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本編

65.解かれた封印

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「おお、目が覚めたか。今満星を呼ぶ」





······頭が痛い。
目を開けると眩しい光が目頭を刺激する。一番最初に視界に入ってきたのは、墨色の髪──常磐家当主の常磐寂蓮さんの姿だった。その次に呼ばれて来た満星さん。聴診器を手にして、俺に掛かっていた布団を軽く退けると上着を少し捲りその聴診器を当てた。金属の冷たい感触が胸部から腹部にかけて徐々に動く。


「痛い所は?」

「······っ、あたまがちょっと」

「もうええで、喋らんとき。···ほんま難儀なことやなぁ」


喉が乾いていたのか、口を開いたらカスッカスの声で答えた俺を見かねて満星さんはそう言った。そして枕元にあった水差しで水を飲ませてくれる。お陰でさっきよりも意識もハッキリしてきた。


「···せんぱいとあにきは?」


まだ水分が染み渡っていないのか声はカスカスだ。
でもさっきより声が出やすい。
俺のその問いに満星さんと常磐さんは顔を見合せた。


「律花君は酷い目にあった自分の事よりあの二人が心配なんやね···ええこええこ」
「安心せい、厳島は打撲のみ兄の方は多少頭を打っているが双方命に別状は無い」


俺の頭を撫でる満星さんと二人の状態を教えてくれた常磐さん。だって、確かに何がどうなったか気になるけどそれよりも──記憶が途切れる最後に見た、先輩と兄貴の姿がどうしても一番に気になったんだから。
···あの時兄貴も先輩も倒れてたのにアイツが近づいてくるのが嫌で嫌で怖くて──。




「ホンマは直ぐにでも会わせてあげたいんやけど、今直ぐには龍玄君にも燈夜君にも会わせてあげられないんよ。その前にちょいと律花君には話しておかなあかん事あんねん···な?」
「···この件を知っておるのは美園夫妻とワシらのみじゃ」


···てことは兄貴も知らないって事?
常磐さんの口から出た、これから話す内容を知っている人たちの名前に先輩は勿論兄貴の名前さえない。ってことは兄貴も知らないって事だよな?


「律花君は勿論覚えてへんと思うけど、君産まれて生後数時間に俺らに会ってんで?ぶっちゃけ君の兄貴より先に俺らと会ってんねん。やっぱ赤子はええなぁ、子猿みたいで可愛かったわぁ···それ言うたら焔サンにはしばかれたけど。ま、状況は可愛ええもんとちゃうかったけどな」


え、俺会ったことあるの?俺が転生したのに気づいたのは確かに生後数週間とかそこらだと思うけど···。懐かしそうにそう言う満星さん、しかし徐々に表情が暗くなる。


「で、本題っちゅうか······律花君は物心ついてから自分能力低いなぁて思わんかった?あの美園焔の息子であの美園燈夜の弟っちゅうのに何で自分こない弱いんやって。何で魔法も上手く使えへんのやって」

「それな、俺らのせいやねん」


俺の魔力が弱いのは満星さん達のせい······?
何を言われているのか、だって俺が弱いのはアカソマの設定上律花自信が守られる側としての設定。だから満星さん達のせいじゃ·········ん?今俺は文じゃない···律花だ。設定上律花が弱いと言うのはもしかして俺の思い込み?じゃあ何で······。

「待て、それでは誤解を招くじゃろうが···」

警戒心を抱き始めた俺に気づいたのか常磐さんが間に割って入る。そりゃその言葉通りなら、自分たちのせいでお前の人生変えたって言ってるようなもんだからな。


「あ、そっか。ごめんごめん!確かにこれじゃ誤解するやんな!言い方を変えるとな······俺らが遙さんとお腹にいる律花君を救う為に君の魔力を呪いに近しい封印を施したんや」


呪い······どこかで聞いた言葉。
そして俺に掛かっていた何かは実際に“解呪”されていることを俺は知っている。


「十六年前、遙さんが次男を妊娠した······俺一応副業で医者やってるから美園邸へ往診に行ってたんやで?ただ問題があったんや···腹の中の赤子は遙さんは疎か、焔サンでさえも超える魔力量を持ってた。もう腹の中にいる時からいつ爆発してもおかしない。ほら魔人化の仕組みは聞いたやろ?あれのもっと最悪な場合や。もし赤子の魔力が暴走して爆発したなら、まず遙さんは助からんしいつ暴走するかも分からんから下手したら一人で呼吸も出来ん内に赤子自ら腹割って出てくるかもしれん。そうなったら更に母子共に命の危険は高まる···。だから焔サンと相談して、このままじゃ遙さんの命まであかんくなるって──唯一助けられる方法が子供の魔力を封じる事。満星の能力だけじゃ無理やったから、蓮さんに事情話してな···封印に至ったっちゅう訳。勿論律花君の元の魔力は膨大や···封印した以上にも余っとったがこんくらいなら問題あらへんと判断して出産まで経過観察······そして出産、結果母子共に健康!」

「···やから律花君の魔力はそれなりにあるハズやのに、封印の反動か魔力制御コントロールが難しいんや。焔サンからちょくちょく連絡来とったで?律花が上手く魔法使えんと泣いとる~ってな。何度恨み言吐かれたかしれん···ま、遥さんの名前出したら大人しゅうなったし迷惑って程のもんやないけど」


