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第十章 封印の神域と千年の夢
虚無と希望の交錯
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――影が語るもの、希望が選ぶもの
暗闇だった。
何の色も音もない虚無の空間。世界から切り離されたような“間”に、イッセイたちは立っていた。
「ここが……心の奥、ってやつかしら」
クラリスがつぶやく。足元に影がにじみ、空は果てなく沈んでいた。
「まるで、時の止まった深淵だウサ……」
フィーナが不安げに手を握る。
その中心にいたのは、一人の少女。
長い銀髪に黒いヴェールをまとい、微笑んでいる――だが、その目は、何も映していなかった。
「ようこそ、“私の心”へ」
その声は、リアナのそれによく似ていた。だが、響きには冷たさがあった。
「……お前は、リアナ……なのか?」
イッセイが問いかける。
「違うわ。私は《リュミエール・ノワール》――リアナが切り捨てた“絶望”の意志。人を信じたことで裏切られ、失望し、憎しみに堕ちた、もう一つの私よ」
ノワールは静かに語り始めた。
「人間は愚かよ。口では希望を語りながら、すぐに他人を傷つける。弱さを恥じ、強さを妬む。……リアナがそうだった。民を癒し、救おうとした。だが、民は彼女を“恐れ”、やがて“捨てた”」
「……それは……」
シャルロッテが震える声で、言葉を探した。
「……でも、それは一部の人だけで……リアナを愛した人だって、きっと……!」
「それでも、“誰も助けてくれなかった”。あなたの見た夢にも、それが映ってたでしょう?」
ノワールは淡く微笑む。「人間の希望は……都合の良い幻想。信じるに値しない」
「……違う!」
クラリスが前に出る。「私だって、かつては“逃げていた”わ。王族の立場に甘え、誰かを傷つけることもあった。けれど、イッセイに出会って変わった。仲間と共に戦う中で、“信じられるもの”を見つけたの」
「私も、同じだにゃん……」
ミュリルが目を伏せながらも言葉を絞る。「臆病で、過去に捨てられた。でも……それでも“信じてくれた”。イッセイは、私を“にゃんこ戦士”だって、ちゃんと見てくれたにゃ」
「過去が痛みでも、それを抱えたまま前に進む。それが“強さ”だウサ」
フィーナもまた、しっかりとノワールを見据える。「癒しも、希望も、信じたいから紡ぐの。結果がどうなるかなんて、関係ないウサ!」
シャルロッテが一歩前に進み、そっと胸に手を当てた。
「……私は、精霊の声を一度、信じられなかった。子供だったから。でも……今は分かるの。“耳を傾けようとする気持ち”こそが、世界を変えるって」
それでもノワールの微笑は崩れない。
「それは甘さよ。“正しさ”では、世界は動かない。裏切られ、踏みにじられて、それでも信じる? 笑わせないで」
その瞬間、イッセイが静かに前に出た。
「――なら、俺の話を聞け」
仲間たちが道を空け、ノワールがゆっくりと視線を向ける。
「俺は、もともとこの世界の人間じゃない。前世は五十の男で……“失敗だらけの人生”を送ってきた。けれど、転生して、みんなと出会って、ようやく分かったんだ」
イッセイは拳を握る。
「“過去を無かったことにはできない”。でも、“今”は変えられる。“誰かのために生きよう”って思える今があるなら――希望は、きっと本物だ」
「それでも、誰かが裏切ったら? 大切なものを失ったら?」
ノワールが低く問う。
「それでも――俺は、俺を信じる。“選んだ道”を、貫く覚悟があるから」
