猫と不思議の塔

玉木白見

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果てしない20日間

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■1
 しばしの休憩に満足し、猫と共にエレベータで上がり、次のミッションへ向かった。心には霧が立ち込めている。
 
 ここは35階だと言われた。随分と上と来たが、次のミッションが終わったら頂上につかなくても帰らないといけない。次の仕事に間に合わない。
 これが最後と思いながら猫に手を振りまた暗闇の部屋へと入る。小さな明かりに照らされた紙には「ミッション:20日間生きろ」と書かれている。えっと思うが、一方通行のこの部屋から抜けることもできずしぶしぶ光の部屋へと吸い込まれていった。

 今までと違う光に思えた。今までの異空間に瞬間的に突き落とすような光ではなく、ゆっくりと、優しく、温かく包み込んでくれるような光だった。

 気が付くと、白い天井と壁の境目を眺めていた。なにやらぼんやりとしていて良く見えない。
 天井の照明はついていないようで部屋は薄暗く感じる。正面の壁には何も飾られてなく殺風景だ。脇を見るとガラスケースに入った白と薄紫をベースとした色の花が飾られている。プリザーブドフラワーか。横にも寂しげな壁があり、その反対側はベージュ色のカーテンで仕切られている。カーテンは半開きで、隣にもベッドがあるが誰もいないようだ。カーテン脇からは大きな窓ガラスがあり外が見える。景色からすると高い位置にある部屋なのだろうことが想像できる。部屋の中はとても静かだが、扉の向こう側は何やらざわざわとした慌ただしい感じがある。
 
 ミッションが瞬時に終わりまた和室に戻されたのかと思ったが違う。今回も何かの動物ではなさそうだ。どこなのだろう。周りを確認しようとするが、なぜだか体が自由に動かせない。不思議なほどどんなに気持ちを入れても手足、体に力が全く入らない。声を発しようとしても何かが喉を塞ぎ声も出ない。
 
 鼻、口に違和感を感じる。管のようなものが入れられているようだ。腹の真ん中あたりにも何やら刺さっている感触がある。陰部にも違和感を感じる。何とか首を傾げ、自分の手らしきものを見てみると恐ろしくやせ細り、血管が黒ずみ、肌がシワシワになっている。
 
 病院だ。そして自分は老化か病気で寝ているのか。ここで寝ているのが今回のミッションか。

 それからしばらくの間、何か起きることを想像していたが何も起きることはなかった。何もできないまま、ただただ横たわっていた。始めのうちは意味も分からず、このままじっとしていればミッションはクリアで簡単だと思っていたが、ものの数時間もしないうちにそれが苦痛に変わってきた。何もすることがない。できない。あまりにも退屈だ。まさか、このままの状態で20日間・・・。

 うっすらと声が聞こえる。遠くから老人のモガモガしたような声が聞こえる。激怒し誰かに文句を言っているようだが独り言のようにも聞こえる。最近はああやってキレる人が多い。内容はわからないが文句言われるほうも大変だと思う。正しく要件を言えばいいだけなのに。それともキレられるに相応することがあったのだろうか。

 やることもなく、疲れを感じていたせいか、そのまままどろみの中、眠りについた。

■2

 1日目:
 目が覚める。腰のあたりに少し刺すような痛みを感じたのち、しばらく鈍痛が続くがもがいているうちにいつの間にか治まった。しばらくして気が付くと、隣に看護師らしき人がいて、横につるされている透明色のバッグを交換しているようだった。自分が今どういう状態なのか知りたく話しかけたいが、声を出すことができない。口がほんの僅かに動くだけだ。声だけではない。自分の力で呼吸しているのかすら良くわからない。無理やり呼吸させられている状態ということか。やがて交換が終わると看護師は無言で立ち去っていった。

 部屋は変わらず静かだ。外から風や車や新幹線の音、小鳥のさえずりが小さく聞こえる。何かの音を感じては耳を傾ける。それしかすることがない。それらも次第に飽きてきた。好きな音楽でも聴けたら少しは退屈しのぎになるのにと思うのだが。
 
