131 / 214
第十一章 異邦からの来訪者と、東京スカイツリー防衛戦
転移者たちと結晶探しの共闘②
しおりを挟む
《リュミエール旧機構》の内部は、想像以上に広大だった。
苔むした石壁、天井を走る魔導導管、朽ちた階段と瓦礫。かつての魔導文明の息吹が残るこの場所は、今もどこか呼吸しているような、そんな不思議な空気を纏っていた。
「わっ、なんか薄暗くてゲームのダンジョンみたいだね……」
マコがビクビクとイッセイの背中に隠れながらつぶやく。
「これは魔素が濃いせいだ。生物の活動が抑えられてる。……でも気を抜くな、トラップや魔獣が出る可能性はある」
イッセイが冷静に警告を与えると、アキトが拳を握りしめた。
「大丈夫っす。こういうの、アニメとかで見てきたんで!」
「見るのとやるのは違うにゃ。……でも、いい目してるにゃ」
ミュリルがニヤリと笑い、猫耳をピクリと動かす。後方では、セリアが何やら紙束を持ってブツブツ言っていた。
「契約書……魔獣に襲われた場合の免責事項……搬送費用……破損物に関する再建税……」
「セリアさん!? ここで帳簿開くのやめてくれる!?」
リリィが額に手を当て、突っ込む。和やかさと緊張がないまぜになった探索の最中、ユイナの瞳が鋭く光った。
「……反応あり。東側、第二動力室。魔力の揺らぎがあるわ」
導かれるように一行は通路を進み、やがてたどり着いたのは、球状の魔導炉が眠る部屋だった。そこには――
「これは……《転移結晶》!」
クラリスが声を上げる。青白く光る巨大な結晶が、封印の中で淡く脈動していた。
「やった! これで……これで日本に帰れる!」
アキトが思わず叫ぶ。その隣で、ユイナも一瞬だけ顔を綻ばせた。
「……まだよ。これを取り出すには、封印解除と魔素の安定化処理が必要。下手に触れば暴走するわ」
「じゃ、解除しよう。イッセイくんの出番ね!」
「いや、今回は違う」
イッセイが一歩下がり、手のひらでユイナを示した。
「君がやってみてくれ。……これは君たちの未来に必要な結晶だろう?」
「……っ」
ユイナの目が一瞬だけ大きくなり、やがて真剣な表情に変わった。
「わかったわ。やってみる」
彼女は装置に近づき、静かに呪文を紡ぐ。目の前の結晶が、まるで応えるように光を放ち始めた。
その光景を、イッセイは少し離れた場所で見守っていた。
「なんかさ、イッセイって本当のお兄ちゃんみたいっすね」
アキトがふと漏らす。
「……本当の、か」
イッセイの目が一瞬だけ遠くを見た。それは前世の記憶――現実世界での孤独な時間、そしてこの異世界で得た“家族”のような絆。
その時だった。
ゴゴゴゴ……ッ!
突如、床が揺れ、部屋の奥の壁が崩れた。
「くっ、魔獣か!」
瓦礫の隙間から現れたのは、半透明の粘体――巨大な“転移スライム”だった。青白い体に、転移結晶と同じ波動が宿っている。
「こいつ……結晶を喰って魔素を溜め込んでやがる!」
イッセイがすぐさま剣を抜くが、それよりも早く、前に飛び出したのは――
「いっけえええええっ!!」
アキトの跳躍。鍛え抜かれた肉体が、スライムの中心部へ一直線に拳を叩き込む。
――ドンッ!
