侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

文字の大きさ
114 / 214
第十章 封印の神域と千年の夢

虚無と希望の交錯

しおりを挟む
――影が語るもの、希望が選ぶもの

 暗闇だった。

 何の色も音もない虚無の空間。世界から切り離されたような“間”に、イッセイたちは立っていた。



「ここが……心の奥、ってやつかしら」

 クラリスがつぶやく。足元に影がにじみ、空は果てなく沈んでいた。



「まるで、時の止まった深淵だウサ……」

 フィーナが不安げに手を握る。



 その中心にいたのは、一人の少女。

 長い銀髪に黒いヴェールをまとい、微笑んでいる――だが、その目は、何も映していなかった。



「ようこそ、“私の心”へ」

 その声は、リアナのそれによく似ていた。だが、響きには冷たさがあった。



「……お前は、リアナ……なのか?」

 イッセイが問いかける。



「違うわ。私は《リュミエール・ノワール》――リアナが切り捨てた“絶望”の意志。人を信じたことで裏切られ、失望し、憎しみに堕ちた、もう一つの私よ」



 ノワールは静かに語り始めた。



「人間は愚かよ。口では希望を語りながら、すぐに他人を傷つける。弱さを恥じ、強さを妬む。……リアナがそうだった。民を癒し、救おうとした。だが、民は彼女を“恐れ”、やがて“捨てた”」



「……それは……」



 シャルロッテが震える声で、言葉を探した。



「……でも、それは一部の人だけで……リアナを愛した人だって、きっと……!」



「それでも、“誰も助けてくれなかった”。あなたの見た夢にも、それが映ってたでしょう?」

 ノワールは淡く微笑む。「人間の希望は……都合の良い幻想。信じるに値しない」



「……違う!」

 クラリスが前に出る。「私だって、かつては“逃げていた”わ。王族の立場に甘え、誰かを傷つけることもあった。けれど、イッセイに出会って変わった。仲間と共に戦う中で、“信じられるもの”を見つけたの」



「私も、同じだにゃん……」

 ミュリルが目を伏せながらも言葉を絞る。「臆病で、過去に捨てられた。でも……それでも“信じてくれた”。イッセイは、私を“にゃんこ戦士”だって、ちゃんと見てくれたにゃ」



