1000人の特盛召喚記 mobに憧れた876番目の転移者

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交通の都ヘパイドン

8.幼女との再会

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 「このラットだが品質が悪すぎて買い取れないな!こっちぐらいの傷で次からは頼む!」
 「持ち込まれたこれらだと、ヤスリヘビが1匹銅貨2枚と銀銭1枚、レッドコブラが銅貨9枚。ヤスリ蛇が4匹とレッドコブラ1匹で締めて銀貨1枚と銅貨が7枚、銀銭が4枚ってところだな。」
 「おい、このブブカ鳥の卵はいつ採ってきたんだ?こんなに黒ずんで変色してるってことは少なくとも2日3日じゃないだろ?なに?6日前だと?バカ野郎、そんなの買い取れるか!!」
 「確かに、プレインバイソン3体の納品が完了だな。これが報酬の銀貨3枚だ。また頼むぜ。」

 パチン、パチン、パチン……
 緑朗太の背後からは血気盛んな男達の声が聞こえてくる。買取金額に不満な者や、買い取ってもらえなかった者、値段の変動を知らずして予想以上に高値で買い取って貰えた者など様々だ。

 パチン、パチン、パチン……
 やり始めこそ臭いな不満不平を心の中で言ってはいたものの、人間の嗅覚というのはあまりにも同じ臭いの中にいすぎると、次第にその臭いを判別出来なくなるようになっていく性質があり、緑朗太も最早何も感じない程に作業を進めるようになっていった。
 開始してまだ1時間ほどであるのだが、この作業はひたすら地味で単調で、それゆえに難しい。ただ切るだけでは駄目だと言われ、潰すことを意識しながら切るようにしては見たものの、潰すということを意識しすぎて茎が折ってしまったり、逆に茎を一切潰すことなく寧ろ拡げてしまったりと散々である。
 マーヴィスから預かった鋏は日本でもたまに見かけた剪定用の湾曲した鋏であり、サクサクと切れる時もあれば、潰すことを意識しすぎると筋ばっている部分に中々刃が入らず、何度も切り損じをする時とで安定がしない。
 四苦八苦しながらもなんとか籠1つ分を終わらせたところで買取を一段落させたマーヴィスがカウンターからやってくる。

 「やってるな、緑朗太。どれどれ……ふむ。」

 そう言ってマーヴィスが綺麗に切れた方ではなく、失敗をした方をいくつか手にして切り口を見つめる。そのうちの筋が残ってしまい切り損じたのを1つ手にし、これは刃が斜めに入ってしまっているとアドバイスを投げかけた。緑朗太からハサミを受け取ったマーヴィスはお手本とばかりに葉っぱを1枚手にし、茎の部分を切り取る。一発で綺麗に切断された茎の部分からはロクハラ草の体液が溢れることはなく、ピタリと絞められている。
 切る瞬間に僅かに引く。そうすることで茎の部分が押し潰されながら切断が出来るのだと告げ、後はやって覚えるしかない。と、自身も籠の1つを手に取ると剪定作業を始めた。

 マーヴィスは長年やっているというだけあって1度の作業で4枚の葉っぱを纏めて切断し、剪定済みへと放り投げる。緑朗太が1枚に手こずっている間に8枚、12枚、と圧倒的な早さで終わらせ、あまりの速さに唖然とする緑朗太に、1籠だけ残して再び買取りカウンターに戻っていってしまった。
 そうして再び緑朗太の地道な作業が再開される。

 パチン、パチン、パチン……
 何度か試しに2枚や3枚と言った複数枚数切りに挑戦したのだが、1本も切れないか或いは全ての切り口が開いているかのどちらかである。
 諦めて1枚ずつに戻して淡々と切り続け、遂に終わりが見えてきたころ、マーヴィスが追加のロクハラ草を1籠持ってきた。これもまた例によって収集クエストの物らしい。この作業をするにあたり、緑朗太は自身の固有スキルである[最適化]が、全くと言っていいほど使い物にならないということを思い知らされた。

