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第3話 出会ったのは……

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「ちょっとなにあの人」

「近寄らない方がよさそうね」

 俺はそんな街の人の声を無視して突き進む。
 パーティの宿舎から離れた位置にあるミオラスという小さな街。
 二日の間休みながら歩き続けなんとか辿り着いた。
 運がいいことに魔物とも遭遇しなかった。本当に悪運だけは強い。

 ボロボロの体を引きずりながら真っ先にギルド協会へと向かう。
 本来ここで依頼などを受けることが出来る。
 それは街にしかないため俺はそれを見つけると安堵の息が出る。

 ただ、今の状態ではどんな依頼もこなすことが出来ない。

 俺はパーティを募集をしている掲示板を見る。

 貼りだされた紙を見ながら俺は表情を険しくする。

 やっぱりどれもある程度の条件が必要か。
 職業、お金、実績。どれをとっても俺には到底及ばない。
 さらにこんな惨めな裏切られたやつを受け入れるところがあるのか。

 詰んでいる。ギルド協会の前で俺は呆然と立ちすくしていた。

 やっぱり俺にはあそこしかなかったんだ。

 思えばパーティを組んだ時。こんな俺でも受け入れてくれたのはマドカとツバサ。
 そうか、思えばあの時から。ちくしょう……。

 悲しい結果と感じる体の痛み。ろくにケアをしてなかったからか。
 地面にしゃがみ込んで俺は泣いてしまう。
 通りゆく人は誰も助けてくれない。声をかけようともしない。

 ははは、俺は一人か。これからずっと一人で生きていかなければ……。

「ちょっと! お前、大丈夫か!?」

「え……?」

 元気な女の子の声が俺の耳に届く。
 俺は救われたような気持ちとなり、そっちに振り向く。
 短い赤髪の女の子はとても焦った表情で俺のことを心配してくれている。
 ただ、俺にはこの女の子の顔に見覚えがあった。
 いや、誰かに似ていると言った方がいいか。

「何で誰も助けようとしないとさ! あぁもぉ! こっち来て」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんでこんな薄汚いやつを助けるんだ」

「なんだって……こんな状態の人が目の前で苦しんでいるのに! 助けるに決まってるだろ!」

 俺は威勢のいい女の子に連れられるままに近くの宿舎へと向かって行った。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 その女の子の治療は見事なものだった。
 渇いた喉に水を含んだように。あいつらに殴られた箇所の痛みが和らぐ。
 治療魔術だけなら俺のパーティにいた誰よりもうまい。
 丁寧にもう一度手当をされて俺はエプロン姿の女の子を見る。

「はい、これ」

「……ありがとな」

「あいよ! 一人で食べられるか?」

 黙って頷き、俺は女の子から作ってもらった食事に手を伸ばす。
 美味い……。無心で俺は彼女に作ってもらったご飯を食べる。

「え? なんで泣くのよ!」

「いや、美味くてさ……本当に」

「変な奴だな」

「お前こそ、道端に倒れたこんなやつを助けるなんてな」

 お互い様と言いながら俺は完食するとベッドに横たわる。
 そう言えばマドカもこんな風にご飯を作ってくれた。

 なのに、どうして。どうしてだよ。
 出そうになる涙を必死にこらえて俺は彼女と向き合う。
 それにしても見れは見るほどマドカに似ている。
 性格などは違うが、雰囲気や容姿はどこか思い出すものがある。

 そして俺は意を決して聞いてみることにした。

「そう言えばまだ名前言ってなかったな! 俺の名前はハジメって言うんだ、宜しくな」

「あ、悪い悪い! 私としたことが……私の名前はエールって言うの! 宜しくな! ハジメ」

「エールか、その……お姉ちゃんとかいるのか?」

 聞いてしまった。だけど、俺は心の奥で違ってくれと必死に叫んでいた。
 たまたまだ。世界には似ている顔のやつが何人か入ると聞く。
 それと同じでこれも偶然。エールはマドカとは何も関係ない。

