追憶の空

忠犬

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春の訪れ

七話【前世からそう思ってたよ】

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屋上に上がると、そこには空を眺めていた園山ちゃんがいた。園山ちゃんは屋上に入る時にガチャっと扉を開けた音で私にすぐ気づくと、また顔を暗くした。私はその顔が昨日から気になって夜は少ししか眠れなかったんだ。園山ちゃんにはさ、笑っていた方が似合うと思うんだけど、園山ちゃんはそうは思わないかな?

私は園山ちゃんに近寄り、声をかけるより先に空を見上げた。昨日と同じで群青のような青い空が広がっていた。昨日と少し違うのは雲があることだろうか、今日の空の雲はわたぐもであった。フワフワとしていて綿あめみたいで美味しそうだね。今日帰ったらスーパーで綿あめでも買おうかな。

「空が晴れていて綺麗だね」

「……そうね」

私は空を眺めながら園山ちゃんに声をかけた。空が綺麗だったことは本当だ、別に共感してほしかったわけじゃないけど、話のネタが欲しくて そう声をかけた。園山ちゃんは相変わらず私の方なんて見向きもせず、空を見つめていた。私に興味が無いのか、それとも空に夢中なのか、分からないな。

「私は青い空が一番好きだけど、夕焼けも夜空も好き、勿論曇りの日でも雨、雷も好きだよ」

「空が好きなのね」

「そうだね、園山ちゃんは?」

「私はそこまで好きじゃないわ」

「じゃあどうして屋上で空を見ていたの?」

「……屋上にいる時だけ私は一人になれるわ、周りには他人がいない、私を見ているのは空だけよ」

「……そうかもね、ここには誰もいない 一人になるには丁度いい場所だ」

私は空が好きだ、空は自然そのものだからね。空は同じ景色をすることは二度とない、雲は少しずつ動いているしね。空は四時(しじ)に違って、色が変わる。朝焼けは薄い桃色、通常は群青のような青い色、夕焼けは濃い橙黄色、夜は星が明るく輝いていて漆黒のような黒色。他にも灰色の濁った曇りの日や一つ一つ重たい雨の日、ピカッーって光る雷もいいよね。空には本当に様々な景色があるんだ、これだから空は飽きない。

園山ちゃんは空が好きで屋上にいるわけじゃなかったみたいだ、園山ちゃんがここにいる理由は一人になりたいという意外なものだった。もしかしたら、園山ちゃんは他人が嫌いというより怖いのかもしれない。昨日見た顔も俯いていたし、他人と目を合わせたくないのかもしれない。だから今も私と顔を合わせてくれないのかな……。これはあくまで私の予想だから本当かは分からないけどね。

「羽井さんは空を見に来たのかしら」

「確かに空は好きだけど、今回は空を見に来たわけじゃないんだ」

「じゃあどうして?」

「秘密だよ」

「秘密、ね」

私は別に空を見に来たわけじゃない。私は空を見たいと思って見ているんじゃなくて、時々ふと思った時に見るのが好きなんだ。その方が素敵な空を見れるからね。それに外にいれば、空はいつでも見れるから。

本当は君を探しにここに辿り着いたんだけど、まだ君には秘密にするね。いきなり私が園山ちゃんを探しに来た、なんて知られたらまた君は顔を暗くすると思うんだ。怒りに来たわけでも、嫌味を言いに来たわけでもないのにね。だから、今のゆっくりとした時間を少しだけでも堪能したいと思う私は狡いかな。

「私今昼休みに一緒にご飯を食べる女の子がいなんだ」

「宮丘さんは?」

「杏とはクラスが離れちゃったし、華月との時間を邪魔したくはないからね」

「そうね、宮丘さんと華月くんはとてもお似合いよね」

「そうだね、まるで最初から二人が結ばれるのが当たり前かのようにあの二人はお似合いだ」

「っ……私は所詮脇役だったのね」

「……そうかもしれない、けど、脇役は一人じゃないよ」

「どういう事?」

私が今一緒にご飯を食べる女の子がいないのは本当だ、前の私は恋に集中しすぎて友達なんて作る暇のなかったのだろうね。色雲は一緒にご飯を食べてくれたけれど、私が欲しいのは女の子の友達だ、だから事実一緒にご飯を食べる女の子がいないも同然だ。

園山ちゃんには宮丘さんは?と訊ねられたけど、ヒロインちゃんは今主人公くんとの日々を堪能していると思うから、邪魔はしたくないんだよね。それに私は【丘華】のファンだ、あの二人を邪魔するなんて前世の私が許さないよ。それに、もしこの世界で私以外の転生者がいたのなら過激派だった場合、私が最悪殺されるよ。そんな展開はごめんだからね、私は暖かい目でヒロインちゃんと主人公くんことを見守っておくよ。

