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本編
52.影響
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「······兄貴はともかく、何で先輩も乗ってんの···?」
「本当にね。いくら従兄弟でも図々しいよね」
「事情を聞いてしまった以上俺も部外者では無いからな、話し合いに同席する」
「図々しいのはその体格だけにしてほしいよね」
「弟思いなのは良いが今回といい、それが足枷にならんといいな」
「ご忠告有難うございます、先輩」
と、まぁこんな感じで馬車内部では昨日を境に現在進行形でバチバチしてる。父さんと伯父さんが犬猿の仲だったってのは子供にも遺伝するんだろうか。ゲームシナリオではこんなにギスギスしてなかったから分からんけど。
胃が痛くなってきた俺は馬車の窓から見える遠くの景色に集中した。どっちかに同調すると調子乗るし挑発するし、むしろ俺が話しかけない方が平和な気がする。
結局馬車に乗るのに兄貴の手を取ろうとすると明らかにしゅんと眉の下がる先輩、先輩の手を取ろうとすると先輩へ向けられる並々ならぬ殺気、どっちも面倒臭いのでどちらも躱して自分で乗ったわ。
それで兄貴曰く、怪我の治りきっていない俺を心配して迎えに来たと。先輩曰く、事情を知ってしまった第三者として美園と蓮家の話し合いに参加することになり、先輩もこれから美園家へ向かうと言う時に兄貴が俺を迎えに馬車で来てたので便乗して俺を待ってたと。
まぁ、それだけ聞くと二人して迎えに来た、待ってた理由として腑に落ちたけどこの現状······。遠い空を眺めながら後ろのバチバチを感じつつ俺はため息をついた。
暫くして先輩に肩を叩かれ家に帰ってきた事に気づいた。
現実逃避してたからな、気づかないのも仕方ない。
馬車を降りると(またしても躱した)楼透と禅羽さん、そして蓮家の方達だろう数人が玄関扉の前で頭を下げて待っていた。
「早かったですね」
「······この度は誠に申し訳御座いませんでした」
恐らく代表と見られる人に兄貴が一言。
声をかけられた人は更に頭を深く下げる。
「···兄貴、何でそんな高圧的に言ってんだよ」
「怖かった?ごめんね。···取り敢えず応接間に向かいましょうか」
「はい、恐れながら」
口では謝りつつも決して口調は変えず兄貴はそう言って蓮家の人達を応接間に案内するように使用人に指示を出す。使用人に案内されて蓮家の代表達と共に応接間に向かう楼透の後ろ姿や歩みからは聞かされていた通り大きな怪我も無いらしい。しゃんと伸びた背筋、あいつは本当変わらないな。不思議なのは肩に乗せた真っ黒い鳥のぬいぐるみ······ぬいぐるみ!?
「兄貴······あれ、楼透だよな?」
「どうしたの?」
「え、おかしくない!?」
「何が──」
「肩にぬいぐるみ乗せてんだよ!?」
何がなんでもおかしいのかと言わんばかりの兄貴の表情に蓮家一行はまだ背中の見える所にいるというのに大声を上げてしまった。振り向く蓮家一行、そして──、
『リカ!私が視えるのか!』
そう叫びながら楼透の肩から俺の目の前数センチの所へ飛んできたぬいぐるみ。···いや、よく見たらぬいぐるみじゃない······?カラス?
『綿人形と形容するとは···クククァ』
『呪いの人形の次は綿人形か』
ぬいぐるみはパタパタと羽を動かしながらそう言った。
······もしかして──?
「······律花様も視えるのですね」
「楼透」
ぬいぐるみ、改め黒いカラスに気を取られている間に楼透が近づいて来て神妙な面持ちでそう言った。律花様もって·····お前も見えてるって事なのか······?
