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第4章 空腹の野良猫と、深夜のチュール・タイム
幸福な首輪と、涙味のパンケーキ
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(……あたたかい)
ショコラが意識を取り戻したとき、最初に感じたのは生まれて初めて体験するほどの「心地よい重み」と「ぬくもり」だった。
硬い地面でも寒風吹きすさぶ岩陰でもない。
ふかふかのクッションのような寝床。
そして、自分の背中を包み込む大きな体温。
「……んぅ」
目を開けると視界いっぱいにカイトの寝顔があった。
アタシは彼の腕の中にすっぽりと収まり抱き枕のように抱えられていたのだ。
鼻先が彼の胸板に触れている。
スゥ……と息を吸い込む。
昨夜、アタシを狂わせた「雄」の匂い。
それと、石鹸の優しい香りが混ざり合って脳の芯が痺れるほど安心する。
(……夢じゃない。ご主人様だ)
ショコラはこっそりとシーツの下で自分のお腹を撫でた。
下腹部にじんわりとした重さが残っている。
昨夜、カイトがたっぷりと注ぎ込んでくれた「マーキング」の証。
それが「お前は俺のものだ」と言ってくれているようでショコラは無意識に喉をゴロゴロと鳴らした。
周囲を見渡す。
広いベッドの上には他の「家族」たちも眠っていた。
銀髪のサオリはカイトの左腕にしがみつき、眼鏡のユミは足元で丸まり、エルフのセラフィナは背中合わせで優雅に寝息を立てている。
みんな、無防備で幸せそうだ。
泥棒時代のアタシが見たら「隙だらけだ」と嘲笑っただろう。
でも今は、その無防備さが羨ましい。
ここは敵がいない場所なんだ。
「……一緒にいたい」
ショコラは小さく呟いた。
もうあの孤独な寒空の下には戻りたくない。
この温かい腕の中で美味しいご飯を食べて、たくさん可愛がられて生きていきたい。
「くん、くん……」
愛おしさが込み上げてショコラはカイトの首筋に鼻を押し付け匂いを嗅いだ。
ペロリ。
ついでに、少ししょっぱい首筋をひと舐めする。
「……ん。くすぐったいよ、ショコラ」
頭上から寝起きの掠れた声が降ってきた。
ビクッとして見上げるとカイトが薄目を開けて笑っていた。
「あ、う……!ご、ご主人様、起きた……?」
「おはよう。……朝から甘えん坊だな」
「お、おはよう……ございます……にゃ」
カイトに見つめられ、急に昨夜の記憶――「マーキングして!」と泣き叫んで腰を振った痴態――が蘇りショコラの顔がカッと真っ赤になった。
恥ずかしい。
でも、嫌じゃない。
カイトはそんなアタシの耳を優しく撫でると身を起こした。
「さあ、起きようか。今日は忙しくなるぞ」
ーーーーー
カイトが起きるとそれに呼応するように他のヒロインたちも目を覚ました。
サオリたちは慣れた手つきでベッドを整え洗面所へ向かう。
その流れるような連携に、ショコラはどうしていいか分からずベッドの隅で小さくなっていた。
「ショコラ、君も着替えなよ。……昨日のボロ布はもう捨てたから」
カイトが差し出してきたのは見たこともない綺麗な服の山だった。
盗賊団の男たちが着ていたゴワゴワの革鎧とは違う、しなやかで上質な素材。
猫獣人の動きを阻害しないノースリーブの『アサシン・スーツ(特注)』だ。
「これ……アタシに?」
「ああ。斥候(スカウト)役なんだろ?動きやすくて、丈夫なやつを選んだ」
「……ありがとう!」
ショコラは目を輝かせて服を受け取った。
その一番上に小さな布切れが乗っていた。
ツルツルとした光沢のある黒い布。
紐がついている。
「……これは?」
「下着だよ。……『シルクのショーツ』だ」
カイトが少しだけ意地悪く笑った。
ショコラはおずおずとそれを手に取る。
指から滑り落ちそうなほど滑らかで軽い。
こんな高価な布、王族しか着られないんじゃないだろうか。