 緑朗太の最適化に関してはまだまだ謎が多い。マーヴィスには知っておいたほうが良いだろうと、詳細を伝えられていたのだが、具体的にどこかが変わっているのかと言われたら、どれもが微妙である。筋肉痛にならなかったり、ギルドの仮眠室のベッドの狭さが気にならなくなったり――成長系チートと呼ぶにはあまりにもお粗末である。こうして続けられている地道な作業だが、こういった作業に必要な成長は肉体的なものではなく、技能的なものが要求される。スキルに頼りすぎると駄目だと散々言われているのでそれは納得ができる。が、こういうときに何かしら楽な作業が出来るスキルが欲しいと、緑朗太は思わざるを得ないのであった。

 そうして、長く苦しい戦いが終わりを迎え、通算2籠分のロクハラ草を切り終えた緑朗太に手渡されたのは銀銭5枚。これは手伝ってくれたことに対する正式なお礼だと言われ、Eランクの訓練はこうした技能的な訓練を依頼と兼ねているのだと説明を受けた。時間間隔はスタートとほぼ同時になくなり、早朝から始めたのに終わらせてギルド会館を出たときには既に昼の鐘が鳴った後であった。

 昼飯を食べてくるように指示され、一先ずサンタリア通りまで足を運ばせたのだが、鐘がなった後ということもあり人で溢れかえっていた。こういう時、拓郎かマーヴィスに何か穴場的な店でも教わればよかったのだが、生憎とそういったことを聞いておらず、途方に暮れる緑朗太だが、サンタリアだけに飲食店があるわけではないと、別の場所への移動を開始するのであった。
 すると、武器や防具屋が立ち並ぶ通りであるジョスクにて思いもよらない人物を目にすることになった。

 「あれ?カティちゃん?」
 「あ、お客さん!!」

 違う。そう言いたかったのだが、満面の笑みで走りより、緑朗太の足に飛びついてきたのは、タベスにいるドワーフの孫娘、カティであった。どうしてここに?近くにあのドワーフがいるのかと走ってきた方角に視線を向けると、そこにはドワーフではなく青い長髪の中年男性と茶色い短髪の若者がこちらを見るように立っていた。もしかして…と、緑朗太はカティの悪い癖が出たのかと嘆息した。

 「カティちゃん、またお客さんをお爺ちゃんのところに連れていこうとしたの?」

 祖父であるドワーフに元気になってもらおうと、ほかの店から客を引き抜いてしまう困った行動力の持ち主であるカティに、緑朗太はやれやれと言った顔で注意しようとする。
 だが、帰ってきた言葉に緑朗太の視線は厳しいものへと変わる。

 「ううん、お爺ちゃんのお客さんになってくれる人がいるからって着いてきたの!」
 「ほう……」

 緑朗太は自身の顔がカティの視線から隠れるように、額を中心にカティの頭を撫でつつ件の2人に視線を向けた。中年男性は突然現れた緑朗太を気にもしていない様子であるが、若者の方は明らかに狼狽している。

 「丁度俺もこの子のお爺さんに用事があるところだったので一緒について行くよ。別に悪くはないだろ?」

 突然の緑朗太の提案に若者は「ふざけんな!!」と拒絶の声を張り上げるが、あまりにも露骨すぎるその態度を訝しんだ緑朗太に、中年男性の方がこれ以上は無理かと諦めた。追い返そうとする若者の肩を掴んで黙らせると、そのまま緑朗太達から離れて行くのであった。頭を撫でられていたカティは、2人が緑朗太の元に連れてきてくれたと勘違いをしたのか、去っていく背中に無邪気な声で「ありがとー!」と感謝の声をかけていた。折角のお昼時なのにとんだ災難に見舞われたと緑朗太は頭を抱えつつ、カティと並んでタベスにあるドワーフの工房へと移動をする。



 熱気溢れるタベス内において、沈黙を続ける1つの工房があった。放置された道具には誇りが積もり、周りの熱気からは想像もつかないほどの静寂が工房内を包み込んでいる。
 工房が見えると、カティは一目散に工房裏へと駆け込み、また以前のように祖父を呼びかける。緑朗太は、また背後からくるかな?と身構えるのだが、今度は工房内にいたらしく、工房裏からカティを伴って出てきた。