イッセイの声が力を帯びた。「“誰か”じゃない、“俺が”決めた希望だから」
ノワールの目が、わずかに揺らぐ。
その表情には、ほんの一瞬だけ“戸惑い”が浮かんだ。
「……くだらない。……でも、面白いわ」
ノワールが背を向け、闇の中に溶けていく。「ならば、証明してみせて。“その希望”が偽りでないということを――」
虚無の空間が震え、黒い光が奔る。
ノワールの姿が、闇と融合し、禍々しい力を帯びて変貌していく。
「覚悟はあるでしょう? “継承者”たち」
次の瞬間、空間が崩れ始める。
闇が広がる――“希望”を試す、最後の戦いが始まろうとしていた。
――闇を裂く、希望の剣
闇が広がった。
虚無の空間を覆い尽くすように、禍々しい黒い霧が渦を巻き、中心に立つノワールの姿がゆっくりと変貌していく。
「見せてやるわ。“希望”がいかに脆く、偽りで、無力なものかを……!」
その声が放つ波動に、空間全体が軋みを上げた。
黒きドレスが形を変え、漆黒の羽衣が舞う。額には闇の紋章が浮かび、彼女の背後に、幾つもの“目”のような光が瞬いた。
「これは……“神装化”……!? けれど、あの力は……」
クラリスが息を呑んだ。
「“精霊の力”を、歪めて……自分自身に取り込んでる……!」
ルーナの声にも緊張が滲む。
「さあ、来なさい。あなたたちの“信じるもの”が、どれほど空虚か……力で試してみせる!」
ノワールが一振り、黒き腕を掲げると、禍々しい雷撃が奔る。その一撃を――
「任せてくださいウサ!」
フィーナが跳躍し、光の盾を展開して受け止める。
「その程度の“闇”にゃんて、慣れてるにゃん!」
ミュリルも跳ねて突撃し、幻影の爪でかき消した。
そして、イッセイが一歩前に出る。
「みんな、俺が切り拓く。援護を頼む!」
「当然ですわ!」
クラリスが剣を抜き、イッセイの左に並ぶ。
「ふふ、イッセイくん、背中は任せたわね」
ルーナが右に立つ。
三人が一体となった瞬間、空間に微かな光が差し込む。
「“命の継承者”よ……その手にある剣は、心に宿る“希望”を映す鏡」
どこからともなく、精霊たちの声が届く。
イッセイの手の中で、【精霊剣リアナ】が静かに輝き始めた。
「行くぞ!」
まずはクラリスが突進。優雅にして鋭い剣閃が、ノワールの防御をかすめる。
「浅い……!」
ノワールの瞳が輝き、漆黒の槍が生成される。無数の槍が雨のように降り注いだ。
「イッセイくん、はいっ!」
ルーナが精霊魔法《風翔陣》を展開し、槍をそらせる。
「――今だ!」
イッセイが跳躍し、剣を構えた。
「……希望など、切り裂いてやる!」
ノワールの手がイッセイに迫る。だがその瞬間――
「――甘い!」
背後からクラリスの《王家剣技・閃光輪》が炸裂。ノワールの注意が逸れた一瞬――
「そこだッ!」
イッセイの剣が、ノワールの胸元へと突き立った。
黒き装束が砕け、空間が振動する。
「……ッ……あぁ……」
ノワールの姿が、光に包まれはじめる。
銀の髪がさらりと流れ、その瞳に、初めて“色”が戻った。
「なぜ……あなたたちは……こんなにも、痛みを知っていて……それでも……」
彼女の目から、ひとすじの涙がこぼれる。
「……涙?」
イッセイが思わず呟いた。
「わたしは……リアナ……? いいえ、でも……ありがとう……“忘れないでいてくれて”……」
ノワールは、微笑んでいた。
かつて、リアナが浮かべていた――あの、優しい微笑を。
その身体が淡く光り、精霊の風と共に、空へと還っていく。
空間を満たしていた闇が静かに消え、虚無の中に、確かな“温もり”が残された。
残響のように、リアナの声が響く。
「あなたたちが、信じてくれたから……私も、希望を選べた」
――そして。