俺たちはそのまま応接間に移動することになった。
黒いカラスは楼透と俺以外には視えていないらしい。
移動中俺の周りをくるくると上機嫌に飛び回るカラス、目が回りそうだ。それでも俺と楼透以外には視えていないこともあって気にする素振りをする人はいなかった。
応接間に着き、各々椅子に座ると話し合いが始まった。
俺と楼透に視えるカラスの事は一旦置いておき今回の事について。
「先ず始めに蓮家現当主である私、 蓮 蔵之丞より御礼を申し上げますと共に、此度の件の処遇をお伺いしたく参りました。蓮としては美園殿に全ての事において処遇をお任せ致します」
と言って蓮家当主、楼透のお父さんは頭を下げる。
蓮家代表とは知っていたがまさかの現当主で驚いた。
俺が蓮家に滞在していた間は夫婦で揃って修行の期間で祈祷を兼ねて山奥にこもっていたらしい。楼透の記憶を覗いた時に冷たい人達だと思っていた楼透の両親は冷たい、と言うよりはむしろ優しそうな雰囲気があった。
「我ら蓮の血族は一族として成り立つその以前より『鴉の呪い』によって自身の感情を制限され、呪いの本質を受け継いだ者は力の暴走で自身を破滅させたか一族の手にかかったか······自ら孤独からの自死を選んだ者もいたと記録があります」
「お恥ずかしながら、私と妻の雪羅は息子が呪いを受け継いだ事を知り自身の無力さに修行を重ね、祈る事しか出来なかった。その折に焔様と遙河様から律花様の従者にとお声がけ頂きました」
「楼透から律花様はご存知と聞きましたが、今思えば解呪の方法を探るためとは言え、私達はもっと楼透に関心を向けるべきだった···。気づいた時には楼透は······」
「私情を挟み申し訳御座いません。後悔しても我々の行動が呪いを助長し、律花様へ多大なるご迷惑をお掛けした事に変わりはありません。この度の律花様のご訪問もこちらの不備、不手際はあれど律花様には全くの非は御座いません」
しかし今回解呪された事で昨夜の蓮家では未だに混乱する人、今まで制限されてた感情が暴走して泣き続ける人、まさに狂喜乱舞······兄貴が連絡取った時に魔道具越しから聞こえた声はそういう事だったらしい。
「感情を制限って···?」
「律花様は例えばですが、嬉しい事があった時どうしますか?」
どうしますかって······。
本当に嬉しい事があったら両手を上げて喜ぶ···か?都築さんのマドレーヌがおやつに出てきたら思わずスキップするくらいの自信はある。
「我々の場合は思うだけ、なのです」
「······え?」
「思うだけと言うのは少々語弊がありますが、勿論仕事には努めます。感謝もしますし、述べます。罪悪感もありますし、謝罪も心の底から思います。······ただそこに『感情を表す動き』が無かったら── 」
「······私も一度蓮領地の外で働いたことがあります。しかし直系と言うこともあったのでしょうか、主人が変わっても皆口を揃えて『お前は愛想が無いのか』と主人と敵対関係の客人には『人でなし』『まるで機械のようだ』と」
そう言われると楼透の行動に思い当たる気がする。
でも──。
「感情の制限は嬉しい楽しいといった明るい感情は抑制し、反対に辛い苦しいといった負の感情を助長させます。だからこそ蓮の人間は負の感情に飲まれぬよう幼少より修行の名で精神を鍛え、殆どの者は負の感情を顔を出さぬようにしております。しかし呪いの本質を受け継いでしまった楼透は──」
皆静かに聞いていた。
俺もその説明を聞いてやっと楼透の苦しかった意味が分かった。
嬉しい楽しいも辛い苦しいも表現出来ないもどかしさ、自分の思っていることが相手に正しく伝わらない無力感。文の人生の黒歴史だった反抗期の時の自分と重なる気がした。反抗期の俺は伝わらない事にイラついてたけど、楼透は伝わらないと言う事に諦めていたんじゃないだろうか·····?