 しかしエールはそれを聞いた瞬間。自慢気に俺にとって聞きたくないことを言ってくる。

「お、よく気付いたな! そうさ! 私には強くてきれいで優しいお姉ちゃんがいるのよ」

「そ、そうなのか! ちなみに名前って何て言うんだ?」

「あははは! 結構、突っ込んでくるね! 最近は会ってないんだけどマドカって言うの! いい名前だろ?」

 信じたくない事実がそこには待っていた。
 目の前に無垢な気持ちで笑う彼女。
 ただ俺はそれを聞いて拳に力が入る。

 こいつは……あのマドカの妹。俺から全てを奪い取り、約束も破って、さらには二人で貯めた金も奪い取った姉の妹。
 自然と俺は彼女を睨みつけてしまう。

「え? どうしたんだ? ハジメ……顔が怖いぞ」

「いや、な、何でもないさ」

「本当に変な奴だな、お前」

 エールはニコニコしながら俺のことを見て笑っている。
 しかし俺はどうしようもない程の怒りと憎悪が湧き出てくる。
 いや、でも俺は直前でエールを見てそれは違うといい聞かす。

 俺は彼女に助けて貰ったんだ。確かにエールをどうにかすれば一つの復讐は果たせる。
 でも、それでは意味がない。彼女は何も関係ないのだから。
 ここは割り切って物事を考えないと。
 食器を片付けるエールの後ろ姿を見ながら俺は自分の負の感情を抑え付ける。

「それで、ハジメさ……助けてあげたお礼としてある話があるんだけど」

「……なんだ?」

 やっぱりそういうことか。何も見返りもなく俺を助けるなんてないからな。
 お金か? 何か欲しいものでもあるのか。
 しかしエールは俺の問いかけに振り返り舌を出しながらこんなことを言ってくる。

「あたしとさ、パーティを組んで欲しいんだ?」

「……え?」

 エールのお願いごとは俺の予想を斜め上にいくようなものだった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

「ということは、ハジメもパーティを探していたのか」

「ああ、前のパーティが何だかあわなくてな、抜けてきたんだ」

「その道中に怪我したのか? あははは、本当に面白い奴だな」

 俺は苦渋の嘘をついてエールに真実は伝えなかった。
 まだ言えない。こんな形でこのチャンスを逃すわけにはいかないから。
 エールが言うにはまだ彼女も冒険者となって間もないという。
 冒険者というのはまあ簡単に言うと依頼を受けて稼ぐ人のことである。

 かっこよくて、稼げるため非常に人気の職業。
 その中で、剣士や魔術師と言った細かい職種に分けられる。

 だから頼れる人もいなくて、姉は既にパーティに入っているため誘えなかったらしい。

 なるほどだからギルド協会に。

「でも、ハジメの力って……あたしと同じで攻撃系じゃないよね」

「ただ守ることしか出来ないからな、まだエールの力の治療系の『魔導士』だしね……一応、攻撃も出来るけどさ」

「鍛え方によっては火力系の魔術も取得出来るな、はぁ、いいよな、いい職業に恵まれて」

 ますます嫉妬してしまう。俺だっていい職業に巡り合えればあんなことに。
 微弱な魔力しか持たず、さらには守ることしか出来ない。
 持っているものの違いに俺は思わず笑ってしまう。

「クヨクヨすんなって! ハジメの守りの盾の力……必ず必要になる」

「俺は、守ることしか出来ない」

「それが何なのさ! その盾であたしをしっかり守ってよね!」

 力強く背中を叩かれて俺はまだ治りきっていない箇所が痛む。
 それに気が付いたエールが必死に謝ってくる。
 ただ悪い気はしなかった。こんな俺を頼っているのか。

 しかし勢いで了承をしてしまったけど、どうにも攻撃力が足らない。

 そこのところをどうにかするのだろう。

「これが、ハジメとあたしの始まりよ! これから頑張ろうね」

「ああ、頑張ろうぜ」

 俺はエールと握手をする。とりあえずはここで準備をする。
 お前たちに復讐するだけの力を身に着けるために。
 これが俺の第二の人生の始まりだ。
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