 「なんじゃ、またお前さんか…。一度追い返してまた来る奴に碌なのはいないんじゃがな。」
 「むぅ、だからお客さんだって言ったでしょぉ!!」

 緑朗太の顔を見るなり呆れた表情をするドワーフと、そんな祖父の態度に不満そうなカティ。似てない爺孫だなと思いながら、緑朗太はカティに工房裏でちょっと待ってるように伝え、ドワーフと2人きりになる。

 「カティに連れられて悪いとは思っとるが、前も言ったが武器なら…」
 「いえ、武器のことじゃないです。ちょっとカティちゃんのことでお話が…」

 武器のことではないと言われ、話題の矛先が孫娘になったことから、ドワーフの視線が初めて会った時のような鋭利なものに変わり、緑朗太の全身を冷たいものが駆け抜ける。喋れなくなるんじゃないか?と不安になるが、拓郎との1戦を経験したのが大きいのか、なんとか会話をすることは出来る。

 「今日、カティちゃんとジョスクで会いました。なんでも貴方のお客さんになってくれる人に会いに行く途中だと言われまして――」
 「ジョスクじゃと?それに儂の客?」
 「えぇ、十中八九人攫いでしょう。青い長髪の中年、茶色い短髪の若者。この特徴で思い当たる節は?」
 「ある。あいつらか…以前カティに連れてこられた客で、その後もしつこく儂に作るように迫ってきおった奴らじゃ。」

 反応から見るにこのドワーフにとって余程大事にしている孫娘であるということはわかる。緑朗太は恐らくあの2人がカティを誘拐し、ドワーフに強要をしようとしたのだと容易に想像がついた。
 念のため拓郎にこの事を報告しておく旨を伝えると、それまでの不機嫌そうだったドワーフの頭が緑朗太の目の前で下げられた。

 「すまん。お主のお陰で本当に助かった。カティにもしものことがあれば、どうなっておったかわからん。」

 出会ってからずっと拒絶し続けていたドワーフの態度の軟化に戸惑う緑朗太であったが、「気にしないでください」とだけ伝え、頭を上げるように頼んだ。
 頭を上げたドワーフは神妙な顔で緑朗太のことを見上げると、徐に右手を差し出してきた。

 「儂はガウディ。前は鍛冶をやってたが今はしがない老人じゃ。」
 「縁 緑朗太。星の流れ者です。」

 互いに自己紹介を済ませる2人だったが、ドワーフ改めガウディは緑朗太が星の流れ者であることを知ると、目を大きく見開いた後「そうか」とどこか納得をしたように呟くのであった。

 「拓郎の同郷者か…」
 「正確には違いますけど似たようなものですね。」

 緑朗太と拓郎は、それぞれ【ガイア】と【グリピオ】という別の世界からそれぞれ召喚されたのだが、そのことを説明してもわからないであろう。はぐらかす様な態度の緑朗太にガウディもそれ以上は聞こうとはせず、裏に引っ込んだカティの名を声を大にして叫んだ。
 祖父に元気が戻ったと喜びの声をあげながらガウディに駆け寄るカティの脳天にガウディの拳骨が振り下ろされる。緑朗太の目には、カティの頭と目と口の3箇所から星が飛んでいくのを目撃した。漫画やアニメだけの表現かと思っていたが、間違いなく飛んでいくものなのだと感動すら覚える。
 殴られたカティは、突然の鉄拳制裁に目尻から滂沱の涙を流しながらガウディを睨みつける。だが、孫の眼光などお構いなしにガウディは大きく息を吸い込む。これはまずいと慌てて緑朗太が耳を塞いだ直後、落雷の如き怒声が工房内に響き渡った。

 「の…馬鹿もんがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 耳を塞いでも尚鼓膜を揺らす轟音に、怒られている訳でもないのに体をビクつかせて尻餅をついた緑朗太だったが、怒られたカティは驚くどころか未だに睨み続けている。

 「お爺ちゃんを元気にしたかったの!」
 「儂の心配なんざせんでえぇっ!お前に心配されるほど耄碌はしとらんっ!!」
 「お客さん連れてきたのになんで殴るの!?」
 「お主が知らん奴らに着いていこうとしたからじゃ!!」
 「知ってる人達だったもん!!」
 「そういうことを言っとるんじゃない!!」