 体全体は脱力感でぼやっとしているが意識だけははっきりしている。それがなおさら苦しさを倍増させる。
 ずっとこの状態が続く。今が何時かもわからない。外はやがて暗くなっていき部屋には薄暗い電気が灯された。なんという長い1日なのだろう。
  
 2日目:
 1日目と同じく、目を覚ましてからただ周りの壁や窓を眺め、外の音に耳を傾ける。外から小さく、しかし慌ただしい雰囲気の声が聞こえる。他の病人らしき人の怒鳴り声もたまに聞こえ耳を傾ける。本来聞きたくもないものであるが暇つぶしになる。外の音にも耳を傾ける。新幹線が定期的に通過するのでその音で時の経過を感じることができる。鳥が数匹飛んでいるのを見ていると昨日と同様、看護師らしき人が作業しに来た。この人の顔は良く見えない。何も話すことなく淡々と作業をし、静かに去っていく。まるで僕がここに居ないかのようだ。

 口がこの状態だからなのか。食事の時間もなく昨日ミッションが始まってから一度も食事はしていない。であるにもかかわらず腹のあたりを触ってみると、腹だけ丸く膨れているように感じる。こんなに手、腕が細いのにアンバランスではないか。自分の体の形を想像しているうちに、どこかでみた餓鬼という妖怪の姿を思い出す。どこで見たのだろうか思い出せない。悪行のため餓鬼道に落ち、あんな形となって飢えと渇きに苦しむが、確か食事があってもそれを食することができない。
 
 どこで餓鬼は見たのだろう。ゲーム。本。暇なので思い出してみるがなかなか思い出せない。そのうち今の僕は、飢えと渇きは不思議とないが、それでも口から食事がしたいと思い始め、いろいろと食べ物の想像をする。しばらくレトルトの食事ばかりしていたから手作りで作りたてのきれいに飾られた食事がしたい。

 不意に小便がでる。この状態のためトイレに行くこともできず垂れ流すしかない。先がどうなっているかわからないが大丈夫なのだろうか。トイレすら自分で行くことができないのか。
 
 部屋の外は時たま慌ただしい様子を感じさせる。新しい病人か、今入院中の病人に何かあったのだろうか。耳を傾けて想像する。
 遠くから定期的に聞こえてくる激怒している老人の声も良く聞いてみるとやはり独り言のように聞こえる。内容ははっきりとわからないが絶望的な単語がたまに耳に入ってくる。この老人も私と同じような状態だが、喋ることはできるのだろうか。内容に共感する部分もある。自分だって喋れれば発狂するかもしれない。

 たまに腰や背中などがズキっと痛む。少しでも傾け痛みの軽減を試みる。
 
 3日目:
 昨日と変わらない。本来なら今日から仕事ではなかったか。
 
 もう勘弁してほしい。「ミッション:20日間生きろ」だった。これでは死にたくても死ねないではないか。つまりこのままあと18日間耐え続けろというのか。
 地獄だ。生き地獄だ。なぜこんな目にあっているのだ。

 2日間、自分の体の状態を幾度となく確かめ、感じ、感覚的ではあるがわかる。この状態は病気だか老化だかはわからないがこれから回復することはないだろうことがわかる。助かる見込みがない体というのはこういうことなのだと感じる。なのに無理やり栄養を与えられ生かさせている状態なのだ。
 これはミッションであるが、現実にこんな状態の人がいるのだろうか。そしてこれが病気や寿命で死んでゆく人間の最期なのか。いや、ぽっくり逝く、眠るように亡くなるという話だって聞いたりする。皆が皆ではないはずだ。ではどうすれば体の自由がすべて奪われているのに生かされている今のような状態となるのだろうか。こんな状態に自分で望んでなるような人がいるのだろうか。