「勿論感情の制限には個人差があります故に一族の中にも禅羽も然り外へ出ても問題の無い者もおります、特に血筋の薄い傍系支流の守柄や東雲は先祖返りで無い限り常人と変わりません」
「先代も律花様には行き過ぎた言動を取って申し訳無かったと伝言を預かっております。この度は我々の私情によって巻き込んでしまい申し訳御座いませんでした」
なるほど、確かに言葉は硬いけど比較的禅羽さんは話しやすかったのか。一通り蓮家の事情を説明され、俺としては許す許さないも何も元はと言え俺が首を突っ込んだのが悪い。俺に対しての謝罪は必要ないと伝えたけれど蓮家の呪いの件で混乱する中、五家の美園の次男で楼透が仕えていた俺に怪我をさせたと言うこともあり蓮家としては何らかの処遇があるべきだと考えているらしい。
ほんとに俺に対しての謝罪なんて要らないんだけどな。
むしろ、楼透に謝ってやって欲しい。確かに呪いの影響がどれほどの物なのかなんて当主様達本人にしか分からないし、本当に楼透本人の事を気にかける余裕が無かったとしても楼透の寂しいって気持ちを見てしまったから······色んな事情があるにすれその点には割り切れない気持ちがある。
「······兄貴、どうなんの?」
話し合いの冒頭から今までずっと静かに聞いていた兄貴。
いくら当事者間の話し合いとは言っても、最終的に決めるのは美園の代表である兄貴と蓮家当主だ。それに重度のブラコンを拗らせてる兄貴が俺の意見を汲んでくれるかは兄貴次第だ。
「そうですね、先ずは突然の訪問ながら弟を受け入れて下さり有難うございました。しかしながら僕としては大事な弟が怪我を負ったと聞いた時点で相応の対処はしようと思っていました。ですが······そちらの事情を聞いて、勿論弟の意見もあり処遇と仰られましたが、その点僕からは何も言えません」
兄貴はそう前置きしてから俺の方を見た。
「だから、律花はどうしたい?」
「俺?」
「そう、律花は謝罪は要らないと言ったけれど···。
律花の怪我はもう公になっているからね」
「······どう言うことだ?」
俺の意見を聞いてくれるのかと思ったら兄貴はふぅと一つ息を置いてからそう言った。俺の怪我が噂になってるから?だからどうしたんだ?
何故か、兄貴と先輩が可哀想な子を見る目をしている。
心做しか楼透は呆れたと言った様子で······ほんとに解呪したのか?
「そうだね。律花が要らないと言うなら仕方がないけど、そうなると蓮家の体面が悪くなっちゃうんだよ。意味、分かるかな?」
「お前の気持ちも分からなくないが他領に訪問中に怪我をしたならば、その領地を統治している者にも責任が生じる。まして統治一族の問題もあるならば尚のこと」
「······正直に俺に馬鹿って言ってくれないかな?」
ここは日本じゃない。ましてや噂話の多い貴族間での話し合いにおいて、既に噂話としてでも公になってしまっている以上はごめんなさい、はい分かりましたでは余程の理由が無ければ済まないらしい。
「だったらどうすれば良いんだよ?」
「律花が欲しいものは何?」
「は?」
「お金?土地?欲しいものを貰っておけば良いんじゃないかな」
つまり示談金、もしくはそれに準ずる物を請求しろってことらしい。
噂話さえ出てなければこんな心苦しいことしなくてすんだのに······。
『暗黙の了解と言うやつカァ?全く面倒極まりないな』
お忘れかと思うけど楼透と俺にしか見えないカラスはずっと俺たちの頭の上を旋回したり、頭の上に乗って欠伸をしたりとやりたい放題してた。
