白紙の未来と再会のヒロイン ~君と綴る、運命のページ~

のびすけ。

文字の大きさ
6 / 6
第一章 運命の書、ただし俺のページは白紙

隣の席の幼馴染(ただし美少女)

しおりを挟む
『――止まっていた彼の物語が、再び動き出す』

浮かび上がった文字を見つめ、一樹は全てを理解する。
この本は、未来予知の書なんかじゃない。

俺の過去を記録し、未来を白紙にしたのは、あくまで莉緒がいなくなったことによって、俺の物語が停滞していたからだ。
そして、今。

橘莉緒という存在を触媒にして動き出す、リアルタイムの年代記なのだと。
彼女の帰還が、俺の白紙だった物語に、再びインクを落としたのだ。

七年間、ただの無気力なモブキャラとして生きてきた俺の人生が、今、まさに、物語の主人公として再起動した。

(嘘だろ……こんなことって……)

喜び、困惑、そしてほんの少しの恐怖。

ジェットコースターみたいに感情が乱高下する。
これから、このページには、どんな物語が綴られていくのだろうか。
俺の人生は、一体どんな展開を迎えるんだ?
期待と、それ以上に大きな不安が、俺の心を支配していた。

(……いや、待て。とりあえず落ち着け、俺。この本は、ただの記録媒体だ。物語を紡ぐのは、他ならぬ俺自身だ。省エネ主義を貫くなら、無駄な心配はしないに限る。よし、まずは状況整理だ)

俺は、自分に言い聞かせるように深呼吸を繰り返した。
窓の外は、もう夕焼けに染まっている。

オレンジ色の光が、カーテンの隙間から差し込んでいるのが見えた。
そういえば、やけに外が騒がしいな。

ガラガラ、ゴトゴト、と、何かが運ばれるような音が聞こえる。
普段は静かな住宅街だ。こんな音は、あまり聞かない。

(なんだ? 近所で工事でも始まったのか?)

まさか、こんな時に、と、眉をひそめながら、俺はふと、窓の外に目を向けた。
俺の部屋の窓からは、隣の空き家がよく見える。

もう何年も誰も住んでいなくて、庭には雑草が生い茂り、窓ガラスも割れたまま放置されていた、
あの廃墟みたいな家だ。
それが今――。


(……え?)

信じられない光景が、俺の目に飛び込んできた。
隣の空き家だったはずの家の前に、見慣れない引っ越しのトラックが、堂々と停車している。

そして、数人の引っ越し業者が、忙しなく段ボール箱や家具を運んでいるのだ。
つまり、あの空き家は、新しい住人が来た、ということになる。
こんなタイミングで引っ越しか? しかも、俺の隣に?

(なんという運命のいたずらだ……いや、物語が動き出したってのは、こういうことか?)

俺は、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
すると、その時だった。

「こらー、お兄さん! その段ボール、逆さまじゃねーか!」

聞き覚えのある、快活で、それでいてどこかぶっきらぼうな声が、夕焼け空に響き渡った。

(まさか……)

俺は、吸い寄せられるように窓に顔を近づけ、外を覗き込んだ。
そこには、荷物を運ぶ業者たちに、テキパキと指示を出している、一人の少女の姿があった。

陽の光を溶かしたような、艶やかなハニーブラウンの髪。
スラリと伸びた手足。
くるくると表情を変える大きな瞳は、夕焼けの色を映して、キラキラと輝いている。

(…………嘘だろ)

それは、さっき別れたばかりの、美少女になった幼馴染。
橘莉緒、その人だった。

彼女は、俺の視線に気づいたのか、ふと、二階の俺の部屋の窓を見上げた。
そして、目が合うと、悪戯っぽく、ニッと笑い、片目を瞑った。

「よっ、カズ! 今日からお隣さん、よろしくな!」

その言葉に、俺の心臓は、またもやドクン、と大きく跳ね上がった。
マジかよ。

隣の席の幼馴染(ただし美少女)が、隣の家の幼馴染(ただし美少女)にもなったってのか。

これはもう、神様が「お前、物語を紡げ」って言ってるようなもんだ。
いや、神様じゃなくて、『運命の書』が、か。

俺の物語は、本当に、今、ここから始まるんだ。
白紙だった未来のページに、これからどんなインクが染み込んでいくのか。

俺は、ただ、呆然と窓の外の莉緒を見つめることしかできなかった。
夕焼けに染まる二つの家が、まるで、これから始まる壮大な物語の舞台みたいに、俺には見えた。

(……なあ、莉緒。俺の白紙の未来に、お前は一体、どんな色を塗ってくれるんだ?)

俺の口元には、知らず知らずのうちに、ほんの少しだけ、笑みが浮かんでいた。
退屈だった日常は、もう、どこにもない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...