侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

文字の大きさ
153 / 214
第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

逆流の祭壇、次なる扉

しおりを挟む
「見えてきたウサ……あれが、断風層の縁……!」



フィーナが船首から身を乗り出して叫んだ。雲が渦を巻き、空の色すら捻じ曲げるような不気味な空域。《南の断風層》は、まるで風そのものが逆流しているような異常空間だった。



「通常航行では進入不能……だが、この風印があれば──!」



シャルロッテが呪文を詠唱し、空中船の主翼に刻まれた《ヴェイアの風印》が淡く発光する。直後、暴風だった周囲の空気が、まるで潮が引くようにすっと和らいだ。



「すご……これが神柱の力か」



ルーナが感嘆の息を漏らし、ミュリルが尻尾を揺らしてにゃあと笑う。



「安心するにゃ~。でも気を抜くと飛ばされるにゃ?」



「それは勘弁願いたい」セリアが髪を抑えながら真顔で返す。



イッセイは風を感じながら目を細めた。



「確かに……風が“渦を描いて”いるな。ここだけ、流れの方向が違う」



「まるで、風が囚われているみたいだね」



リリィが静かに呟く。



――やがて、視界の奥に現れたのは、空中に浮かぶ巨大な石柱の残骸群だった。かつて神殿だったであろう構造物が崩れ落ち、重力も無視するかのように浮遊している。



「ここが……《逆流の祭壇》」



シャルロッテの言葉に皆が息を呑む。



「着地ポイント、確認完了。各自、対瘴気装備を展開して!」



セリアの号令で、イッセイたちは防御結界を展開しつつ、祭壇跡へと降り立った。



そこには、かろうじて崩れずに残っていた中央の“柱”があった。封印文様が走るその石柱には、読み取れる一節が刻まれていた。



「――《シリル》……これが、眠る神柱の名か」



イッセイが指でなぞると、封印が一瞬、淡く脈動した。



だがその瞬間、祭壇全体が不穏に揺れた。



「っ、これは……!」



突如、地面から黒紫の霧が噴き上がる。空気が変わる。重く、苦しく、肌にまとわりつくような不快な“風”。



「瘴気化した風ウサ! ここまで進行してたなんて……」



フィーナが結界を強化し、皆が防御態勢に入る。



そして、その霧の中心から、螺旋状の風を纏った“殻”が姿を現した。まるで空の卵を思わせるその形状が、バキバキと音を立てて割れ、中から巨大な獣が出現する。



「っ……これは、守護獣!?」



シャルロッテが警告を叫ぶが、獣は返事の代わりに突風とともに咆哮を放つ。



「来るぞ! 全員、迎撃陣形ッ!」



イッセイの号令とともに、戦闘が始まった。



ルーナが前線で魔法の盾を展開し、セリアが迅速に罠魔術で足止め。ミュリルが風の動きを読み取り、イッセイの位置を支援する。



リリィは空中を飛ぶ魔導具で回避しつつ、魔石弾を撃ち込んだ。



「やっぱり派手な方が目立つよね、精霊たち!」



その一撃で殻の一部が砕けると、獣は激しく動揺した。だが、戦闘は長引き、瘴気がさらに強まりはじめる。



「イッセイくん……もう限界かもウサ!」



「……くそ、何か打開策は……!」



その時、イッセイの脳裏に浮かんだのは、エリュアの言葉。



――“契約の歌と魂の共鳴”が、神柱を目覚めさせる。



「……歌、だと……!」



「歌うの? 今ここで?」ルーナが驚いた顔で言うが、イッセイは頷いた。



「やるしかない。リリィ、頼めるか?」



「え、私が!?」



「お前の声なら、きっと届く。俺が共鳴させる……!」



リリィは一瞬目を見開いたが、すぐに笑った。



「……任された!」



風の中、彼女が歌い始める。子守唄のように、優しく、でも芯のある音。



イッセイは《風を束ねる音叉》を高く掲げ、魔力を乗せる。



風が渦を巻き、瘴気を払い、祭壇の中心が淡く光を放ち始めた。



「これは……!」



その光の中、ひとりの少女が姿を現す。銀白の髪に風の紋を宿した、静かな目を持つ存在。



「……わたしは……シリル……十二神柱の、第二柱」



その声は、風そのものだった。



「我らを起こす者よ。風を紡ぎ、歌を響かせし者よ。……試練は、始まったばかり」



そう言い残し、彼女は再び光の中に包まれていく。



空が一瞬、澄み渡ったように明るくなった。



「……やったウサ」



フィーナの肩にそっと手を置き、イッセイは小さく頷いた。



「風は、まだ守れる。……次の柱を探しに行こう」



そして、物語は再び、風に導かれて次なる空へ――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...