悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

望百千もち

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本編

39.緊張

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·······俺の聞き間違いかな。
さっき御隠居様の口から楼透を殺せって言われた気が···。


「いんや·····この言い方では語弊があるでな」

「楼透を助けてやって頂きたい」



御隠居様は目をうろつかせながらそう言う。
さっきから殺せだの、助けて欲しいだの言っている意味が分からない。何が言いたくないことでもあるんだろうか?雰囲気を察するにそんな感じもする。



「······つまり、私にどうしろと?」

「···楼透に、主である律花様から引導を渡して頂きたい」



方法は手紙のみ。
楼透には今は会わせられないと言う。何故と聞けば、乱れた心を正す為に蓮家に古くから伝わる修行を行っているからその間は会わせられないらしい。その修行が終わるのは楼透次第だとかなんとか······。

それじゃ言っていることがめちゃくちゃだ。


今回の事件でいくら俺が傷ついたとはいえ、幼い頃から俺と楼透が一緒に育って、俺や兄貴は楼透と話し合いがしたくて呼び戻そうとしてたことはこの御隠居様も分かっている筈だ。···それなのに、なんで······。



「律花様、御隠居様、発言宜しいでしょうか」


返事に困惑した俺に不知火さんからの助け舟。
重くなった空気が少しだけ軽くなる···。



「お言葉ですが、御隠居様。どの様な意図で律花様にそのようなことを申せられるのか、私には皆目見当もつきません。増してや律花様のお気持ちを考えられた上のお言葉とは思えません」

「んだな。儂も酷いことを申し上げておるのは重々承知じゃ·······。しかし古き長い鴉の一族である蓮家にとって、此度楼透の起こした一件は例え主である律花様が許そうとも見過ごせんだ···」

「では、何故律花様にそのような事をお頼み申し上げるのでしょう?」

「儂は律花様の手ずから楼透を殺めて欲しいと言っているのではないだよ。あれでも楼透は直系だ···主からの命令とあらば従うのは当然。···禅羽、分家とは言えあの不知火の次男で優秀なお主は分かっておるだな?」



不知火さんはその一言で黙ってしまう。
蓮家の暗黙のルールなのだろうか。俺には主と従者の関係が分からないけれど、主絶対主義···と言ったところか。だから俺に楼透へ『死ね』と言えと言っている。それが何故楼透への助けになるのかは知らない。俺には家の汚点を消したい、そう言っているようにしか思えない。


「それでも俺は──」

「そして律花様にはここは美園の領分で無いことはご理解頂きたい。蓮には蓮のやり方がある······立場はこちらが下とは言え、その点は心に留めて頂きますだ·······」


·······ごくり。
突然変わった御隠居様の雰囲気に息を呑む。
これは俺への警告か、それとも脅しか·······どちらにせよ、蓮家にお世話になる間は下手に動くと俺の身さえもヤバいのかもしれない·······。視線だけ不知火さんに向けると、こくりと僅かに頷く。·······やっぱりか。


「勿論、蓮へ滞在の間は丁重におもてなしさせて頂く所存、この件の返事は追々で宜しい、折角このような秘境の地へおいでくだすった···ゆっくりして行くと良いですだな」


ゴホゴホと咳き込むと御隠居様は、体が辛くなったと言って謝り挨拶はこの辺で終わりと言うことになった。俺には何も言わせず、自分の意志を貫いた御隠居様に感心する。···悪い意味でな。

俺も流石に病人に詰め寄る訳にはいかずに渋々引き下がった。










「·······はぁ」

不知火さんに先導され、部屋に戻るとぶわぁと緊張の糸が解けたのか俺はその場に座り込んだ。···あの雰囲気の変わりようは本当に冷や汗が出た。


「···お疲れ様でした。こちらの部屋は私の術を幾重にも張り巡らしておりますから、いつものように安心して寛いで下さい」

「ありがと······疲れた」

「そうだと思います。御隠居様は今は隠居の身であるとは言え、蓮家発起以来の能力者ですから···私でさえあの場は緊張しました。律花様がお疲れも御尤もです」


そう苦笑する不知火さんに癒される···。人間辛いことがあると直ぐ癒しを求めるものだ······なんか不知火さんてお母さん的な癒し感があるんだよなぁ。




「不知火さん·······俺まだ話についていけてないんだけどさ」


結局の所、現状は下手に動くとヤバい。
御隠居様の話では罪を犯した楼透の処罰は楼透自身が自殺すること。
でも主至上主義の蓮家では多分、家よりも自分が仕えてる主の方が格上で主の命令は絶対。だから楼透は自分の意思で修行?して心を入れ替えようとしてるけど、蓮家としては汚点である楼透を消したい。

でも俺は楼透を連れ戻し一緒に帰りたい。
死んで欲しくない。

でも蓮家としては楼透に死んで欲しくて···。


「·······みたいな感じであってる?」
「·······えぇ、凡そですが」


俺の鞄の中から衣類を取り出しつつ(許可済み)不知火さんは答える。そう洗濯物を畳んでるのをみるとやっぱお母さんだなぁと思う。···うちの母さんはまぁあんな感じだったから母さんってより兄ちゃんって感じの癒しだったけど。


「蓮家は実力主義が第一です。···楼透さんは直系であるにも関わらずその中でも随一力の弱い方でした。ですから、元々敵の多い方ではあったんです···」


まさか、ここまで忌み嫌われて居たなんて···。
そう呟く不知火さんは悲しそうに目を伏せた。

···それは楼透自身があの日話を聞いた時に言っていた。でも実際を知ってしまうと同情じゃないけど可哀想にも思える。許せた訳じゃない。けどそれは俺にも···っていうかあのダ女神のクソ加護のせいもあったんだろうし、それを思うと一概に楼透だけのせいって訳じゃないから···。



