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第十章 封印の神域と千年の夢
継承の儀
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神域を満たしていた銀の光が、静かに霧のように晴れていく。
イッセイはゆっくりと目を開けた。そこは――魂の深淵ではなく、現実の神域。だが、その空気は明らかに変わっていた。どこか優しく、どこか懐かしく、確かに“リアナ”の気配を残していた。
「……戻ってきたんだな」
呟いた声は、風に乗って広がった。仲間たちもまた、イッセイの周囲に集まってくる。皆、無事だ。誰もが疲労の色を浮かべながらも、その表情はどこか清々しい。
「イッセイくん……リアナ様の魂、全部……受け止めたの?」
シャルロッテの問いに、イッセイは静かに頷く。
「ああ。彼女は……誰よりも、人を信じてた。拒絶されても、裏切られても、それでも“未来”を諦めなかった。俺には、彼女の想いが――伝わった」
その胸元、鼓動が一つ脈打つたび、リアナの記憶がわずかに反響する。憎しみでもなく、憐れみでもなく、ただ静かな“願い”。
――どうか、この世界に未来があると信じて。
その想いに応えるように、神域の中心部にあった祭壇が、音もなく開いた。
地面からせり上がるように現れたのは、一振りの剣。
鞘に収められたそれは、銀と翠の輝きを内に秘めた、精霊の波動を宿す神剣だった。
「これは……!」
クラリスが息を呑む。剣に刻まれた紋様は、かつてリアナが持っていた“光の神器”と一致するものだった。
だが、今のそれは――彼女一人のためのものではない。
「……この剣が、俺を呼んでる」
イッセイは、ゆっくりと手を伸ばした。
指が柄に触れた瞬間、世界が光に染まった。
眩い風が巻き起こり、精霊たちの歌声が空に響く。その中に、確かに“リアナ”の声があった。
《あなたは、“今”を生きる者。だからこそ、未来を紡げる。これは、私の意志。けれど、もうそれは、あなたの剣》
《どうか、私の願いを、あなたの歩みで繋いで――》
剣が、応えるように光を放つ。
刃が現れたその瞬間、全員が言葉を失った。
それはまさに――“命の輝き”を宿した一振り。
「……“精霊剣リアナ”」
イッセイがそう呼ぶと、剣の光はさらに強まった。
その身に宿る魔力が、イッセイの魂と共鳴し、精霊との契約が結ばれていく。
彼の背に、神域の光が刻印を描く。
それは、かつてリアナが背負い、そして葬られた称号――
だが今、それは“再誕”の意味を持って、イッセイに与えられた。
「《命の継承者》――リアナの魂と願いを継ぐ者として、あなたは選ばれたのです」
シャルロッテの声が、祈りのように響いた。
剣を構えたイッセイは、その重みを確かに感じていた。
この刃は、破壊ではなく救済のためにある。
未来を切り拓くのは、力ではなく、意志。
「……誰もが未来を語る。でも、“今”を生きる者にしか、希望は紡げない」
イッセイの言葉に、風がまたひとつ、優しく吹いた。
精霊たちは祝福し、仲間たちはその姿に胸を打たれていた。
――“リアナの剣”は、今や“イッセイの剣”となった。
この刃が導く先に、彼らの運命が待っている。
神域の崩壊は止まり、静寂が戻る。
だが、その静けさの奥――“最後の試練”の兆しが、ゆっくりと目を覚ましつつあった。
神域の空気は穏やかに澄み渡り、まるで長く続いた嵐のあとの静けさに似ていた。だが、イッセイには分かっていた。これは安らぎではなく、次の風が吹く“予兆”だと。
「……終わったように見えて、まだ何かが……」
