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悪魔と枝とゴリラ
しおりを挟む「お兄さん、本当に理斗に関して倫理観バグってるよね。頼りになるわぁ」
本庁で出くわして、取っ捕まえた海棠をトレーニングルームに招待した。そこで、理斗のスマホを跡形もなく溶かした旨を報告すると、そんな事を言いだした。
「あ? 当たり前だろ。貴様も裏切った日には撃ち殺すぞ」
理斗の恋心が冷めるように、前歯でも折るか。俺は、そっとネクタイを引き抜いて右の拳に巻いた。俺の意図を察知した海棠は、苦笑しながら間合いを取っている。
「勘弁してよ、お兄さん。そもそも、裏切った後じゃ遅いじゃん。その前にやらないと」
海棠は、腕を上げて構えたが、防戦するつもりなのか、重心が後ろだ。
「……なぁ、お前。疑問に思ってたんだが、なんで最初に理斗に名乗らなかったんだ? 自分が星野紳一だと」
話しながら間合いを詰め、海棠に打ち込んで行くが、上手く躱される。
「記憶がハッキリしないみたいだったし、忘れた方が良いからに決まってますよぉ。理斗は、俺達と違って良い子でしょ。人を殺した記憶なんて無い方が良いよ。それに俺、別に逮捕されても刑務所でも上手くやる自信あるし。何なら……警察の前で、全部持って自分が十年飛んでも良いかなって思ってたし」
「まぁ、確かに、それなら星野剛を殺した能力者として断定されそうだな。なぜさっさと実行しなかった」
このクズが。そうすれば理斗は、毒牙にかけられることもなく、すぐに俺のもとに保護されただろう。なんて素晴らしい道筋だろうか。
「いやぁ……理斗に会えてうれしくて、ちょっとくらい、少しくらい、って思っている間に、こうズブズブと沼にハマっていった感じ? 恋愛って怖いですねぇ」
「……死ね。というか、貴様、変な病気とか持ってるんじゃねーのか」
今日こそ、破壊しておくか。
「ちょっ! あっぶね! 本気? 遊んでるタイプとはやってないし! 俺レベルになると、体の関係なくても幾らでも貢いで貰えますからぁ」
俺の蹴りを脛で受けた海棠が、しゃがみ込んで居る。
「本当にクズだな」
「お兄さんに言われたくないし!」
「海棠の言葉は一理ある」
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「でしょ、でしょ。桜の枝さん言ってやって」
桜川警部補の後ろに回った海棠が囃し立てている。
「何しに来たんですか?」
「お前らが、ここに入って行くのを見た西島警視が、あの二人でいると碌な事ないだろうから、止めてきてくれと頼まれた」
最近、西島警視は、更に老け込んできた。気苦労が多いらしい。
「俺より、お兄さんの方が酷いですよねぇ?」
「お前ら二人とも大概だからな」
「あっ、理斗からラインだ! 俺、行かなきゃ」
海棠が、適当な事を言いだした。理斗は今、授業中だ。ラインなんてするはずがない。
「おい! 海棠」
「じゃあ、また今度」
海棠が軽快に走り去り、入れ違うように戸田が入って来た。
「せんぱーい! 今日も組んずほぐれつ稽古をつけてくださ……」
戸田の視線が、「何するつもりだったんだ」と言いながら、俺の拳のネクタイを取る桜川警部補で止まった。
五月蠅くなる予感がする。桜川警部補と目を合わせた。よし、たまには戸田の騒ぎにもつきやってやるか。
「おい!」
戸田が桜川警部補を指さして、大きな口を開きかけた所で、桜川警部補の目の前に立った。そして、彼の肩を掴み顔を覗き込んだ。
「桜川警部補。今回の件では色々お世話になりました。今度の休み一日空けておいてくれませんか?礼がしたいです」
ぎょっとした顔の桜川警部の手の中で、俺のネクタイが圧縮されいく。
「せっ先輩! ちょ……ちょっと! はい、はーい! 俺も行きます! 予定は何時でも空いてます!」
戸田が、ドタドタと走り寄ってくる。俺は桜川警部補の手を取った。今日も彼の手は白い手袋に覆われている。能力者というのも難儀なものだ。視線を手から彼の目に移し、彼の目をじっと見つめて口を開いた。
「貴方が居なかったら、どうなっていたかわからない。本当に感謝しています」
これは偽りの無い本心だ。俺は、礼が言えてすっきりし、微笑んだ。
「この悪魔……海棠より、お前の方が悪質だ」
俺のネクタイは、遠くに投げ捨てられた。
「は? 何故だ」
「で、三人で何処に行きますか」
戸田が俺達の間に顔を挟み入れ、肩を抱いた。勘弁してくれ、流石にそれは予定に無いぞ。
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