侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

空を裂く風、第三の目覚め

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「視界、悪化中! 上空、乱気流レベル7!」



「風向き、また変わったウサ! 北西から回り込んできてる!」



「高度調整、微調整で対応する。前方に“裂け目”が見える――!」



イッセイの指示と同時に、風船船が大きく揺れた。

黒い雷雲が巻き上がり、空を裂くように走る閃光が、まるで“空の悲鳴”を描いていた。



そこは“空の裂け目”と呼ばれる領域――かつて空中戦争の爪痕が残された風の墓場。

その中心に、第三の神柱が眠っているという。



「……風の流れが変だ。これは……ただの自然現象じゃない」



セリアが眉をひそめ、肩にかけた短弓に手をかけた。



「感じるわ、何かが……呼吸してるみたい。風が、怯えてる」



ミュリルが震える声でそう告げたとき――

船体の外壁が、**ドンッ!**という重い音と共に大きく凹んだ。



「な、何かぶつかってきたウサ!? こ、これは……!」



「違う……外からじゃない。船の下層から……何かが……!」



船の床がきしむ。床材の隙間から、黒い“風”のようなものがうねり出てきた。



「この波動――“瘴気風”!? なんでこんなところに……!」



「まさか……神柱の眠る場所に“何か”が寄生している……?」



リリィが叫んだ瞬間、その黒風は渦を巻きながら空間を裂いた。

まるで“空の穴”そのものが意思を持ったかのように広がり、そこから――



「ギャアアアァァッ!!」



獣とも人ともつかぬ、耳を裂く叫び。

そして現れたのは、風に溶け込む異形の魔獣。



「……“虚風獣”……!? まさか、ここにもいたなんて……!」



シャルロッテの表情が蒼ざめる。



「この空間、もう安全圏じゃない。戦うしかないわ!」



「なら、やるだけさ」



イッセイが叫び、右手を掲げると――

神器《風を束ねる音叉》が淡い緑光を放った。



「リリィ、旋回しながら高度を保て! セリア、迎撃頼む!」



「了解っ!」



「任せなさい!」



セリアの矢が放たれ、音もなく“虚風獣”の片目を撃ち抜く。

しかし、倒れない。霧のような身体が再構築を始める。



「くっ、これ、普通の攻撃じゃ効かないウサ!」



「風の共鳴波……それが弱点かもしれない!」



「じゃあ、イッセイ君! 私が“歌う”ね!」



ミュリルが胸元の風鈴型アクセを鳴らし、精霊の歌を紡ぎ始めた。



「風よ、囁け……命のうた……空のゆりかごに、帰れ……」



その歌に応じて、神器が共振し、イッセイの音叉が強く共鳴する。



「――響け、風の導き!」



イッセイが音叉を振ると、船を中心に渦巻いていた瘴気が一気に晴れた。

“虚風獣”が苦悶の声をあげ、空中で四散する。



「やった……!」



「まだ終わってないウサ!」



リリィの声に応じて、雲の裂け目が大きく開いた。

そこに見えたのは――朽ちた神殿のような建造物。

その中心に、静かに眠る石像の少女がいた。



「……あれが……第三の神柱?」



シャルロッテがつぶやく。



「違う……まだ眠ってる。“あれ”じゃない、“中身”が本物だ」



イッセイが音叉を握り締め、目を細める。



「でもこの空間……まだ、何かいる……!」



まるで“試すような気配”。

風の流れがねじれ、再び異音が響く。



「来るよ!」



セリアが叫ぶと同時に――

神殿の天井が崩れ、巨獣のような影が飛び込んできた。



その姿は、まるで“風を食らう獅子”。

翼もなく、風を踏み台に空を駆ける異形。



「風喰獅ふうしょくじしだ! 伝説の魔獣……空の食屍鬼!」



「この結界、あいつが守ってる……いや、神柱を“封じてる”のかも……!」



「だったら……壊すしかない!」



イッセイが立ち上がり、仲間たちを振り返った。



「行くよ、みんな! “空の未来”は、俺たちが奪い返す!」



「――ああ!」



風が、再び吹き始める。

それは、新たなる戦いの幕開けを告げる、“目覚め”の風だった――。
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