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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
逆流の祭壇、次なる扉
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「見えてきたウサ……あれが、断風層の縁……!」
フィーナが船首から身を乗り出して叫んだ。雲が渦を巻き、空の色すら捻じ曲げるような不気味な空域。《南の断風層》は、まるで風そのものが逆流しているような異常空間だった。
「通常航行では進入不能……だが、この風印があれば──!」
シャルロッテが呪文を詠唱し、空中船の主翼に刻まれた《ヴェイアの風印》が淡く発光する。直後、暴風だった周囲の空気が、まるで潮が引くようにすっと和らいだ。
「すご……これが神柱の力か」
ルーナが感嘆の息を漏らし、ミュリルが尻尾を揺らしてにゃあと笑う。
「安心するにゃ~。でも気を抜くと飛ばされるにゃ?」
「それは勘弁願いたい」セリアが髪を抑えながら真顔で返す。
イッセイは風を感じながら目を細めた。
「確かに……風が“渦を描いて”いるな。ここだけ、流れの方向が違う」
「まるで、風が囚われているみたいだね」
リリィが静かに呟く。
――やがて、視界の奥に現れたのは、空中に浮かぶ巨大な石柱の残骸群だった。かつて神殿だったであろう構造物が崩れ落ち、重力も無視するかのように浮遊している。
「ここが……《逆流の祭壇》」
シャルロッテの言葉に皆が息を呑む。
「着地ポイント、確認完了。各自、対瘴気装備を展開して!」
セリアの号令で、イッセイたちは防御結界を展開しつつ、祭壇跡へと降り立った。
そこには、かろうじて崩れずに残っていた中央の“柱”があった。封印文様が走るその石柱には、読み取れる一節が刻まれていた。
「――《シリル》……これが、眠る神柱の名か」
イッセイが指でなぞると、封印が一瞬、淡く脈動した。
だがその瞬間、祭壇全体が不穏に揺れた。
「っ、これは……!」
突如、地面から黒紫の霧が噴き上がる。空気が変わる。重く、苦しく、肌にまとわりつくような不快な“風”。
「瘴気化した風ウサ! ここまで進行してたなんて……」
フィーナが結界を強化し、皆が防御態勢に入る。
そして、その霧の中心から、螺旋状の風を纏った“殻”が姿を現した。まるで空の卵を思わせるその形状が、バキバキと音を立てて割れ、中から巨大な獣が出現する。
「っ……これは、守護獣!?」
シャルロッテが警告を叫ぶが、獣は返事の代わりに突風とともに咆哮を放つ。
「来るぞ! 全員、迎撃陣形ッ!」
イッセイの号令とともに、戦闘が始まった。
ルーナが前線で魔法の盾を展開し、セリアが迅速に罠魔術で足止め。ミュリルが風の動きを読み取り、イッセイの位置を支援する。
リリィは空中を飛ぶ魔導具で回避しつつ、魔石弾を撃ち込んだ。
「やっぱり派手な方が目立つよね、精霊たち!」
その一撃で殻の一部が砕けると、獣は激しく動揺した。だが、戦闘は長引き、瘴気がさらに強まりはじめる。
「イッセイくん……もう限界かもウサ!」
「……くそ、何か打開策は……!」
その時、イッセイの脳裏に浮かんだのは、エリュアの言葉。
――“契約の歌と魂の共鳴”が、神柱を目覚めさせる。
「……歌、だと……!」
「歌うの? 今ここで?」ルーナが驚いた顔で言うが、イッセイは頷いた。
「やるしかない。リリィ、頼めるか?」
「え、私が!?」
「お前の声なら、きっと届く。俺が共鳴させる……!」
リリィは一瞬目を見開いたが、すぐに笑った。
「……任された!」
風の中、彼女が歌い始める。子守唄のように、優しく、でも芯のある音。
イッセイは《風を束ねる音叉》を高く掲げ、魔力を乗せる。
風が渦を巻き、瘴気を払い、祭壇の中心が淡く光を放ち始めた。
「これは……!」
その光の中、ひとりの少女が姿を現す。銀白の髪に風の紋を宿した、静かな目を持つ存在。
「……わたしは……シリル……十二神柱の、第二柱」
その声は、風そのものだった。
「我らを起こす者よ。風を紡ぎ、歌を響かせし者よ。……試練は、始まったばかり」
そう言い残し、彼女は再び光の中に包まれていく。
空が一瞬、澄み渡ったように明るくなった。
「……やったウサ」
フィーナの肩にそっと手を置き、イッセイは小さく頷いた。