 絶望に浸っているうちに、ふと、数日前に聞いた猫の知り合いの話を思い出す。
 ブリーダーのもと狭い檻に閉じ込められて、生気をなくし、うずくまっている犬、猫たち。彼らだって自分で死ぬことなんてできない。同じような思いだったのだろう。でも今の自分は、看護師さんがいて世話をしてくれている。犬、猫たちは病気だったとしても面倒を見てもらえずやがて死んでいくものもいたって話だった。まだ僕のほうが幸せなのだろうか。それとも結局苦しむのであれば死んだほうがましなのだろうか。
 自治体に引き取られた犬、猫は引き取り手が居なければ、殺処分されていく。ドリームボックスとか言っていた。入った動物たちは夢の中に落ちていくように安楽死させられる。犬、猫たちは死にたくなく「助けてくれ」と叫んでいたのに無念にも殺されていく。一方、回復する望みもないであろう状態の僕は、死ぬことができず生かされ続けている。まったくの逆だ。許されるのなら今の僕を一生夢の中に落として欲しい。そうすればこの生き地獄から抜け出せる。

 犬、猫たちの苦しみ、今の自分の苦しみ。命って何なんだろう。考えているうちに怒りと悲しみが湧き、心の中で涙を流す。
 
 この日は雨だった。雨が何かにあたる音に耳を澄ませ、ガラス越しに繰り返される雨粒の流れをじっと眺めていた。少しでも少しでも早く時間が過ぎることを望んだ。
 仕事はどうなったんだろう。会社では僕の事が話題になっているのだろうか。予想を裏切り、無視されほおっておかれているかもしれない。仕事のことを想像し、心配になりながらも、プロパーや上司から味わった過去の苦痛を思い出し投げやりな気持ちになる。さすがにこのまま数日仕事に行かなければそれなりに話題にはなるであろう。今後の職場の状態がどうなるのかを想像し、たまに外の風景を感じを繰り返しているうちにこの日は過ぎていった。

■ 3 

 5日目(?):
 もう何日目なのかがわからない。いつもと変わらず、外の雰囲気を感じ、何かを想像し過ごす。この日は、風が強く吹いていた。
 
 ふと、この口や首や腹に刺さっている物を外してしまえば楽になれるのだろうかと考える。もうミッションなどどうでもいい。限界なのだ。そう思い違和感のある個所を探ってみようと思うが、少しは動くものの手がうまく動かせない。
 しばらくするといつもの看護師らしき人が来た。僕が体の管などを取りはずそうとしているのに気が付いたのか、いったん僕の手をベッドの金具部分に縛り付け、その後チューブを手が届かないところへと遠ざけた。その看護師は僕の手を縛り付けたままどこかへ行ってしまった。なんてことをするのだろう。しばらくすると、看護師が思い出したかのように僕の手をほどいてまた黙って去って行った。

 風は乾いていた。定期的に空気を鋭く切り裂くような音が響いた。風で飛ばされた何かが、何かに当たる音がするとそれが何だかを想像し、時折痛々しくも感じた。
 もう想像して楽しむネタもなくなってきた。この日は良くやったゲームの内容を頭から思い出しながら想像で遊んだ。そうしているうちにもう一度ゲームがやりたくなってきた。それでも時間を持て余し、不意に暇になるとまた苦痛に襲われた。

 6、7日目(?):
 和美ちゃんの夢をみた。いや夢だったのか、いつの間にかただ想像に浸ってただけなのか。
 
 人を助けるために瞬間的に行動できる人って素晴らしいと思う。前回のミッションの時、僕も行動を開始するのにとても躊躇った。たまに電車の路線に落ちた人を救助しようと飛び降りたが助けが間に合わず全員亡くなってしまった、人命救助のために自らの命を投げ出した勇気ある行動、という美談を聞く。勇気か。僕には一生そこまでの勇気は身につかないだろうと思う。
 
 ミッションはただのシミュレータのようなもの。もしあの時、僕が彼女にもっと丁寧に謝罪していたとしても本当の彼女には僕の気持ちは伝わらないだろう。それでも少しだけ心が晴れた気がする。これは自己満足でしかないのは十分理解している。そもそも忘れかけていたことだった。自分の悪しき過去の行いをもう一度思い出し反省できただけでも少しは良かったのだろう。そう思いたい。

 和美ちゃんは元気にしているのだろうか。もう二度と会うことはないだろう。彼女は決して美人だったわけでもないし、特別な何かを持っているわけでもなかったが、彼女以上に心に深く思う女性には出会ってないと思う。初めてで新鮮だったからもあるし、別れ方に後悔が残るのも理由の一つだろうが、それとは別に何か不思議なものを感じる女性だった。僕にとっては大切な人、大切にすべき人だったのだと思う。

