神様のひとさじ

いんげん

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土竜の誘い

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 ラブは、俯きながら早足で進んだ。目的地はない。
 ただ、あの場から離れる為に歩き出した。
 足を進めていくと、イライラした気持ちも、程よく剥がれ落ちていった。

 食堂の前を通り過ぎると、サルーキが、寄っていかないの? とワンワン吠えたけれど、歩くのが楽しくなって進み続けた。

(分かってる、ヘビは何にも悪くないし、ヘビの言ってる事は、全部あってる。私が勝手なこと言ってるのも分かってる……でも、何でこんなに上手くいかないんだろう? 愛ってこんなに難しいんだ。どうしたら、仲良くなれるんだろう……)

 グルグルと思考を巡らして歩いていると、前から土竜もぐらとキボコが歩いてきた。
 道の真ん中を、我が物顔で歩く土竜の腕に、キボコがしなだれかかっている。

(あの二人って……驢馬と稲子の、ご両親なんだよね)

 ラブは、二人の事を羨ましく思い、ジッと視線を送った。土竜の失われた右耳は見ないように気をつけた。

「何よ、なんか用なの?」
 キボコが顎を上げて、言った。土竜の暗い目がラブを見下ろした。ラブは、土竜に見られ、ギュッと自分の腕を抱いた。

「昨日、うちの馬鹿が、君の物を盗ったらしいな」
 土竜の口調は、今日も顔に似合わず、囁くように落ち着いている。

「あっ……えっと」
 昨日、稲子と驢馬に黒糖を盗られたことを思い出した。

「すまなかったな」

 土竜に謝られて、驚いたラブは目を見開いて彼を見つめた。
 何か言わないと、答えないと、そう思うのに、余りに予想外で声がでなかった。

「ちょっと、聞いてんの?」
 キボコが、顔を突っ込んで来て、土竜に「黙っていろ」と制された。

「君にお詫びがしたい。これから時間はあるか?」
 土竜の口角が少しだけ上がった。彼の皮膚は厚く硬い。表情が変わることは珍しく、キボコがチラリと見て、目を逸らした。

「お詫び?」
「ああ、今日は多くの男達が休息日だ。君も俺達の集会に招待しよう」
 土竜の発言に、キボコが不機嫌そうな顔をしている。

「休息日って、お休み?」
「ああ、俺達は仲間内で集まってる。君を、おもてなししよう」
 土竜の厚い掌が、ラブに向けられた。
 ラブは、言い知れない恐怖を感じ、後ずさりした。サルーキも俯いて、尻尾を足の間に挟んでいる。

(どうしてだろう。行きたくない。何故だか、とっても怖い)

「あの、大丈夫。ラブ……ヘビとお約束してるから」
「嘘言ってんじゃないわよ」
 キボコが嘲笑した。

「ホントなの。食堂で会う約束してるの! だから、お詫びは大丈夫です」
「そうか、またの機会に誘うとしよう」
 土竜の硬い手がラブの肩をポンポンと叩いて、二人が去って行った。

 ラブは、叩かれた肩に目をやり、ブルルと体を震わせた。

「サルーキ……戻ろう」
 土竜たちをやり過ごし、逃げるように食堂へ向かった。

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