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本編

58.五家会議

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「それでは五家会議を始めるとしよう」


重々しく開会の声を上げたのは伯父。
円卓に等間隔に置かれた椅子へは五家当主が四人と兄が座った。俺と先輩、あと三人知らない人がいるんだけど···俺たちは壁際に一列に並んだ椅子に座り会議の様子を見ている。


「五家が厳島、厳島玄登」
「五家が浅霧、浅霧あさぎり雨霞うか
「五家が常磐、常磐ときわ寂蓮じゃくれん
「五家が満星、満星みつほし蘭馬らんま

「五家、美園は嫡男美園燈夜が後継としてご挨拶申し上げます」


順番に名前をあげると最後に兄貴が立ち上がり礼をした。今回の会議の議長は伯父が務めるのか、礼をした兄に座るよう合図をした。兄はもう一度礼をすると改めて椅子に座る。





「さて······今回の美園の件だが」



伯父の話を要約すると会長から聞いた話と差異はない。
新たな情報とするなら、両親の行方が分からなくなったのはローガ州西部にある村だった。しかし権藤田さんが父を見たというのはアルバ州の東部······厳島領からディアルタリカ本島へ上陸して直ぐにある地方のようだ。若干の誤差はあるものの本島の西部と東部真逆の場所での目撃情報に空気が動いた。

「現状では新たな目撃情報は無いのでしょう?」
「ああ」
「どうしましょうねぇ···」
「行方を見失ったローガのドゥラ村は常磐領の隣、全力をあげ捜索したが僅かな手掛かりも見つからん······ワシらに出来ることはない。早う見つかるよう祈るしかないがな」
「······寂蓮、その言い方はどうかと思いますが」
「まあまあまあ、雨霞兄さんも止めよって、蓮さんも言い方っちゅうもんありますし、子供らはこんな辺鄙なとこまで来て、父親の代わりに頑張ってはる···くっ、泣かせる話やんね」
「辺鄙な所で悪かったな」
「ランさんはそう言うところ変わりませんね」
「ぬぬ、ワシは祈る間何もせんとはいっとらん······」
「蓮さんは言葉足らずなんよ、年齢としなんか?」
「ワシとて歳を取りたくて取ったわけではないわ!」


······なんだ、これは。会議っていうより井戸端会議?
兄貴の表情は一見和やかに見えるが、あれは若干困ってるやつだ。

浅霧さんはちょうど俺の所からじゃ顔が見えないけれど口調や声色から、恐らく高齢ではないかと思う。見える背中は年齢を感じさせないくらい綺麗に伸びていて、青磁器のような薄く緑を帯びた暖かな青髪の人だ。
常磐さんは口調とかから多分浅霧さんと年齢は同じか上くらいのお爺さん。墨色の髪は白髪が混じるが眼光の鋭さから浅霧さん同様に若く感じる。
満星さんは年齢的に多分三十代から四十代くらいじゃないだろうか?恐らく現当主最年少。ライムイエローの明るく柔らかい髪色、人懐こそうな笑顔と大らかな話し方が特徴的だ。


「燈夜君、済まないな。皆口は悪いが内心他人事でないから心配はしている。現状私達に出来ることは少なく、焔殿の捜索は各家尽力することを約束する」
「有難うございます。父がご迷惑をお掛けします」
「焔サンの息子にしてはええ子やなぁ。あのちょいワルな感じがゾクゾクするねんけど」


このメンツの中で十代は兄貴一人だけ。
プレッシャーもあるだろうに兄貴は堂々としている。
······こういうとこは尊敬してるし見直してる。
父さんの目撃情報は権藤田さんからの一件だけ。それも父さんだと言う確証も少ない······けれど実際に父さんの知り合いである権藤田さんが見てるって事実が無視出来ない。


「しかしその髪色は焔サン似なんか?瞳もええ色してるなぁ···五家の容姿は各家初代サマに近づけば近づく程能力高いっちゅうんはホンマなん~?今度手合わせしてやぁ」
「蘭馬殿、燈夜君に絡むのは止めろ」
「へぇーい」

···満星家の当主様、ある意味凄いわ。
現当主で最年少であるにも関わらず通常運転がこれなら陰キャの部類に入る俺は相手に出来る自信ない···。五家の人達って攻略対象者並に個性的だな···。


「議論を戻そう。美園の一件もそうだが、今回は我が厳島領に起こっている問題と本島において懸念されている魔物の増加についても話しておきたい。また、美園の一件を踏まえ我々の引退時期についても考えていかなくてはならないと今回は皆、後継も呼んで貰っていると思う」


伯父の説明で俺たちが何故壁際に座っているのか理解した。俺は後継ではないけれど、兄俺が十八歳になる前に兄貴は結婚して子供を作らないと必然と俺が後継に選ばれることになる。現状俺の嫁入りを美園と厳島で争ってる訳だが、俺自身嫁入りするつもりもなく······猶予はあと二年程だ。