「い、いいのか?こんな凄いの……」
「いいから履いてみな。肌触りが最高だから」
ショコラは言われるがままバスタオルを落とし、そのショーツに足を通した。
スルスル……。
布地が太ももを滑り上がり昨夜酷使されて敏感になっている秘部を包み込む。
「んぁ……っ♡」
思わず変な声が出た。
ゴワゴワの麻布とは次元が違う。
まるで第二の皮膚。
いや、カイトの手で優しく撫でられているような感触。
クロッチの部分がまだ少し腫れているクリトリスに触れるたびゾクゾクとした甘い電流が走る。
(すごい……気持ちいい。守られてるのに裸みたい……)
鏡を見ると黒いシルクの紐パンは、褐色のアタシの肌に驚くほど似合っていた。
ちょっとセクシーすぎて、目のやり場に困るけれど。
「似合ってるよ、ショコラ。……可愛い」
着替えを終えたカイトが後ろから抱きしめてくれた。
その言葉だけで胸がいっぱいになる。
アタシは新しい服に袖を通し、赤い首輪の位置を直した。
鏡の中にはもう薄汚れた野良猫はいなかった。
ーーーーー
「さあ、朝ごはんよ!手伝って!」
サオリの声でリビングスペースが活気づく。
キッチン(システムキッチン完備)からは香ばしいバターの香りと、何かを焼く甘い匂いが漂ってくる。 ショコラは鼻をひくつかせた。
(……いい匂い。ツナ缶とは違う甘い匂い)
サオリがフライパンを振り、ユミがお皿を並べ、セラフィナが優雅に紅茶を淹れている。
みんな、自分の役割がある。
ショコラはオロオロと立ち尽くしていた。
盗むことと、逃げることしか知らないアタシに何ができるんだろう。
「……邪魔、かにゃ?」
そう思って部屋の隅に縮こまろうとした時だった。
「はい、ショコラの分。……熱いから気をつけてね」
カイトが湯気の立つお皿を目の前に差し出した。
そこには黄金色に焼かれた三段重ねの『パンケーキ』。
上にはとろけるバターと琥珀色のメープルシロップがたっぷりとかかり、横にはカリカリに焼かれたベーコンと彩り豊かなフルーツが添えられている。
「……え?」
「君の分だよ。たくさん食べるだろ?」
カイトがニッコリと笑う。
ショコラは信じられなかった。
今まで食事というのは「奪うもの」か「盗むもの」か、あるいは「ゴミをあさるもの」だった。
誰かがアタシのためだけにこんな綺麗な料理を作ってくれるなんて。
「……いい、の?本当に、食べていいの?」
「もちろん。……これからは毎日お腹いっぱい食べられるよ」
ショコラは震える手でフォークを受け取った。
恐る恐る、パンケーキを切り口に運ぶ。
パクッ。
「……ッ!!」
フワフワの食感。
バターの塩気とシロップの濃厚な甘みが口の中で爆発する。
美味しい。
死ぬほど美味しい。
「ん、ぐっ……うぅ……っ!」
飲み込んだ瞬間、ショコラの目から大粒の涙が溢れ出した。
止まらない。
視界が歪んでお皿が見えなくなる。
「おいおい、泣くほどマズかったか?」
「ちがっ、ちがう……!おいしいの……すごく、おいしくて……あったかくて……!」
ショコラは泣きじゃくりながらパンケーキを口に詰め込んだ。
美味しい。
これが「家族」の味なんだ。
「……あらあら。顔中シロップだらけよ」
サオリが苦笑しながらハンカチでショコラの口元を拭いてくれた。
ユミが無言で温かいミルクティーを差し出してくれる。
セラフィナが頭を優しく撫でてくれる。
「ゆっくり食べよ。……誰も奪ったりせぬ」
みんなの優しさが五臓六腑に染み渡る。
ショコラは涙と鼻水とシロップでぐしゃぐしゃになりながらそれでも世界一幸せな朝食を平らげた。
ーーーーー
食後の紅茶を飲み終える頃、カイトが改めてショコラに向き直った。
「ショコラ」
「……はい、ご主人様」
「俺たちは魔王城へ向かう。危険な旅だ。……それでも一緒に来るかい?」
試すような問いかけ。
でも、ショコラに迷いはなかった。
昨日のツナ缶の時のような空腹からの衝動じゃない。
もっと心の奥底からの魂の渇望。