どうしよう、こいつの事も気になるんだけど話を進めるにはその示談金の金額を決めたりとかしないといけないんだよな···。俺司法の勉強したことないし、訴える前に死んだから弁護士に相談したこともないし······。
どうすればいいんだ···。
「本当にね。いくら従兄弟でも図々しいよね」
「事情を聞いてしまった以上俺も部外者では無いからな、話し合いに同席する」
「図々しいのはその体格だけにしてほしいよね」
「弟思いなのは良いが今回といい、それが足枷にならんといいな」
「ご忠告有難うございます、先輩」
と、まぁこんな感じで馬車内部では昨日を境に現在進行形でバチバチしてる。父さんと伯父さんが犬猿の仲だったってのは子供にも遺伝するんだろうか。ゲームシナリオではこんなにギスギスしてなかったから分からんけど。
胃が痛くなってきた俺は馬車の窓から見える遠くの景色に集中した。どっちかに同調すると調子乗るし挑発するし、むしろ俺が話しかけない方が平和な気がする。
結局馬車に乗るのに兄貴の手を取ろうとすると明らかにしゅんと眉の下がる先輩、先輩の手を取ろうとすると先輩へ向けられる並々ならぬ殺気、どっちも面倒臭いのでどちらも躱して自分で乗ったわ。
それで兄貴曰く、怪我の治りきっていない俺を心配して迎えに来たと。先輩曰く、事情を知ってしまった第三者として美園と蓮家の話し合いに参加することになり、先輩もこれから美園家へ向かうと言う時に兄貴が俺を迎えに馬車で来てたので便乗して俺を待ってたと。
まぁ、それだけ聞くと二人して迎えに来た、待ってた理由として腑に落ちたけどこの現状······。遠い空を眺めながら後ろのバチバチを感じつつ俺はため息をついた。
暫くして先輩に肩を叩かれ家に帰ってきた事に気づいた。
現実逃避してたからな、気づかないのも仕方ない。
馬車を降りると(またしても躱した)楼透と禅羽さん、そして蓮家の方達だろう数人が玄関扉の前で頭を下げて待っていた。
「早かったですね」
「······この度は誠に申し訳御座いませんでした」
恐らく代表と見られる人に兄貴が一言。
声をかけられた人は更に頭を深く下げる。
「···兄貴、何でそんな高圧的に言ってんだよ」
「怖かった?ごめんね。···取り敢えず応接間に向かいましょうか」
「はい、恐れながら」
口では謝りつつも決して口調は変えず兄貴はそう言って蓮家の人達を応接間に案内するように使用人に指示を出す。使用人に案内されて蓮家の代表達と共に応接間に向かう楼透の後ろ姿や歩みからは聞かされていた通り大きな怪我も無いらしい。しゃんと伸びた背筋、あいつは本当変わらないな。不思議なのは肩に乗せた真っ黒い鳥のぬいぐるみ······ぬいぐるみ!?
「兄貴······あれ、楼透だよな?」
「どうしたの?」
「え、おかしくない!?」
「何が──」
「肩にぬいぐるみ乗せてんだよ!?」
何がなんでもおかしいのかと言わんばかりの兄貴の表情に蓮家一行はまだ背中の見える所にいるというのに大声を上げてしまった。振り向く蓮家一行、そして──、
『リカ!私が視えるのか!』
そう叫びながら楼透の肩から俺の目の前数センチの所へ飛んできたぬいぐるみ。···いや、よく見たらぬいぐるみじゃない······?カラス?
『綿人形と形容するとは···クククァ』
『呪いの人形の次は綿人形か』
ぬいぐるみはパタパタと羽を動かしながらそう言った。
······もしかして──?
「······律花様も視えるのですね」
「楼透」
ぬいぐるみ、改め黒いカラスに気を取られている間に楼透が近づいて来て神妙な面持ちでそう言った。律花様もって·····お前も見えてるって事なのか······?
