魔法の華~転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ?~

マカロン

文字の大きさ
119 / 128
六章 豪華客船、カジノとディーラー

11.5bet

しおりを挟む
「小説、なるほど…たしかに、隠れている、な?」
「なるほど……。」

 小説の頭を持つ人形の化物が、角からこちらをうかがっている。
 ちらちら、と時おり頭を出す姿は、まるで恋する乙女のようだ。

ジェイ殿と行動し、化け者共をなんとか巻いた。
なんとか彼女のもとへ戻ろうと、まずは小説を探しにいこうとした矢先、背後に気配を感じ振り返ってみれば、そこには人のような体をしながら、頭は小説の化物が。
ファルークは呆気に取られた。

「ひとつめ…はあれでいいのか?」
「いいのでは?ほら、題名《緋色の研究》ですし。」
「ふむ……。」

題名を知っているのだから、敵との因縁は確実だが、追求するのはいまではないだろう。

そう考え、特になにを言うでもなく、進む。

背後の化物が襲ってくることもなく、ただついてくるだけだが……頭が本だというのに視線を感じなんだか居心地悪さがある。

「ふぅむ……。シリーズものだと推測しているのだが、どれほどあるのだろうな?」
「恐らく九ほどかと。私が知っている範囲で、ならですが。」

隠そうともせずさらりと言うジェイ。こちらが言及しないと理解しているのだろう。

「ちなみに、あれは確保すべきだろうか?」
「別にほっといていいのでは?特に危害は加えられませんし、ついてきますし。実質一冊めを見つけたと同然ですよ。」
「そうか……。」

ちらり、と振り替えると、目があった(?)とたん怪物は両こぶしを顎に添えた。
キャッ(*≧д≦)とでも聞こえてきそうだ。

そうこうしながら廊下を歩くが、特に目ぼしいものはない。

「………やはり客室を一つ一つ回ったり、そもそももう一度すべてを見て回る方がいいのだろうか。」
「手間ですが、それしかないでしょうね。彼らのことです、どうせ見えにくくめんどくさい場所に置くような姑息な真似をしてるでしょう。彼は衛生面は壊れていませんし、自著をトイレに置くような真似はしないと思いますが……。」
「………。」

こちらが言及しないと確信しすぎではないか?
さすがにここまで、やつらと関係があるとあからさまにいわれると、突っ込みたくなってしまう。しかも自著なのか……あの仮面の道化師は実は本業作家なのだろうか。

国に帰ったら、世界中の作家を調べてみようと考えていたとき、不自然に明るい場所へたどり着いた。

躊躇している暇もないので中にはいってみれば、そこにはずらりと本がおいてある。
書店のようだ。

「ここには本屋まであったのか……この数では骨がおれそうだな。次の本の題名はなんだ?」
「それは……。」
「そう言い渋るものでもないだろう?」

しかし、一向にジェイ殿は口を開かず、不審に思って見つめれば、おずおずと口を開いた。

「分かりません。
……記憶が、ないのです。」

顔をしかめ首をふる様子に、嘘をいっている気配はない。そもそも、そんな下らない嘘をつくような人物ではないと知っている。

思ってもいなかった返答に、困惑しながら問う。

「どういうことだ?」
「きっかけさえあれば思い出すのです。先ほども、あの異形の頭の題名を見たら、ピンときました。
しかし……ところどころ、ぼんやりとして、ですが。
欠片のようにふと一部分だけ頭に浮かび、懐かしい感覚に陥っている……。
この船にきてから、ずっと、です。明確にいえば、あの船員……シャーロックを、見てから、ずっと……知らぬはずの気配に郷愁を感じ、友情と共に心苦しい感覚が呼び覚まされる。」
「……それは。」

己の身ならば、狂ってしまいそうだ。そう思ったのがわかったのか、ジェイ殿は眉を寄せ吐き捨てるようにいった。

「ええ、頭がおかしくなりそうです!
気のせいだと思っていました、ドイルを見るまでは……!なぜ、彼はここに……っ!彼らは、この世界の人間ではないというのに……っ!!」
「っ!?ジェイ殿っ!!」

頭を抱え、よろめき棚を倒した彼は、膝から崩れ落ちた。ひどく呼吸が荒い。

「……いぎりす。ろんどん?執事、セイフの殺し屋、切り裂きジャック、ベーカー街221B、蔦の魔女、怪しい新聞記者、役者の招待状……朝の訪問者、彼は敵に?シャーロックは、なぜ人間の姿を?まさか、そんな、嘘でしょう、彼女とは昔……。」

うつろな目で、関連性のない言葉を垂れ流しているジェイ殿が、彼らとの記憶が原因で、錯乱しているのは明白だった。無理矢理にでも、思い出そうとしたのかもしれない。

このままでは、まずい。
彼が手札をもっているだろう人物だというのに、このままではだれひとりとして無事に帰れない。

「ジェイ殿、しっかりしろ!まずは小説を探さないとだろう!彼女を助けなくていいのか、彼女に見放されてもいいのか!?」

顔を上げたジェイ殿は、目があった瞬間目を見開く。

「っ、う………次の題名は、四つの、署名……その、次は、」
「無理をするな…っ、彼女にお前の死体を見せる気はない……!」
「っく、ファルーク、肩を貸してくれませんか……。」

肩を貸しゆっくりと体を起こさせると、少しずつ呼吸が安定しているのを見てとれた。
自分を取り戻したようだ。

ジェイ殿を壁のあるところを背に座らせ、立ち上がる。

「ここで休んでいろ。四つの署名、だな?私は探してくる。」
「………っ、頼みます……。」
「ああ、任せてくれ。」

くるり、と振り返り、ぎっしりと本のつまった棚たちを見る。千はありそうだ。

息を吐き、また吸う。
 
(みせてくれる、王としての書類の速読経験で培った能力を!!)

真の王は、なにかを言いたいとき、声には出さないが、心で叫ぶのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...