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甘い言葉と、秘密の約束
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あの夜、優斗さんと連絡先を交換してから、あたしの毎日は少しだけ色づき始めた。
彼氏とは相変わらず、LINEをしても返ってくるのは一言だけ。
たまに会っても、すぐに「疲れた」って言われて、キスすらしてくれない。
…あたしって、そんなに魅力ないのかな。
そんなモヤモヤを抱えたまま迎える週末。ガールズバーのシフトが入っている金曜の夜が、いつの間にかあたしの楽しみになっていた。だって、優斗さんが必ず会いに来てくれるから。
「やあ、ミカちゃん。今週もお疲れ様」
カウンターのいつもの席に座って、彼はあたしだけに向けられる、とびきり優しい笑顔を見せる。
その笑顔を見るだけで、一週間の疲れとか、彼氏への不満とかが、すーっと消えていくみたいだった。
「優斗さんこそ、お仕事お疲れ様です!♡」
私たちは、本当に他愛もない話をした。
大学のつまらない授業の話、あたしが最近ハマってるアイドルの話、彼が仕事であったちょっと面白い話。
どんな話でも、彼は絶対に馬鹿にしたりしないで、「それで、どうなったの?」って、キラキラした目で続きを促してくれる。
(あたしの話、こんなに楽しそうに聞いてくれる人、初めてかも…)
彼氏なんて、あたしがアイドルの話をしようものなら、「またその話?」ってあからさまに嫌な顔をするのに。
ある日のこと。あたしが少し落ち込んでいるのに、彼はすぐに気づいてくれた。
「どうしたの、ミカちゃん。今日、元気ないね」
「え…、わかります?」
「わかるよ。いつもみたいに、目がキラキラしてない」
ドキッとした。そんなところまで見てくれてるんだ…。
あたしは、彼氏と喧嘩したことを、ぽつりぽつりと話し始めた。
あたしが友達と遊びに行くって言っただけで、「どうせ男もいるんだろ」って疑われたこと。
信じてくれてないのが悲しくて、言い返しちゃったこと。
「…そっか。それは、辛かったね」
彼は、ただ静かに聞いてくれた後、そう言ってあたしの頭を優しく撫でてくれた。
大きな、節くれだった指。その感触に、なんだか安心して、涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
「ミカちゃんは、何も悪くないよ。信じてくれない相手と一緒にいるのは、しんどいだけだ」
その言葉が、すとん、と胸に落ちた。
そうだよね、しんどいだけだ。
なんであたし、あんなやつのために悩んでたんだろう。
「…ありがとうございます。なんか、すっきりしました」
「どういたしまして。俺はいつでも、ミカちゃんの味方だから」
(味方…)
その言葉が、魔法みたいにあたしの心を温かくした。
もう、この気持ちは隠せない。
あたし、たぶん、優斗さんのことが、好きだ。
彼氏がいるのに、最低だってわかってる。
でも、好きなんだ。
そんな気持ちが最高潮に達した、三回目の週末。
彼がいつものように優しい笑顔であたしを見つめながら、こう切り出した。
「もしよかったら、今度お休みの日、一緒に出かけない?ミカちゃんが行きたいところ、どこでも連れてってあげるよ」
心臓が、大きく跳ねた。
これは、お店のお客さんとキャストとしてじゃなく、プライベートでってことだよね?
