202 / 214
第十六章 歓喜の城塞と、偽りの楽園
エピローグ 楽園の跡地で、交わす本当の言葉
しおりを挟む
がらんとした城塞の跡地で、俺たちは火を囲んでいた。
かつてここにあったはずの壮麗な建物は幻と消え、今はただ、神代の星座が輝く夜空と、静かに揺れる焚火の炎だけが俺たちを照らしている。
「それにしても、王妃になったわたくしも、なかなかでしたでしょう?」
沈黙を破ったのは、クラリスの茶目っ気のある声だった。
彼女は頬杖をつきながら、楽しそうに幻影の世界を振り返る。
「ふふっ、あたしと夫婦になったイッセイくんも、結構幸せそうだったわよ? 毎日あたしのためにコーヒー淹れてくれて」
ルーナも負けじと応戦する。
ヒロインたちは、先ほどまで見ていた幻影の話で盛り上がっていた。
それはもう、心を抉る辛い記憶ではない。自分たちの“ありえたかもしれない未来”として、そして何より、仲間がいない世界がいかに空虚であったかを確かめ合った、大切な思い出として、笑い話に変えていた。
「あたしなんて、世界一の大商人よ? でも、一人で食べる豪華ディナーほど不味いものはなかったわ。やっぱり、みんなでワイワイ言いながら食べる、焚火の周りの干し肉が一番よ」
リリィがそう言って笑うと、皆が頷いた。
「うむ。拙者の兄上が生きておられる世界は、確かに夢のようであった。だが、そこに貴殿らの騒がしい声がなければ、ただの静かな過去でしかない。拙者が生きるべきは、“今”なのだと、改めて知った」
サーシャの言葉には、迷いを断ち切った武士の清々しさがあった。
一人、また一人と、彼女たちは語っていく。偽りの楽園で得た完璧な幸福と、それでも拭えなかった喪失感を。
そして、最終的に、この不完全で、騒がしくて、手のかかる“現実”を、自らの意志で選んだということを。
俺は、そんな彼女たちの話を、ただ黙って聞いていた。そして、手にした《絆の宝冠》をじっと見つめる。
それは、俺たちの想いの重さそのものだった。
やがて、皆の話が一区切りついたのを見計らって、俺は静かに口を開いた。
「……俺は、選べなかった。……いや、選ばなかった」
俺の言葉に、皆が静かに耳を傾ける。
「幻の中で、世界は俺に選択を迫った。誰か一人を選べ、と。そうすれば、お前だけの完璧な幸せをやろう、と。……正直、一瞬だけ、心が揺らいだ。戦いのない、穏やかな世界。愛する誰かと、ただ静かに暮らす未来。それは、確かに魅力的だった」
俺は、ゆっくりと仲間たち一人ひとりの顔を見渡した。
「でも、できなかった。クラリスのいない世界も、ルーナのいない世界も、リリィのいない世界も……誰か一人でも欠けた未来を、俺は“幸せ”だなんて、到底思えなかったんだ」
俺は立ち上がり、宝冠を胸に抱いた。
「だから、誓うよ。俺は、お前たち全員が、心の底から笑える未来を創る。誰一人、欠けさせない。必ずだ」
それは、プロポーズにも似た、俺の魂の誓いだった。
その言葉に、ヒロインたちは息を呑み、そして、ゆっくりと、その瞳を潤ませていった。
俺は、彼女たちの前に進み出た。
そして、一人ひとりの手を取り、その瞳を真っ直ぐに見つめて、俺自身の想いを告げる。
「クラリス。俺は、お前の隣に立つ王にはなれないかもしれない。だが、お前が背負う王冠の重みを、共に背負うことはできる。お前が民を愛するように、俺はお前を、生涯をかけて守り抜くと誓う」
「……イッセイ様……。その言葉だけで、わたくしは、世界一の幸せ者ですわ」
「ルーナ。俺は、お前の自由な魂が好きだ。だから、どこへでも行け。世界の果てまで、冒険しろ。俺は、お前がいつでも帰ってこられる“港”になる。お前だけの、安らぎの場所に」
「……ふふっ。ばかね。あたしが帰りたい場所は、最初からあんたの隣だけだって、まだ分かんないの?」
「リリィ。お前の夢は、俺の夢だ。世界中を笑顔にするっていう、そのとんでもない夢、最後まで付き合わせてもらうぜ。最高のビジネスパートナーとして、そして……人生のパートナーとして」