彼が呟いた瞬間、微かに空間が揺れた。風ではなく、神域そのものが“警鐘”を鳴らしたかのように。
「イッセイくん……何か、感じるの?」
クラリスが問いかける。イッセイは頷き、剣をそっと鞘に戻した。
「さっき、契約の瞬間――リアナの声の奥に、“もう一つの存在”を感じた。まだ……この地に“想い”が残ってる気がする」
その言葉に、仲間たちも表情を引き締める。
「精霊たちも、警戒してる。揺れてるの、空気と……記憶が」
シャルロッテがそっと目を閉じ、霧の中に囁くように語る。
「リアナの本心は継がれた。でも、それが触れたことで――神域に眠っていた“深層”が、動き出した可能性があるの」
「つまり、“最後の試練”ってやつね……!」
リリィが苦笑交じりに肩をすくめ、フィーナはそっと空を見上げた。
「うさうさ……結界の呼吸が変わってきてるウサ……境界の波動が、少しずつ歪みはじめてるウサ……」
「時空の裂け目でもあるのかにゃ? さっきまでよりもずっと……不安定なにおいがするにゃ」
ミュリルが耳を伏せながらも、尻尾を立てて周囲を警戒する。
「ここから先は、ただの記憶の再生じゃない。おそらく……神域そのものが“意志”を持って動いている」
セリアの読みは鋭かった。既に剣を半ば抜き、臨戦の構えをとっている。
その時、空気が一変した。
――カン……カン……。
どこかで、鈍く、乾いた音が響いた。まるで、時の歯車がずれ始めたかのような、歪んだ鐘の音。
そして、それに応じるように――
神域の中心から、銀の大木が現れた。
それは精霊たちの中枢、“命の根”とも称される神樹――
「……エル・ユグド」
シャルロッテの声が震える。
「この木は……この神域の核。でも、見て。葉が……黒く染まってる……!」
そのとおりだった。精霊樹エル・ユグドの枝先から、黒い瘴気が滲み出している。
まるで、魂の奥に溜まった澱が、ゆっくりと浮かび上がってきているようだった。
「これは、“リアナの願い”が純粋すぎた代償かもしれない……」
イッセイの胸中に、リアナの残滓が揺らめく。
《……私のすべてを託しました。ですが、それは……“完全な救済”ではなかったのです》
静かに、しかし確かに、リアナの残る想念が語りかけてきた。
《私の中には、魔王の記憶がありました。その影が……“根”にまで届いてしまっていたのかもしれません》
「精霊剣リアナは、“意志の刃”だ。だったら――この歪みを、断つこともできるかもしれない」
イッセイが剣を見下ろし、そして前を向く。
「“命の継承者”として、俺は進む。リアナが信じた希望を、最後まで信じ抜くために」
仲間たちは頷いた。
それぞれの想いを胸に、彼らはまた歩みを進める。
神域の奥、最後の“想い”が眠る場所へ――
イッセイたちは、静かなる決意と共に歩を進めた。
道なき神域の中心には、崩れかけた祠のような構造体があった。壁は精霊樹の蔓で覆われ、その中心に一つの“涙型”の水晶が、まるで心臓のように鼓動していた。
「これが……神域の心核、《リアナの涙》……」
シャルロッテが跪き、精霊語で祈るように囁いた。
「この涙は、リアナが最後に流した“心の記憶”。その断片を封じた結晶です」
光が脈打つように脆く震え、その内側にかすかに見えるのは、ひとり佇む銀髪の少女。微笑むでもなく、泣くでもない。ただ、沈黙の中で、何かを見届けようとする表情だった。
「……彼女の“未練”が、この地を歪めてるのかもしれない」
イッセイが水晶へと手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
――カァァン……ッ!