黒き空が晴れ、光が差し込む。
イッセイたちは、確かに“虚無”を超えた。
“希望”を、この手で証明して。
暗闇だった。
何の色も音もない虚無の空間。世界から切り離されたような“間”に、イッセイたちは立っていた。
「ここが……心の奥、ってやつかしら」
クラリスがつぶやく。足元に影がにじみ、空は果てなく沈んでいた。
「まるで、時の止まった深淵だウサ……」
フィーナが不安げに手を握る。
その中心にいたのは、一人の少女。
長い銀髪に黒いヴェールをまとい、微笑んでいる――だが、その目は、何も映していなかった。
「ようこそ、“私の心”へ」
その声は、リアナのそれによく似ていた。だが、響きには冷たさがあった。
「……お前は、リアナ……なのか?」
イッセイが問いかける。
「違うわ。私は《リュミエール・ノワール》――リアナが切り捨てた“絶望”の意志。人を信じたことで裏切られ、失望し、憎しみに堕ちた、もう一つの私よ」
ノワールは静かに語り始めた。
「人間は愚かよ。口では希望を語りながら、すぐに他人を傷つける。弱さを恥じ、強さを妬む。……リアナがそうだった。民を癒し、救おうとした。だが、民は彼女を“恐れ”、やがて“捨てた”」
「……それは……」
シャルロッテが震える声で、言葉を探した。
「……でも、それは一部の人だけで……リアナを愛した人だって、きっと……!」
「それでも、“誰も助けてくれなかった”。あなたの見た夢にも、それが映ってたでしょう?」
ノワールは淡く微笑む。「人間の希望は……都合の良い幻想。信じるに値しない」
「……違う!」
クラリスが前に出る。「私だって、かつては“逃げていた”わ。王族の立場に甘え、誰かを傷つけることもあった。けれど、イッセイに出会って変わった。仲間と共に戦う中で、“信じられるもの”を見つけたの」
「私も、同じだにゃん……」
ミュリルが目を伏せながらも言葉を絞る。「臆病で、過去に捨てられた。でも……それでも“信じてくれた”。イッセイは、私を“にゃんこ戦士”だって、ちゃんと見てくれたにゃ」
「過去が痛みでも、それを抱えたまま前に進む。それが“強さ”だウサ」
フィーナもまた、しっかりとノワールを見据える。「癒しも、希望も、信じたいから紡ぐの。結果がどうなるかなんて、関係ないウサ!」
シャルロッテが一歩前に進み、そっと胸に手を当てた。
「……私は、精霊の声を一度、信じられなかった。子供だったから。でも……今は分かるの。“耳を傾けようとする気持ち”こそが、世界を変えるって」
それでもノワールの微笑は崩れない。
「それは甘さよ。“正しさ”では、世界は動かない。裏切られ、踏みにじられて、それでも信じる? 笑わせないで」
その瞬間、イッセイが静かに前に出た。
「――なら、俺の話を聞け」
仲間たちが道を空け、ノワールがゆっくりと視線を向ける。
「俺は、もともとこの世界の人間じゃない。前世は五十の男で……“失敗だらけの人生”を送ってきた。けれど、転生して、みんなと出会って、ようやく分かったんだ」
イッセイは拳を握る。
「“過去を無かったことにはできない”。でも、“今”は変えられる。“誰かのために生きよう”って思える今があるなら――希望は、きっと本物だ」
「それでも、誰かが裏切ったら? 大切なものを失ったら?」
ノワールが低く問う。
「それでも――俺は、俺を信じる。“選んだ道”を、貫く覚悟があるから」
イッセイの声が力を帯びた。「“誰か”じゃない、“俺が”決めた希望だから」
ノワールの目が、わずかに揺らぐ。
その表情には、ほんの一瞬だけ“戸惑い”が浮かんだ。
「……くだらない。……でも、面白いわ」
