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お腹の虫
しおりを挟む「ねぇ、ヘビ。群れの生活って大変なんだね」
無言で先を歩くラブが、思い出したように呟いた。
ヘビが一瞬止まり、歩く速度が緩やかになった。
「何故だ」
「私、あっ……ラブはね、沢山人が居て、栄える事が良い事だと思ってたんだけど」
「ああ……」
「それだけじゃないんだなぁって、ヘビは大変だね。皆の事考えなきゃならないんだもんね」
ラブは、驢馬の意地悪や、キボコと稲子の怒りを思い出した。
今まであった人数は、そんなに多くない。それでも色んな人間が居た。
「俺は、AIの分析を元に、最適解を提示しているだけだ」
ヘビの声が、硬くなった。
ヘビは、生まれた時から、AIに将来の指導者だと言われて育った。誰よりも優秀で、誰よりも正しくあろうと思ってた。
「愛される指導者じゃなくても、ラブはヘビの事を愛するよ。恋もするし、繁殖するよ」
「……」
ヘビの顔が、歪んだ。ラブを振り返り、何かを言おうとして、言葉を噛みしめた。
「ヘビ?」
「お前に、お前なんかに……何がわかるんだ」
ヘビの暗い目が、ラブを冷たく見下ろした。
ピリピリと刺激のある空気が、ラブの心を縮めた。しかし、同時にヘビの心も震えているように見えて、足を踏み出した。
「何を分かって欲しいの? 教えてよ」
「……何も、何もない」
すっと、ヘビが体を引いて、再び歩き出した。
ラブは、目の前から消えたヘビの心が、まだ此処にあるようで、掌を包むように握った。
ヘビの背中を目で追って、駆け出した。
(ヘビ、怒ってる。何が駄目だったんだろう……)
ぐうう
無言で歩く二人の間で、ラブのお腹の音が響いた。ヘビが呆れた顔で、一瞬ラブを振り返った。
「……」
ラブは、お腹は空いたし、ヘビとの関係は上手くいかないし、心の中がモヤモヤとしていた。俯いて歩いていると、クイナの診察室に到着した。
向き合ったヘビが、ツナギのポケットから、何かを取り出した。
「……何?」
「……」
ヘビは答えず、彼の大きな手から溢れる、麻の巾着をラブの手を取って置いた。
「俺にとっては、不要品だ」
「ん?」
「いらいない物ということだ。お前にとって価値があるなら喰え。お前の腹の虫が五月蠅すぎる」
「食べ物? ありがとう」
ラブは、お腹を押さえてぺこりと頭を下げた。
頭を上げた頃には、ヘビは、もう遠くまで歩いていた。
ラブは、気分が浮上し、ニコニコ笑いながら、巾着を開いた。
覗き込むと、サクランボと、赤い丸い飴が入っていた。
「へへへ……」
(何でだろう、嬉しいのに、ちょっと泣きそう。なんでだろう……変なの)
ラブは、ここにコレを詰めてくれたヘビを想像して、目がジワジワと熱くなった。手の中にある巾着を、そっと抱きしめた。
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