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第十三章 養女になる準備
6、旅の途中
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電車の中で駅弁を食べながら4人は和やかに話していた。
「しかし、冬はやっぱり寒いね。」
トモヨがいうように、1月の関東はとても寒い。
しかも、今から行く群馬は東京よりもっと寒いのだ。
「ねえ、差し支えなかったら、埼玉のこと聞いてもいい?」
アグリが櫻に尋ねてきた。
「ああ、あまりいい思い出がないんですけどね。」
「秩父ってどんなところなの?」
「昔、銅が発掘されて、都に献上されていたようです。そのために、そういう工業系の仕事も多くて。」
「そうなのね。隣の県と言っても全然違うのね。」
「ただ、女学生に人気の秩父銘仙も有名ですよ。」
「ああ、私も銘仙はよくきたわ。モダンな柄なのに、お安くて。」
「すぐ飽きてしまう女学生にもいいって、私が働いていた呉服屋にもたくさん置いてありました。」
「今は、服を作る職場に勤めることになってどう?」
「不思議な気分です。」
「不思議?」
「はい。私、自分が女学生になれるなんて思わなかったし、オシャレをするとかそういうことと縁がないと思っていましたから。」
「そう言われると、私、自分の使命を考えてしまうわ。」
「アグリ先生の使命?」
「いろんな身分の人がオシャレをできる服を作りたいわ。」
アグリは嫁入り前に、ずいぶん貧乏をしたと言っていたが、櫻が経験したようなレベルではないことはわかっている。しかし、世の中にそういう思いをしてくれる人がいるのでれば、変わるのではないかと思った。
「私、秩父を恨んでました。」
「恨んでた?」
「こんな田舎で埋もれたくないって思ってました。」
「私と逆ね。」
「逆?」
「私は流されるように生きればいいと思ってた。貧乏でもいいしとね。でも、ヨウスケさんが道を開いてくれた。」
「洋装店での出会いですか?」
「そう。私が一つのお店を持って切り盛りするなんて想像つかなかったわ、子供の頃の私なら。」
「でも、アグリ先生は成功しましたね。」
「私、今はいっぱいしたいことでいっぱいなの。」
「どういうことですか?」
「もっともっと、世の中を美しい服でいっぱいにしたいの。老若男女問わずね。」
「壮大な夢ですね。」
「夢は大きくなくちゃ。」
「私は夢の途中です。まだ、自分のことをわかってない気が。」
「でも、仕事は楽しいでしょ?」
「はい。とっても。でも、どこかで私を求めている仕事がある気がして。」
「あなたならきっと叶う。それも含めて温泉で癒しましょ。」
もうすぐ、電車は渋川に着く。ここからバスで伊香保に行くそうだ。
4人は冬の晴れやかな空の下でのんびりとした時間を過ごした。
「しかし、冬はやっぱり寒いね。」
トモヨがいうように、1月の関東はとても寒い。
しかも、今から行く群馬は東京よりもっと寒いのだ。
「ねえ、差し支えなかったら、埼玉のこと聞いてもいい?」
アグリが櫻に尋ねてきた。
「ああ、あまりいい思い出がないんですけどね。」
「秩父ってどんなところなの?」
「昔、銅が発掘されて、都に献上されていたようです。そのために、そういう工業系の仕事も多くて。」
「そうなのね。隣の県と言っても全然違うのね。」
「ただ、女学生に人気の秩父銘仙も有名ですよ。」
「ああ、私も銘仙はよくきたわ。モダンな柄なのに、お安くて。」
「すぐ飽きてしまう女学生にもいいって、私が働いていた呉服屋にもたくさん置いてありました。」
「今は、服を作る職場に勤めることになってどう?」
「不思議な気分です。」
「不思議?」
「はい。私、自分が女学生になれるなんて思わなかったし、オシャレをするとかそういうことと縁がないと思っていましたから。」
「そう言われると、私、自分の使命を考えてしまうわ。」
「アグリ先生の使命?」
「いろんな身分の人がオシャレをできる服を作りたいわ。」
アグリは嫁入り前に、ずいぶん貧乏をしたと言っていたが、櫻が経験したようなレベルではないことはわかっている。しかし、世の中にそういう思いをしてくれる人がいるのでれば、変わるのではないかと思った。
「私、秩父を恨んでました。」
「恨んでた?」
「こんな田舎で埋もれたくないって思ってました。」
「私と逆ね。」
「逆?」
「私は流されるように生きればいいと思ってた。貧乏でもいいしとね。でも、ヨウスケさんが道を開いてくれた。」
「洋装店での出会いですか?」
「そう。私が一つのお店を持って切り盛りするなんて想像つかなかったわ、子供の頃の私なら。」
「でも、アグリ先生は成功しましたね。」
「私、今はいっぱいしたいことでいっぱいなの。」
「どういうことですか?」
「もっともっと、世の中を美しい服でいっぱいにしたいの。老若男女問わずね。」
「壮大な夢ですね。」
「夢は大きくなくちゃ。」
「私は夢の途中です。まだ、自分のことをわかってない気が。」
「でも、仕事は楽しいでしょ?」
「はい。とっても。でも、どこかで私を求めている仕事がある気がして。」
「あなたならきっと叶う。それも含めて温泉で癒しましょ。」
もうすぐ、電車は渋川に着く。ここからバスで伊香保に行くそうだ。
4人は冬の晴れやかな空の下でのんびりとした時間を過ごした。
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