運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん

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豪邸編 後編


 ちょうど良いタイミングというか、なんというか・・・佐藤は、例の月刊誌に載っている完成した仕事現場に居るらしく、僕らはそこに呼び出された。良いのかな? 他人の家を勝手に集合場所にして…。まだ受け渡ししてないのか…。

細川さんの軽自動車に揺られやって来た豪邸前。
事前に駐車場のゲートを開いてくれていたので、すんなりと駐車することが出来た。
「かつて無いほど緊張する駐車だったわ…広いけれど…」
細川さんがハンドルから手を離して、運転席に沈んだ。
「細川さん、グッジョブ、有難う。でも、わかるわ…ちょっとでも擦ったら車の修理費用より門の方が絶対高いわ…」
 三人でついキョロキョロと潜ってきた門や、通った道、車庫をみやる。

「まさか、この豪邸が石川くんのげっ歯類……じゃなくてガテン旦那さまの仕事現場だなんて」
「そうなんです、久々の仕事で腕がなるみたいで、色々意見を聞かれて…紙とCGでは何度も見ているので、何だか親近感があります」
 玄関は、所謂大理石の広いスペースで簡単な手洗い場まである。メチャクチャ広い吹き抜けのリビングルームは、庶民感覚で、冬凄く寒そうじゃんって聞いた。だって実家は築25年だからか、リビングは暖房入れてもちょっと肌寒かった。一人暮らしのアパートなんて隙間風ピューピューだったし。
でも、最近の断熱材とか窓とかは良いみたいで「このマンションも広めだけど、寒くないだろう」と言われ、そういえば!と思った。よく洋服のCMで薄いパジャマ着てウロウロしているのとか見て、「さむっ」と思っていたけど、最近のお家は進化しているんだなぁと感心した。

「あっ、佐藤だ」
 後部座席から、こちらにやって来る、ツナギ姿の佐藤を発見した。シートベルトを外して、車を出る。
「よお、千歳。仕事お疲れ」
 長い足でズンズンとやって来た佐藤。天然気味のモサモサの髪を掻き上げて、微笑む。

プーーーーーー!?

「うわぁあ!」
鳴り響く軽自動車のクラクションに驚いて、運転席を見ると、細川さんがハンドルに頭を沈めていた。助手席の富山さんも、完全に固まっている。
「うおぉ…どうした」
近くにやってきた佐藤が、僕を後ろにやって助手席側から車を覗き込む。

「きゃああああ!」
 顔を起こした細川さんが、叫びながら車のワイパーを動かした。なぜか、車の窓も全部開いた。
「ほ…ほ…細川さん!私たち死んだわ!コレは夢よ!」
 富山さんが、細川さんを揺さぶる。
「そうよ!そうよね!」
「……失礼」
 見かねた佐藤が、運転席に回ってドアを開けると、屈みこんでワイパーを止めた。そして、そのまま振り返って細川さんを見つめ
「大丈夫か?」
あっ…それ…大丈夫じゃないやつだ。
「「ぎゃーーーーーー‼」」


 お二人の興奮が収まってから、僕の旦那が佐藤だと説明し、やっと車から降りてきた。
「もー、心臓が飛び出して、そこら辺を走り回ってたわよ」
「ホントよね。生きて帰ってこれたのが奇跡よ。死因は佐藤三郎太が男前すぎるせいよ、でも生エンペラーのお陰で十歳は若返ったわ…」
「死ぬのか…若返ったのか…忙しいな」
お二人のハイテンションな会話に、苦笑する佐藤。

「とっ……尊いわ…」
「顔面が鋭利な凶器ね…」
「いつも千歳からお話は伺っています、頼りになる先輩方だと」
 なぜか少し離れて経っている二人に近づいて、佐藤が右手を差し出した。
二人が顔を見合わせながら、佐藤の手を見つめている。

「……」
 富山さんがゴリラのマスコット付きのショルダーバッグについているジェル状の消毒液で手を消毒すると、震える手で佐藤の大きな手を握った。
「……ふ…ぅ…」
 富山さんの時が止まった。唇がタコのように尖り、目が見開いている。
だ…大丈夫?
「これからも、千歳をよろしくお願いします」
 佐藤が左手を添えて、富山さんの手を握った。
あっ…だから…駄目だって。富山さん、完全に稼働停止したから…。