 その後も、付き合う、付き合わないは別として女の子と出会うことはあったが、不謹慎にも順番をつけるとすれば和美ちゃんが一番に来るだろうと思う。本音を言えばやり直したい。もっと僕が、人の心がわかる状態の時に出会い付き合っていれば結果が違ったはずだと思う。

 僕の事は憶えているのだろうか。そして今でも傷ついているのだろうか。その傷だけでも無くせられたらいいのにと思う。

 この日は彼女と付き合っていたころの記憶をずっと思い出し過ごした。


 8日目(?):
 この日辺りから、目も良く見えなくなってきた。
 近くのものはぼやけてほとんど見えない。外の風景は近くに比べればぼんやりとしているが不思議とまだ良く見える。何か近くに来ると白い影が動くのでわかるのだがそれが何なのかははっきりとわからない。でもどうせいつもの看護師だろう。ついに数少ない楽しみである見る楽しみも半分奪われた。最初のうちは近くの状況がわからないことで恐怖を感じたが、すぐにどうでも良くなった。なるべく遠くの見える場所を見て、これ以上悪くならないで欲しいと願いながら過ごした。

 この日、お昼ごろだろうか、数人の人たちが僕のもとを訪れた。少し錆びたような金属がこすれる音をたて僕のベットの周りに椅子を並べているようだ。僕には何も話しかけてはこない。話しかけても返事ができないことを知っているからだろうか。誰も来ないのでてっきり身寄りのない老人かと思っていた。しかし1週間近く経ってその間にお見舞いが1度きりとは・・。
 僕を囲み座り落ち着くと、その人たちは小声で雑談を始めた。どれも聞いた覚えのない声だった。
 「延命治療は望んでなかったのにね。かわいそうに。」
 「仕方なかったのさ。倒れたときにデイサービスさんしか居なくてねえ。敏子さんに電話がかかってきたらしんだけど、動転してしまったようでとっさに医者に『死なせないでください』って言っちまったらしくてねえ。」
 「今からでもこのスパゲッティーは取り外せないのかい。」
 「先生がダメだって。殺人犯になっちゃうって。」
 そうだ。外してくれ。もう我慢の限界だ。好きなものも食べれない。何もすることができない。身内まで生きていることに対して疑問を抱いているなんて、何のために生かされているというのだ。限界だ。外して終わらせてくれ。だが、この気持ちも伝える手段がない。涙すら出てこない。
 知らない人たちは、それからしばらく思い出話に浸っていた。僕の知らない話ばかりだった。しばらくして話が尽きて来ると帰り支度を始めたようで、また鈍い金属音が鳴り響く。帰り間際、一人の女性が
 「元気になってね。諦めないで。」
 と声をかけた。そんなこと言われたってこれから良くなる見込みなどおそらくないないだろう。そっちだってわかっているはずだ。それなのにそんなことを言うのか。悲しみと怒りが交じり合う。
 
 またしばらく孤独な時間を過ごす。先ほどのお見舞いで少しの間だけでも一人ではない時間が過ごせたことは良かったと後で思う。
 あと残り何日だ。あとどれくらいこの状態で耐えなければならないのだ。
 
■4

 ある日、とても息苦しさを感じた。まるで溺れているような感覚だった。
 いつもの看護師が僕の状態に気が付いてくれて、しばらくすると複数人で僕の容態を確認し始めた。口や腹に刺さっているチューブをケアしているようだった。その後息苦しさがしばらく続いたが、気が付くと寝てしまっていたようで、起きた時にはまた元の状態に収まっていた。死にたいと思いながらも、苦しくなると助かりたいと思う。本能なのだろうか。そして最期は溺れるように終わるのかと思うとまた恐怖を感じてしまう。
 
 何日経ったのか、途中からわからなくなった。こんな状態でずっといれば考えることすら止めたくなる。まさかこんな目に合うとは。そもそも、僕は何をしていたんだ。何のためにこんなところに来たのだ。そうだ。自分探しの旅だ。自分を見つめなおす旅をしていたんだ。
 
