侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風の試練、継ぐ者の証

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「来るぞ――構えろ!」



イッセイの号令と同時に、風柱シリルが宙を舞った。

その小柄な姿からは想像もできないほどの風圧が、神殿全体を包み込む。



「……見せて、あなたたちの“風”を。意志を、誓いを――力に変えてみせて」



「おう、言われなくてもやってやるわ!」

ルーナが地を蹴った瞬間、シリルの姿が消えた。



「っ! 速い!」



「上です!」



セリアが鋭く指差す。風の剣がルーナの頭上から突き下ろされる。



「甘い!」



ルーナはとっさに側転で避け、反撃の一閃を浴びせた――だが、風そのもののようにシリルは霧散し、背後に回り込んでいた。



「そこにゃ!」



ミュリルの猫の直感が火を吹く。

振り向きざまに魔導玉を投げつけ、風の流れを乱す。



「ちょっと、今のうちに位置測定ウサ!」



フィーナが空間の風位を解析し、シャルロッテにデータを送る。



「座標固定、成功。リリィ、加速シェル起動!」



「了解! ブースト全開! イッセイ、飛べる?」



「行くぞ!」



イッセイはリリィ特製の飛翔魔具で神殿空間の上層に躍り出た。

剣を構えたまま宙を走るその姿に、シリルの目が初めて揺れる。



「……風に逆らい、風を制しようとする意志。

でも、それは時に……風を壊すことにもなる」



「それでも、俺たちは“選ぶ”。風と生きる道をな!」



イッセイの剣が風を裂き、シリルとぶつかり合う。



風鳴と衝撃の中、シャルロッテが結界術を起動した。



「今よ! イッセイの“風の音叉”に、みんなの魔力を集中して!」



「了解にゃん!」



「……はい、ウサ!」



「っし、やってやろう!」



仲間たちの魔力が一本の音に収束し、イッセイの胸元の音叉が震え出す。



「この音は……共鳴……!?」



シリルの動きが止まった。その隙にイッセイは彼女の前に降り立つ。



「俺たちは、風を操りたいんじゃない。

風と共に、生きていきたいんだ――それが、俺たちの意志だ!」



「…………」



風が止まる。



静寂の中、シリルはゆっくりと目を閉じた。



「……見えたわ、あなたたちの“風”。

それはまだ未熟だけれど、確かに……継ごうとする意志がある」



風の剣が霧のように消え、少女の姿がやわらかな光に包まれた。



「私は、神柱シリル。第二の風の守人として、汝らに力を貸しましょう」



イッセイは静かに頭を下げた。



「ありがとう、シリル」



「勘違いしないで。ただの試練通過者として認めただけよ」



「ツンデレか」

リリィがぽつりと呟き、フィーナとミュリルが吹き出した。



「む……?」



「シリル、あんた絶対ツンデレだわ」

「うんうん、そうにゃ~!」



「な、なによそれ……!?」



そんなやり取りに、緊張していた空間がやわらかくほぐれていく。



だがその時――



「……風が、変わった」

シャルロッテが顔を上げる。



神殿の外から、空全体の気流が逆巻くような気配が迫ってきた。



「これは……何かが、目覚めた?」



「まだ残り十柱……このまま進めば、“風王”も目を覚ますことになる」



シリルが静かに告げる。



「だがそのとき、この世界の空の秩序は……根本から変わる」



「……それでも、俺たちは止まらない」



イッセイの言葉に、仲間たちが力強く頷く。



「よし、次に行こう。

“空の未来”は、俺たちで選ぶ」



――そして物語は次なる神柱のもとへ。風の旅路は続く。
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