 この爺にしてこの孫有りということだろうか。ガウディの大声が轟音ならば、カティの大声は金切り声である。耳を塞いでいても効果がないんじゃないかと言わんばかりで、工房だけではなく当然外にまでその声はダダ漏れ、入口にはなんだどうしたと人集が出来ている。
 言い争いを続ける2人はそんな人集にも気付かない様子で、中にいる緑朗太もどうしたものかと困り果ててしまった。

 「ガウディ氏、その辺にしてください。」
 「誰じゃ!!?――シム…お前さんか…」
 「シムさん!」

 そんな2人に割って入ったのはガウディと同じく頭に鉢巻きを巻いた浅黒い肌の男性であった。ガウディの様なドワーフではなく人間であるが、ひらべったくて角張った顔に、マーヴィスを彷彿とさせる体格の良さである。着ているタンクトップ状のシャツと両手の軍手は黒ずんでおり、一目で職人のそれとわかる風貌である。
 ガウディの知り合いということらしく、あれだけ怒鳴っていたガウディが大人しくなり、カティもその男性を見るや大喜びである。

 「なんじゃあ…って、なんじゃお前さんらはとっとと散れ!!」

 漸く現状に気付いたガウディがシムと呼ばれた男の背後に居るギャラリーを一喝する。蜘蛛の子を散らすように逃げていくギャラリーにふん、と鼻を鳴らして面白くなさそうな顔をするガウディ。シムはそんなガウディに呆れた様子で深い溜息を吐いた。

 「ガウディ氏、あまり皆を怖がらせないいただきたいものですな。」
 「ふんっ、儂の勝手じゃろうが!!」

 ガウディの怒声が飛ぶものの、シムと呼ばれた男は気にもしていない。緑朗太に至っては腰を抜かしてしまったというのに、怒鳴られることなんてなんのそのと言った雰囲気で話込んでいる。
 当初こそシムはガウディが理不尽に怒っているものだと思っていたのだが、カティが誘拐されかけた話を聞かされれば、ガウディがこのような状態になるのは仕方がないかと納得をし、未だ怒り収まらないカティの目の前にしゃがみ込んだ。

 「いいかい、カティちゃん。その人達はカティちゃんを知らない人のところに連れて行こうとしたんだよ?」
 「シムさんまでそんなこと言う!違うもん!良い人達だったの!!カティをそのお客さんのもとに案内してくれたんだから!!」
 「お客さん?」

 腰を抜かしている緑朗太に気付いて、目を細めて不審がるシム。が、ガウディから「そいつがカティを助けてくれたんじゃ」と聴かされると、我が子の事のように緑朗太に感謝を述べた。
 腰を抜かした状態で感謝を言われるという情けない状況では緑朗太の口からは乾いた笑いしか出ず、申し訳なさそうに手を貸してもらって立ち上がることが出来た。

 「ありがとうございます。彼女の危ないところを助けていただいたそうで…紹介が遅れました、私は向かいの工房で工房長を努めている【シム】と申します。」
 「いえ、当然のことですので…すいません、俺がここに来たことが状況を面倒なことにしてしまったみたいで…。」
 「はははは…あの年頃の子供は頑固ですから。特にガウディ氏の血筋が入ってるだけのカティちゃんは特に。」

 緑朗太はわかる気がすると賛同しながらも、それを口にはしない。シムの真後ろでガウディが凄まじい目で睨みつけているからである。何か話題転換をしようかとも思ったのだが、緑朗太が口を開く前に、彼の腹の虫が音を立てた。

 「すみません…昼飯まだなもんで…。」

 気まずそうに頭を掻き、あはははと誤魔化し笑いを発する緑朗太だったが、それまで怒っていたはずのカティのお腹からも、緑朗太と同様に空腹を告げる音が鳴る。すっかり怒る雰囲気ではなくなってしまったと肩を竦めるガウディと、呆気にとられたシム。

 「お腹…空いた……」
 「ははっ、それでは皆でご飯にしましょうか。ガウディ氏も一緒に来てください。」
 「……ふんっ…」

 シムの誘いにガウディは一度鼻を鳴らしただけで工房の裏側へと引っ込んでしまった。場の空気が白けても、うちの怒りは収まりきっていないようで、シムも仕方がないと諦めて緑朗太とカティを連れて自身の工房へと向かうのであった。
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