えようと……!!」

すぐさま武器を取り出すアーサーくんたち。

「……?なにかあったんですか……?」
「あっ、きみ、ちょっと来て!!」
「えっ?はい……え、どちら様……!?」

寝ぼけている彼女の腕に、つい、慌てていた華嵐はふたたび触れてしまう。激痛が来る、と覚悟したが、どうも来なかった。
そのことを認識すれば、頭が冷静になり、自分の役を思い出す。

「……!行けますよ、佩芳!」
「な……っ、いいや、理由を考えてる暇はないね、華嵐。彼女は頂いてくよ!」
「まっ、待て!!」

ヴィンスくんがそう叫びながら斬りかかってくる。俺たちはそれを軽くかわし、彼女を抱え窓から逃走したのだった。
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