「お任せ下さい!」
細川さんが隣で右手を差し出すと、やんわりと富山さんの手を外した佐藤が、今度は細川さんの手を握った。
「良かったな、千歳。素敵な仲間だな」
「うん」
細川さんと握手を終えて僕を振り返った佐藤が、嬉しそうに笑っている。
 後ろの富山さんは天に両手を突き出して召され、細川さんはしゃがみ込んで自分の手を抱きしめている。なんか…ずるい…僕も佐藤にファンとして握手して欲しい。

 さっと佐藤に右手を差し出した。
「あ?あ…ああ、ほらコレが鍵だぜ」
 佐藤が作業服のポケットから、真新しい鍵を取り出して僕の手に握らせた。
「鍵?なんの?」
「家のだろ」
「誰の?」
「いや、俺達のコノ家だろ」
 ん? 俺達の家? え? どう言うこと? 

「あ?お前、家が完成したから見に来たんじゃねーのか? 朝、やっと出来たぜって言っただろ?」
「え? 佐藤、このお家、仕事で建てたんじゃないの?」
「おいおい、相変わらずだな。じゃあ、なんでお前にいちいち壁紙どれにするとか、床はどれだとか、事細かに聞いたんだよ」
 佐藤が顔をくしゃっとさせて笑っている。

「…え…一つの意見として聞かれているのかと…ん? この家、僕らの家なの⁉」
目の前にそびえ立つ豪邸を見上げた。

家は、とにかく大きい。普通の一軒家の何倍だろう…ガラス張りの天井高の体育館かっ、と言いたくなるリビングが見える。ベランダも、テラスも…パーティーとかできそう。えっ…ちょっとまった…この家、十億って言ってなかった⁉

「佐藤の馬鹿! 十億なんて何百年ローンだよ!」

 一ヶ月十万でも一年で百二十万しか返せないよ!一ヶ月に百万払っても一千二百万…僕、年収…三百万以下だよ…。

「一括でもう払ったぜ。早瀬がなんだかんだ言ってたけどよ、めんどくせぇだろ」
「はぁ⁉ なんで…どこにそんな金が…」

「お言葉ですが、奥様。佐藤三郎太は、古い言い方ですが億万長者ですよ」
突然、富山さんが僕の横でボソッと喋った。奥様って!
「むしろ…なぜ、エンペラーの奥様が食品工場で…」
反対側から細川さんが言った。
「ええ!お二人と働くの楽しいですし…」
「「石川くん!」」
 僕らは、三人で抱き合った。

 そっ…そっか…言ったら何だけど、佐藤って普段の生活にお金の臭い一切しないし、ツナギ着てキャラバンで部下のガテンの人達と現場に行くから、つい失念するけど、金持ちなんだった。
 好物やきそばだし、スーパー大好きだし…外食焼き肉だし…シャンプー詰め替えするとき、ムッキムキの筋肉で絞りだしているし…庶民なんだよな。

「中見ていくだろう?お二人もどうですか?」
 佐藤が抱き合う僕らに声をかけた。
「いえ、私たちは、これからカラオケボックスかなにかで、今日の興奮を収めなければなりませんので…」
 富山さんが一本指を掴む忍者ポーズを決めている。
「ぜひ、次の機会にご招待頂ければ幸いです」
 お二人が浮き足立ったフワフワとした足取りで軽自動車に乗り込んだ。


「どうも、ふわふわした意見しか言わねぇなと思ったら…そういう事だったか。どうする? この際だから、お前好みのセカンドハウス作るか?」
 佐藤が僕の肩を抱き寄せた。

「作らないよ! それにしても……現実感がないよ…掃除どうしよう」
「隔週で業者がくるぞ。あと、勝手に掃除する丸いのを早瀬が手配したとよ」
「ああ!あのシュッシュって動くの」
 両方の人差し指を立てて左右に動かした。
「ちなみに、俺達の寝室は気合い入れたベッド入れといたぜ…お前が可愛い巣作りできるスペースも」
 佐藤が僕の反対の頬に手を当てて、こめかみに唇を寄せた。
 ドキドキするからやめて欲しい。
「僕…狭いお風呂に一緒に入るのも好きだったんだけどな…」
 恥ずかしくて、うつむきながら言った。
「広い風呂でギューギューに抱きしめ合おうぜ」
 佐藤が僕を抱き上げた。
「……うん」



おしまい
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