あの時、君の側にいられたら 【恋愛小説】

いんげん

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第四十話 タイミング

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「……」
部屋に帰り付いて、リビングまで入って来たけれど、詠臣はずっと無言だった。
(何から弁明して良いか分からないよ……結局、詠臣さんが暴力を振るう人だと思われちゃったし、迷惑と心配を一杯かけちゃった……大人しく過ごすって言ったの自分なのに……)
 寧々は、自らの行いに深く反省し、落ち込んでもいた。

「寧々」
「はい!」
 振り返った詠臣が、暗い声で名前を読んだ。
「葉鳥 匠と、今日会っていたのは……予定されていた事ですか」
「いいえ、違います。病院からの帰りに、どうして此処に居るのかと話しかけられて……」
「寧々は、彼が好きなのですか?」
「え?」
 寧々は、質問の意図が分からず、目を丸くした。
(詠臣さんの聞いている好きって、友情とかじゃないほうだよね)

「二人は幼馴染みで、友人として好きです」
「……」
 詠臣の目はどこか寂しそうに揺れている気がした。
「……此処へ来る前に、離婚しても良いといいましたよね。貴方の好きにしていいと……」
 詠臣の口から出た言葉に、寧々は耳を塞ぎたくなった。ついに、愛想を尽かされてしまったのだろうか? 胸が痛い。
「……」
「しかし、貴方は私の妻として此処に来た。だから……此処に居る間は、私の妻で居て下さい」
 詠臣の腕に引き寄せられて、抱きしめられた。大好きな人の匂い、体温を直に感じる嬉しいはずの行為だったが、寧々は混乱した。
(どういう意味なの? ホイホイと男性の家に行った事を注意されている?)

「ごめんなさい……」
「……」
 詠臣の体は、直ぐに離れた。温かさが失われて、すごく寒く感じた。
 背を向けた詠臣の拳がギュッと握りしめられている。
「詠臣さん……あの」
「もう、何も言わないでください」
「……」
 寧々は、詠臣の拒絶に困惑した。詠臣の背中が離れて行き、寝室へと消えていった。

(今……何か間違えた? なんだか、詠臣さんが、更に遠くなった気がする……このままじゃ駄目……絶対駄目。美怜ちゃんならきっと、ここで退いたら駄目って怒る! 私もそう思う)
 寧々は、暫くその場で考えた。

(勇気を出すのよ、私! もしかしたら、凄く嫌がられるかもしれない……余計嫌われるかもしれない……でも、詠臣さんが好き!)
 寧々は、自分の気持ちを率直に伝えようと決めた。何度も躊躇いながら、寝室のドアに手を伸ばした。

 しかし、その時、部屋に警戒音が鳴った。
「きゃぁ!」
 驚いた寧々は、ドアを開けて寝室に飛び込んだ。すると、スマホを操作する詠臣が直ぐ側に立っていた。

「落ち着いて下さい。大丈夫です。緊急招集です。海竜の出現はこの島ではありません」
 詠臣は片手を寧々の背中に当てた。
「ここは安全です。避難の必要はありません」
「そうですか……びっくりしました、今、丁度、詠臣さんに話があって……」
「……すみませんが、招集されたので行ってきます」
 詠臣はスマホをスラックスのポケットにしまった。
「はい」
「薬は忘れずに、まだ完全に回復しているわけではないので、早めに休んで下さい」
 詠臣は出かける用意をしながらも寧々を気にしていた。

「心配しなくても私は大丈夫です」
 そう言ってから、我ながら信憑性のない言葉だなと思った。
「詠臣さんこそ、気をつけて下さい」
「はい」
 慌ただしく出て行った詠臣を見送り、寧々はため息をついた。
(なんで……あのタイミング……結局、大事な事なにも言えなかった……)

 朝になって目が覚めると、リビングのソファに詠臣が眠っていた。
(きっと私を気遣って、こんな所で寝ているんだろうな……私、詠臣さんと違って気配に聡くないから起きないのに……)
 寧々は、身支度を整えてから、そっと、詠臣の側に近寄った。

 詠臣は、ワイシャツにスラックス姿で、体にジャケットが掛かって、長い脚はソファからはみ出している。
 寧々は、息を殺して詠臣を眺めた。
(キリリとした眉が格好いい……鼻筋が通っていて高い……いつも伏し目がちな目に色気があるのは、やっぱり長い睫毛のせいかな。あぁ…血色の良い朱色の唇にキスしたい……頬に触れたい……よし! キスしよう! 私たちは夫婦、キスしても許されるはず……そう、昨日詠臣さんが言ってた、妻としてキスをしよう)

 寧々は、決意した。そして、腰を上げた。
「……」
 いざしようとすると、ドキドキして躊躇った。

 ビーー、ビー

「っ⁉」
(なんで⁉ このタイミングで家のチャイムがなるのでしょうか? 昨日から……呪われているの私!)
 突然鳴り響いた玄関のチャイムに、詠臣の目が開いた。
 そして、自分の腹部にガックリと顔を埋めた寧々に驚く。

「どうしました?」
「……だれか、来たみたい……です」
 落ち込んでいるような寧々に詠臣が困惑している。何かあったのだろうか、と視線が彷徨う。そして、まさか仁彌の襲撃のトラウマだろうかと、見当違いな結論に達した。

「出ます」
 詠臣が体を起こし、ソファから立ち上がった。
「おねがいします」
 寧々がショックから立ち直れずに居ると、詠臣がインターフォンの通話ボタンを押した。
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