「いく!一緒に行く!」
ショコラは椅子から飛び降り何度もうなずいた。
「アタシ、ご主人様の役に立つ!鼻も利くし、罠も見抜ける!夜の見張りだって得意だもん!」
「頼もしいな。……じゃあ改めてよろしくな、ショコラ」
「よろしくね、猫ちゃん」
「……期待してる」
「うむ。精々励むがよい」
カイトが手を差し出し、ショコラはその大きな手を両手で握りしめた。
温かい。
この温もりをもう絶対に離さない。
ーーーーー
「よし、出発だ!」
テントを収納し一行は外の荒野へと出た。
朝の冷たい風が吹いているが、新しいスーツとお腹の中のパンケーキの熱でショコラは全く寒くなかった。
外で待ちくたびれていた勇者ゴウがショコラの姿を見てギョッとした。
「おいカイト!なんだその獣人は!?まさか魔王軍の刺客か!?」
ゴウが剣の柄に手をかける。
ショコラは反射的に身構え、喉をグルルと鳴らして威嚇しかけた。
だが、カイトがスッとショコラの前に立ち庇ってくれた。
「剣を収めろ、ゴウ。……彼女は新しい仲間だ」
「仲間ぁ?こんなチビが?」
「『疾風のショコラ』だ。この辺りの地理に詳しい斥候(スカウト)だよ。魔王城への抜け道も知ってる」
「抜け道だと!?」
「ああ。彼女がいれば無駄な戦闘を避けて最短ルートで行ける。……お前の『聖剣』を温存するためにも必要だろ?」
カイトの言葉にゴウは「むぅ」と唸って考え込み、やがてバツが悪そうに手を離した。
「……ま、まあ、案内役くらいなら認めてやるか。俺様は寛大だからな!」
(……変な奴。でもご主人様の方がずっと強くて賢いにゃ)
ショコラはゴウに「あっかんべー」をしてからカイトの背中に隠れた。
「さあ、行こうかショコラ。……案内頼むよ」
「任せてにゃ!こっちの岩場を抜ければ魔王城の裏手まで一本道だ!」
ショコラは軽やかに岩の上に飛び乗った。
風が彼女の新しい服と栗色の髪を揺らす。
首元の鈴がチリリンと涼やかに鳴った。
それは、彼女が「孤独な野良猫」から「万物配送のカイトの家族」へと生まれ変わった旅立ちの合図だった。
ショコラが意識を取り戻したとき、最初に感じたのは生まれて初めて体験するほどの「心地よい重み」と「ぬくもり」だった。
硬い地面でも寒風吹きすさぶ岩陰でもない。
ふかふかのクッションのような寝床。
そして、自分の背中を包み込む大きな体温。
「……んぅ」
目を開けると視界いっぱいにカイトの寝顔があった。
アタシは彼の腕の中にすっぽりと収まり抱き枕のように抱えられていたのだ。
鼻先が彼の胸板に触れている。
スゥ……と息を吸い込む。
昨夜、アタシを狂わせた「雄」の匂い。
それと、石鹸の優しい香りが混ざり合って脳の芯が痺れるほど安心する。
(……夢じゃない。ご主人様だ)
ショコラはこっそりとシーツの下で自分のお腹を撫でた。
下腹部にじんわりとした重さが残っている。
昨夜、カイトがたっぷりと注ぎ込んでくれた「マーキング」の証。
それが「お前は俺のものだ」と言ってくれているようでショコラは無意識に喉をゴロゴロと鳴らした。
周囲を見渡す。
広いベッドの上には他の「家族」たちも眠っていた。
銀髪のサオリはカイトの左腕にしがみつき、眼鏡のユミは足元で丸まり、エルフのセラフィナは背中合わせで優雅に寝息を立てている。
みんな、無防備で幸せそうだ。
泥棒時代のアタシが見たら「隙だらけだ」と嘲笑っただろう。
でも今は、その無防備さが羨ましい。
ここは敵がいない場所なんだ。
「……一緒にいたい」
ショコラは小さく呟いた。
もうあの孤独な寒空の下には戻りたくない。
この温かい腕の中で美味しいご飯を食べて、たくさん可愛がられて生きていきたい。
「くん、くん……」
愛おしさが込み上げてショコラはカイトの首筋に鼻を押し付け匂いを嗅いだ。
ペロリ。
ついでに、少ししょっぱい首筋をひと舐めする。
「……ん。くすぐったいよ、ショコラ」
頭上から寝起きの掠れた声が降ってきた。