「……ずるいわよ、あんた。そんなこと言われたら、あたし……一生あんたに、投資し続けるしかないじゃない……!」
「サーシャ。お前の剣は、もう過去を断ち切るためのものじゃない。未来を切り拓くためのものだ。その剣の、最初の鞘に、俺をさせてくれ。お前が戦いに疲れた時、いつでもその刃を休められる場所になる」
「……イッセイ殿。……その儀、謹んで、お受けいたします。我が剣も、我が心も、すべては貴殿と共に」
「セリア。お前は、俺の背中を守ると言ってくれたな。だが、これからは俺がお前の背中を守る。お前が安心して前だけを見ていられるように。だから、もう一人で全部背負い込むな。俺を、頼ってくれ」
「……っ! そ、それは……命令、と捉えて、よろしいのですね……? ……はい、イッセイ様」
「シャルロッテ。お前は、精霊と人の架け橋だ。その優しさは、時に自分を傷つける。だから、俺がお前の盾になる。お前が、その優しさを失わずにいられるように、俺が全ての穢れからお前を守る」
「……イッセイさん……。あなたこそが、わたくしの心を照らす、一番の光ですわ」
「フィーナ。お前の歌は、世界を元気にする力がある。だから、これからも歌い続けてくれ。お前が歌いたいと願うなら、俺が、世界中どこへでも、そのステージを用意してやる」
「う、うさーっ! うんっ! ボク、歌う! イッセイくんのために、世界一の歌を!」
「ミュリル。お前は、もう独りじゃない。お前が寂しい時は、俺がそばにいる。お前が眠りたい時は、俺の膝を貸してやる。お前は、俺のかけがえのない、大切な家族だ」
「……にゃん……。うん……。家族……だにゃ……」
一人ひとりに想いを告げ終えた時、俺たちは、自然と一つの輪になっていた。
ヒロインたちは、顔を赤らめながらも、涙を浮かべながらも、世界で一番幸せそうな顔で、一斉に頷いた。
神々の試練は、俺たちの絆を、また一つ、本物へと変えてくれたのだ。
手にした《絆の宝冠》が、俺たちの誓いに応えるかのように、温かく、そして力強い輝きを放っていた。
俺たちの、神々に抗う旅は、まだ続く。
だが、もう何も怖くはなかった。
かつてここにあったはずの壮麗な建物は幻と消え、今はただ、神代の星座が輝く夜空と、静かに揺れる焚火の炎だけが俺たちを照らしている。
「それにしても、王妃になったわたくしも、なかなかでしたでしょう?」
沈黙を破ったのは、クラリスの茶目っ気のある声だった。
彼女は頬杖をつきながら、楽しそうに幻影の世界を振り返る。
「ふふっ、あたしと夫婦になったイッセイくんも、結構幸せそうだったわよ? 毎日あたしのためにコーヒー淹れてくれて」
ルーナも負けじと応戦する。
ヒロインたちは、先ほどまで見ていた幻影の話で盛り上がっていた。
それはもう、心を抉る辛い記憶ではない。自分たちの“ありえたかもしれない未来”として、そして何より、仲間がいない世界がいかに空虚であったかを確かめ合った、大切な思い出として、笑い話に変えていた。
「あたしなんて、世界一の大商人よ? でも、一人で食べる豪華ディナーほど不味いものはなかったわ。やっぱり、みんなでワイワイ言いながら食べる、焚火の周りの干し肉が一番よ」
リリィがそう言って笑うと、皆が頷いた。
「うむ。拙者の兄上が生きておられる世界は、確かに夢のようであった。だが、そこに貴殿らの騒がしい声がなければ、ただの静かな過去でしかない。拙者が生きるべきは、“今”なのだと、改めて知った」
サーシャの言葉には、迷いを断ち切った武士の清々しさがあった。
一人、また一人と、彼女たちは語っていく。偽りの楽園で得た完璧な幸福と、それでも拭えなかった喪失感を。
そして、最終的に、この不完全で、騒がしくて、手のかかる“現実”を、自らの意志で選んだということを。
俺は、そんな彼女たちの話を、ただ黙って聞いていた。そして、手にした《絆の宝冠》をじっと見つめる。
それは、俺たちの想いの重さそのものだった。
やがて、皆の話が一区切りついたのを見計らって、俺は静かに口を開いた。
「……俺は、選べなかった。……いや、選ばなかった」
俺の言葉に、皆が静かに耳を傾ける。