スライムの身体が大きく歪み、魔素が霧のように霧散した。
「ナイスにゃー!」
「ウサ、アキト、やるウサね!」
仲間たちの声と共に、暴走する魔素が静まり、やがて結晶が完全な姿を現した。
「成功ね……結晶、取り出せるわ」
ユイナが小さく頷く。
「よかった……!」
マコが涙を浮かべながら結晶を抱きしめ、ぐしぐしと目をこする。
「これで……帰れるんだね……」
その瞬間、遺跡の天井にぽっかりと光が差し込んだ。それは、彼らの希望を照らすような――未来への光だった。
* * *
帰還のための結晶を得た高校生たちと、彼らに手を差し伸べたイッセイたち。
だがこの出会いが、ただの通過点ではなく、運命の歯車を動かす始まりだったことを――この時、誰も知らなかった。
苔むした石壁、天井を走る魔導導管、朽ちた階段と瓦礫。かつての魔導文明の息吹が残るこの場所は、今もどこか呼吸しているような、そんな不思議な空気を纏っていた。
「わっ、なんか薄暗くてゲームのダンジョンみたいだね……」
マコがビクビクとイッセイの背中に隠れながらつぶやく。
「これは魔素が濃いせいだ。生物の活動が抑えられてる。……でも気を抜くな、トラップや魔獣が出る可能性はある」
イッセイが冷静に警告を与えると、アキトが拳を握りしめた。
「大丈夫っす。こういうの、アニメとかで見てきたんで!」
「見るのとやるのは違うにゃ。……でも、いい目してるにゃ」
ミュリルがニヤリと笑い、猫耳をピクリと動かす。後方では、セリアが何やら紙束を持ってブツブツ言っていた。
「契約書……魔獣に襲われた場合の免責事項……搬送費用……破損物に関する再建税……」
「セリアさん!? ここで帳簿開くのやめてくれる!?」
リリィが額に手を当て、突っ込む。和やかさと緊張がないまぜになった探索の最中、ユイナの瞳が鋭く光った。
「……反応あり。東側、第二動力室。魔力の揺らぎがあるわ」
導かれるように一行は通路を進み、やがてたどり着いたのは、球状の魔導炉が眠る部屋だった。そこには――
「これは……《転移結晶》!」
クラリスが声を上げる。青白く光る巨大な結晶が、封印の中で淡く脈動していた。
「やった! これで……これで日本に帰れる!」
アキトが思わず叫ぶ。その隣で、ユイナも一瞬だけ顔を綻ばせた。
「……まだよ。これを取り出すには、封印解除と魔素の安定化処理が必要。下手に触れば暴走するわ」
「じゃ、解除しよう。イッセイくんの出番ね!」
「いや、今回は違う」
イッセイが一歩下がり、手のひらでユイナを示した。
「君がやってみてくれ。……これは君たちの未来に必要な結晶だろう?」
「……っ」
ユイナの目が一瞬だけ大きくなり、やがて真剣な表情に変わった。
「わかったわ。やってみる」
彼女は装置に近づき、静かに呪文を紡ぐ。目の前の結晶が、まるで応えるように光を放ち始めた。
その光景を、イッセイは少し離れた場所で見守っていた。
「なんかさ、イッセイって本当のお兄ちゃんみたいっすね」
アキトがふと漏らす。
「……本当の、か」
イッセイの目が一瞬だけ遠くを見た。それは前世の記憶――現実世界での孤独な時間、そしてこの異世界で得た“家族”のような絆。
その時だった。
ゴゴゴゴ……ッ!
突如、床が揺れ、部屋の奥の壁が崩れた。
「くっ、魔獣か!」
瓦礫の隙間から現れたのは、半透明の粘体――巨大な“転移スライム”だった。青白い体に、転移結晶と同じ波動が宿っている。
「こいつ……結晶を喰って魔素を溜め込んでやがる!」
イッセイがすぐさま剣を抜くが、それよりも早く、前に飛び出したのは――
「いっけえええええっ!!」
アキトの跳躍。鍛え抜かれた肉体が、スライムの中心部へ一直線に拳を叩き込む。
――ドンッ!
スライムの身体が大きく歪み、魔素が霧のように霧散した。
「ナイスにゃー!」
「ウサ、アキト、やるウサね!」
仲間たちの声と共に、暴走する魔素が静まり、やがて結晶が完全な姿を現した。
「成功ね……結晶、取り出せるわ」
ユイナが小さく頷く。
「よかった……!」
マコが涙を浮かべながら結晶を抱きしめ、ぐしぐしと目をこする。
「これで……帰れるんだね……」
その瞬間、遺跡の天井にぽっかりと光が差し込んだ。それは、彼らの希望を照らすような――未来への光だった。
* * *
帰還のための結晶を得た高校生たちと、彼らに手を差し伸べたイッセイたち。
だがこの出会いが、ただの通過点ではなく、運命の歯車を動かす始まりだったことを――この時、誰も知らなかった。
21
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる