侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

旅立ちの風、仲間たちの選択

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「……じゃあ、本当に行っちゃうのね」



エリュアが微笑む。その頬には風に運ばれた小さな光が一粒、きらりと流れた。



「お前が決めたなら、止めないよ。でも寂しくなるな」



イッセイがそう言うと、エリュアは静かに首を振った。



「私はこの都市と、風の声を守ります。……それが、私の“帰る場所”だから」



方舟の中心部、風の広場では、出発の準備を整えたイッセイたちと、見送りに集まったアエリス族たちが静かに語り合っていた。



「でも、安心して。私の“音”は、きっと風に乗って届くはずだから」



そう言って彼女が差し出したのは、昨日託された“風を束ねる音叉”だった。



「これを振るう時、きっと風はあなたを導いてくれる」



「ありがたく受け取るよ」



イッセイはそれをしっかりと胸ポケットにしまった。



「では、いよいよ次の目的地か。地図上では南の断風層……聞いたことがあるが、あの辺りは風が逆巻き、飛行すら危ういと……」



シャルロッテがデバイスを操作しながら淡々とつぶやく。



「普通の空中船じゃ即、空中分解にゃ」



「じゃあにゃくて、です、ミュリルさん」セリアが即座に訂正。



「……ごめんにゃ。でも楽しそうにゃ!」



「よし、スパの出店場所も決まったウサ!」フィーナがピョコピョコ跳ねる。「断風層に空中温泉を浮かべて、風呂入りながら空飛ぶんだウサ!」



「やめて! 本気でやりそうだから怖い……」とルーナが震える声で言う。



「っていうか、その夢、だいぶ前から変わらないね」リリィが笑った。



「商売は根気ウサ! 未来の顧客は風の向こうにいるウサ!」



「まったく……で、その“未来の顧客”に出す契約書はこの厚みか」セリアが懐から書類束を取り出した。



「ちょ、なぜ持ってるのウサ!? こっそり隠してたウサ!」



「見え見えでしたよ」セリアが苦笑しながら、書類をリュックに戻す。



その様子を見て、イッセイは肩をすくめた。



「――いいチームだな、俺たち」



「当然よ。イッセイくんの嫁候補たちだもん」ルーナがふっと小悪魔的に笑う。



「おい、そういう話は今はやめような?」



「にゃはは、イッセイは赤くなると面白いにゃ」



そんな一幕の中、エリュアがそっと顔を近づけた。



「……気をつけて。そして、できれば“彼ら”を、目覚めさせてあげて」



「神柱たちを?」



「うん。私には、まだできなかった。だから……あなたに託す」



イッセイは真剣な眼差しで頷いた。



「任せろ。風の誓いは、俺たちが継ぐ」



その言葉に、空の民たちが一斉に風鈴を鳴らす。



――カラン、カラン、カラン……



それは祝福の音。風の民が送り出す者にだけ与える、空の調べ。



リリィがくるりと振り返る。



「さあ、風の旅に――行ってきます!」



その手を振る笑顔に、方舟全体が温かく風を返した。



広場から浮かび上がる空中船。その甲板に立つイッセイたちを、夕陽が優しく照らす。



風が、未来へ向かって吹き抜けていった。
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