「俺は楼透と話したい。·······蓮家の主と従者の関係とかルールとか分からないけど、死にたいとか思っていい筈ないし、死んでいいとかあっていい訳がない。楼透は悪いけど悪くない。だから·······」


自分で言ってて訳わかんなくなってきた。
·······なんでこの世界はそう簡単に『死』を受け入れるのか。父さんと母さんの様に受け入れなくてはいけないこともあるけど、楼透の場合は違う。まだ生きてるし、まだ生きられるし、···それを死んでいいとかおかしい。


「楼透を助けたい。楼透の本当に助けになる事が何が知りたい」
「······律花様はお優しいですね」
「···優しくない」
「いいえ、律花様は私たちの家の事も、私たちの心も考えて下さっている·······楼透君が律花様に憧れた気持ちは分かります。律花様の様な主様に巡り会えたこと、この不知火禅羽は嬉しく思います」
「うぅ·······不知火さん」
「心身共にお疲れでしょう。本日は温泉に浸かってはどうでしょう?楼透さんの事は私も考えます故、先ずはお気持ちを落ち着かせた方が宜しいかと」
「·······秘境温泉!!」


ズーンと沈んだ気持ちが秘境温泉の四文字にふわりと浮き足立つ。
温泉·······!!
10年くらい前の家族旅行以来だ。やっぱり日本人(元)は昔から温泉の二文字に安らぎと幸福を与えられて来たに違いない。

不安は沢山あるけど、不知火さんがいるから安心だ。
それに御隠居様からの依頼についても下手に動かなければ大丈夫な筈。色々考えないといけないことばっかだけど、脳内容量の少ない俺は直ぐ爆発する。今くらい温泉に浸かって不知火さんの言う通り気持ちを落ち着かせるくらい問題無いだろう!


「では、ご案内しますね。あぁ、御隠居様のお話ですが早々に手を出すことは為さらないでしょう。鴉とは言えど、任務外での妨害行為は後処理が面倒なので相応の準備をしてからでないと動けません。私も傍に控えておりますから、ご安心を。何かあれば直ぐに私の名を呼んでください」


···お、おぅ。
不知火さんがいるから安心、とか思ってた俺···。
········ちゃんと自分で自衛する方法も考えないと駄目だぞ。



















『キュェー♡ギーギー♡』

「·······で、何でククリコッコさん此処へ?」
「律花様は懐かれておいでの様ですね」


体長約5m。見た目デカいニワトリ。
ただし、ニワトリと違って白い羽に混在する様々な色の羽。
そんなモンスター(?)と一緒に現在混浴中だ。
淡い翡翠色の温泉に色とりどりの羽がぷかぷかと浮いている。


「ククリ、律花様の邪魔をしてはいけませんよ」

『ギー?』

「律花様はお疲れなのです」

『ギュィ』

「いい子ですね。また後で遊んであげますから」

『キュェっ!キュキュギュゥっ』


·······なんか話が通じてる?
ククリコッコの頭を撫でると不知火さんはにこりと微笑んだ。頭を撫でられて嬉しくなったのかククリコッコは不知火さんに突撃する勢いで激しくスリスリ。···って、こっちにも来んのかいっ!!俺も巻き込まれてスリスリの猛攻を受ける。若干嘴が当たって痛い。


『ギュェっ』


そう言う(?)とククリコッコは器用に片腕をフリフリと振るとバサバサ羽音を鳴かせ温泉を後にした。時折止まってぶるぶるっと体を震わせる姿がなんか···可愛いかもと思ってしまった。

さて、温泉のレビューに戻るがこれはなかなか···。
透明度の高いお湯と微かに柑橘系の香りがする。不知火さん曰く、少し山を登った先に蜜柑の木だけが生える場所があるのだとか、香りはそれが影響してるのかもしれないとこ事だった。······いやぁ、それにしても·······気持ちいい。

·······温泉、サイコー·······!



「······誰です」


ん···?
不知火さんが険しい表情で片膝を上げ、懐に手をかける。


「失礼致す、御隠居様から伝言を承りまった」

「···何用でしょう?」

「東の山と南の蔵付近には近づくなとの事です。近頃、その辺で猛獣の目撃情報が。禅羽さんがいらっしゃるなら心配はござらんが、その辺には罠を多く張っております故に」

「分かりました。有難う存じます、そうお伝え下さい」

「それでは、失礼致しまする」



俺のところからじゃ、見えなかったけどどうやら伝言を伝えに来てくれたらしい。少しして警戒を解く様子を見せる不知火さん。

···なんかずっと思ってたけど蓮家の人って言葉遣いが独特だから近寄り難い印象なんだよな···。まぁ蓮家なりの礼節を保つって意味なら間違っては居ないんだろうけど。
でも最近は不知火さんとも打ち解けてきてる気がする。···と言うか色々俺がお世話になりっぱなしな訳だけど。楼透とも昔はこんな感じだったっけ···?もうどんな風に接してたかなんて忘れた。·······それだけ遠ざけてたって事だけど。


「不知火さん、改めて宜しくお願いします」


そう言うと俺は頭を下げる。温泉の中からだから格好つかないし、流石に深くは下げられなかったけど···こうしたい気分だった。


「律花様」
「······うっ、これくらいは改めさせてくれよ!」
「···くす。はい、承りました」


折角、俺なりに改めたつもりだったのに。
からかわれた気分だ。



·······よし。
それじゃ、温泉を出たら作戦会議と行きますか。
·······風呂上がりのコーヒー牛乳とかないよな。
考えてただけで飲みたくなってきた···。
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