 こんな状態だからだろうか。自分の今までの人生を振り返ってしまう。僕は、正直、子供のころからただ漠然と生きてきた。大きな夢、希望、憧れなどなかったと思う。周りの友達は野球やサッカーを習って中にはプロを目指すんだなんて言っていた友達もいたが、僕には特に何もなかった。良く漫画は読んでいた。僕もいつかヒーローになり悪をやっつけるんだって思っていた。でもすこし大人になった時に、少年漫画のように堂々と倒せる悪なんていないことがすぐにわかった。実在する悪は、あんなに堂々と悪事を働かない。表面では良い笑顔を作り、裏で隠れるようにして悪事を働く。攻められるような隙を与えない。もし攻めればこちらが悪になる。
 
 中学校の時の陸上部も、小学校の鬼ごっこで少しだけ他の子よりも早いと思ったから、そして、部活動に力を入れている中学校のうち、陸上部だけは比較的辛くないとの噂を聞いてたから入った。部活動に入れは進学に有利だって話を聞いての入部であり、そんなに頑張ろうなんて心にもなかった。ところが僕が中学生になるちょうど1年前に陸上部の顧問が変わり急に本格的な部活になったらしく、聞いていた話と違ってびっくりした。それでも少しは頑張ったつもりだったがすぐに挫折した。それで高校も部活動はせず、また特別なことは何もせずいつの間にか3年が過ぎた。ずっと友達とゲームばかりしていた気がする。思えば和美ちゃんと付き合った数か月間だけが後悔とはなったが良い思い出だ。
 
 勉強はそこそこ頑張ったおかげで大学にも進学できた。現役ではすべて落ち一年浪人生活を送った。希望の大学もあることにはあったが特別やりたい学問があったわけではない。自分のレベルにあった大学を選択し、最終的にはそのレベルより少し下の大学に合格した。大学の4年間も勉強に遊びにと大変ながら楽しい時間があっという間に過ぎ去っていった。これと言って頑張ってやったことなんてなかった。そして流れるままに社会に出た。就職活動は少し苦労したがそれでもちゃんと就職できた。

 友達だって少なかったが常にいた。独りぼっちってことはなかった。今でも連絡を取ろうと思えばとれる友達だっている。特別孤立して寂しい生活を送ってきたわけではない。だから今になって自分がこんなに人生について悩むことになるとは思っていなかった。何も努力してこなかったわけではない。大学入試の勉強は頑張ったと思うし、中学校の陸上だって1年間は頑張った。社会人になってからもわからないことは自主的に勉強もした。何のツケでこんなに悩むことになってしまったのか今でのはっきりとわからない。わかっているのはあの二人が嫌いなことだけだ。
 
 自分探しの旅。それを聞いたときあの猫は馬鹿にしていた。でも確かに自分はここにいる。自分の何を探そうと思ったのだろう。生きる意味、存在価値。でもそんなもの自分が勝手に創るものではっきりと存在しないのかもしれない。猫にとって僕なんて、「大嫌いな人間」の一人なんだろうしそれ以上でも以下でもない。猫や他の動物にも生きる特別な意味なんてあるのだろうか。動物たちは、生きることそのことに必死だ。産まれて間もなく命の危険にさらされ、偶然に運の良かった命だけが長らえる。そして命を懸けて必死に生きて、命を繋ぐために命懸けでプロポーズしパートナーを探す。そして繋いだ命をたま繋ぐために命を懸けて食事を探しに行く。そこに生きる意味など考える余地などないのだろう。必然なのだ。
 
 人だって同じ動物だ。なのになぜ僕は自分探しなんて発想になったのだ。なぜ自分の生きる意味なんて考えたんだ。しっかりと生活していればそれいいではないか。猫の言う通り『住む場所だって食事だって何の不自由もなく生きている』ではないか。確かに人は生きることに必死にならなくても生きていけるし、またそれ以上のものを望めば運や努力次第でそれを手に入れることができる。ただ生きる事以上の何かを追い求めることができる。でも僕はそんなものにはあまり興味を持たなかった。ただ流れでここまで生きてきた。それが何が悪いのだろうか。ちゃんと勉強だってしてきたし、大学にだって行った。社会人にもなった。自分は頑張っていると思う。
  