「えっ、ほんとですか!?♡ …でも、お店の人に内緒でってことですよね…?」
あたしがいたずらっぽく笑うと、彼はこくりと頷いた。
彼氏への罪悪感よりも、優斗さんと二人きりで会える喜びが、とっくに勝っていた。
そして、約束の週末。
待ち合わせ場所の駅前に立っていると、いつもお店で見るスーツ姿とは違う、ラフなジャケットスタイルの優斗さんが、少し照れくさそうに手を振ってくれた。
(うわ…、私服、めっちゃかっこいい…♡)
「ごめん、待った?」
「ううん、あたしも今来たとこです!」
彼が予約してくれたのは、あたしが雑誌で見て、ずっと「行ってみたいな」って憧れてた、海が見える丘の上のカフェだった。学生の彼氏じゃ、絶対知ることもないような、大人のお洒落な場所。
車で向かう道中も、会話が途切れることはなかった。
好きな音楽の話をしたら、偶然同じアーティストが好きだってわかって、二人で熱唱したりして。
カフェに着くと、大きな窓一面に、キラキラと光る青い海が広がっていた。
「すごい…!キラキラしてる…!」
思わず声が漏れる。
あたしが感動していると、優斗さんはそんなあたしを、すごく愛おしそうな目で見つめていた。
「喜んでくれてよかった」
「すっごく、嬉しいです!♡ こんな綺麗な場所、初めて来ました…!」
ケーキを食べながら、あたしたちはいろんな話をした。
あたしが、本当は今の大学に不本意で入ったこと。
本当はファッションの専門学校に行きたかったけど、親に反対されて諦めたこと。
そんな、誰にも言えなかったコンプレックスも、彼には素直に話すことができた。
「そっか。でも、ミカちゃんはすごくセンスいいから、今からでも遅くないんじゃないかな」
「え…?」
「今日の服も、すごく似合ってる。色合いとか、シルエットとか、ちゃんと考えて選んでるのがわかるよ」
(あたしのこと、そんな風に見てくれてたんだ…)
彼氏は、あたしがどんな服を着てたって、ほとんど気づいてくれやしないのに。
嬉しくて、胸がきゅんとする。
話せば話すほど、まるでパズルのピースが一つ一つはまっていくみたいに、優斗さんとの間にあった壁がなくなっていくのを感じた。
陽が傾き始めて、海がオレンジ色に染まる。
ロマンチックな雰囲気に、なんだかドキドキしてしまう。
晩御飯は、彼が「ここも、ミカちゃんが好きそうだなって思って」と連れて行ってくれた、最近できたばかりのアクアリウムレストランだった。
壁一面が大きな水槽になっていて、青い光の中を、優雅に魚たちが泳いでいる。
まるで、海の中にいるみたい。
「わぁ…♡ すごい、綺麗…!」
「気に入った?」
「はい!♡ まるでおとぎ話の世界みたいです!」
あたしたちは、まるでずっと前から付き合っている恋人みたいに、向かい合って食事をした。
「優斗さんは、どうしてそんなに優しいんですか?」
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
「うーん、どうしてかな。でも、好きな子には、優しくしたいって思うのは普通じゃない?」
(好きな、子…?)
それって、もしかして、あたしのこと…?
期待しちゃうあたし、単純すぎかな。
でも、彼の言葉一つ一つが、乾いた心に染み渡っていく。
「あたし、彼氏と、もうダメかもしれないです」
ぽつりと、本音が漏れた。
「…そっか」
彼は、それ以上何も聞かずに、ただ静かに頷いてくれた。
その沈黙が、すごく心地よかった。
無理にアドバイスするでもなく、ただ、あたしの言葉を受け止めてくれる。
(この人となら、もっと、あたし、素直になれるかもしれない…)
楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけばもう、帰る時間になっていた。
彼が家の近くまで車で送ってくれる。
二人きりの車内。静かな音楽だけが流れていて、その沈黙が少し気まずい。
アパートの前で車が止まる。