金属をひしゃげたような音が鳴り響き、神域全体が一瞬にして暗転する。大気が揺れ、魔力が逆巻いた。
地が砕け、上空の結界が音を立てて崩れ始める。
「っ、今のは……封印が、また一層崩れたウサッ!」
フィーナが悲鳴のように叫ぶ。
裂け目から吹き込む風――それは瘴気を孕み、地の底から湧き上がるかのような重苦しさを持っていた。
「くっ……なんだ、今の気配……」
セリアが剣を抜き、クラリスとルーナも背中合わせに配置を取る。
そして、暗黒の中から現れたのは、一対の瞳――
黄金と漆黒の二重螺旋が交差する、異形の視線。
「リアナ……の、もう一つの影……?」
イッセイが呟いたその声に、応えるかのように“それ”はゆっくりと姿を現した。
それは少女の形をしていた。だが、髪は夜闇のように黒く、瞳には一切の感情がない。彼女は、リアナに似ていた――しかし、完全に別の存在であることは、誰の目にも明らかだった。
「……“影のリアナ”?」
シャルロッテの声が震える。
「違う……これは、“リアナの願いが歪んだもう一つの形”……」
「精霊たちが、そう言ってる。名は……《リュミエール・ノワール》。リアナが心の奥底に秘めていた絶望と怒りの具現化」
その名を口にした瞬間、空間がさらに軋んだ。
「ふふ……ようやく来たのね、“継承者”」
《リュミエール・ノワール》は、確かにリアナの声と同じ音色を持ちながらも、どこか冷たい。愛を知らぬ者の慈悲。それは、ただの“無”であった。
「私は、リアナの“もう一つの選択肢”。誰にも救われなかった側の記憶よ。希望と共に切り捨てられた、“闇の継承”」
「……君は、リアナが“切り捨てた自分”ってことか」
「ええ、だからこそ――あなたたちを試す権利がある」
その声と共に、神域が激しく震え、周囲の空間がひしゃげるように変質していく。
「試練……ってことは、これが“最後の戦い”なのね!」
リリィが軽く拳を鳴らし、前へ出た。
だが、ノワールは首を横に振る。
「これは戦いではない。“問う”だけ。あなたたちが、光と共に歩む者なのか。それとも、私のように“絶望と共に在る者”なのか」
水晶《リアナの涙》が眩く輝き、イッセイの胸の中で、リアナの残滓が静かに揺れた。
《私ができなかったことを……どうか、見せて。私の中にあった、もう一人の私を、あなたの“答え”で救ってあげて》
イッセイは、仲間たちを見渡した。全員の瞳に、迷いはなかった。
それぞれが選んだ“今”を胸に、彼らは一歩を踏み出す。
「俺たちが継いだのは、リアナの“願い”だ。だったら――お前にも見せる。光と闇、両方抱えたまま、それでも生きる“命の意味”を」
《最後の選択》が、静かに始まろうとしていた。
イッセイはゆっくりと目を開けた。そこは――魂の深淵ではなく、現実の神域。だが、その空気は明らかに変わっていた。どこか優しく、どこか懐かしく、確かに“リアナ”の気配を残していた。
「……戻ってきたんだな」
呟いた声は、風に乗って広がった。仲間たちもまた、イッセイの周囲に集まってくる。皆、無事だ。誰もが疲労の色を浮かべながらも、その表情はどこか清々しい。
「イッセイくん……リアナ様の魂、全部……受け止めたの?」
シャルロッテの問いに、イッセイは静かに頷く。
「ああ。彼女は……誰よりも、人を信じてた。拒絶されても、裏切られても、それでも“未来”を諦めなかった。俺には、彼女の想いが――伝わった」
その胸元、鼓動が一つ脈打つたび、リアナの記憶がわずかに反響する。憎しみでもなく、憐れみでもなく、ただ静かな“願い”。
――どうか、この世界に未来があると信じて。
その想いに応えるように、神域の中心部にあった祭壇が、音もなく開いた。
地面からせり上がるように現れたのは、一振りの剣。
鞘に収められたそれは、銀と翠の輝きを内に秘めた、精霊の波動を宿す神剣だった。
「これは……!」
クラリスが息を呑む。剣に刻まれた紋様は、かつてリアナが持っていた“光の神器”と一致するものだった。
だが、今のそれは――彼女一人のためのものではない。
「……この剣が、俺を呼んでる」
イッセイは、ゆっくりと手を伸ばした。
指が柄に触れた瞬間、世界が光に染まった。
眩い風が巻き起こり、精霊たちの歌声が空に響く。その中に、確かに“リアナ”の声があった。
《あなたは、“今”を生きる者。だからこそ、未来を紡げる。これは、私の意志。けれど、もうそれは、あなたの剣》
《どうか、私の願いを、あなたの歩みで繋いで――》
剣が、応えるように光を放つ。
刃が現れたその瞬間、全員が言葉を失った。
それはまさに――“命の輝き”を宿した一振り。
「……“精霊剣リアナ”」
イッセイがそう呼ぶと、剣の光はさらに強まった。
その身に宿る魔力が、イッセイの魂と共鳴し、精霊との契約が結ばれていく。