私があの二人が少女漫画の主役と分かっているから、園山ちゃんにあの二人はお似合いだと言った。その私の言葉に園山ちゃんはどう受けとったかは分からないけれど、空から目を離さないで、自分が脇役だったことを自覚したことを話した。その声がとても今にも泣きそうな声で言うのだから、つい脇役が一人ではないことを話してしまった。私は園山ちゃんに前の私が主人公くんが好きだったことを言うつもりはなかった、けど、何故か園山ちゃんを一人にはさせられなかった。

脇役は一人ではないと言った私の言葉の意味が分からないといった風に園山ちゃんは私に理由を訊ねた。園山ちゃんを一人にさせたくないと思ったのは私だ、これは正直に言った方がいいだろう。私は空を見上げていた瞳を一度瞑り、未だに空を眺めている君の方を見据えて口を開いた。

「……私も華月のこと好きだったからね」

「っ!、羽井さんもだったのね……」

そう言った私の声は意外に震えていた、前の私の事だから私が緊張することはないのね。どうして私の声が震えていたのかは今は分からなかった。前の私が主人公くんが好きだったことを話したら、隣から息を飲む音が聞こえた。

園山ちゃんは私の方に振り向くと、悲しそうに眉と瞳を下げた。やっと瞳が合ったのに、園山ちゃんは卑屈に悲しそうだった。園山ちゃんの笑った顔はいつ見られるのだろうか、私は何て言えば園山ちゃんは笑うのだろう、分からない、分からないよ。でも、君の顔は思ったより素敵だ、恋する乙女の顔も好きだけど、今の顔も好きだなんて、私はおかしいかな…。

「うん、過去の私が好きだったの」

「じゃあもう華月くんのことは好きじゃないのね」

「そうだね、園山ちゃんはまだ華月のこと好き?」

「いいえ、もう好きじゃないわ」

「そう、なんだか私たち似てる気がするよ」

「私も同じよ」

園山ちゃんにも私が本当の羽井涼梨ではないことは言わないつもりだよ。園山ちゃんはそもそも、前の私とあんまり関わってきていないから前の私と今の私の違うところなんて気づかないと思う、けれど万が一園山ちゃんから他の人にバレても面倒臭いだけだしね。言わない方が吉なこともあるんだよ。

園山ちゃんはもう主人公くんのことは好きじゃないみたいだ、諦めたんだね。前の私は諦めきれなかったのに、園山ちゃんは諦められたんだね、素直に凄いと思うよ。私は恋を体験したことがないから、恋の苦しさなんて分からないけれど、それを乗り切った園山ちゃんは本当に偉いね。

前の私と園山ちゃんは本当に似ている気がするんだ、好きな人と結ばれなかったことや、脇役なこと。それと、今までのことに後悔していること。前の私だから今の私には関係の無いことだ、でも私は前の私を救うと決めた身だからね、前の私と似ている園山ちゃんを見過ごすわけにはいかないかな。

「私たちは似ている、そうでしょう?」

「そうね、とても似ているわ」

「そんな私たちは友達になれるんと思うんだ、そう思わない?」

「……友達?なれるかしら……」

「なれるよ、心配なんていらない」

「…………でも…」

私はしっかりと今までのことに反省と後悔できるいい子な園山ちゃんだからこそ、君と友達になって一緒に青春を過ごしたかった、だから私は園山ちゃんと友達になることを誘ったんだ、お似合いな二人だからこそ。それでも園山ちゃんは私と顔を合わせていたはずなのにまた俯いてしまった。君が友達になりたくないんじゃなくて、友達になる資格がないと思っているのなら、私はそれを否定するよ。園山ちゃんも含めて友達になってはいけない人なんていないことを。

「これから言うことは私の独り言だ、聞いてもいいし聞かなくてもいい、もし聞く気があるのなら真剣に聞いてほしいと思うよ」

「…………」

私は独り言と言って、私の本音を園山ちゃんにぶつけようと思った。君が未だに後悔していることも分かってる、だから過去のことを忘れろなんて言わない、ただ園山ちゃんはまだやり直せることを説明するだけだ。

園山ちゃんは俯いたまま私の言葉に何か言うことはなかった。だから私をそれをわざと無視して独り言を話し出した。

「私は園山未亜ちゃんという女の子を普通の女の子だと思う、好きな人に恋をする普通の女の子」

「…………」

「好きな人の周りにいる子に嫉妬するのも普通のことだ、けど園山ちゃんがその好きな人の周りにいた子に酷いことをしたのは決していい事ではない、でも許されない訳じゃない」

「…………」

「人間誰しも失敗の一つや二つある、過去のことは消えないけれどさ、大事なのは“これから”なんだよ」

「っ……」

「君が間違いに気づいて、心から反省も後悔もしている、それでいいじゃないか」

君はは本当に普通の女の子なんだ、君が好きになったのが主人公くんじゃなければ、今もまだ笑顔でいられたのかな。でもそれはもしもしの話だ、園山ちゃんは今もまだ過去のことで俯いている、そんなの私が許さないよ。ねぇ笑おうよ、暗い顔をしないで、前を向こうよ。