「今日は、本当にありがとうございました。すっごく、楽しかったです♡」
「俺もだよ。ミカちゃんといると、時間忘れちゃうな」
シートベルトを外して、ドアを開けようとした、その時。
「「あの…」」
声が、重なった。
お互いに顔を見合わせて、少し笑う。
心臓が、今にも飛び出しそうなくらい、ドキドキしてる。
先に口を開いたのは、彼だった。
「…また、会ってほしい。プライベートで」
真剣な眼差し。お店で見せる顔とは違う、一人の男の人の顔。
「…はい♡ あたしも、会いたいです」
気づけば、あたしはそう答えていた。
彼氏への罪悪感なんて、もうどこかへ消えてしまっていた。
次の週末、あたしたちはもう一度会う約束をした。
この先に何が待っているのか、まだわからなかったけど、ただ、この温かい気持ちだけを信じてみたかったんだ。
彼氏とは相変わらず、LINEをしても返ってくるのは一言だけ。
たまに会っても、すぐに「疲れた」って言われて、キスすらしてくれない。
…あたしって、そんなに魅力ないのかな。
そんなモヤモヤを抱えたまま迎える週末。ガールズバーのシフトが入っている金曜の夜が、いつの間にかあたしの楽しみになっていた。だって、優斗さんが必ず会いに来てくれるから。
「やあ、ミカちゃん。今週もお疲れ様」
カウンターのいつもの席に座って、彼はあたしだけに向けられる、とびきり優しい笑顔を見せる。
その笑顔を見るだけで、一週間の疲れとか、彼氏への不満とかが、すーっと消えていくみたいだった。
「優斗さんこそ、お仕事お疲れ様です!♡」
私たちは、本当に他愛もない話をした。
大学のつまらない授業の話、あたしが最近ハマってるアイドルの話、彼が仕事であったちょっと面白い話。
どんな話でも、彼は絶対に馬鹿にしたりしないで、「それで、どうなったの?」って、キラキラした目で続きを促してくれる。
(あたしの話、こんなに楽しそうに聞いてくれる人、初めてかも…)
彼氏なんて、あたしがアイドルの話をしようものなら、「またその話?」ってあからさまに嫌な顔をするのに。
ある日のこと。あたしが少し落ち込んでいるのに、彼はすぐに気づいてくれた。
「どうしたの、ミカちゃん。今日、元気ないね」
「え…、わかります?」
「わかるよ。いつもみたいに、目がキラキラしてない」
ドキッとした。そんなところまで見てくれてるんだ…。
あたしは、彼氏と喧嘩したことを、ぽつりぽつりと話し始めた。
あたしが友達と遊びに行くって言っただけで、「どうせ男もいるんだろ」って疑われたこと。
信じてくれてないのが悲しくて、言い返しちゃったこと。
「…そっか。それは、辛かったね」
彼は、ただ静かに聞いてくれた後、そう言ってあたしの頭を優しく撫でてくれた。
大きな、節くれだった指。その感触に、なんだか安心して、涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
「ミカちゃんは、何も悪くないよ。信じてくれない相手と一緒にいるのは、しんどいだけだ」
その言葉が、すとん、と胸に落ちた。
そうだよね、しんどいだけだ。
なんであたし、あんなやつのために悩んでたんだろう。
「…ありがとうございます。なんか、すっきりしました」
「どういたしまして。俺はいつでも、ミカちゃんの味方だから」
(味方…)
その言葉が、魔法みたいにあたしの心を温かくした。
もう、この気持ちは隠せない。
あたし、たぶん、優斗さんのことが、好きだ。
彼氏がいるのに、最低だってわかってる。
でも、好きなんだ。
そんな気持ちが最高潮に達した、三回目の週末。
彼がいつものように優しい笑顔であたしを見つめながら、こう切り出した。
「もしよかったら、今度お休みの日、一緒に出かけない?ミカちゃんが行きたいところ、どこでも連れてってあげるよ」
心臓が、大きく跳ねた。
これは、お店のお客さんとキャストとしてじゃなく、プライベートでってことだよね?