 トゲゾウが話していた犬、猫達の話を思い出す。
 
 話だと、糞尿にまみれた強烈な悪臭漂う粗悪な環境に生まれ、間もなくして親から無理やり引き離され商品として売り出される。そこで良き主人に出会えずっと一緒に過ごせれば幸せな生活が送れる。それが本当に幸せなのかどうかは本人に聞いてみなければわからない。本当は親と一緒に家族で過ごしたいと思っているかもしれない。でも犬を見ると大抵幸せそうに散歩している。そう見えるだけか。

 しかしそこで良き主人に出会えなかった犬、猫は繁殖のための母体になるか、自治体に引き取られるか、ひどい場合は捨てられたりするようだ。母体となった母親はボロボロだったって話だった。決して幸せではないだろう。そんな体で産んだ子供たちはすぐに連れ去られてしまうのだから。ペットになった犬、猫だって飼い主の勝手な事情で、捨てられたりする場合もある。そして、一方、野良猫はたまたま子供ができたからと言ってそこに生活環境があるわけではなくボランティアの助けなどなければ死ぬ運命だ。不幸な命だと言っていた。不幸な命がこれ以上産まれないようにボランティアの人たちが避妊、去勢手術する。避妊、去勢はペットだって同じだろう。自分の血の命を繋げることができないのだ。

 無理やり増やされる子もいれば、不幸な命と言われ産まれない子もいる。そして、人に増やされ産まれてきたのに安楽死させられるものもいる。その理由は人間がだた「かわいい」「癒される」と思っているからだけ。そしてそれがビジネスになってしまったから。なんとひどい扱いの命なのだろう。トゲゾウが人間を嫌いになるのは無理もないことだ。
 
 トゲゾウが言っていた。安楽死が決定した犬、猫は死ぬまで「助けてくれ、殺さないでくれ」と叫んでいたと。
 無念だっただろう。まだ生き続けたいと思っただろう。でも、そう。これこそが生命なのだと思う。生き続けたいと思うこと。そしてそれこそが意味なのだと。
 
 だから生きていれば、生き続けようとしていればそれが意味なのだ。僕だって頑張って生きている。頑張って仕事をして生きるための賃金をもらって生活している。だからそれでいいのだ。それなりに頑張っていれば。
 
 ん?、い、いや。ちょっと待て。違う。では今の何もできない状態で生きていることにも意味があるというのか。
 
 食べること、動くこと、何かを鑑賞し楽しむことなど何もできない、トイレすら自分で行けない。見舞いに来た人たちにも同情の目で見られ、遠回しにもう死ねればいいのにとまで言われながらそれでも生きている誰も望まないようなこんな状態でも、それでも生きるべき意味があるというのか。終わりがいつかもわからずこんな状態でずっといれば、意識だっておかしくなるはずだ。つまり自分が生きている事すら忘れてしまうのではないか。
 生き続ける理由は何か。親族のためか。医者の金ためか。いや、そんなに悪意のあるような理由でこんなことになるとは考えられない。何を間違えたのか。ただただ不運だったのか。
 もちろん体の一部が不自由なまま生活している人はたくさんいて、その人には生きる意味が絶対にある。そう、生き続けたいと思う事が意味なのなら意味があるはずだ。でもこんな状態になってまでも生き続けたいと思えるだろうか。
 
 犬、猫の話と、今の生かさせている状態、どちらも他の誰かに命を決めつけられているような気がする。それが故意なのか、悪意があるのか、はたまた何かの偶然なのか。
 
 改めて、なんで自分探しなんてことになったのか考えると、理由は同じなのかもしれない。毎日、上司、プロパーに仕事を押し付けられ文句を言わず仕事をしていた。それが正しいと思っていた。そして頑張って言われた通りやったのに褒められもせず、逆に人間否定するような文句で叱られたりした。他人が僕という人間をこうあるべきと決めつけていたから。プロパーや上司が何か意図があったのか、悪意があったのかなかったのか はわからない。もしかすると僕が和美ちゃんを傷つけてしまった時のようなからかい半分の感覚だったのかもしれない。でも、もし他人が僕を決めつけてきたとしても、そこにしっかりとした自分があれば良かったのではなかろうか。
 