彼の背に、神域の光が刻印を描く。
それは、かつてリアナが背負い、そして葬られた称号――
だが今、それは“再誕”の意味を持って、イッセイに与えられた。
「《命の継承者》――リアナの魂と願いを継ぐ者として、あなたは選ばれたのです」
シャルロッテの声が、祈りのように響いた。
剣を構えたイッセイは、その重みを確かに感じていた。
この刃は、破壊ではなく救済のためにある。
未来を切り拓くのは、力ではなく、意志。
「……誰もが未来を語る。でも、“今”を生きる者にしか、希望は紡げない」
イッセイの言葉に、風がまたひとつ、優しく吹いた。
精霊たちは祝福し、仲間たちはその姿に胸を打たれていた。
――“リアナの剣”は、今や“イッセイの剣”となった。
この刃が導く先に、彼らの運命が待っている。
神域の崩壊は止まり、静寂が戻る。
だが、その静けさの奥――“最後の試練”の兆しが、ゆっくりと目を覚ましつつあった。
神域の空気は穏やかに澄み渡り、まるで長く続いた嵐のあとの静けさに似ていた。だが、イッセイには分かっていた。これは安らぎではなく、次の風が吹く“予兆”だと。
「……終わったように見えて、まだ何かが……」
彼が呟いた瞬間、微かに空間が揺れた。風ではなく、神域そのものが“警鐘”を鳴らしたかのように。
「イッセイくん……何か、感じるの?」
クラリスが問いかける。イッセイは頷き、剣をそっと鞘に戻した。
「さっき、契約の瞬間――リアナの声の奥に、“もう一つの存在”を感じた。まだ……この地に“想い”が残ってる気がする」
その言葉に、仲間たちも表情を引き締める。
「精霊たちも、警戒してる。揺れてるの、空気と……記憶が」
シャルロッテがそっと目を閉じ、霧の中に囁くように語る。
「リアナの本心は継がれた。でも、それが触れたことで――神域に眠っていた“深層”が、動き出した可能性があるの」
「つまり、“最後の試練”ってやつね……!」
リリィが苦笑交じりに肩をすくめ、フィーナはそっと空を見上げた。
「うさうさ……結界の呼吸が変わってきてるウサ……境界の波動が、少しずつ歪みはじめてるウサ……」
「時空の裂け目でもあるのかにゃ? さっきまでよりもずっと……不安定なにおいがするにゃ」
ミュリルが耳を伏せながらも、尻尾を立てて周囲を警戒する。
「ここから先は、ただの記憶の再生じゃない。おそらく……神域そのものが“意志”を持って動いている」
セリアの読みは鋭かった。既に剣を半ば抜き、臨戦の構えをとっている。
その時、空気が一変した。
――カン……カン……。
どこかで、鈍く、乾いた音が響いた。まるで、時の歯車がずれ始めたかのような、歪んだ鐘の音。
そして、それに応じるように――
神域の中心から、銀の大木が現れた。
それは精霊たちの中枢、“命の根”とも称される神樹――
「……エル・ユグド」
シャルロッテの声が震える。
「この木は……この神域の核。でも、見て。葉が……黒く染まってる……!」
そのとおりだった。精霊樹エル・ユグドの枝先から、黒い瘴気が滲み出している。
まるで、魂の奥に溜まった澱が、ゆっくりと浮かび上がってきているようだった。
「これは、“リアナの願い”が純粋すぎた代償かもしれない……」
イッセイの胸中に、リアナの残滓が揺らめく。
《……私のすべてを託しました。ですが、それは……“完全な救済”ではなかったのです》
静かに、しかし確かに、リアナの残る想念が語りかけてきた。
《私の中には、魔王の記憶がありました。その影が……“根”にまで届いてしまっていたのかもしれません》
「精霊剣リアナは、“意志の刃”だ。だったら――この歪みを、断つこともできるかもしれない」
イッセイが剣を見下ろし、そして前を向く。
「“命の継承者”として、俺は進む。リアナが信じた希望を、最後まで信じ抜くために」
仲間たちは頷いた。
それぞれの想いを胸に、彼らはまた歩みを進める。
神域の奥、最後の“想い”が眠る場所へ――
イッセイたちは、静かなる決意と共に歩を進めた。
道なき神域の中心には、崩れかけた祠のような構造体があった。壁は精霊樹の蔓で覆われ、その中心に一つの“涙型”の水晶が、まるで心臓のように鼓動していた。
「これが……神域の心核、《リアナの涙》……」
シャルロッテが跪き、精霊語で祈るように囁いた。
「この涙は、リアナが最後に流した“心の記憶”。その断片を封じた結晶です」
光が脈打つように脆く震え、その内側にかすかに見えるのは、ひとり佇む銀髪の少女。微笑むでもなく、泣くでもない。ただ、沈黙の中で、何かを見届けようとする表情だった。
「……彼女の“未練”が、この地を歪めてるのかもしれない」
イッセイが水晶へと手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
――カァァン……ッ!