まだ満星さんの話に追いつけないでいる。封印って、俺の魔力を封印してたってこと?そう言われると思い当たることはある。コクヨウが何かを解呪したと言っていた事、楼透と蓮家の小屋から脱出する為に放った風弾ウィンドボールの威力······俺の魔力じゃ大した大きさにもならないのに何故かあの時は竜巻になるほどだった。
じゃあ──。


「まじん、は···?」

「思い当たるようだな」

「うんうん、俺は騒動に間に合わんで落ち着いた後に聞いたんやけどな?応援に向かった雨霞兄さんと日向君の話やと、律花君の叫ぶ声が聞こえたんやって。で、駆けつけた時には壁にめり込んだ燈夜君と道に倒れてた龍玄君······その中央に浮かぶ律花君を見つけたらしいんや。見つけた後直ぐに律花君も地面へ落ちたらしいけど···浮いてたのはせいぜい数センチ、魔力放出後の反作用やと思うけど······覚えてへんようやしな」


······本当に覚えてないんだが。
というか確かに今頭が痛いんだけど、身体が凄く軽い気がする。

「魔人はどうやら律花君の魔力放出で撤退したみたいや、魔人化したと見られる行方不明者が多数出とるが魔人化した人が撤退っちゅうのはおかしい。魔人化した人の中に特出した奴がおるか、裏で魔人を操る奴がおるか、あるいはホンマに純血の魔人が現れたか······今は分かっとらんことばっかや!まぁ、魔力暴走の原因は巷で出回ってる“薬”やって事は分かったからな···はよう対処せんとなぁ」


そう言って満星さんは腕を組んだ。
魔人化した人の中に特出した······小豆親子は魔人化したのか?団吾の目は魔人化した人のように紅く染っていた。魔力暴走の結果となった薬は多分先輩が言っていた摘発した貴族──小豆大福が関わっていたことは明確。常時その薬を服用していたのか、いや何故厳島でのみ魔人化が起こるのかまだ本当に分からないことだらけのようだ。


「ま、そゆことや。やから今回魔人の被害を抑えたんは予想外やったけど律花君の魔力の封印が解けてたからや。話長なって悪かったなぁ、一応律花君には話しとかんとと思って。きっと焔サンの事や······俺にもしもの事は無いって言い張ってたんとちゃう?あの人らしいわぁ。そのうち燈夜君も龍玄君も来るやろ。今はよく食べてよく寝とき、安静にな」
「···あの、それで」


俺の魔力は封印されていた事が分かったもののこれからどうなるのか。また封印するのか?それとも危険だから監禁されるとかないよな?実際にそんな膨大な魔力がある実感はない······だから俺自身もしもの事が怖い。


「ん?ああ!安心しぃや?律花君はあの魔力放出で殆ど魔力を放出してんねん、また溜まるんも速いんやろけど暫くは暴走するだけの魔力は無いと思うねん。ま、経過観察やな!律花君も大きゅーなったし、そのうち魔力貯める核もその膨大な魔力に慣れるように順応するかもしれんしなぁ。そしたらこの国一の魔法使いになれるで?」

この国一の魔法使い······!!
その言葉に恐らく俺の目が輝いたんだろう。まだ魔力制御コントロールさえ難しくて出来ないのに、ほんとは冗談で言ったつもりだったのかもしれない。満星さんと常磐さんは······うん、そっとしといてくれ。核を順応させるなんて数日の話じゃない、早くても数十年はかかる。


「······ゴホン、まぁ気を病む必要は無い。魔人の事はじじい共に任せて英気を養うといい···。順当に逝けばワシが一番にあの世へ逝くからのぅ······玄亀ゲンキも既に幽楽に引き継いでおる···まだ幼いが自慢の孫じゃ」
「幽楽君かぁ、ウチの慧も凄いんよ!ソラは気性が荒くて俺が引き継ぐ時はめっちゃ苦労したっちゅうのに、あいつは一発やったわ!なんちゅうか上手いんよなぁ、相手を掌に乗せるのが。ま、嫁さんに形無しっちゅうはご愛嬌ってな!」



そのままウチの後継自慢が始まった。
俺も暫くは聞いていたんだけど、ほっとしたからか眠くなってきていつの間にか瞼が閉じてた。満星さんと常磐さんがいつ出ていったのかは分からない。無事だったと言う兄貴と先輩の姿を実際に見たわけじゃないけど·········なんか凄く疲れた。俺は睡魔に抵抗することなく意識を落とした。

















「済まなかった······!!」

「むぐぐ······?」


目覚めた俺はお腹が空いたことに気づいて、ギシギシの体を動かして部屋の外へ出ると近くにいた日向さんに声をかけた。待つように言われて、暫くしてまた満星さんが来て軽く問診するとご飯を持ってくると行って出ていった。戻ってきた時に大きなバスケットを持って来てくれて、中には食料が入ってた。キロで言うと多分三、四キロくらいあるかも···これ今全部食べていいって言われたけど流石に──と思いつつ、八割がた完食と言う時に先輩が部屋に入ってくるなり俺の目の前で土下座した。
なお、ここは厳島に来て俺たちに用意されてたホテルで俺の部屋だ。
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