「幻の中で、世界は俺に選択を迫った。誰か一人を選べ、と。そうすれば、お前だけの完璧な幸せをやろう、と。……正直、一瞬だけ、心が揺らいだ。戦いのない、穏やかな世界。愛する誰かと、ただ静かに暮らす未来。それは、確かに魅力的だった」
俺は、ゆっくりと仲間たち一人ひとりの顔を見渡した。
「でも、できなかった。クラリスのいない世界も、ルーナのいない世界も、リリィのいない世界も……誰か一人でも欠けた未来を、俺は“幸せ”だなんて、到底思えなかったんだ」
俺は立ち上がり、宝冠を胸に抱いた。
「だから、誓うよ。俺は、お前たち全員が、心の底から笑える未来を創る。誰一人、欠けさせない。必ずだ」
それは、プロポーズにも似た、俺の魂の誓いだった。
その言葉に、ヒロインたちは息を呑み、そして、ゆっくりと、その瞳を潤ませていった。
俺は、彼女たちの前に進み出た。
そして、一人ひとりの手を取り、その瞳を真っ直ぐに見つめて、俺自身の想いを告げる。
「クラリス。俺は、お前の隣に立つ王にはなれないかもしれない。だが、お前が背負う王冠の重みを、共に背負うことはできる。お前が民を愛するように、俺はお前を、生涯をかけて守り抜くと誓う」
「……イッセイ様……。その言葉だけで、わたくしは、世界一の幸せ者ですわ」
「ルーナ。俺は、お前の自由な魂が好きだ。だから、どこへでも行け。世界の果てまで、冒険しろ。俺は、お前がいつでも帰ってこられる“港”になる。お前だけの、安らぎの場所に」
「……ふふっ。ばかね。あたしが帰りたい場所は、最初からあんたの隣だけだって、まだ分かんないの?」
「リリィ。お前の夢は、俺の夢だ。世界中を笑顔にするっていう、そのとんでもない夢、最後まで付き合わせてもらうぜ。最高のビジネスパートナーとして、そして……人生のパートナーとして」
「……ずるいわよ、あんた。そんなこと言われたら、あたし……一生あんたに、投資し続けるしかないじゃない……!」
「サーシャ。お前の剣は、もう過去を断ち切るためのものじゃない。未来を切り拓くためのものだ。その剣の、最初の鞘に、俺をさせてくれ。お前が戦いに疲れた時、いつでもその刃を休められる場所になる」
「……イッセイ殿。……その儀、謹んで、お受けいたします。我が剣も、我が心も、すべては貴殿と共に」
「セリア。お前は、俺の背中を守ると言ってくれたな。だが、これからは俺がお前の背中を守る。お前が安心して前だけを見ていられるように。だから、もう一人で全部背負い込むな。俺を、頼ってくれ」
「……っ! そ、それは……命令、と捉えて、よろしいのですね……? ……はい、イッセイ様」
「シャルロッテ。お前は、精霊と人の架け橋だ。その優しさは、時に自分を傷つける。だから、俺がお前の盾になる。お前が、その優しさを失わずにいられるように、俺が全ての穢れからお前を守る」
「……イッセイさん……。あなたこそが、わたくしの心を照らす、一番の光ですわ」
「フィーナ。お前の歌は、世界を元気にする力がある。だから、これからも歌い続けてくれ。お前が歌いたいと願うなら、俺が、世界中どこへでも、そのステージを用意してやる」
「う、うさーっ! うんっ! ボク、歌う! イッセイくんのために、世界一の歌を!」
「ミュリル。お前は、もう独りじゃない。お前が寂しい時は、俺がそばにいる。お前が眠りたい時は、俺の膝を貸してやる。お前は、俺のかけがえのない、大切な家族だ」
「……にゃん……。うん……。家族……だにゃ……」
一人ひとりに想いを告げ終えた時、俺たちは、自然と一つの輪になっていた。
ヒロインたちは、顔を赤らめながらも、涙を浮かべながらも、世界で一番幸せそうな顔で、一斉に頷いた。
神々の試練は、俺たちの絆を、また一つ、本物へと変えてくれたのだ。
手にした《絆の宝冠》が、俺たちの誓いに応えるかのように、温かく、そして力強い輝きを放っていた。
俺たちの、神々に抗う旅は、まだ続く。
だが、もう何も怖くはなかった。
20
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる