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第十二章 新学期

16、佐藤家の夕食

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その日の夕飯は、辻と櫻と佐藤支店長で、佐藤邸で食することとなった。

不安の拭えない櫻は暗い顔をしていた。
それをみた、佐藤支店長はいった。
「櫻さん、お悩みのこと聞いたよ。夕飯を食べながら、安心させてあげるから。」

優しい、言葉をかけてもらった。

女中さんが作った和定食を三人で食べた。

「櫻さん、不安な一日を過ごしたんだね。」
佐藤支店長が切り出した。
「はい。急なことで。」
「差し支えなければ、お兄さんから届いた手紙を読ませてくれるかな?」
「はい、こちらです。」

手紙を渡し、それを辻は静かにみていた。
佐藤支店長は丁寧にそれを読んでいた。

「だいたい、書いてあることで、わかりました。」
「どうすれば?」
「前にも言いましたが、あなたの嫁ぎ先の舅は私のいとこです。今回の件を破断にすることとお金を渡すことは承知してもらってます。」
「なら、どうして。。」
「親戚なのに悪い事言うのはなんですけど、うちのいとこも金にうるさい人間でしてね。」
「でも、渡すって約束したのに。」
「多分、ぼっちゃまが想像した通りで、うちからも櫻さんの実家からも破断に関して金を取ろうとしてると思いますよ。秩父の佐藤の家では。」
「じゃあ、どうすれば。」
「でも、いいように考えましょう。破断になったことによって、急にあなたのお兄様やお父様が東京に出てくることがないと言うのも幸運かもしれません。」
「このままじゃ、上京してきそうです。」
「そうならないように、今週にでも、秩父の佐藤の家には上納してきましょう。」
「そんなことをしてくださるんですか?」
「あと、結納の際に、秩父の佐藤の家から江藤家に渡された土地やお金もそのままにしてもらいましょう。」
「そこまでしていただくなんて。」
「あなたはそれをしてもらうのに相応しい女性ですよ。」
「え。。」
「私はあなたを娘をして迎え入れたい。もう、おいぼれです。だから、少しの間でも家族が欲しいのです。」
「そんなふうに言っていただいて、本当に本当に嬉しいです。」

ずっと黙っていた辻が切り出した。
「櫻くん、不安は拭えたかい?」
「私なんかに、こんなにしてもらえるなんて。」

櫻は泣いてしまった。
憚ることなく、辻は抱きしめた。

「ぼっちゃまと私がいれば大丈夫ですよ。」

佐藤支店長が声をかけてくれた。

櫻は心が解けていく感覚を感じていた。
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