俺たちはそのまま応接間に移動することになった。
黒いカラスは楼透と俺以外には視えていないらしい。
移動中俺の周りをくるくると上機嫌に飛び回るカラス、目が回りそうだ。それでも俺と楼透以外には視えていないこともあって気にする素振りをする人はいなかった。
応接間に着き、各々椅子に座ると話し合いが始まった。
俺と楼透に視えるカラスの事は一旦置いておき今回の事について。
「先ず始めに蓮家現当主である私、 蓮 蔵之丞より御礼を申し上げますと共に、此度の件の処遇をお伺いしたく参りました。蓮としては美園殿に全ての事において処遇をお任せ致します」
と言って蓮家当主、楼透のお父さんは頭を下げる。
蓮家代表とは知っていたがまさかの現当主で驚いた。
俺が蓮家に滞在していた間は夫婦で揃って修行の期間で祈祷を兼ねて山奥にこもっていたらしい。楼透の記憶を覗いた時に冷たい人達だと思っていた楼透の両親は冷たい、と言うよりはむしろ優しそうな雰囲気があった。
「我ら蓮の血族は一族として成り立つその以前より『鴉の呪い』によって自身の感情を制限され、呪いの本質を受け継いだ者は力の暴走で自身を破滅させたか一族の手にかかったか······自ら孤独からの自死を選んだ者もいたと記録があります」
「お恥ずかしながら、私と妻の雪羅は息子が呪いを受け継いだ事を知り自身の無力さに修行を重ね、祈る事しか出来なかった。その折に焔様と遙河様から律花様の従者にとお声がけ頂きました」
「楼透から律花様はご存知と聞きましたが、今思えば解呪の方法を探るためとは言え、私達はもっと楼透に関心を向けるべきだった···。気づいた時には楼透は······」
「私情を挟み申し訳御座いません。後悔しても我々の行動が呪いを助長し、律花様へ多大なるご迷惑をお掛けした事に変わりはありません。この度の律花様のご訪問もこちらの不備、不手際はあれど律花様には全くの非は御座いません」
しかし今回解呪された事で昨夜の蓮家では未だに混乱する人、今まで制限されてた感情が暴走して泣き続ける人、まさに狂喜乱舞······兄貴が連絡取った時に魔道具越しから聞こえた声はそういう事だったらしい。
「感情を制限って···?」
「律花様は例えばですが、嬉しい事があった時どうしますか?」
どうしますかって······。
本当に嬉しい事があったら両手を上げて喜ぶ···か?都築さんのマドレーヌがおやつに出てきたら思わずスキップするくらいの自信はある。
「我々の場合は思うだけ、なのです」
「······え?」
「思うだけと言うのは少々語弊がありますが、勿論仕事には努めます。感謝もしますし、述べます。罪悪感もありますし、謝罪も心の底から思います。······ただそこに『感情を表す動き』が無かったら── 」
「······私も一度蓮領地の外で働いたことがあります。しかし直系と言うこともあったのでしょうか、主人が変わっても皆口を揃えて『お前は愛想が無いのか』と主人と敵対関係の客人には『人でなし』『まるで機械のようだ』と」
そう言われると楼透の行動に思い当たる気がする。
でも──。
「感情の制限は嬉しい楽しいといった明るい感情は抑制し、反対に辛い苦しいといった負の感情を助長させます。だからこそ蓮の人間は負の感情に飲まれぬよう幼少より修行の名で精神を鍛え、殆どの者は負の感情を顔を出さぬようにしております。しかし呪いの本質を受け継いでしまった楼透は──」
皆静かに聞いていた。
俺もその説明を聞いてやっと楼透の苦しかった意味が分かった。
嬉しい楽しいも辛い苦しいも表現出来ないもどかしさ、自分の思っていることが相手に正しく伝わらない無力感。文の人生の黒歴史だった反抗期の時の自分と重なる気がした。反抗期の俺は伝わらない事にイラついてたけど、楼透は伝わらないと言う事に諦めていたんじゃないだろうか·····?