私が大事なのはこれからと園山ちゃんの方を見据えながら伝えると、園山ちゃんのヒュっと息の詰まる音が聞こえたんだ。君は自分のスカートの裾を手で握りしめていた、そんな強く握ってしまったら、皺が出来ちゃうよ。でも、それほど強く握りしめるってことは園山ちゃんも自分自身に葛藤を繰り返しているんだね。まだ足りない、私の言葉がまだ足りないんだ。あともう少しで届きそうなのに。私は君と友達になりたいだけなんだ。

私は一度瞳を瞑り、喝を入れて瞳を開いた。真剣な眼差しで未だに俯いている園山ちゃんを見ながら口を開く。

「それに君はまだ高校生だ、まだやり直せる、やり直せるんだよ、だからさ……」

私はスカートの裾を握りしめている園山ちゃんの手をそっと包んだ、君はビクッと驚いていたけれど、そんなの気にしている暇はない。私はまた口を開いた。

「そんなに暗い顔をしないでこれからは堂々と笑っていこうよ」

「っ!」

私の言葉に君は瞳を見開いたのが分かった。私は園山ちゃんの手を強引に私の胸に引き寄せる。あともう少し……、あとも少しで君は心の奥にしまって隠れている扉を開けてくれる。鍵はかかっているけれど、開けるのなんて簡単だ、力ずくでも開けてしまえばいい。開いてしまえば、もう二度と閉めることなんて出来なくするさ。君の心の閉じこまった扉を開けるのは……私だ。

「私がついているから、君が悲しまないように一緒にいてあげる」

「……どうしてそこまでするの?」

やっと顔を上げた園山ちゃんは迷える子羊のように不安定な瞳をしていた。眉は下がっているし、唇も震えている。そんな顔も似合っているけれど、私が求めている顔ではないんだ。

どうしてそこまでするって?
それはね……















「私は君には笑っていてほしいんだ、前世からね」

私は安心される為に口角を上げてとびきりの笑顔でそう言った。前世から園山ちゃんには笑顔が似合うと思っていたのは本当だし、今もまだ園山ちゃんには笑っていてほしいと思っている。私は本音を隠すことはあまりしないんだよ。

君は目を見開いて、直ぐに先程の不安定な瞳から安心した瞳に変わっていた、私に取られていた左手を私の指と絡めると、私が想像していた笑顔をとび超えて人一倍優しい顔つきで笑ったのだ。

「……前世からか、じゃあお手上げね」

君は私と目を合わせながら、そう言った。なんだか、今まで曇っていた顔が晴れやかなスッキリとした顔つきになっていて、私は嬉しいと思った。矢張り私の予想通り笑顔が似合うね。私が男だったら惚れちゃってたかも。

「友達になってくれるの?」

「こんなに情熱的なお誘いを貰ってしまったからにはしっかりと応えてあげないとだわ」

「ふふっそうだね、まるで告白する気持ちだったよ」

君は友達になってくれるようだ。友達になるのを了承してくれだけなのに、こんなに嬉しいことがあるんだね。初めて知ったかも、矢張り高校生は何があるか分からないね、これからも楽しみだよ。

「……本当にありがとうね」

「いいえ、これからは友達同士仲良くしようね」

「そうね、明日から楽しみだわ」

「明日から?違うよ、今日からだよ」

「っ!、そうね」

感謝を伝えてくれた君は少し恥ずかしそうにしていたけど、私は友達になるのを誘っただけなんだけどな。まぁ感謝してくれるのなら、ちゃんと受け取んないとね。礼儀は大事だよ。

「じゃあ早速友達になった記念として、写真撮っちゃおうよ」

「そうね、記念は大事よね」

「背景は……この空がいいかな」

「私、羽井さんのお陰で空が好きになったわ」

「そうなの?空好きが増えて私は嬉しいな」

二人だけの屋上で、シャッター音が鳴った。

そうして私たちは友達になった記念として、この群青のような青い空を背景にして写真を収めた。私も園山ちゃんも笑っていて、私はこの世界にこれて本当に良かったと思った。それに、この写真が私の思い出の一つになったということに私はとても嬉しく思い小さく笑うのだった。


羽井涼梨(はねいすずり)

園山ちゃんの心を動かすために頑張りました。前世からこの子笑顔が似合うなと思っていたし、今世もそう思っていたので嘘はついていない。思ったより園山ちゃんの笑顔が可愛くて心が撃ち抜かれた人。


園山未亜(そのやまみあ)

羽井涼梨の言葉に心動かされました。この子は本当に笑顔が似合います。今回のことで羽井涼梨やことが大好きなった人。羽井涼梨のお陰でこれから好きなことが増えるかも??最後の二人で撮った写真は宝物。

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