金属をひしゃげたような音が鳴り響き、神域全体が一瞬にして暗転する。大気が揺れ、魔力が逆巻いた。
地が砕け、上空の結界が音を立てて崩れ始める。
「っ、今のは……封印が、また一層崩れたウサッ!」
フィーナが悲鳴のように叫ぶ。
裂け目から吹き込む風――それは瘴気を孕み、地の底から湧き上がるかのような重苦しさを持っていた。
「くっ……なんだ、今の気配……」
セリアが剣を抜き、クラリスとルーナも背中合わせに配置を取る。
そして、暗黒の中から現れたのは、一対の瞳――
黄金と漆黒の二重螺旋が交差する、異形の視線。
「リアナ……の、もう一つの影……?」
イッセイが呟いたその声に、応えるかのように“それ”はゆっくりと姿を現した。
それは少女の形をしていた。だが、髪は夜闇のように黒く、瞳には一切の感情がない。彼女は、リアナに似ていた――しかし、完全に別の存在であることは、誰の目にも明らかだった。
「……“影のリアナ”?」
シャルロッテの声が震える。
「違う……これは、“リアナの願いが歪んだもう一つの形”……」
「精霊たちが、そう言ってる。名は……《リュミエール・ノワール》。リアナが心の奥底に秘めていた絶望と怒りの具現化」
その名を口にした瞬間、空間がさらに軋んだ。
「ふふ……ようやく来たのね、“継承者”」
《リュミエール・ノワール》は、確かにリアナの声と同じ音色を持ちながらも、どこか冷たい。愛を知らぬ者の慈悲。それは、ただの“無”であった。
「私は、リアナの“もう一つの選択肢”。誰にも救われなかった側の記憶よ。希望と共に切り捨てられた、“闇の継承”」
「……君は、リアナが“切り捨てた自分”ってことか」
「ええ、だからこそ――あなたたちを試す権利がある」
その声と共に、神域が激しく震え、周囲の空間がひしゃげるように変質していく。
「試練……ってことは、これが“最後の戦い”なのね!」
リリィが軽く拳を鳴らし、前へ出た。
だが、ノワールは首を横に振る。
「これは戦いではない。“問う”だけ。あなたたちが、光と共に歩む者なのか。それとも、私のように“絶望と共に在る者”なのか」
水晶《リアナの涙》が眩く輝き、イッセイの胸の中で、リアナの残滓が静かに揺れた。
《私ができなかったことを……どうか、見せて。私の中にあった、もう一人の私を、あなたの“答え”で救ってあげて》
イッセイは、仲間たちを見渡した。全員の瞳に、迷いはなかった。
それぞれが選んだ“今”を胸に、彼らは一歩を踏み出す。
「俺たちが継いだのは、リアナの“願い”だ。だったら――お前にも見せる。光と闇、両方抱えたまま、それでも生きる“命の意味”を」
《最後の選択》が、静かに始まろうとしていた。
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