「過去が痛みでも、それを抱えたまま前に進む。それが“強さ”だウサ」

 フィーナもまた、しっかりとノワールを見据える。「癒しも、希望も、信じたいから紡ぐの。結果がどうなるかなんて、関係ないウサ!」



 シャルロッテが一歩前に進み、そっと胸に手を当てた。



「……私は、精霊の声を一度、信じられなかった。子供だったから。でも……今は分かるの。“耳を傾けようとする気持ち”こそが、世界を変えるって」



 それでもノワールの微笑は崩れない。



「それは甘さよ。“正しさ”では、世界は動かない。裏切られ、踏みにじられて、それでも信じる? 笑わせないで」



 その瞬間、イッセイが静かに前に出た。



「――なら、俺の話を聞け」



 仲間たちが道を空け、ノワールがゆっくりと視線を向ける。



「俺は、もともとこの世界の人間じゃない。前世は五十の男で……“失敗だらけの人生”を送ってきた。けれど、転生して、みんなと出会って、ようやく分かったんだ」



 イッセイは拳を握る。



「“過去を無かったことにはできない”。でも、“今”は変えられる。“誰かのために生きよう”って思える今があるなら――希望は、きっと本物だ」



「それでも、誰かが裏切ったら? 大切なものを失ったら?」



 ノワールが低く問う。



「それでも――俺は、俺を信じる。“選んだ道”を、貫く覚悟があるから」

 イッセイの声が力を帯びた。「“誰か”じゃない、“俺が”決めた希望だから」



 ノワールの目が、わずかに揺らぐ。



 その表情には、ほんの一瞬だけ“戸惑い”が浮かんだ。



「……くだらない。……でも、面白いわ」

 ノワールが背を向け、闇の中に溶けていく。「ならば、証明してみせて。“その希望”が偽りでないということを――」



 虚無の空間が震え、黒い光が奔る。



 ノワールの姿が、闇と融合し、禍々しい力を帯びて変貌していく。



「覚悟はあるでしょう? “継承者”たち」



 次の瞬間、空間が崩れ始める。



 闇が広がる――“希望”を試す、最後の戦いが始まろうとしていた。



――闇を裂く、希望の剣

 闇が広がった。



 虚無の空間を覆い尽くすように、禍々しい黒い霧が渦を巻き、中心に立つノワールの姿がゆっくりと変貌していく。



「見せてやるわ。“希望”がいかに脆く、偽りで、無力なものかを……!」



 その声が放つ波動に、空間全体が軋みを上げた。



 黒きドレスが形を変え、漆黒の羽衣が舞う。額には闇の紋章が浮かび、彼女の背後に、幾つもの“目”のような光が瞬いた。



「これは……“神装化”……!? けれど、あの力は……」

 クラリスが息を呑んだ。



「“精霊の力”を、歪めて……自分自身に取り込んでる……!」

 ルーナの声にも緊張が滲む。



「さあ、来なさい。あなたたちの“信じるもの”が、どれほど空虚か……力で試してみせる!」



 ノワールが一振り、黒き腕を掲げると、禍々しい雷撃が奔る。その一撃を――



「任せてくださいウサ!」

 フィーナが跳躍し、光の盾を展開して受け止める。



「その程度の“闇”にゃんて、慣れてるにゃん!」

 ミュリルも跳ねて突撃し、幻影の爪でかき消した。



 そして、イッセイが一歩前に出る。



「みんな、俺が切り拓く。援護を頼む!」



「当然ですわ!」

 クラリスが剣を抜き、イッセイの左に並ぶ。



「ふふ、イッセイくん、背中は任せたわね」

 ルーナが右に立つ。



 三人が一体となった瞬間、空間に微かな光が差し込む。



「“命の継承者”よ……その手にある剣は、心に宿る“希望”を映す鏡」

 どこからともなく、精霊たちの声が届く。



 イッセイの手の中で、【精霊剣リアナ】が静かに輝き始めた。



「行くぞ!」



 まずはクラリスが突進。優雅にして鋭い剣閃が、ノワールの防御をかすめる。



「浅い……!」

 ノワールの瞳が輝き、漆黒の槍が生成される。無数の槍が雨のように降り注いだ。



「イッセイくん、はいっ!」

 ルーナが精霊魔法《風翔陣》を展開し、槍をそらせる。



「――今だ!」

 イッセイが跳躍し、剣を構えた。



「……希望など、切り裂いてやる!」



 ノワールの手がイッセイに迫る。だがその瞬間――



「――甘い!」



 背後からクラリスの《王家剣技・閃光輪》が炸裂。ノワールの注意が逸れた一瞬――



「そこだッ!」



 イッセイの剣が、ノワールの胸元へと突き立った。



 黒き装束が砕け、空間が振動する。



「……ッ……あぁ……」



 ノワールの姿が、光に包まれはじめる。



 銀の髪がさらりと流れ、その瞳に、初めて“色”が戻った。



「なぜ……あなたたちは……こんなにも、痛みを知っていて……それでも……」



 彼女の目から、ひとすじの涙がこぼれる。



「……涙?」



 イッセイが思わず呟いた。



「わたしは……リアナ……? いいえ、でも……ありがとう……“忘れないでいてくれて”……」



 ノワールは、微笑んでいた。



 かつて、リアナが浮かべていた――あの、優しい微笑を。



 その身体が淡く光り、精霊の風と共に、空へと還っていく。



 空間を満たしていた闇が静かに消え、虚無の中に、確かな“温もり”が残された。



 残響のように、リアナの声が響く。



「あなたたちが、信じてくれたから……私も、希望を選べた」



 ――そして。



 黒き空が晴れ、光が差し込む。



 イッセイたちは、確かに“虚無”を超えた。

 “希望”を、この手で証明して。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...