ノワールが背を向け、闇の中に溶けていく。「ならば、証明してみせて。“その希望”が偽りでないということを――」
虚無の空間が震え、黒い光が奔る。
ノワールの姿が、闇と融合し、禍々しい力を帯びて変貌していく。
「覚悟はあるでしょう? “継承者”たち」
次の瞬間、空間が崩れ始める。
闇が広がる――“希望”を試す、最後の戦いが始まろうとしていた。
――闇を裂く、希望の剣
闇が広がった。
虚無の空間を覆い尽くすように、禍々しい黒い霧が渦を巻き、中心に立つノワールの姿がゆっくりと変貌していく。
「見せてやるわ。“希望”がいかに脆く、偽りで、無力なものかを……!」
その声が放つ波動に、空間全体が軋みを上げた。
黒きドレスが形を変え、漆黒の羽衣が舞う。額には闇の紋章が浮かび、彼女の背後に、幾つもの“目”のような光が瞬いた。
「これは……“神装化”……!? けれど、あの力は……」
クラリスが息を呑んだ。
「“精霊の力”を、歪めて……自分自身に取り込んでる……!」
ルーナの声にも緊張が滲む。
「さあ、来なさい。あなたたちの“信じるもの”が、どれほど空虚か……力で試してみせる!」
ノワールが一振り、黒き腕を掲げると、禍々しい雷撃が奔る。その一撃を――
「任せてくださいウサ!」
フィーナが跳躍し、光の盾を展開して受け止める。
「その程度の“闇”にゃんて、慣れてるにゃん!」
ミュリルも跳ねて突撃し、幻影の爪でかき消した。
そして、イッセイが一歩前に出る。
「みんな、俺が切り拓く。援護を頼む!」
「当然ですわ!」
クラリスが剣を抜き、イッセイの左に並ぶ。
「ふふ、イッセイくん、背中は任せたわね」
ルーナが右に立つ。
三人が一体となった瞬間、空間に微かな光が差し込む。
「“命の継承者”よ……その手にある剣は、心に宿る“希望”を映す鏡」
どこからともなく、精霊たちの声が届く。
イッセイの手の中で、【精霊剣リアナ】が静かに輝き始めた。
「行くぞ!」
まずはクラリスが突進。優雅にして鋭い剣閃が、ノワールの防御をかすめる。
「浅い……!」
ノワールの瞳が輝き、漆黒の槍が生成される。無数の槍が雨のように降り注いだ。
「イッセイくん、はいっ!」
ルーナが精霊魔法《風翔陣》を展開し、槍をそらせる。
「――今だ!」
イッセイが跳躍し、剣を構えた。
「……希望など、切り裂いてやる!」
ノワールの手がイッセイに迫る。だがその瞬間――
「――甘い!」
背後からクラリスの《王家剣技・閃光輪》が炸裂。ノワールの注意が逸れた一瞬――
「そこだッ!」
イッセイの剣が、ノワールの胸元へと突き立った。
黒き装束が砕け、空間が振動する。
「……ッ……あぁ……」
ノワールの姿が、光に包まれはじめる。
銀の髪がさらりと流れ、その瞳に、初めて“色”が戻った。
「なぜ……あなたたちは……こんなにも、痛みを知っていて……それでも……」
彼女の目から、ひとすじの涙がこぼれる。
「……涙?」
イッセイが思わず呟いた。
「わたしは……リアナ……? いいえ、でも……ありがとう……“忘れないでいてくれて”……」
ノワールは、微笑んでいた。
かつて、リアナが浮かべていた――あの、優しい微笑を。
その身体が淡く光り、精霊の風と共に、空へと還っていく。
空間を満たしていた闇が静かに消え、虚無の中に、確かな“温もり”が残された。
残響のように、リアナの声が響く。
「あなたたちが、信じてくれたから……私も、希望を選べた」
――そして。
黒き空が晴れ、光が差し込む。
イッセイたちは、確かに“虚無”を超えた。
“希望”を、この手で証明して。
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