 わかったことがいくつかある。
 僕は意思が弱い。ただただ漠然と頑張ってきた。それではいけなかったのではないか。
 また、生命に対する知識が必要なのかもしれない。今、何もせずただじっとしているこの状態が何なのか。これが人の最期なのか。
 そして、人であれ、動物であれ他の命を勝手に決めつけてはならない。もし決めつけてくるものがあるならば、そこに自分の主張を介入させるべきだ。そうしなければ自分を見失い猫に馬鹿にされる結果となる。
 主張するためにはまた知識が必要だ。結局は僕の努力が足りなかったのかもしれない。
 
 じっと窓を眺めていた。
 ぼんやりと風に舞う小さな粒状の雪が見えた。今は冬だったのか。今まで全然わからなかった。こんなに雪をじっくりと見るのは久しぶりだ。小さく弱弱しい粒たちが風に四方八方に待って行く。しばらくするとその雪は止んでいった。
 その日もただただ静かな薄暗い灰色の空間に佇んでいた。
 
■ 5
 ある日、また誰かが僕のもとに訪れた。年配の男性のようだった。
 その男は僕が返事をしないことを知っているにも関わらず、「おう、具合はどうだい」などと声を掛け僕の手をさすってくれた。聞いた覚えのない声で数日前に見舞いに来た中にもないように思えた。その後近くにある机にCDプレーヤーのようなものを置くと、演歌を流し始めた。女性歌手が寂しげな声で唄い始める。
 「音楽が良いってインターネットに書いとってなあ。好きだったろうこの曲。」
 できればヘビーメタルが良かったと思ったが、まあ仕方ないと思い仕方なく聞いた。演歌などまともに聞くのは始めてだ。興味もなく僕にとっては退屈な音楽だが今何もしないよりは良いと思い聞き入った。その後、その男は僕に話しかけることはなかった。少しすると音楽を掛けたままいったん席を離れ、またしばらくすると戻ってくると、音楽を掛けたままその男は「じゃあ」と言って帰って行った。帰り間際に「すまんかった」と小声で謝っていた。音楽はリピート再生されしばらく同じ曲が繰り返し流れていたが、そのうち看護師が訪れて消していった。
 
 それから何日経ったのだろう。何度寝て何度起きただろう。不思議と何度でも寝れる。次寝た時が最期か、それともまた目が覚めるのか。見知らぬ男が訪れてから昼頃になると演歌が流れるようになった。同じ数曲が繰り返されるだけなのですぐに飽きてしまった。演歌でも良いから数枚用意してくれれば良いのにと思う。ただ、演歌を聞きながら寂しげな外を眺めているのは意外と良いものだと少しばかり思った。

 数日置きに溺れるような苦しみも味わった。その都度これで終わりかと思うが、ケアされるとまた同じ状態へと戻った。
 男が見舞いに来てから数日後耳も不自由になってきた。流れていた演歌も遠くに聞こえるようになった。しかし、そのおかげか、良く聞こえてきた怒っている老人の独り言も聞こえなくなった。ぼんやりとした中、過去の思い出に浸る、妄想に明け暮れる、そんな日々が続いた。

 ある日、外を見るとまた雪が降っていた。数日前とは違い大粒の雪だ。このまま降り続けば積もるだろう。
 風もあまりなく、しんしんと降り続ける雪たち。なんてきれいなのだろう。都心で降ると交通機関への影響が大変で素直に喜べなかったがこの雪は心を洗ってくれるように天から降り注いでくる。眺めているうちにまた静かに眠りについた。

 ある日、また誰かが訪れてきた。数人いるようだ。数日前のお見舞いだろうか。耳が不自由で声もはっきりとわからず確認できない。
 でも前回とは少し違うようだ。その人たちは僕の姿を見てたくさんの声をかけてきてくれているようだ。
 