ビクッとして見上げるとカイトが薄目を開けて笑っていた。
「あ、う……!ご、ご主人様、起きた……?」
「おはよう。……朝から甘えん坊だな」
「お、おはよう……ございます……にゃ」
カイトに見つめられ、急に昨夜の記憶――「マーキングして!」と泣き叫んで腰を振った痴態――が蘇りショコラの顔がカッと真っ赤になった。
恥ずかしい。
でも、嫌じゃない。
カイトはそんなアタシの耳を優しく撫でると身を起こした。
「さあ、起きようか。今日は忙しくなるぞ」
ーーーーー
カイトが起きるとそれに呼応するように他のヒロインたちも目を覚ました。
サオリたちは慣れた手つきでベッドを整え洗面所へ向かう。
その流れるような連携に、ショコラはどうしていいか分からずベッドの隅で小さくなっていた。
「ショコラ、君も着替えなよ。……昨日のボロ布はもう捨てたから」
カイトが差し出してきたのは見たこともない綺麗な服の山だった。
盗賊団の男たちが着ていたゴワゴワの革鎧とは違う、しなやかで上質な素材。
猫獣人の動きを阻害しないノースリーブの『アサシン・スーツ(特注)』だ。
「これ……アタシに?」
「ああ。斥候(スカウト)役なんだろ?動きやすくて、丈夫なやつを選んだ」
「……ありがとう!」
ショコラは目を輝かせて服を受け取った。
その一番上に小さな布切れが乗っていた。
ツルツルとした光沢のある黒い布。
紐がついている。
「……これは?」
「下着だよ。……『シルクのショーツ』だ」
カイトが少しだけ意地悪く笑った。
ショコラはおずおずとそれを手に取る。
指から滑り落ちそうなほど滑らかで軽い。
こんな高価な布、王族しか着られないんじゃないだろうか。
「い、いいのか?こんな凄いの……」
「いいから履いてみな。肌触りが最高だから」
ショコラは言われるがままバスタオルを落とし、そのショーツに足を通した。
スルスル……。
布地が太ももを滑り上がり昨夜酷使されて敏感になっている秘部を包み込む。
「んぁ……っ♡」
思わず変な声が出た。
ゴワゴワの麻布とは次元が違う。
まるで第二の皮膚。
いや、カイトの手で優しく撫でられているような感触。
クロッチの部分がまだ少し腫れているクリトリスに触れるたびゾクゾクとした甘い電流が走る。
(すごい……気持ちいい。守られてるのに裸みたい……)
鏡を見ると黒いシルクの紐パンは、褐色のアタシの肌に驚くほど似合っていた。
ちょっとセクシーすぎて、目のやり場に困るけれど。
「似合ってるよ、ショコラ。……可愛い」
着替えを終えたカイトが後ろから抱きしめてくれた。
その言葉だけで胸がいっぱいになる。
アタシは新しい服に袖を通し、赤い首輪の位置を直した。
鏡の中にはもう薄汚れた野良猫はいなかった。
ーーーーー
「さあ、朝ごはんよ!手伝って!」
サオリの声でリビングスペースが活気づく。
キッチン(システムキッチン完備)からは香ばしいバターの香りと、何かを焼く甘い匂いが漂ってくる。 ショコラは鼻をひくつかせた。
(……いい匂い。ツナ缶とは違う甘い匂い)
サオリがフライパンを振り、ユミがお皿を並べ、セラフィナが優雅に紅茶を淹れている。
みんな、自分の役割がある。
ショコラはオロオロと立ち尽くしていた。
盗むことと、逃げることしか知らないアタシに何ができるんだろう。
「……邪魔、かにゃ?」
そう思って部屋の隅に縮こまろうとした時だった。
「はい、ショコラの分。……熱いから気をつけてね」
カイトが湯気の立つお皿を目の前に差し出した。
そこには黄金色に焼かれた三段重ねの『パンケーキ』。
上にはとろけるバターと琥珀色のメープルシロップがたっぷりとかかり、横にはカリカリに焼かれたベーコンと彩り豊かなフルーツが添えられている。
「……え?」
「君の分だよ。たくさん食べるだろ?」
カイトがニッコリと笑う。
ショコラは信じられなかった。
今まで食事というのは「奪うもの」か「盗むもの」か、あるいは「ゴミをあさるもの」だった。