「風は、まだ守れる。……次の柱を探しに行こう」
そして、物語は再び、風に導かれて次なる空へ――。
フィーナが船首から身を乗り出して叫んだ。雲が渦を巻き、空の色すら捻じ曲げるような不気味な空域。《南の断風層》は、まるで風そのものが逆流しているような異常空間だった。
「通常航行では進入不能……だが、この風印があれば──!」
シャルロッテが呪文を詠唱し、空中船の主翼に刻まれた《ヴェイアの風印》が淡く発光する。直後、暴風だった周囲の空気が、まるで潮が引くようにすっと和らいだ。
「すご……これが神柱の力か」
ルーナが感嘆の息を漏らし、ミュリルが尻尾を揺らしてにゃあと笑う。
「安心するにゃ~。でも気を抜くと飛ばされるにゃ?」
「それは勘弁願いたい」セリアが髪を抑えながら真顔で返す。
イッセイは風を感じながら目を細めた。
「確かに……風が“渦を描いて”いるな。ここだけ、流れの方向が違う」
「まるで、風が囚われているみたいだね」
リリィが静かに呟く。
――やがて、視界の奥に現れたのは、空中に浮かぶ巨大な石柱の残骸群だった。かつて神殿だったであろう構造物が崩れ落ち、重力も無視するかのように浮遊している。
「ここが……《逆流の祭壇》」
シャルロッテの言葉に皆が息を呑む。
「着地ポイント、確認完了。各自、対瘴気装備を展開して!」
セリアの号令で、イッセイたちは防御結界を展開しつつ、祭壇跡へと降り立った。
そこには、かろうじて崩れずに残っていた中央の“柱”があった。封印文様が走るその石柱には、読み取れる一節が刻まれていた。
「――《シリル》……これが、眠る神柱の名か」
イッセイが指でなぞると、封印が一瞬、淡く脈動した。
だがその瞬間、祭壇全体が不穏に揺れた。
「っ、これは……!」
突如、地面から黒紫の霧が噴き上がる。空気が変わる。重く、苦しく、肌にまとわりつくような不快な“風”。
「瘴気化した風ウサ! ここまで進行してたなんて……」
フィーナが結界を強化し、皆が防御態勢に入る。
そして、その霧の中心から、螺旋状の風を纏った“殻”が姿を現した。まるで空の卵を思わせるその形状が、バキバキと音を立てて割れ、中から巨大な獣が出現する。
「っ……これは、守護獣!?」
シャルロッテが警告を叫ぶが、獣は返事の代わりに突風とともに咆哮を放つ。
「来るぞ! 全員、迎撃陣形ッ!」
イッセイの号令とともに、戦闘が始まった。
ルーナが前線で魔法の盾を展開し、セリアが迅速に罠魔術で足止め。ミュリルが風の動きを読み取り、イッセイの位置を支援する。
リリィは空中を飛ぶ魔導具で回避しつつ、魔石弾を撃ち込んだ。
「やっぱり派手な方が目立つよね、精霊たち!」
その一撃で殻の一部が砕けると、獣は激しく動揺した。だが、戦闘は長引き、瘴気がさらに強まりはじめる。
「イッセイくん……もう限界かもウサ!」
「……くそ、何か打開策は……!」
その時、イッセイの脳裏に浮かんだのは、エリュアの言葉。
――“契約の歌と魂の共鳴”が、神柱を目覚めさせる。
「……歌、だと……!」
「歌うの? 今ここで?」ルーナが驚いた顔で言うが、イッセイは頷いた。
「やるしかない。リリィ、頼めるか?」
「え、私が!?」
「お前の声なら、きっと届く。俺が共鳴させる……!」
リリィは一瞬目を見開いたが、すぐに笑った。
「……任された!」
風の中、彼女が歌い始める。子守唄のように、優しく、でも芯のある音。
イッセイは《風を束ねる音叉》を高く掲げ、魔力を乗せる。
風が渦を巻き、瘴気を払い、祭壇の中心が淡く光を放ち始めた。
「これは……!」
その光の中、ひとりの少女が姿を現す。銀白の髪に風の紋を宿した、静かな目を持つ存在。
「……わたしは……シリル……十二神柱の、第二柱」
その声は、風そのものだった。
「我らを起こす者よ。風を紡ぎ、歌を響かせし者よ。……試練は、始まったばかり」
そう言い残し、彼女は再び光の中に包まれていく。
空が一瞬、澄み渡ったように明るくなった。
「……やったウサ」
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「風は、まだ守れる。……次の柱を探しに行こう」
そして、物語は再び、風に導かれて次なる空へ――。
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