「勿論感情の制限には個人差があります故に一族の中にも禅羽も然り外へ出ても問題の無い者もおります、特に血筋の薄い傍系支流の守柄や東雲は先祖返りで無い限り常人と変わりません」
「先代も律花様には行き過ぎた言動を取って申し訳無かったと伝言を預かっております。この度は我々の私情によって巻き込んでしまい申し訳御座いませんでした」
なるほど、確かに言葉は硬いけど比較的禅羽さんは話しやすかったのか。一通り蓮家の事情を説明され、俺としては許す許さないも何も元はと言え俺が首を突っ込んだのが悪い。俺に対しての謝罪は必要ないと伝えたけれど蓮家の呪いの件で混乱する中、五家の美園の次男で楼透が仕えていた俺に怪我をさせたと言うこともあり蓮家としては何らかの処遇があるべきだと考えているらしい。
ほんとに俺に対しての謝罪なんて要らないんだけどな。
むしろ、楼透に謝ってやって欲しい。確かに呪いの影響がどれほどの物なのかなんて当主様達本人にしか分からないし、本当に楼透本人の事を気にかける余裕が無かったとしても楼透の寂しいって気持ちを見てしまったから······色んな事情があるにすれその点には割り切れない気持ちがある。
「······兄貴、どうなんの?」
話し合いの冒頭から今までずっと静かに聞いていた兄貴。
いくら当事者間の話し合いとは言っても、最終的に決めるのは美園の代表である兄貴と蓮家当主だ。それに重度のブラコンを拗らせてる兄貴が俺の意見を汲んでくれるかは兄貴次第だ。
「そうですね、先ずは突然の訪問ながら弟を受け入れて下さり有難うございました。しかしながら僕としては大事な弟が怪我を負ったと聞いた時点で相応の対処はしようと思っていました。ですが······そちらの事情を聞いて、勿論弟の意見もあり処遇と仰られましたが、その点僕からは何も言えません」
兄貴はそう前置きしてから俺の方を見た。
「だから、律花はどうしたい?」
「俺?」
「そう、律花は謝罪は要らないと言ったけれど···。
律花の怪我はもう公になっているからね」
「······どう言うことだ?」
俺の意見を聞いてくれるのかと思ったら兄貴はふぅと一つ息を置いてからそう言った。俺の怪我が噂になってるから?だからどうしたんだ?
何故か、兄貴と先輩が可哀想な子を見る目をしている。
心做しか楼透は呆れたと言った様子で······ほんとに解呪したのか?
「そうだね。律花が要らないと言うなら仕方がないけど、そうなると蓮家の体面が悪くなっちゃうんだよ。意味、分かるかな?」
「お前の気持ちも分からなくないが他領に訪問中に怪我をしたならば、その領地を統治している者にも責任が生じる。まして統治一族の問題もあるならば尚のこと」
「······正直に俺に馬鹿って言ってくれないかな?」
ここは日本じゃない。ましてや噂話の多い貴族間での話し合いにおいて、既に噂話としてでも公になってしまっている以上はごめんなさい、はい分かりましたでは余程の理由が無ければ済まないらしい。
「だったらどうすれば良いんだよ?」
「律花が欲しいものは何?」
「は?」
「お金?土地?欲しいものを貰っておけば良いんじゃないかな」
つまり示談金、もしくはそれに準ずる物を請求しろってことらしい。
噂話さえ出てなければこんな心苦しいことしなくてすんだのに······。
『暗黙の了解と言うやつカァ?全く面倒極まりないな』
お忘れかと思うけど楼透と俺にしか見えないカラスはずっと俺たちの頭の上を旋回したり、頭の上に乗って欠伸をしたりとやりたい放題してた。
どうしよう、こいつの事も気になるんだけど話を進めるにはその示談金の金額を決めたりとかしないといけないんだよな···。俺司法の勉強したことないし、訴える前に死んだから弁護士に相談したこともないし······。
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