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第十六章 歓喜の城塞と、偽りの楽園
絆の宝冠、神々の沈黙
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偽りの世界が、ガラスのように砕け散った。
俺が最後に見たのは、俺の叫びに応えるかのように、光と共に現れた仲間たちの幻影だった。
その光景が薄れ、意識が現実へと引き戻される。
気がつくと、俺は、がらんとした何もない空間に一人立っていた。
白亜と黄金で彩られていたはずの《歓喜の城塞》は、その華やかな装飾をすべて失い、ただの骨組みだけの、無機質な遺跡へとその姿を変えていた。
静寂が、耳に痛い。
「……みんな……?」
俺は、不安に駆られて叫んだ。
まさか、俺だけが帰ってきてしまったのか? 彼女たちは、まだあの甘美な牢獄に囚われたままなのか?
血の気が引いていくのが分かった。独りぼっちの楽園を拒絶した結果、独りぼっちの現実に放り出されたというのなら、これ以上の皮肉はない。
その、時だった。
俺の背後で、パリン、と空間が砕ける音がした。
「……イッセイ様……!」
振り返ると、そこにいたのはクラリスだった。涙で瞳を潤ませ、それでも気丈に立っている。
彼女もまた、自らの意志で、偽りの王妃の座を捨てて帰ってきたのだ。
「クラリス……!」
それを皮切りに、次々と仲間たちが帰還した。
「イッセイくん!」
「イッセイ殿!」
空間の至る所が砕け、ルーナが、サーシャが、リリィが、セリアが……一人、また一人と、俺の元へと駆け寄ってくる。
誰もが、頬に涙の跡を残しながらも、その表情は、かつてないほど強く、そして晴れやかだった。
「……みんな!」
俺が声をかけると、全員が涙を浮かべながら、それでも力強い笑みを浮かべていた。
「……当たり前じゃない。あんたのいない楽園なんて、地獄と同じよ」
リリィが、涙声で悪態をつく。その言葉に、誰もが頷いた。
「そうウサ! イッセイくんのいないステージなんて、歌う意味ないウサ!」
「にゃーん……。イッセイくんのいないお昼寝は、ただの睡眠だにゃ……」
フィーナとミュリルが、俺の両腕に泣きながら飛びついてくる。
もう、誰も言葉はいらなかった。
俺は、駆け寄ってきた仲間たちを、一人ひとり、強く抱きしめた。
いや、自然と、全員が中心に集まり、一つの塊になっていた。
涙と、笑い声と、互いの温もりが混じり合う。言葉はいらない。
ただ、互いの温もりだけが、俺たちが選んだ“現実”の証だった。
(……ああ、そうだ。これが、俺の欲しかった世界だ。完璧な楽園なんかじゃない。騒がしくて、手のかかって、それでも、どうしようもなく愛おしい、この現実こそが……)
その、俺たちの想いが一つになった瞬間だった。
俺たちの中心で、七色の光が集い始めた。
一人ひとりの胸から溢れ出た、仲間を想う心が、光の糸となって絡み合い、一つの美しい宝冠を形作っていく。
それは、俺たちの絆そのものが具現化したかのような、温かい輝きを放っていた。
第二の神具、《絆の宝冠》だ。
「これは……」
「私たちの……想いが……」
シャルロッテが、感極まった声で呟いた。
俺が、その奇跡の結晶に手を伸ばした時、空間に冷たい気配が満ちた。
オリオンが、再び俺たちの前に姿を現したのだ。
彼は、宝冠と、涙ながらに笑い合う俺たちを、ただ黙って見つめていた。
その無機質な瞳に、初めて“理解不能”という名の感情が浮かんでいるように見えた。
(……エラー。論理マトリクスに、該当する答えがない。『個人の最大幸福』というインプットに対し、『集団の不完全な現実を選択』というアウトプット。……理解不能。そして、その非論理的な選択の結果、新たな概念武装(神具)が生成された……? この“絆”という変数は……私が想定していたバグ(不具合)の範疇を、超えている……)
オリオンは、しばらくの間、ただ黙って俺たちを見つめていた。
その沈黙は、どんな言葉よりも雄弁に、彼の敗北を物語っていた。
神々の“理”が、俺たちの“想い”の前に、意味をなさなくなった瞬間だった。
やがて彼は、何も言わず、ただ、次なる試練の地――大陸の最も高く、そして厳しい山脈の方角を指し示した。
その仕草は、もはや審判者としてのものではなく、ただ、自分には理解できない現象の行く末を見届けようとする、観察者のそれのようだった。
そして、彼は静かに光の中へと姿を消した。
俺は、仲間たちと顔を見合わせ、ふっと笑った。
「……俺たちの、勝ちだな」
その言葉に、全員が力強く頷いた。
俺は、宙に浮かぶ《絆の宝冠》を、そっと手に取った。
それは、驚くほど温かかった。俺たちの、魂の温度そのものだった。
神々の試練は、俺たちを引き裂くどころか、また一つ、俺たちの絆を強く、本物へと変えてくれたのだ。
俺が最後に見たのは、俺の叫びに応えるかのように、光と共に現れた仲間たちの幻影だった。
その光景が薄れ、意識が現実へと引き戻される。
気がつくと、俺は、がらんとした何もない空間に一人立っていた。
白亜と黄金で彩られていたはずの《歓喜の城塞》は、その華やかな装飾をすべて失い、ただの骨組みだけの、無機質な遺跡へとその姿を変えていた。
静寂が、耳に痛い。
「……みんな……?」
俺は、不安に駆られて叫んだ。
まさか、俺だけが帰ってきてしまったのか? 彼女たちは、まだあの甘美な牢獄に囚われたままなのか?