右隣を見ると先輩が微かに頷いた。
やはりここにいるのは後継の人達であることに間違いない。


「先ず、厳島領で起こっている問題についてだが······昨日港に変死体があがった。結論から言おう、その変死体は昨年解決したと思われた魔人の変死体だった。魔人の発生は体内の魔力が暴走した事で容姿変化をもたらし、肉体強化、身体強化が副作用として現れる現象だと昨年の議論でも話をしたが近年魔力暴走を起こす者が顕著になってきている」
「治す方法は体外からの魔力吸出及び注入でしたよね?」
「そうだ。満星には世話になった」
「ま、俺らの得意分野だからなぁ、で、予防策はどないしたんや?」
「満星が開発したあの薬の効果は確かだ。昨年から昨日の変死体が発見されるまでは一人たりとも魔人化は確認出来ていない。昨日の変死体も魔人化した兆候も見られなかった」
「では本島や厳島領外から流れ着いた······。又は魔人化により人が魔人になったのではなく、愈々いよいよ『魔人』が動き出した······そう言うことですか」


浅霧さんのその言葉に空気はより重くなる。
魔人?魔人化?聞きなれない単語が頭に残った。
隣に座る先輩の表情も険しい。


「······もしや、魔王復活の予兆ではないか」


ほろりと呟いた常磐さんの声が部屋に響く。
思わず声を上げそうになった俺は両手で口を塞いだ。
魔王···って、そんな話アカソマの物語の中じゃ出てこない。


「近年の魔物の増加率といい、魔人の再現といい···」
「考えたくはない可能性ですね」


ゲームストーリー基準で考えちゃ駄目なんだって分かってはいるけど不穏な空気に俺の不安感は高まる。ただでさえ尻を守らねばならないのに、現実的にも災害(?)が頻繁に起こって最終的に滅亡の一途を辿る途中って·····。


「ワシらは若くない。しかし魔王はいつ復活しても可笑しくは無い······そうさな、ワシらは早う若い世代に任せて隠居するのも悪くはな──」
「悪いでしょう。寂蓮、貴方は本当に七十年前と変わりませんね!」
「若々しいってか」
「巫山戯ている場合ですか!」
「まーまーまー、雨霞兄さん落ち着いて、蓮さんの言い分も間違いではないやん。焔サンの件もあってん···俺らだっていつ当主の座から離れることになるか分からへん。早う引退して、血筋残してもろて、そしたら俺らだって安心して心ゆくまで魔王に挑めるやん!」


浅霧さんと常磐さんの関係はいつからなのか分からないけど、七十年前に十代だとしても現在八十歳くらいになる。父も今年五十歳になったと言うのにあの若々しさ······この世界の老いの概念どうなってんだろうか。


「私も隠居は兎も角寂蓮さんに同意だ。我々五家はただでしえ繁殖能力が低いと感じる、私も今年で五十六になる···まだまだ現役だとは思うが美園の件で他人事では無くなった。奴は私よりも若く、認めたくはないが私と手合わせしても決着が着かぬ程能力も高かった」
「手合わせっちゅーか、ありゃ何でもござれの決闘やん」
「懐かしいですね···何度か間に入ったこともありました」
「まぁ、最近は二人とも大人しゅうしとったようじゃがな」

話を纏めようとした伯父、墓穴を掘ったな。
父と犬猿の仲らしいことは聞いていたから想像はしてたけど、周囲から見るとかなり迷惑を掛けまくっていたみたい。計画派なのか真面目な伯父様とは相性が悪かったんだろう自由奔放な父らしい。


「龍玄」


突然先輩の名を呼ぶ伯父。先輩は「はい」と一言返事をすると、俺と他三名に移動を促した。どうやら俺は兄貴の所へ行けばいいらしい。迷って兄貴の方を見ると兄貴の口元が『おいで』と動いた。

「では、順に後継の紹介としよう」

どこが上座か分からないけれど最初に当主が挨拶した順で回るようだ。
席に座る各家当主のすぐ横に立つ俺と後継たち。


「厳島家の後継、厳島龍玄だ。宜しく」
「浅霧家、後継の浅霧日向ひゅうがです」
「常磐······後継···。···常磐幽楽ゆうらく
「満星後継の満星けい。父が失礼してます!」


と、最後に俺の番なんだけど俺は後継じゃないから···。


「えっと、美園律花です。燈夜の弟です」
「うぅッ」

って、言ったら兄貴が胸を押えてハアハアしてる。
ねぇこんな公な場で興奮しないでくれない······?
他の人にバレないように兄貴の腕をぎゅっと摘むと、何とか意識を取り戻したみたい。···まぁ確かに初めて兄貴の名前を読んだかもしれない。でも他に自己紹介の仕方ある?


「ははーん。流石は執着の美園やなぁ!愛って感じやわぁ」
「親父、いい加減にせや」

満星親子は雰囲気も話し方も凄く似ている。
それでも息子らしい、慧さんは父親よりしっかりしている様子だ。

「幽楽、しゃっきりせい」
「じぃちゃん······」

幽楽さんは無口な人っぽい。ここは祖父孫の関係かな?

「日向、礼の角度に気をつけなさい」
「······はい、お祖母様」
「······まぁ他は良しとしましょう」
「······はい!」

ここも祖母孫の···って祖母!?
当主が子供を産むなんて結構稀な話だ。
なんだろう、会話聞いてるとほんわかする。やっと見えた浅霧さんの顔は厳しそうな雰囲気の中に優しげな表情を映していた。


「······律花、さんでしたか」
「あ、はい!美園律花です」
「その髪色は············いえ、どうやらこちらの勘違いのようです」

浅霧さんに話しかけられて驚いた。浅霧さんは「すみません、気にしないで下さいね」と謝ってくれたけど·········やっぱり父さんや兄貴の髪色と違うからかな。俺の髪色はどちらかと言うと母さん似だから。
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