「えっ、ほんとですか!?♡ …でも、お店の人に内緒でってことですよね…?」
あたしがいたずらっぽく笑うと、彼はこくりと頷いた。
彼氏への罪悪感よりも、優斗さんと二人きりで会える喜びが、とっくに勝っていた。
そして、約束の週末。
待ち合わせ場所の駅前に立っていると、いつもお店で見るスーツ姿とは違う、ラフなジャケットスタイルの優斗さんが、少し照れくさそうに手を振ってくれた。
(うわ…、私服、めっちゃかっこいい…♡)
「ごめん、待った?」
「ううん、あたしも今来たとこです!」
彼が予約してくれたのは、あたしが雑誌で見て、ずっと「行ってみたいな」って憧れてた、海が見える丘の上のカフェだった。学生の彼氏じゃ、絶対知ることもないような、大人のお洒落な場所。
車で向かう道中も、会話が途切れることはなかった。
好きな音楽の話をしたら、偶然同じアーティストが好きだってわかって、二人で熱唱したりして。
カフェに着くと、大きな窓一面に、キラキラと光る青い海が広がっていた。
「すごい…!キラキラしてる…!」
思わず声が漏れる。
あたしが感動していると、優斗さんはそんなあたしを、すごく愛おしそうな目で見つめていた。
「喜んでくれてよかった」
「すっごく、嬉しいです!♡ こんな綺麗な場所、初めて来ました…!」
ケーキを食べながら、あたしたちはいろんな話をした。
あたしが、本当は今の大学に不本意で入ったこと。
本当はファッションの専門学校に行きたかったけど、親に反対されて諦めたこと。
そんな、誰にも言えなかったコンプレックスも、彼には素直に話すことができた。
「そっか。でも、ミカちゃんはすごくセンスいいから、今からでも遅くないんじゃないかな」
「え…?」
「今日の服も、すごく似合ってる。色合いとか、シルエットとか、ちゃんと考えて選んでるのがわかるよ」
(あたしのこと、そんな風に見てくれてたんだ…)
彼氏は、あたしがどんな服を着てたって、ほとんど気づいてくれやしないのに。
嬉しくて、胸がきゅんとする。
話せば話すほど、まるでパズルのピースが一つ一つはまっていくみたいに、優斗さんとの間にあった壁がなくなっていくのを感じた。
陽が傾き始めて、海がオレンジ色に染まる。
ロマンチックな雰囲気に、なんだかドキドキしてしまう。
晩御飯は、彼が「ここも、ミカちゃんが好きそうだなって思って」と連れて行ってくれた、最近できたばかりのアクアリウムレストランだった。
壁一面が大きな水槽になっていて、青い光の中を、優雅に魚たちが泳いでいる。
まるで、海の中にいるみたい。
「わぁ…♡ すごい、綺麗…!」
「気に入った?」
「はい!♡ まるでおとぎ話の世界みたいです!」
あたしたちは、まるでずっと前から付き合っている恋人みたいに、向かい合って食事をした。
「優斗さんは、どうしてそんなに優しいんですか?」
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
「うーん、どうしてかな。でも、好きな子には、優しくしたいって思うのは普通じゃない?」
(好きな、子…?)
それって、もしかして、あたしのこと…?
期待しちゃうあたし、単純すぎかな。
でも、彼の言葉一つ一つが、乾いた心に染み渡っていく。
「あたし、彼氏と、もうダメかもしれないです」
ぽつりと、本音が漏れた。
「…そっか」
彼は、それ以上何も聞かずに、ただ静かに頷いてくれた。
その沈黙が、すごく心地よかった。
無理にアドバイスするでもなく、ただ、あたしの言葉を受け止めてくれる。
(この人となら、もっと、あたし、素直になれるかもしれない…)
楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけばもう、帰る時間になっていた。
彼が家の近くまで車で送ってくれる。
二人きりの車内。静かな音楽だけが流れていて、その沈黙が少し気まずい。
アパートの前で車が止まる。
「今日は、本当にありがとうございました。すっごく、楽しかったです♡」
「俺もだよ。ミカちゃんといると、時間忘れちゃうな」
シートベルトを外して、ドアを開けようとした、その時。
「「あの…」」
声が、重なった。
お互いに顔を見合わせて、少し笑う。
心臓が、今にも飛び出しそうなくらい、ドキドキしてる。
先に口を開いたのは、彼だった。
「…また、会ってほしい。プライベートで」
真剣な眼差し。お店で見せる顔とは違う、一人の男の人の顔。
「…はい♡ あたしも、会いたいです」
気づけば、あたしはそう答えていた。
彼氏への罪悪感なんて、もうどこかへ消えてしまっていた。
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