誰かがアタシのためだけにこんな綺麗な料理を作ってくれるなんて。
「……いい、の?本当に、食べていいの?」
「もちろん。……これからは毎日お腹いっぱい食べられるよ」
ショコラは震える手でフォークを受け取った。
恐る恐る、パンケーキを切り口に運ぶ。
パクッ。
「……ッ!!」
フワフワの食感。
バターの塩気とシロップの濃厚な甘みが口の中で爆発する。
美味しい。
死ぬほど美味しい。
「ん、ぐっ……うぅ……っ!」
飲み込んだ瞬間、ショコラの目から大粒の涙が溢れ出した。
止まらない。
視界が歪んでお皿が見えなくなる。
「おいおい、泣くほどマズかったか?」
「ちがっ、ちがう……!おいしいの……すごく、おいしくて……あったかくて……!」
ショコラは泣きじゃくりながらパンケーキを口に詰め込んだ。
美味しい。
これが「家族」の味なんだ。
「……あらあら。顔中シロップだらけよ」
サオリが苦笑しながらハンカチでショコラの口元を拭いてくれた。
ユミが無言で温かいミルクティーを差し出してくれる。
セラフィナが頭を優しく撫でてくれる。
「ゆっくり食べよ。……誰も奪ったりせぬ」
みんなの優しさが五臓六腑に染み渡る。
ショコラは涙と鼻水とシロップでぐしゃぐしゃになりながらそれでも世界一幸せな朝食を平らげた。
ーーーーー
食後の紅茶を飲み終える頃、カイトが改めてショコラに向き直った。
「ショコラ」
「……はい、ご主人様」
「俺たちは魔王城へ向かう。危険な旅だ。……それでも一緒に来るかい?」
試すような問いかけ。
でも、ショコラに迷いはなかった。
昨日のツナ缶の時のような空腹からの衝動じゃない。
もっと心の奥底からの魂の渇望。
「いく!一緒に行く!」
ショコラは椅子から飛び降り何度もうなずいた。
「アタシ、ご主人様の役に立つ!鼻も利くし、罠も見抜ける!夜の見張りだって得意だもん!」
「頼もしいな。……じゃあ改めてよろしくな、ショコラ」
「よろしくね、猫ちゃん」
「……期待してる」
「うむ。精々励むがよい」
カイトが手を差し出し、ショコラはその大きな手を両手で握りしめた。
温かい。
この温もりをもう絶対に離さない。
ーーーーー
「よし、出発だ!」
テントを収納し一行は外の荒野へと出た。
朝の冷たい風が吹いているが、新しいスーツとお腹の中のパンケーキの熱でショコラは全く寒くなかった。
外で待ちくたびれていた勇者ゴウがショコラの姿を見てギョッとした。
「おいカイト!なんだその獣人は!?まさか魔王軍の刺客か!?」
ゴウが剣の柄に手をかける。
ショコラは反射的に身構え、喉をグルルと鳴らして威嚇しかけた。
だが、カイトがスッとショコラの前に立ち庇ってくれた。
「剣を収めろ、ゴウ。……彼女は新しい仲間だ」
「仲間ぁ?こんなチビが?」
「『疾風のショコラ』だ。この辺りの地理に詳しい斥候(スカウト)だよ。魔王城への抜け道も知ってる」
「抜け道だと!?」
「ああ。彼女がいれば無駄な戦闘を避けて最短ルートで行ける。……お前の『聖剣』を温存するためにも必要だろ?」
カイトの言葉にゴウは「むぅ」と唸って考え込み、やがてバツが悪そうに手を離した。
「……ま、まあ、案内役くらいなら認めてやるか。俺様は寛大だからな!」
(……変な奴。でもご主人様の方がずっと強くて賢いにゃ)
ショコラはゴウに「あっかんべー」をしてからカイトの背中に隠れた。
「さあ、行こうかショコラ。……案内頼むよ」
「任せてにゃ!こっちの岩場を抜ければ魔王城の裏手まで一本道だ!」
ショコラは軽やかに岩の上に飛び乗った。
風が彼女の新しい服と栗色の髪を揺らす。
首元の鈴がチリリンと涼やかに鳴った。
それは、彼女が「孤独な野良猫」から「万物配送のカイトの家族」へと生まれ変わった旅立ちの合図だった。
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