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第十二章 新学期

15、辻先生、困りました

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櫻は放課後、洋装店に行くまでの辻の車の車中で神妙な面持ちで切り出した。

「辻先生、困ったことになりました。」
「どうしたの?」
「実は、兄から手紙が来ました。」
「お兄さん?」
「秩父で今は父の手伝いをしています。」
「どんな内容?」
「この手紙を読んでください。」

櫻は兄から届いた手紙を辻に渡した。
辻は丁寧にそれを開けると、中身をじっくりと読んでいた。

無言の時が続いた時に、坂本から声をかけられた。
「坊っちゃま、車を出してもいいですか?」

「ああ、ごめん。忘れてた。だしてくれ。」
坂本はゆっくりと車を発進させた。

外の風景は夕方の日が綺麗だった。
でも、櫻は不安が心の中で巡っていた。

「読んだよ。」
「どう思いました?」
「うん。佐藤支店長は嫁ぎ先と話してるようだから、ね。江藤さんちとは話してないだろうから。」
「私、帰ることになるんでしょうか。」
「無責任に言ってるわけじゃないよ。そうじゃないから、不安を取り除きたい。」
「でもどうしたらこの不安がとれるんでしょうか。」
「お兄さんにすぐに連絡を取るべきじゃないけど、いずれにしても連絡は取らなければならない。」
「はい。」
「順序は間違ってしまうかもしれないけど、佐藤支店長と上野菓子店の社長を会わせておくべきかもしれないね。」
「叔父と?」
「君のことをよく知ってる人で、君の父親の弟だ。今回の手紙もそちら経由できたんだろ。」
「そうです。」
「君が養女になることを社長に話しておくんだ。」
「でも、父に知られたら。」
「商売をしている人だ。佐藤支店長のことも知ってるだろう。だから、軽々しく家族にも話さないともう。」
「と言うことは?」
「まずは、味方を増やしていくんだ。」
「味方を増やす?」
「君の味方を増やして、ぐうの手も出ない状態で養女に行けるようにするんだ。」
「叔父は大丈夫でしょうか。」
「佐藤支店長にお願いしよう。今日、君が仕事をしている間に、アグリ君には夕飯がいらないことを伝えにいくから、今日、佐藤支店長と夕飯を取ろう。」
「そんな、急にで大丈夫ですか?」
「たまたま、今日、食事を取る予定だったんだ。だから大丈夫。」

櫻は辻に相談して、本当に良かったと思った。でも、全てが拭えたわけではない。
今晩の夕飯で、いい方向に進むことを願う櫻だった。
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