 なにやら周りが悲しい、でも温かい雰囲気に包まれた気がした。
 そして、少しすると誰かが僕の手を優しく包むように握ってくれた。感触から若い感じの手だった。そしてその手はあまりにも不思議な手だった。初めて出会ったような気がしない身近にあるような感触だ。
 
 その手は僕の腕もゆっくりと優しく撫でてくれた。そして腕に生暖くやさしい数滴の水が落ちた。泣いてくれている。
 
 その人たちは数分の間僕の近くにいてくれた。そして、再度もう一度手を両手で包むように握って何かを言ったのち静かに帰っていた。
 それから少しして、ぼんやりとしてきた。しかし今までの眠りにつく前の感覚とは違う。体から自分が抜けていくような、スーッと軽くなったような感覚だ。目の前の殺風景な壁が徐々に光を帯びゆっくりと消えていく。体のちょっとした凝りや痛み、気持ちの苦痛が不思議と消え去っていく。自然と目が閉じる。魂が光に包まれるように気を失っていった。

■ 6
 目覚めると、懐かしい天井のが見えた。ぼんやりではなくはっきりと見える。
 頭が重い。体は動くのか。力をいれ腕を曲げ、手を握り、膝も曲げると確かに動く。首も回してみるとコキコキと音をたてた。腕の状態を見るとあんなやせ細ったものではなく20日前の張りのあるつやつやした状態だ。
 「あ、あ、」
 小声で試すと確かに声も出た。そしてその出した自分の声がはっきりと聞こえる。喉に管も通っていない。もう一度全身に力を込めてみる。体に力がみなぎる。体中に血液が循環しているのを感じる。こんなにも生気を感じるのは初めてだ。生きている。終わったんだ。明るく、畳の香りがする部屋に戻ってこれたんだ。苦しかった。顔が潰れ、大粒の涙がこぼれてきた。
 
 体を起こし、軽く運動をしながら癖のようにクローゼットの上を見る。猫はいない。あっちの部屋か。体を無駄に大きく動かしながら隣部屋に行くと、猫は窓際に姿勢よく座りながら外を眺めていた。僕が近づくと気が付き、近寄ってきた。
 「長かったな。死んだのかと思った。」
 「ああ、とーーっても長かったよ。もう懲り懲りだ。」
 「ん。なんだ。泣いているのか?まあ、いい。とりあえず餌をくれないか。」
 猫をみていつの間にかまた泣いていたみたいだ。くしゃくしゃの顔のまま猫の言葉に飽きれて鼻で笑ってしまった。缶詰の餌の中で一番おいしそうなのを選び猫に与えると、すごい勢いでむしゃむしゃ食べ始めた。
 この猫にもう一度出会えてなんだか嬉しかった。もう会えないかと思った。
 
 「あれ、今何時ごろ?」
 「何時?知らん。朝だ。」
 「そうか。」
 窓から外を眺めた。いい天気だ。そして何て雄大で素晴らしい景色だろう。ここは本当に35階なのだ。
 大きく深呼吸をすると何だかおなかが減ってきた。もちろんおなかに穴は開いてない。なんかいいものでも食べよう。
 「次、行くか。」
 猫が唐突に言ってきた。猫はなぜかやる気満々だ。
 「え、次って次のミッションかい。いや。少し休ませてくれないか。ちょっと心の準備が。」
 「どのくらい待てばいい。もう随分と長い間待ったぞ。」
 「今日はいいよ。今日一日は休ませてよ。今回のミッションはとても辛かったんだ。そういえば、長く待っていたって言ってたけど、20日間本当に僕はここに居なかったの?」
 「お前は数日いなかったぞ。仕方ないなあ。お昼まで待ってやる。」
 本当に数日間経過したのか。ということは、もう仕事は間に合わないなあ。午前中しか休ませてくれないなんて厳しいなあ。もうあんな内容のミッションは本当に勘弁してほしい。とりあえず午前中は休ませてもらえることで了承を得て午後になったその時の気分でと伝えると、また人間は身勝手だとぶつぶつ愚痴っていた。
 
 そう言えば、先ほどのミッションで気が付いたことがある。猫に尋ねてみた。
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