血の気が引いていくのが分かった。独りぼっちの楽園を拒絶した結果、独りぼっちの現実に放り出されたというのなら、これ以上の皮肉はない。
その、時だった。
俺の背後で、パリン、と空間が砕ける音がした。
「……イッセイ様……!」
振り返ると、そこにいたのはクラリスだった。涙で瞳を潤ませ、それでも気丈に立っている。
彼女もまた、自らの意志で、偽りの王妃の座を捨てて帰ってきたのだ。
「クラリス……!」
それを皮切りに、次々と仲間たちが帰還した。
「イッセイくん!」
「イッセイ殿!」
空間の至る所が砕け、ルーナが、サーシャが、リリィが、セリアが……一人、また一人と、俺の元へと駆け寄ってくる。
誰もが、頬に涙の跡を残しながらも、その表情は、かつてないほど強く、そして晴れやかだった。
「……みんな!」
俺が声をかけると、全員が涙を浮かべながら、それでも力強い笑みを浮かべていた。
「……当たり前じゃない。あんたのいない楽園なんて、地獄と同じよ」
リリィが、涙声で悪態をつく。その言葉に、誰もが頷いた。
「そうウサ! イッセイくんのいないステージなんて、歌う意味ないウサ!」
「にゃーん……。イッセイくんのいないお昼寝は、ただの睡眠だにゃ……」
フィーナとミュリルが、俺の両腕に泣きながら飛びついてくる。
もう、誰も言葉はいらなかった。
俺は、駆け寄ってきた仲間たちを、一人ひとり、強く抱きしめた。
いや、自然と、全員が中心に集まり、一つの塊になっていた。
涙と、笑い声と、互いの温もりが混じり合う。言葉はいらない。
ただ、互いの温もりだけが、俺たちが選んだ“現実”の証だった。
(……ああ、そうだ。これが、俺の欲しかった世界だ。完璧な楽園なんかじゃない。騒がしくて、手のかかって、それでも、どうしようもなく愛おしい、この現実こそが……)
その、俺たちの想いが一つになった瞬間だった。
俺たちの中心で、七色の光が集い始めた。
一人ひとりの胸から溢れ出た、仲間を想う心が、光の糸となって絡み合い、一つの美しい宝冠を形作っていく。
それは、俺たちの絆そのものが具現化したかのような、温かい輝きを放っていた。
第二の神具、《絆の宝冠》だ。
「これは……」
「私たちの……想いが……」
シャルロッテが、感極まった声で呟いた。
俺が、その奇跡の結晶に手を伸ばした時、空間に冷たい気配が満ちた。
オリオンが、再び俺たちの前に姿を現したのだ。
彼は、宝冠と、涙ながらに笑い合う俺たちを、ただ黙って見つめていた。
その無機質な瞳に、初めて“理解不能”という名の感情が浮かんでいるように見えた。
(……エラー。論理マトリクスに、該当する答えがない。『個人の最大幸福』というインプットに対し、『集団の不完全な現実を選択』というアウトプット。……理解不能。そして、その非論理的な選択の結果、新たな概念武装(神具)が生成された……? この“絆”という変数は……私が想定していたバグ(不具合)の範疇を、超えている……)
オリオンは、しばらくの間、ただ黙って俺たちを見つめていた。
その沈黙は、どんな言葉よりも雄弁に、彼の敗北を物語っていた。
神々の“理”が、俺たちの“想い”の前に、意味をなさなくなった瞬間だった。
やがて彼は、何も言わず、ただ、次なる試練の地――大陸の最も高く、そして厳しい山脈の方角を指し示した。
その仕草は、もはや審判者としてのものではなく、ただ、自分には理解できない現象の行く末を見届けようとする、観察者のそれのようだった。
そして、彼は静かに光の中へと姿を消した。
俺は、仲間たちと顔を見合わせ、ふっと笑った。
「……俺たちの、勝ちだな」
その言葉に、全員が力強く頷いた。
俺は、宙に浮かぶ《絆の宝冠》を、そっと手に取った。
それは、驚くほど温かかった。俺たちの、魂の温度そのものだった。
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