侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風囁く静寂、覚醒の地へ

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「……風が、柔らかくなった気がするウサ」



フィーナが空を見上げ、そよ風に耳を傾けながら呟いた。



瘴気を浄化し終えた《逆流の祭壇》を背に、イッセイたちは一時的な安堵の空気に包まれていた。



「風の柱シリルの目覚めが、気流の滞りを解消し始めている。今のところ、順調です」



シャルロッテが浮遊式のモニターに目を通しながら言う。魔力の流れも以前より整っているようだ。



「それにしても……神柱って、みんなああやって封印されてるのかしら?」



ルーナが腰に手を当てて尋ねると、ミュリルがふわりと跳ねて応えた。



「にゃーん、封印というより“お昼寝”っぽいにゃ~。起こすには、歌と共鳴が必要にゃ?」



「簡単に言うな、あれは命懸けだっただろう」セリアが真顔で突っ込む。



「でも、おかげで次のヒントが得られたんだよね?」



リリィが顔を上げ、イッセイを見る。彼は音叉を手に、まだ微かに残る震えを感じ取っていた。



「……ああ。《風の記録》に残っていた“第三の柱”の在処、たしか“風穿つ垂直の塔”──《ヴェル=レヴァタ》だったな」



「また名前だけは物々しいウサね」



「実際、危険だろうな。ヴェル=レヴァタは“風が天へ昇る絶対上昇流”の中心だ。空中船で近づくには、相当な制御力が必要になる」



「ってことは……また改造するんだな?」



ルーナが肩を回しながら言えば、リリィは目を輝かせる。



「うん、もちろん! あの空中船、もっと推進力増やせると思うの。次は“風共鳴型回転翼”つけたいなー!」



「また燃費が悪くなる予感しかしないウサ……」



「いいじゃん、ロマンは性能に勝る!」



「……はいはい、どうせ作るのは俺だよな」



イッセイは肩を竦めながらも、どこか楽しげだった。



すると、傍らでじっと空を見上げていたシャルロッテが、ふと呟いた。



「……この風、誰かが呼んでいる気がする」



「え?」



「いや、気のせいかもしれない。ただ……精霊の層が、上へと流れてる。まるで、何かに吸い寄せられるように」



その言葉に皆が空を見上げる。



──そこには、天頂へ向かって細く伸びる風の帯が、まるで道のように続いていた。



「これは……精霊風……?」



イッセイが音叉を掲げると、風が一瞬その周囲を旋回し、確かに“導いて”いた。



「第三柱の在処……精霊たちが、そこへ案内してくれてるのかもしれない」



「……なら、決まりね。次の目的地は《ヴェル=レヴァタ》」



シャルロッテが背筋を伸ばし、決意の表情を見せる。



「だけど、ここを出る前に一つ……エリュアに報告していかないとね」



ルーナの言葉に皆が頷いた。



一行は再び方舟へと戻り、エリュアのもとを訪れることにした。



* * *



「……そう。シリルが目覚めたのね」



エリュアは、静かに、そして嬉しそうに微笑んだ。



方舟の中央広場──《風巫女の中庭》と呼ばれる場所。修復が進んでおり、風の鈴が心地よく鳴っていた。



「精霊たちも、少しずつ応えてくれるようになったウサ」



フィーナが花壇の横でそっと風を撫で、微笑む。



「だけど、まだ十柱ある。しかも、敵の動きも止まってはいない」



イッセイがそう言うと、エリュアは表情を引き締め、音叉の入った小箱を差し出した。



「これは、風巫女の血筋が代々受け継いできた“風の導き”。次なる柱の共鳴に、必ず役立つはず」



イッセイはそれを受け取り、静かに頭を下げた。



「ありがとう、エリュア」



「……また、必ず戻ってきて。風が、私にあなたたちの声を届けてくれる限り、私は祈り続ける」



「任せて。戻ったときは……スパ作ってるかも!」



リリィがそう言って手を振ると、エリュアは目を丸くしてから、小さく笑った。



「ふふ……スパ、ね。楽しみにしてるわ」



* * *



その夜、空中船は再び方舟を離れた。



空には、星のように光る風の粒が、次の目的地を照らすように瞬いていた。



「風よ……導いてくれ。“次”の柱のもとへ」



イッセイは音叉を手に、静かに誓った。



物語は、いよいよ“風の王”の覚醒へと近づいていく――。
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